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おすすめ本

「花野に眠る」

森谷明子「花野に眠る」東京創元社

「れんげ野原のまんなかで」の10年ぶりの続編。
のんびりした土地柄にとけこむ、図書館司書たちの推理を描きます。

秋葉図書館の新米司書・今居文子も、勤めて1年になります。
尊敬する先輩に、保育園でのブックトークを任され、緊張しますが。
子供達とお母さんに向けて、馬をテーマにした絵本の話をしようと考えます。

中学生の男の子・佐由留が祖父母の家に滞在していて、ときどき図書館を訪れるように。
いぜん好きだった本と同じ題でも内容の違う本の謎。
司書がちゃんと探している本を見つけ出して解説してくれ、違う司書それぞれの対応も面白い。

図書館の向いにある山で、白骨死体が発見されました。
事件性はないらしいが‥
図書館に出入りする常連さん、ご老人も、さまざまな思いを抱え、なかなかたくましい。
ご近所の人たちの言動やちょっとした謎を解き明かしつつ、次第に深く関わって行く司書たち。
秋葉市の隠された過去、戦前からの出来事が浮かび上がってきます。といっても、怖い犯罪が出てくるわけではありませんのでご安心を。

知っている本が出てくると、楽しくなりますね。
ああ、バーナデット・ワッツの絵本はね~とか、
ルンペンシュティルツヒェンって、そうだっけ‥とか。
それ、「旅の絵本」でしょ!とか。
題名が出てくるだけなんだけど、「ディダコイ」の一言にきゅんとしたり。
知らない本や記憶の薄い本もあるので~
いろいろ探したくなります!

「望月のあと」

森谷明子「望月のあと (覚書源氏物語『若菜』)」東京創元社

源氏物語の作者・紫式部が、侍女の阿手木(あてき)と共に、謎解きに挑みます。

2003年のデビュー作「千年の黙」に続く「白の祝宴」に続くシリーズ3作目。
デビュー作から2作目までは10年も開いているんですが、これは続けて出ました。
その理由は後書きに。

寛弘8年(1011年)5月。
紫式部こと香子が、中宮の彰子に仕えつつ、「若菜」を書こうとしている時期。
少女の頃から香子に仕えている阿手木は、宮廷に出仕している御主の留守を守って、香子の生家の堤邸に暮らしています。
今では人妻ですが、通い婚が普通な時代なので、夫は仕事先から夜になるとやってくる生活。
夫の義清は武士なので、郎党を連れてくるため、治安の悪い時代に、安心で助かっていました。平安の都は、盗賊や付け火が横行していたのです。
彰子の父で左大臣の道長は、そんな世情を憂うこともなく、「この世をばわが世とぞ思う望月の…」と我が身の栄華を誇っていました。

源氏物語は人気を呼び、愛好者の間で年表が作られるほど。
矛盾を指摘されるのでは?と、冷や汗をかくことに。
あまり書かれていない数年の間のことをもっと知りたいという要望も出されます。
物語の中では、これから光源氏が栄華を極め、その後に問題も出てくるあたり。
書きあぐねている部分をじっくり書き上げるために、気楽な部分を作ってみたらと進言する阿手木でした。

折しも、道長の使いを和泉式部に依頼され、東三条院へ赴くことに。
道長が、誰か由緒のある女性をそこに隠している、という噂が立っていました。
実は、いわくがあって宮廷を離れた異母妹の、忘れ形見である瑠璃という姫。
この時代、異母妹の娘となら結婚も可能で、道長も少々胸を弾ませているのですが、性急にそう求めるほど若くはない。
香子はひそかに、彼女のことを調べ、「若菜」の前に「玉鬘」の章を書くことにする…

「若菜」の章だけが、上下二部に別れている理由に思い馳せながら、書かれたのでしょう。
玉鬘のモデルになった女性と近づきになり、幸せな人生を送れるように密かに手助けまでする女達のひそかな連携ぶりに、にっこり。
喝采を送りたくなります。
2011年12月発行。

