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おすすめ本

「女のいない男たち」

村上春樹「女のいない男たち」文藝春秋

村上春樹の短編集。2014年の近作です。
女がいない、というか女を失った後、そのことばかり考えている男たち?
かなり読みやすい方でした。

「ドライブ・マイ・カー」
俳優の家福は、専属のドライバーとして初めて女性を雇うことになります。
美人ではないが若くてそれなりに魅力はある女性。
つれづれに、妻に浮気された話なども聞かせるようになる‥

「イエスタデイ」
20歳の頃の思い出。友達の木樽は、関西出身ではないのに自ら関西弁を身につけて喋る男でした。
妙なこだわりのある男で、理想の女性だという自分のガールフレンドを紹介し、僕に付き合わせようとしたのです。

「独立器官」
美容整形外科医の渡会は、裕福でモテモテ。女性とは長く付き合わないのをモットーとしていました。
ところがある日、本気になった女性というのが‥
女には独立器官がある、と語る‥

「シェエラザード」
ハウスから出られない男に、世話係としてやってくる女性。淡々とセックスをして、時には昔の思い出を語ります。
好きだった男の子の家に忍び込んだ話などを。

ほかに「木野」「女のいない男たち」
浮気される話が多いので、ちょっと印象がごっちゃになってきて、みんな作家がバーで聞いた実話みたいに思えてきたり。
いやそこまで現実味はないんだけど、でも何となくありそう。
理屈っぽくてスタイリッシュで、冷静にも見えるけど‥じつは失恋にはこれほどの破壊力があるらしい。
めんどくさい語り口には、女性としては、それがどうしたの?みたいな気持ちも一瞬浮かびますね(笑)
独立器官って‥
現実味がないのは、すべて失われたことだからか!
喪失感をいつまでも抱きしめているのも、男性は失恋体験にも「ファイルに名前をつけて保存」、している状態ってことなんでしょうね。
女性は上書き保存、って他でも聞いたけれど、誰が最初に言い出したんでしょうね。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

村上春樹「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」文藝春秋

2013年4月発行の作品。
2009年の話題作「1Q84」の次の長篇小説。
ファンタジーではなく、1冊にまとまっている長さなので、読みやすいと思います。

多崎つくるは、36歳、独身、東京で勤めています。
名古屋出身で、高校の頃には課外活動のボランティアで知り合った5人のグループにいました。
赤松、青海という名の男子と、白根、黒埜という名の女子。
つくる以外は、色の付いた名前で、そのまま色の名を呼び名にしていたのです。
自分だけ特色がなく平凡だと、かすかなコンプレックスを感じていたつくる。
一人だけ大学で東京に出ましたが、名古屋に帰って友達に会うのを楽しみにしていました。
ところが、大学2年の夏、突然4人全員からの絶交を申し渡されます。
ハッキリした理由も聞かされないまま‥

しばらくはショックで死を考えたつくるですが、徐々に立ち直ります。
しかし、ほとんど友人は出来ず、後に2歳下の友人・灰田もまた理由を告げずに去った‥
何度か女性とは付き合いますが、恋人ともどこか本気にならないまま別れ、年月が過ぎました。

二つ年上の木元沙羅という女性と知り合い、本気で付き合いたいと願うようになります。
沙羅に、4人に会って事情を確かめたほうがいい、でなければこれ以上深くは付き合えないと言われてしまう。

恵まれた育ちで、望んだ仕事についていて、良い場所に所有している部屋に住んでいる男性。
はたから見ればこれ以上ないぐらい気楽な暮らしで、いまどき共感できる人は少ないんじゃと思うぐらいだだけど。(‥いや案外似たような境遇で結婚する気がない男性ってのもいまどきかも?)
友達からの切られ方というのは酷くて、これは‥
16年もたって知った真実は、驚くべきもの。
つくるが必ずしも悪く思われていなかったことは、救いですが。

