「アンダスタンド・メイビー」
島本理生「アンダスタンド・メイビー」中央公論社
十代の娘の遍歴を描きます。
一見普通のようでも、どこかダークな面があり、どう転ぶかわからない展開なので、はらはら。
藤枝黒江(クロエ)は、母子家庭の娘。
もともと勤めている母は忙しく、祖母と父に育てられていましたが、祖母の死後に両親が突然離婚。
小学生の時、母と二人で茨城県の筑波に移り住んできました。
研究者の母も、最初は娘を遊びに連れて行ったりと努力もしていたのですが。
家事は、主に娘が担当しています。
クロエは廃墟を写した写真集に目を惹かれ、生まれて初めてのファンレターを出します。
写真家の浦賀仁の方も喜んで返事をくれたので、いつか東京に行って弟子になるという夢を持つことに。
そんな話をする友達の怜ちゃんもいて、割合普通の中学生活だったのですが。
転校してきた男の子・酒井弥生君と友達に。
大柄で太めでオタクっぽい外見だけれど、いたって真面目な性格の彼。
クロエは彼に救いを感じるのです。
体育祭の長距離走の選手になったものの、脚を痛めて走れなくなったとき、助けに来てくれたのでした。他の子は見当違いの励ましをしたのですが。
彼の方は、積極的な女の子の態度をセーブするよう。
彼にはちょっと霊感があり、そのことをあっさり受け入れるクロエ。
まだお互いにつきあい方もわからないのは~無理もないのですが。
クロエはある出来事に取り乱して家を出て、ファミレスで男に声をかけられ、カラオケに誘われて断り切れず、襲われそうになります。
その事件の後、母とは決定的な亀裂が…
上下合わせて力が落ちなかったですね。
前半のほうがある意味では、未熟だけど真っ直ぐさがあって、好感持てたけど…
十代半ばにありがちな流され方もしていました。
下巻は二年半後。
今は憧れの写真家の助手に見事なって、家事や現像など何くれとなく世話をし、がんばって働いている20前後の女性。
もっとも、ほめられるのは料理だけ。
個人で撮った写真は評価されず、写真の指導はそれほどして貰っているわけではない。
おいおい、それはやめとけ、という所も。
男性遍歴の成り行きには、それなりの意味が。
過去の小さな出来事のようであったことも、本人もわからないでいたことを少しずつ確認していく…
旅立つ方向性があり、過去のこともただ放り捨てていくのではないあたりが良かったです。
事件性も含めて、広がりを持った作品でした。
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