「白の祝宴」

森谷明子「白の祝宴 逸文紫式部日記」東京創元社

紫式部の書いたもう一つの書・紫日記。
その中に名が出てくる女性の子孫が、一生懸命、日記を書き写すところから始まります。

一度出仕した後、すぐに宿下がりしたきり戻らなかった紫式部。
(当時はまだそう呼ばれてはいない)
家に戻って療養しつつ、源氏物語の続きを書いていた紫式部こと香子が、再びの出仕を求められて、ためらいつつも応じることに。

1008年、夏。
折しも中宮・彰子が、天皇の子を産もうとしていました。
十代前半に入内したので、結婚九年でやっと出来た初めての子。
父親の左大臣、藤原道長の張り切り様はこの上もなく、土御門邸でのお産の模様を女房達に書き記すように求めます。
紫式部はそれをまとめることを求められたという設定になっています。

大量の原稿をつぎつぎに渡されて、困惑する式部。
女達の性格や人間関係も把握しかねて、苦慮するのでした。
これは、名もない女達が記録を残すことの出来る珍しい機会だったのですね。
だから、そうした苦手意識や遠慮は気にすることはないのだと、彰子には言われるのですが。
彰子はまだ若く、天皇に熱愛された中宮定子ほどの才気はなさそうですが、おっとりした人柄の大きさが現れていますね。

紫式部日記が独りで書いたにしては冗長で、文体や視点にも矛盾があることから、こうだったのではないかと推測した内容。
さらに、陰で起きていた事件の謎解きというミステリも。

付き従う女官達は、すべて白装束。
お産のときには産婦と介添え役は白衣というのは当時の上流階級のしきたりでした。が、大勢の召使いすべてが、何日も前から白装束、というのはかってないこと。
刺しゅうも白か銀、正装の時だけに着ける唐衣や裳まで白ずくめなのです。

「千年の黙」で登場した小間使いの女の子あてきが大きくなって、りっぱな人妻・阿手木として登場。
といっても、別々に暮らすのが普通の当時の夫婦。
阿手木は京極堤邸で仕える御主(おんあるじ)である紫式部の留守を守り、式部の弟、娘の賢子の面倒を見ています。
夫の義清は、彰子のライバルだった亡き中宮・定子の縁に繋がる立場。
定子の弟の隆家中納言に仕える郎党なのです。

定子は、10歳になる一の皇子・敦康と姫宮の修子を遺しました。
定子亡き後は彰子が母代わりとなっていましたが、出産のため実家に戻ったので、二人は隆家の邸に引き取られて、父である今上帝とも会いにくくなっています。
ここで、彰子に男の子が生まれれば、二人の立場はさらに弱くなってしまう。
この子らの付き添いとして、清少納言もちらっと登場。

中納言邸で狼藉をはたらいた賊の一人が、血を垂らしながら逃げ、彰子のいる邸に駆け込んだ…?
阿手木は義清の頼みで、童の小仲を連れてその跡を探索に行き、賢い御主に事情を相談します。
道長のほうからも、式部は内々に探索を頼まれます。誰かが不逞の輩を手引きしたかも知れないということで。
その後、土御門邸では、呪いに使ったと思われる札が床下から発見される。誰が何のために…?

阿手木は、夫の仕事に関わりのある謎を解くために行き来しつつ、陰に日に式部を支えることに。
大人の女性の色々な悩みは、源氏物語もかくや?
当時の色々な立場の人の思惑が入り乱れ、生き生きしていて、面白かったです。
2011年3月発行。
2003年発行のデビュー作「千年の黙」の続編に当たります。

「葛野盛衰記」

森谷明子「葛野盛衰記」講談社

日本の歴史を裏側から眺めたような物語。
桓武天皇の若き日から、平家滅亡まで。つまり、まるごと平安時代ですね。
連綿と続く民の思い。
それぞれの思いに忠実に生き、時には存亡を賭けて戦い、不運に泣き、恋のもつれによじれ合う一族の命運。