封印した過去と向き合うことを励まし、次へ進もうという内容が中心にありますね。
死とは何かという答えの出ない問い。
繰り返し見る生々しい夢。
英語からの直訳のような文章。淡々と記録するように語られるセックス。
スタイリッシュな暮らしの断片や、雰囲気に合う音楽の力を借りつつ、かっての悲劇がよみがえってきます。
事件物というわけではないので、その辺の事実は謎のままですが。

高校の頃には、特徴のある5人が補い合い、調和していた。
そのときは、何よりもこの調和を壊したくないと切に思うほどに。
でも時はとどまっていない‥
成績がよかった赤松は銀行を辞めて、社員教育セミナーを請け負う会社を興している。
スポーツマンだった青海は、車の販売員に。
黒埜恵理は大学の工芸科に入りなおして、今はフィンランドに。
フィンランドか‥ちょっと「ノルウェイの森」を思い出す要素もありますね。ノルウェイの話だったわけじゃないけど。

一番感受性の強い内気なシロ(白根柚木)には、大人になるのは乗り越えられないほどの壁だったのか‥
予想外の出来事に対応しきれずあがいたのは、つくるだけでなく5人ともだった。
それぞれの大人への変貌は苦さも伴うけれど、中年へ向かうパワフルさがあるというか、なかなか意外性もあって面白く、力強く感じました。
フィンランドまでも出向いて直接話を聞く勇気。
その甲斐あって、黒埜との会話は良かったですね。

つくるは、正しい痛みだと感じ、過去を違うふうに捉えられるようになるのです。
挫折感を引きずり、ふだんはそこには蓋をしているというのは、誰しも共感できることかと。
そこから人とあまり関わり合わない、やや草食系になるのは、いまどき?

沙羅という女性がつくりものめいているのがちょっと、これで、つくるの生きる希望になるのかどうか。
知り合ってまもなく、まだカッコつけてる時期だからかも知れませんが。
つくるがこれまで人に話さずに来たことと向き合わせ、真実を受け入れさせたのは運命の女性だったからなのか?
心の一部が死んだようになっていた主人公に、だんだん素直なはげしい感情が戻ってきている、と読めます。
しかし、これでふられたとしても、そのぐらいでまた死にたいと思っちゃいかんよ、つくる君! 年上の女性より(笑)

「1Q84」book1

村上春樹「1Q84 book1」

私がご紹介するまでもないほど有名な~昨年のベストセラー。
book3も今年出て、売れ続けていますよね。
発売当日に買うタイプじゃないけど~楽しみにしていました。

男性と女性の主人公二人の視点から、交互に語られていきます。
1984年に起きた出来事から、世界が変わっていく…ある意味、ファンタジー。
最初は全く接点のない男女の世界が、実は…

天吾は、予備校の数学の講師をしながら、小説家を目指しています。
応募作品の下読みのバイトなどもしていて、ある日、編集者から、17歳の少女の書いた作品に手を入れて、賞をとることを打診されます。
詐欺まがいのことに疑問を抱きつつも、その作品に深く魅せられて、純粋に仕上げたいと思う天吾。

その小説の作者のふかえりこと深田絵里子は、じつは文字が十分に読めない少女。
録音したテープを起こした内容だったのです。
しかも、相当に複雑な生い立ちを背負っていた…今の後見人はかって父の友人で、実父の消息は何年も不明のまま。
閉鎖的な宗教集団から、幼い身でひとり脱出して養父の元に来たというのです。

一方、スポーツインストラクターをしている青豆という名の女性。
高速道路の渋滞にあって、途中で非常階段を下りていく。その時、何かが変わった…?
子供の頃には、輸血を否定する小規模な宗教集団に属する両親の元で質素に育ち、成長してからは縁を切っていました。
虐待された女性を救うセーフハウスを援助している富豪の女性と知り合ったことから、たちの悪い虐待をした男性をひそかに手に掛ける仕事を請け負っているのです。

交互に描かれる二人の世界が、いつしか…
月が二つある世界。この世界は変化している?
文章はわかりやすく、鮮烈なイメージ。
不可思議で大胆な~村上春樹ワールド!

