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「探偵家業は運しだい」

レジナルド・ヒル「探偵家業は運しだい」PHP文芸文庫

解雇されて私立探偵になったジョー・シックススミス。
口うるさい伯母に厳しく育てられて、いまだに独身。
ベリルという恋人はいるのですが、看護師できびきびとして実際的な彼女は、ジョーを手厳しくやりこめ、そうそう思うとおりにはなってくれない。
人のいい探偵が思いがけない依頼を受けて、右往左往するうちに…

ある日、依頼に来たのは、YFG(若き金髪の神)とジョーがとっさに思った青年。
クリスチャン・ポーフィリはお金持ちの御曹司だったのです。30になるやならずで、輝かしい金髪で、品があり、人が良さそう。
ロイヤル・フー・ゴルフ・クラブで起きた事件を捜査して欲しいという。
真っ正直な彼が、試合で不正をしたという疑いで、審議にかけられるという妙なことになっているのでした。
お金持ち階級のお遊びかと思いきや、そこには…?

まったく場違いなゴルフ・クラブでからかわれたりしながら、少しずつ話を聞いて回るジョー。
さらに好条件の仕事が街の実力者から舞い込むのですが、ジョーを遠ざけようという陰謀かも知れない?
顔なじみの警視や、やり手の女性弁護士ブッチャー、親友のタクシー運転手、自動車修理工場の秘書で色っぽいエロイーズといった面々が活躍。

ジョーは、チビでややデブで毛が薄くなりかかっているという黒人のさえない中年男なんですが、なぜか運に恵まれて、ヒントが目の前に現れ、何とかなるという。
人脈は、彼の人柄のたまものでしょうね。

ダルジール警視シリーズとは全く趣を異にしていて、書き込みもゆるく、のんびりしたムード。
全体を読み終わると、どこか共通した物も感じますね。
人物像のポイントや~意外にモテる所とか?

「午前零時のフーガ」

レジナルド・ヒル「午前零時のフーガ」ハヤカワ・ポケット・ミステリ

ダルジール警視のシリーズの新作。
知る人ぞ知るレジナルド・ヒル。
知らない人にはどう紹介すれば、面白さが伝わるのかなぁ…
基本は警察のチーム物。
たたき上げの中年男と若いエリートとのコンビは、イギリス警察小説の定番ですね。

ダルジールと部下のパスコーの他に、パスコーの妻のエリーも重要人物。気の強い知的な美女で、ダルジールにも一目置かれているのです。
しゃれのめした書き方で、ぐいぐい引っ張っていく作風。
事件の要素も、登場人物も多彩で、知的な遊びの要素が強いのが特徴かな。

主役は、強烈な存在感のあるボスのダルジール警視。
デブで強引で口が悪いけど、実力は十分あり、怖い上司だけど、いざとなれば強い味方ともなる。けっこうセクシーらしく、ちゃんとお似合いの恋人もいます。

爆破事故で休養後、今回いよいよ現場に復帰するダルジール警視。
ですが、まだ本調子ではないのです。
いきなり登庁日を間違え、ごまかしながら内心悩みます。
そこへ登場するのが、30代の金髪美人ジーナ・ウルフ。
ダルジールがずっと前に出会った警官(パーディー警視長)の紹介で、ややこしい依頼をしてきます。
7年前に行方不明になった夫が、生きているかも知れないというのだ…
しかも、彼女は怪しげな二人連れに尾行されていた…?!

相談のために会っている美女とダルジールを、たまたま隣の会場でのパーティーに来ていて見かけるパスコー主任警部。
パスコーは、ダルジールとは対照的にエリートで紳士的、見た目もハンサムで、真面目で優しい男。
微妙な指導権争いもありますが、心から御大ダルジールを尊敬しています。
一方、女性警官のノヴェロは、ダルジールの頼みでひそかに動き始めるのですが…

テンポ良く進む24時間の出来事。
移民から三代で財産と地位を築いたギッドマン一家など、長年の因縁も。
ギッドマンの2代目ザ・マン(親分といった意味)の何でも屋や、三代目で議員のデイヴを仕切る地味な秘書の女性マギーなども印象的。
やり手の女性、その愛人の目立ちたがりの記者や、ウェールズから来たばかりのその弟。
様々な人間関係が交錯する中、おなじみの登場人物もツボを押さえた登場。
ウィールド部長刑事のダルジールへの思いや、ダルジールの部下への思いも。
あざやかな描きっぷり、満足な読み応えでした。

「死は万病を癒す薬」

レジナルド・ヒル「死は万病を癒す薬」ハヤカワ・ポケット・ミステリ

ダルジール警視のシリーズ、最新作。
爆発で生死の境をさまよった「ダルジールの死」から3ヶ月後という時期。
療養中でまだ身動きもままならぬアンディ・ダルジール警視です。
アヴァロンという高級な療養施設に入院することになり、勝手に抜け出して恋人のアマンダに怒られたりもしつつ、しだいに周囲の出来事に勘を張り巡らせていくのでした。

一方、今回のヒロインはチャーリーことシャーロット・ヘイウッド。心理学を学ぶ学生で、生きのいい女の子。
彼女が姉に出す饒舌なEメールと、ダルジールが録音したメモが交互に出てくるのが前半の趣向。互いを評する所も笑えます。

レディ・ダフネ・デナムは、地元の名士でかなり強引な年配の女性。
理想家のトム・パーカーと協力して、健康と保養を売り物に海辺の町サンディタウンを再開発、大がかりな施設を軌道に乗せようとしていました。
彼女は未亡人ですが、最初は裕福な養豚家ホリスと結婚、二度目は爵位のあるデナムと結婚して地位を得た、たくましい人。
今また、アヴァロンの院長フェルデンハマーとの結婚を望んでいました。
遺産を期待する亡夫の甥姪や貧しい親戚のコンパニオン、いがみあうホリス一族にも囲まれていたのです。