寧楽(なら)の都を厭う山部皇子(やまべのみこ)は、乙訓の多治比の一族の娘・伽耶を愛し、彼女の住む山背の地に長岡京を築こうとしますが…
造営責任者が暗殺され、葛野(かどの)川の水害も起こり、10年で断念。
上流に平安京を作ることに。
女帝の時代には傍流だった桓武天皇。母の出自が渡来系で低く、異母弟が立太子していたのですが、政争の果てに帝位が巡ってきたものでした。
伽耶は心から帝を愛しながら、森が恐ろしくて、住み慣れた家を離れることが出来ない。
やはり多治比の娘で伽耶には姪のような存在の真宗が、後に自分なら都へ行けると決意して、帝の後宮に入ります。
葛原(かずらわら)親王を生んで、これが後に臣下に降りて桓武平氏の祖となるのです。
真宗の双子の兄・耀(あかる)は、森に棲む少女に魅せられ、出奔してしまったままでしたが‥

藤原縄主(ただぬし)は、桓武の東宮・安殿(あて)親王に娘が入内したのですが、大極殿のすぐ脇にある森で鳥に襲われ、屋敷の奥深く引きこもって暮らすしかなくなります。
母親の薬子が、身代わりのように安殿親王と関係が出来てしまい、醜聞となりましたが‥
怨霊に脅える親王は、平城天皇となってからも、薬子でしか安らげない。
有名な薬子の乱に繋がりますが~当事者にとっては乱というような実感はなかった成り行きなのかも。

森に棲む魔とは。
北の地に住み着いた秦の一族とは…?
やがて、天皇の娘が賀茂の斎院に。
巫女となる女性が少女の頃から出てきて、不思議な雰囲気を醸し出します。

平忠盛に嫁いだ宗子の視点、その息子の頼盛の視点から、後半を描きます。
次男の頼盛は正妻の子でありながら、清盛と比べると傍系のごとき扱い。
後白河院と平清盛という強烈な個性を持つ二人に振り回される人生。

本当としか思えなくなるような説得力があり、面白かったです。
長い歴史のポイントを丁寧に描写し、ややこしい人間関係もぐいぐい読ませる筆力はさすが。
宴の松原、糺の森、賀茂神社、広隆寺。
今の京都に残る有名な地名や寺、仏像もまんま出てくるので、おそるおそる覗いてみたくなります。

「深山に棲む声」

森谷明子「深山に棲む声」双葉社

民話的な雰囲気のあるファンタジーです。
村人は深山には決して入ってはいけない、と言われている村。
いったん入ったら、人間らしく生きていくことは出来ない…?
祖父に育てられた少年イヒカは、美しい花を求めて深山に迷い込んでしまいます。
そこでババと名乗る女性と、隠すように育てられていた少年に出会います。

村とは距離をおいているイヒカの生い立ちとは。
北の国の婚約者から逃れるために旅に出た娘を待っていた意外な運命は…?
様々な人の人生が交錯します。

北の国というのはどこだろう…国籍不明ですが、途中から名前が漢字になるあたり、古い時代の日本らしい雰囲気。
追っ手を逃れて移動したり、隠れ住んでいる人に狙われたり、山奥にいつしか村が出来あがっていったり。
予想外なぐらいダイナミックに~時代が動いていきます。

こういう物も書けるんですね~児童文学的なテンポなのですが、子供向けにしてはちょっと難しい、不思議な味わいでした。
染め物をする女性が出てくるあたり、この作者らしい。

「矢上教授の午後」

森谷明子「矢上教授の午後」祥伝社

紫式部を描いた「千年の黙」という日本史もののミステリや、ファンタジックな「七姫幻想」が私は大好きな森谷さん。
これは現代物で、本格といっていいのか…ややユーモア系かな?