「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」

村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」新潮文庫

二つの世界が交互に描かれていて、次第にその連関がわかってくるようになっています。
どちらも特殊能力を持った青年が主人公なのですが…

「世界の終わり」の章で描かれる「僕」の方が若く、なぜか一角獣の住む~古びた街に着いたところ。
街に入ったときに、誰もが、自分の影とは引きはがされてしまいます。
影とは、黒いものではなく、自分とそっくりの実在感のある姿で、自分の心という意味もあるらしい。
古い図書館で古い夢を読むのが、彼に与えられた仕事。

「ハードボイルド・ワンダーランド」の章で描かれるのは、近未来の日本?のような異世界。
計算士と記号士の二つの組織が対抗している、という。
主人公の「私」は30代半ばで、孤独がちな生活をしていますが、シャフリングという特殊な能力がありました。
猛勉強して資格試験に通った上でのことなのですが、シャフリングとは脳に施された仕組みによって、自分でははっきり自覚することもなく画期的なスピードで処理を進められるというもの。

シャフリングを開発した博士に呼び出されて、大きなエレベーターで進む所から始まり、博士の孫でピンクのスーツを着た太っているが綺麗な娘と出会います。
何者かに跡をつけられ、部屋をこわされ…
何が起こっているのか?

お、面白い…
こういう話とは題名では全然予想できませんでした。
「私」のほうの出来事はハリウッド映画めいたところもありますが、東京の現実とリンクする悪夢のような~突飛な展開と、死を覚悟しながら淡々と描かれる現実に近い生活がなんとも。

「私」の意識の核に思考回路を組み込んだ博士。
地下鉄よりも深い世界をくぐり抜ける冒険行のはてに知った真実とは…
知らない間に生まれた世界が終わろうとしている?
この発想がすごいです。

いっぽう、「僕」は影と共に街を脱出できるのか?
その意味とは…
僕のいる世界の描写がしっとりと綺麗で、もの哀しく、心に響きます。
この対比が特筆すべき魅力になっています。
昭和60年に刊行された作品。昭和63年文庫化。

「大聖堂」

レイモンド・カーヴァー「大聖堂」中央公論社

2007年3月発行の本。
「ささやかだけれど役に立つこと」も含まれた第三短編集。
もとは1983年発行。
「ささやかだけれど役に立つこと」は、村上春樹の翻訳をたしか最初に読んで好感を覚えた好きな作品なのですが~記憶と違うので驚いてしまった…実際より甘く覚えていた…ありがち?
若い頃に読んだのとは、受け止め方が違うというのも~少しはあるかも。

「羽根」は、仕事仲間の自宅へ招かれて、しぶる妻と車で出かけ、2組の夫婦でぎこちない食事をする羽目に。
その家にはペットとして飼われている孔雀がいてうるさく泣き、自慢らしい幼い子はびっくりするほど醜かったりするのでした。
素朴な家庭に、ある感銘も受けて~刺激となる夫婦の様。

表題作「大聖堂」は、妻の古くからの友人である盲人の来訪に戸惑う夫が、たまたまテレビに出ていた大聖堂の話をするうちに…
高く評価されている名編。

研ぎ澄まされた文体で冷静に描かれる、ごく普通に生きている人の人生にのしかかってくる歪みや絶望や、奇妙な一こま。
強靱な精神を感じさせる品格と、慈悲にも似た味わい。
アメリカのチェーホフという名は、当たっているでしょう。

作者は1938年、オレゴン生まれ。
製材所勤務、病院の守衛、教科書編集などの仕事に携わりながら執筆。
88年、肺ガンで没。若かったんですねえ。
序文を寄せているテス・ギャラガーは、再婚した妻。