とんでもない事件が起きてからは、主任警部ピーター・パスコーや部長刑事ウィールド、女性刑事ノヴェロの視点もあり、さらに緊迫感を増していきます。
何しろ、この町にはかってパスコーを深く悩ませ、行方をくらませたフラニー・ルートが滞在していたのですから…
この事実をパスコーに告げるのをためらった、ダルジールの親心も微笑ましい。

大筋はいくらか予想も出来ましたが、すごい懲りようで細部まではとてもとても。巨匠の実力を堪能しました!
ジェイン・オースティンの「サンディトン」へのオマージュという面もあるそうで、え~っ、これだけは読んでないのよ。読まなくっちゃあ!

「ダルジールの死」

レジナルド・ヒル「ダルジールの死」早川書房

2008年3月発行。
2007年の作品だから快調な翻訳ですね。ぎょっとするタイトルですが。

8月末の休日、家でくつろいでいたパスコー警部は、緊急の呼び出しを受けます。
警戒中のビデオショップに拳銃を持った男がいたという通報。しかし、目撃したのが~あてにならないヘクタ-巡査だったために皆が甘く考えていたところ、目の前で爆破が起こり、ダルジールが重傷を負います。

自分もけがをしたパスコーですが、合同テロ防止組織CATに加わり、慣れない職場で戸惑いながらも、まるでダルジールの代わりのように、柄にもない悪態を口走りつつ奮戦。
一方、パスコーの妻エリイは新進作家としてテレビのインタビューに答え、番組中に事件に巻き込まれます。
9.11以後の世界、出兵して死んだ兵士の家族や、モスクの導師の発言など、価値観を異にする人間のせめぎ合いの激しさが生々しい。
それも含めてエンタテインメントにしてしまうのが、たくましいです。

まじめで優しいパスコーと気の強い美女エリイも、あくの強いダルジールとお似合いの個性的なキャップも、部長刑事でゲイのウィールドとその恋人も、それぞれカップルとしては愛し合う幸せな状態にあるのが救いかな。
ダルジールの臨死体験など織り込むのも、さすがヒル。
まったく~達者なもんです。

「異人館」

レジナルド・ヒル「異人館」ハヤカワ・ポケット・ミステリ

ヒルの新作が出てるっ!?~ダルジール物かと思ったら違いました。
特異な設定で、いつも以上に展開の予測が出来ない~何やり出すかわからない人なんですけどね。

舞台は現代ですが、何百年も同じ家系が暮らしているような小さな村に、自らのルーツを求めて運命的に引き寄せられた男女が主人公。
かたやスペインとイギリスの血をひいたワイン商の息子。子供の頃から幽霊を見て、召命を感じて司祭を目指すが挫折?
ヒロインはオーストラリア移民の子孫で、数学の才能がありケンブリッジに留学してきたサム。赤毛で少女のようにほっそりして生きが良く、霊感などは全く受け付けません。
水と油のような2人が出会い、お館の妖艶な孫娘などと絡みながら、すべてが筒抜けのような村で、じりじりと真相に迫っていきます。

400年前の事件と40年前の事件とが連鎖して明らかになっていくという趣向。
カトリックとプロテスタント(というかイギリス国教)の対立のあたりは、映画の「エリザベス」やアリスン・アトリーなど思い出したりしつつ読みました。
どう転ぶか全くわからない複雑な要素と、こってりと魅力的な登場人物の交錯がやがて大団円へと…面白かったです!
後味もかなりよいので、オススメ出来ます。

「真夜中への挨拶」

レジナルド・ヒル「真夜中への挨拶」ハヤカワ・ポケット・ミステリ

ダルジール警視シリーズの新作。原著は2004年発行。
1991年中東での知られざるエピソードに始まり、2002年の自殺と思われる事件の発端を読者には知らせる仕掛け。
しかも関係者はパスコー主任警部の妻エリーがその時会っていた友達の家族。
3段構えの上に、登場人物の語りが所々で入る念のいった構成が、さすがヒル。
国際的な背景がちらつき、巨悪の存在でぞっとさせます。
9.11に至る世界を意識したヒルの野心作と言えるかも知れません。
その面ではストレートで、ヒルがたまにやる猛烈にとんでもない話ではない…ような?

骨董店の主人が自殺。
密室でのことで当初は疑いないように見えますが、ダルジールが結論を急ぐのを不審に思ったパスコーは恐るべき上司に睨まれつつも捜査の手を広げます。
十年前にまったく同じやり方で自殺した父親の事件も、本当に自殺だったのか?
父親の後妻ケイは非常に魅力的な大人の女性で、あのダルジールが手もなく丸め込まれている様子…何があったのか。
そこには家族の確執だけでは済まないものが…

ダルジール、パスコー、ウィールドの3人はそれなりに安定した生活をしている時期ですね。
あくの強い巨漢ダルジールの意外な過去が明らかになり、教養があって優しすぎるほどまともなパスコーもしだいに力をつけ、岩のような外見だが几帳面で有能なウィールドの協力も欠かせない。彼らを客観的に見ている女性刑事ノヴェロの個性も面白いですよ。
前作で恋人を失い休職中のボウラーが意外な活躍、たまたま知り合った老婦人と野鳥好きで意気投合し、好感度高いです~。

原題はエミリー・ディキンソンの詩から。
色々な風に受け取れる内容が印象的でした。

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