「悲しみにさよなら」

ナンシー・ピカード「悲しみにさよなら」ハヤカワ・ミステリ文庫

ジェニー・ケインのシリーズ6作目。
評価の高い作品です。

舞台はニューイングランドの静かな港町。
ジェニー・ケインは、故郷のポートフレデリックに戻り、市民財団の所長をつとめて7年目。
どんな活動に資金援助をするかというジェニーの判断は大胆で、保守的な層には物議を醸すこともありました。

長く入院したままだった母が亡くなり、その葬儀の時に何者かに「あれは事故だった」とささやきかけられます。
母が入院したのはジェニーが学生で家を離れていた時期で、家代々の会社ケイン・クラムズが倒産するという騒ぎも起き、ジェニーには詳しい事情がわからず終いでした。
今になって、どういう事だったのか気になってたまらなくなります。
母の親友、主治医、神父、新聞社…
聞いて回ると、皆が隠し事をしているようで、少しずつわかってきたことの意味は…

ジェニーは金髪の理知的な美人で30代末、警部補のジェフとは結婚して3年、まだラブラブ。
本人にはほとんど欠点がないけれど、過去の倒産や母の長年の病気という事情を抱えていて、どこか暗い思いもありました。
世間体を気にする妹のシェリーとは気が合わず、度々非難されます。
事件に関わり合う姉をみっともないというのです。
ついに、とっくみあいの大喧嘩に。

3代目の社長だった父は、ハンサムでおっとりしていますが、何も考えていないタイプで、入院中の母を見捨てて離婚。
20歳も年下の受付の女性ランディと再婚して、既に20年がたっていました。

ジェニーは財団の仕事に身が入らなくなり、長期休暇を申し出るとそれは出来ない規定になっているといわれ、衝動的に辞職。
その後、酔って自宅のガレージに閉じこめられて一酸化炭素中毒に。
自殺と噂が広まり、評判が落ちてしまいます。
警察では温情から事故にしておくという態度で、捜査もされない。
殺人未遂と睨む夫のジェフは、やむなく一人で事情を調べることに。

倒産に至った事情や、信頼していた人々が隠していたことを次々に知るジェニー。
優しく美しかった母に降りかかった謂われのない非難。
母が病んだ最初のきっかけは、育児ノイローゼだったという…
哀しい事実を知った後で、母が望んでいたことにたどり着くジェニー。感動的です。

91年の作品。94年翻訳発行。
アガサ賞マカビティ賞の最優秀長編賞をダブル受賞。
アガサ賞を獲っただけあって女性向きですが、力作。
このシリーズ、この作品の前のがあまり面白くなかったので、そこで読むのをやめてしまったような気がします。
惜しいことをしてたのね。

「凍てついた墓碑銘」

ナンシー・ピカード「凍てついた墓碑銘」ハヤカワ・ミステリ文庫

ナンシー・ピカードのシリーズ外作品。
力作です。
猛暑なのに季節感真逆ですが~一瞬、寒い気分を味わって?

カンザス州の田舎町スモール・プレインズ。
17年前の雪の夜、若い娘の全裸死体が発見されました。
身元は不明のまま、名前のない墓だけが作られます。

アビー、ミッチ、レックスは、仲の良い幼なじみでした。
この事件で、3人の人生が変わってしまうのです。
アビー・レイノルズは16歳になり、恋人のミッチと一夜を明かそうとしていましたが、思いも寄らぬ展開に。
アビーの父は医師で、家に死体が運び込まれたのです。
レックスとその父、兄のパトリックの3人が牧場の見回りに出て、死体を発見したのでした。
大学を退学になって自宅に戻っていたパトリックは、家にいたことを隠していました。

アビーといたことがばれたミッチもまた、両親によって強引に別な街の高校に転校させられ、アビーとは二度と会えないまま、時が過ぎます。
ミッチの父は堅物の判事。
母ナディーンはきつい女性で、ミッチにアビーはふさわしくないと言い、妊娠してすぐ結婚しようとする娘とは付き合わせてはおけないと言ってのけたのでした。
アビーの母マージーは怒りますが、小さな町での近所付き合いはそう角を立てられない。
人気者のミッチをアビーが町から追い出した?という~妙な噂になってしまう。

あまりのことにアビーは納得がいかないまま、ミッチの飼っていた鸚鵡のJ・Dを盗んで、密かに飼います。
やがて園芸の仕事を始めますが、結婚はしないまま。
昔より少しはマシになったパトリックと、時折付き合うようになっていました。
パトリックに結婚を言い出されたのには驚き、姉にも反対されるのですが。

名前もない墓はいつしか伝説となり、聖処女として願いを叶えてくれるという噂が広がっていました。
アビーは根拠がないと憤り、身元を調べようと思いつくのですが。
今は保安官になっているレックスは、妹のように可愛いアビーを気遣います。
実は、死んだ女性の名前を知っている人物はいた…

ミッチの母ナディーンは、60過ぎて認知症になり、吹雪の夜に家をさまよい出ます。
よその世界で成功した噂も聞こえるミッチですが、両親に追い出されたと感じていました。
5月になって墓参りだけはとメモリアル・デーの祝日に町を訪れ、実家のランチハウスにとりあえず泊まります。
すぐには、父親と養子の弟と顔を合わせづらかったのです。
おりしも、嵐がこの地方を襲ってくる…

過去の出来事が、どう絡み合っていたのか?
痛ましくも不運なすれ違い。
人生が変わってしまった人々が、どう生きたか。
スリリングだがロマンスもあり、読み応えのある内容でした。
アガサ賞とマカヴィティ賞をダブル受賞しただけのことはある作品。

著者はミズーリ州生まれ、カンザス州在住。
1984年「死者は惜しまない」で作家デビュー。ジェニー・ケインのシリーズは10作を数える。2000年からは別シリーズを発表。
「結婚は命がけ」でマカヴィティ賞、「虹の彼方に」「悲しみにさよなら」でアガサ賞連続受賞。「悲しみにさよなら」ではマカヴィティ賞もダブル受賞。
本作は2006年発表、翻訳発行は2009年。初のシリーズ外作品。

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