「ティファニーで朝食を」

トルーマン・カポーティ「ティファニーで朝食を」新潮社

短編集です。
村上春樹の新訳がいいと聞いて、読んでみました。
以前に読んだのとどれぐらい違うか、はっきりしないのですが…
微妙になめらか?
なかなか楽しく読めました。
前のは今読むと、時代色があるのかも知れませんね…

表題作のヒロインの「ホリー・ゴライトリー 旅行中」という名刺がすてきです。
気ままで軽やかでオシャレで、イヤな物はイヤという意地のようなものもあり…
華やかな都会をうまいこと泳ぎわたる社交界の花の暮らしは、高級娼婦すれすれの危うさもあるんですけどね。
同じアパートに住むようになって知り合った青年の視点で描かれています。
カポーティが作家を目指しつつ、編集者の下働きをしていた頃の体験が反映しているようですね。
執筆していた頃には、彼自身が社交界の寵児だったわけです。

映画を最初に見たときに、イメージが違って、がっくりしたことを思い出しますが~
ヘプバーンは案外いい線だったんじゃないかと~今になると思います。
原作者のイメージはもっと官能的で奔放でしょうけど、それそのものじゃなく妖精的な面もあったと思うので。
青年も原作だと、彼女と心の通い合いは出来ても~恋愛は成就しないようなタイプだったと思うんだけど。まあ、それはそれ?

カポーティは作品によってかなり違う人なのですが、クリスマスの思い出を描いた作品は大好き!
子どもの頃に親戚に預けられていたときの経験が、そのままなのでしょう。
ずっと年上で働き者だった従姉と、台所で仲良く暮らした頃…
ユニークなこだわりや、手作りで工夫したプレゼント、クリスマスケーキを大量に作っていろいろな人にあげる習慣など、微笑ましくて。
いつ思い出しても、胸のあたたかくなる作品です。

「海辺のカフカ」

村上春樹「海辺のカフカ」新潮社

15歳の少年、田村カフカは「世界一タフな15歳にならなければならない」とカラス(内なる声?)と語り合いながら家出を決行します。
父とはろくに口もきかずに暮らしていて、昔家を出た母の行方がわからず名前や顔さえもわからないという謎めいた生い立ち。
何故かたどり着いた先は四国の小さな私設図書館で、家出と見破った不思議な人物との出会いで、そこで暮らすことになるのでした。

「少年が家出して図書館に棲みつく」という説明をどこかで読み、ついて行けなかったのですが、読んでみるとその点においては別に問題ないのでした。住み込める建物なので。
しかし、ストーリーは…
それどころではありません。
誰でも経験するような日常的な描写を交えつつ、だんだんとんでもない展開になっていく、かなりシュールな話です。

カフカの部分は、どことなしに少年期のみずみずしさが漂っていて、考えが甘いんじゃないかとも思いつつ、まあ素直に悩んでいて可愛らしい。
作者が自分の中の若さを解放したのかなという気がしました。
一方、子供の頃に、事件に遭遇して知力がなくなり影が半分になってしまったというナカタさんの部分の話の方が怖くて、つまりは異次元の扉が開いてしまうのですね。
読み終わって、何なんなんだ??としばし絶句。
こう収めるしかないかもと思いつつ…

初老のナカタさんのひょうひょうとした雰囲気が出色で、ナカタさんの何かしなければならないという使命感に付き合う羽目になる青年・星野もなかなか感じが良い。

モチーフ的にはどこかで聞いたような、馴染んだ物が多く出てきて、たとえばアメリカのドラマ「Xファイル」でUFOにさらわれて戻される体験。
映画「ヒドゥン」で口から移動する生命体。
そういったものを上手く取り入れてあるというのか、自分の中で年月をかけて消化して出来上がった作品なのでしょう。
どことなく格調の高さがありますね。
そこのところにカフカ賞を受賞するのも伊達じゃない(タイトルのせいだけじゃない?)という印象がありました。
2006年、世界幻想文学大賞、長篇賞受賞作。
上巻を読んだのは昨年、下巻は1月でした。

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