白髪でいかにも大学教授といった風貌の矢上講師が、探偵役。
あだ名で教授と呼ばれていました。
生物総合学部の古典教師で、理系の学生に古典を教えているという呑気な立場。
大学の裏手のボロ校舎にある研究室に、いつもいるのでした。

じつはミステリマニアで、その蔵書を目当てに通って来る御牧咲(みまきえみ)という女学生もいました。
さて、夏期休暇中のある日のこと。
なぜか建物の中には、矢上教授だけでなく~それぞれの事情を抱えた人々が意外に集まっていたのです。

期限ギリギリで研究論文を仕上げようと集まっている院生3人。
そのお目付役の、研究室助手の女性。
藻類研究の権威のおっとりした三谷教授と、仕切り屋のその助手も、データの取り直しで部屋にこもっていました。
一方、松浦教授は、いささか自己中で、助手を振り回すタイプ。熊野の大学林にかかわるマスコミに名の知れた存在でもあります。こんな人までいたのでした。何かを待ちながら…

そして、研究棟には見知らぬ来訪者もいたのです。
嵐に停電、偶然なことから開かなくなった非常口、予期せぬ来客、そしてエレベーターに閉じこめられた青年…
殺人事件なのですが、どこか~楽しげでのほほんとした空気がただよっていて、読みやすいですよ。
嵐の山荘というべき設定に思わず張り切った、矢上教授の推理は?

「れんげ野原のまんなかで」

森谷明子「れんげ野原のまんなかで」東京創元社

「千年の黙」でデビューし、時代ミステリの印象が強い森谷さんの現代物。
受賞後第一作だったんですね。
秋庭という市の端っこにある図書館が舞台です。

図書館司書の若い女性・文子が博識な上司の能瀬らと、図書館をめぐって起こる小さな謎を解き明かしていきます。
子供達が図書館に忍び込もうとするわけは?
ほとんど動かない洋書の本棚で作られた暗号とは?
地元の大地主が寄贈した場所に建てられた図書館なので、土地柄に秘められた謎もあります。

風邪で寝ている時に読むのにピッタリでした。ちょっと北村さんの初期作品ぽいかな?
季語をあしらった章タイトルが森谷さんらしい。
本好き、図書館好きなら思わず、にっこりするような話題もあって~かなり好印象。

「七姫幻想」

森谷明子「七姫幻想」双葉社

鮎川哲也賞のデビュー作「千年の黙(しじま)」で紫式部を描いたのがとても気に入っていた森谷さんの3冊目の本。2冊目はまだ読んでいません~現代物らしい?
「千年の黙」は王朝ミステリーとなっていたようです。
こちらは短編集で、時代は古代から江戸時代まで。
大王(おおきみ)が衣通姫のもとへ通っていて、誰も入れないはずの一室で急に亡くなり、駆けつけた大后(衣通姫の姉)が嘆く所から始まります。
不思議な池のほとりで暮らす巫女のような衣通姫はミステリというよりもファンタジーの住人ですね。

七姫というのは織女の異称が七つあるのをいうのだそうです。そんなのがあるって、知りませんでしたねえ…
秋去姫(あきさりひめ)、朝顔姫(あさがおひめ)、薫姫(たきものひめ)、糸織姫(いとおりひめ)、蜘蛛姫(ささがにひめ)、梶葉姫(かじのはひめ)、百子姫(ももこひめ)…
この名にちなんだ物語をそれぞれミステリー仕立てにしてあります。
山奥の水のほとりで布を織る女というモチーフが続き、愛する者をくるもうとする繭や罪を隠す織物、跡をつけるための糸など、女の様々な思いが託され、織り上げられていくのです。
実在の人物や天皇、あの清少納言などがモデルとして見え隠れし、しかも最後には作中人物が詠んだ歌があげられているという凝りよう。

いやあ、これが好みの世界で~日本語って何て綺麗なんでしょう。
うっとりしました…
ふさわしい言葉で表現したいのですが、教養が不足しております~。
荻原規子の和物ファンタジーや、長岡良子のコミックがお好きな方などにもオススメ!

「千年の黙」

「千年の黙(しじま)ー異本源氏物語」森谷明子(東京創元社)

紫式部に仕える少女の目を通して描かれる真実の歴史?
式部が探偵役の平安ミステリーの形にまとまっていますが、それだけが魅力ではありません。

知的な大人の女性でしっかり者の式部像がさりげなく丁寧に描かれて、好印象です。
時の権力者でパトロンのような道長との関係も、「輝く日の宮」よりもだんぜん、納得がいきます。
もっと書いて欲しい作家さんですね(^^)

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