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おすすめ本

「マーチ家の父」

ジェラルディン・ブルックス「マーチ家の父 もうひとつの若草物語」武田ランダムハウスジャパン

「若草物語」のもう一つの面。
ほとんど不在だったマーチ家のお父さんは、どうしていたのか?という。
史実に基づくドキュメンタリー的な要素もある小説です。
ピューリッツァ賞受賞作。

「若草物語」の作者ルイザ・メイ・オルコットの父は、ブロンソン・オルコットといって高名な哲学者でした。
この小説では、「若草物語」の父親ミスター・マーチとして登場するのも、理想主義的で夢想家。
南北戦争に従軍牧師として参加し、大変な経験を共にしながらも…
時に兵士を叱りつけ、色々な信仰の持ち方の人がいる前で、理想のままの説教をして、軍の中で浮き上がってしまう。
この時期の手記や手紙を交えながら、描かれています。
「若草物語」の4姉妹は父の無事を祈り、手紙を心待ちにし、帰りを待ちわびていましたね。

妻エリザベスは「若草物語」ではよく出来た良妻賢母だったけど、じつは次女のジョーにもっとも似た気性。
(…そういえば、そういう指摘もあったような気が)
この物語では生き生きしたエリザベスに、若き日のマーチがほとんど一目惚れするいきさつから。
ただ、かんしゃくがひどいので、結婚を危ぶむ気持ちになったほど。
夫の説得で次第に落ちついていく様子も描かれています。

家が貧乏になったいきさつも衝撃的。
もともと金銭感覚があまり無かったせいもあるけど、黒人解放のために、どんどんお金を出してしまったとは…

黒人奴隷は、家庭の中に馴染んで、一見すると家族同様に遇されている場合もありました。
それでも、差別は苛酷で、教育を与えることは法律で禁じられるようになっていたのです。これは、反乱や逃亡を押さえるため。
マーチが若い頃に最初に南部に行ったときに、印象的な女性グレイスに出会っていました。
(このあたりが創作の肝でしょう)
本の行商をしていたマーチは、裕福な家にしばらく滞在していたのです。
グレイスは奴隷ですが、法律が出来る前に良い教育を前に受けて、奥様の話し相手になっていました。グレイスに頼まれて、幼い少女にこっそり字を教えるマーチ。
ところが、それが発覚して…

南北戦争の頃の時代相が、ありありと描かれています。
マーチは、妻や娘達には、戦争がどれほど悲惨かは知らせませんでした。
病院へ駆けつけた妻は、実態を知ることに。
マーチの妻から見た視点が最後に挿入されて、さらに辛辣かつ重層的に。
このあたりが痛みを伴いつつも、感動的です。
病床にありつつも、多くの人を目の前に見ながら救えなかった罪悪感に苦しむマーチ。
やがて、帰宅した家庭に、灯がともる…

「古書の来歴」

ジェラルディン・ブルックス「古書の来歴」武田ランダムハウスジャパン

サラエボ・ハガダーという実在する古書をモデルに、その来歴を創作したスリリングな物語。

ヒロインのハンナ・ヒースは、古書の保存修復家。
中世の美しい希少本サラエボ・ハガダーが発見されたという報を聞き、まだ若手のハンナが抜擢されて現地に向かいます。
ハガダーとはユダヤ教徒が家庭で使う写本で、絵が入っているのは異例でした。

ハンナは、発見者の学芸員オズレン・カラマンと惹かれ合います。
しかし、そこはボスニア。
戦乱は一時よりはだいぶおさまってはいましたが。
オズレンは数ヶ月前に銃撃で妻を亡くし、幼い息子は生死をさまよっているという状態でした。
気まずく別れることになってしまいますが…

折しも、ハンナにも運命の大きな転換が訪れます。
ハンナは、高名な外科医である母サラが、未婚で生んだ一人娘でした。
父親は利用されただけの男かと思っていたのに、愛し合った仲で、しかも絵も知っていた有名な画家シャランスキーだったとわかったのです。ハンナが生まれる前に亡くなっていたのですが‥
自分にそっくりな親戚がいるとわかり、血縁の暖かい人々に囲まれる経験をします。

6年後、ハンナは父の名字に変え、オーストラリアで働いていました。
そこへ、新たな知らせが?

ヒロイン達が追求していく過去の事実。
ボスニアは歴史的にも、現代でも、民族や文化がぶつかり合う地点なんですね。
そのいきさつと、現代の人たちは知らない当時のもっと詳しい事情が交互に物語られます。

チトーの時代、珍しい本を戦火から守ろうと逃げる人たち。
ユダヤ狩りから生き延びた娘は、イスラム教徒の夫婦に、赤子の子守りとして助けられますが…?
さらに、さかのぼって~画師の父を見習って助手となった子が、追いはぎに襲われて奴隷に売られ、数奇な運命に…
何といきいきとしていること!
こんな事があったのかも知れない‥
あったとしか思えなくなってきますねえ。

これはベストセラーでしょう。
日本語タイトルが、やや地味かなあ。
著者はオーストラリアのシドニー出身。新聞記者として世界を飛び回ったそうです。2001年小説を発表。
2006年、2作目「March」でピューリッツァー賞を受賞。
夫もピューリッツァー賞受賞者だとか。
本書は3作目、2008年の作品。
面白かったです!!

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