フォト

おすすめ本

「フリッカー、あるいは映画の魔」

セオドア・ローザック「フリッカー、あるいは映画の魔」文春文庫

映画の歴史をたどる陰影にとんだゴシック・ミステリ。
「このミステリーがすごい!」の過去のリストの中から見つけて。
久しぶりにこんな濃いのを読んだわ~読むのに時間がかかるけど、面白かった!

主人公のジョニー・ゲイツが50年代に始まる学生時代を回想するところから始まります。
ロサンジェルスでUCLAの映画学科に。
クラシック座という小さな映画館を経営する年上の女性クレアの教えについていき、恋の手ほどきも受けます。

クレアは若い頃にもさまざまな経験を経ていましたが、のちには映画批評家として著名人になる女性。
ジョニーはふと発見した昔の映画監督マックス・キャッスルの作品の素晴らしさに驚嘆し、信じられないような技術、隠されたメッセージにも気づいていくことに。
当時の映画好きの奇人変人が入り乱れるパーティーの猥雑さ、前衛的な映画のばかばかしさも笑えます。
時代のムードは濃厚で鬱屈も危険な匂いもありますが、主人公が好青年なので、前半は読みやすい。

グリフィスやオーソン・ウェルズ、シュトロハイム、ヒューストンなど、往年の名画や俳優、映画監督の話がたくさん出てきて、少しは知っていたことも懐かしく思い出されます。
映画の歴史としてはある程度まで史実にのっとり、思いもよらない陰謀を疑いながらも、先が読めない展開の連続で、おおっと呻らされます。

20年後、ジョニー・ゲイツは、大学の映画学科教授となっていました。
技巧が際立つ映画を発表して人気が出始めた監督サイモンを紹介されることに。
まだ10代のサイモンは、マックス・キャッスルを尊敬している様子。
クレアに紹介されたアンジェロッティは、かってキャッスルのことを調べていくうちに見つけた論文の作者で、元ドミニコ会修道士でした。

ちょっと「薔薇の名前」と「ダ・ヴィンチ・コード」を連想しますね。
キリスト教カタリ派に興味があればケイト・モス「ラビリンス」をおすすめします。雰囲気は違いますけど~面白い歴史ミステリです。

著者は1933年生まれ。主人公と同じくUCLAに学び、大学教授となる。文明批評家でもあり、全米図書賞を2度受賞。
1991年この作品を発表。小説としては4冊目。
1999年版(1998年12月発行)「このミステリーがすごい!」の海外編年間ベスト1を獲得。
2008年までの20年間のベスト・オブ・ベストでも7位に。

「禁断のパンダ」

拓未司「禁断のパンダ」宝島社文庫

第6回このミステリーがすごい!大賞受賞作。この大賞とりあげたの、初めてかなあ‥海堂さん以外に?
それでデビューした作家さんということです。年間ベストにあがったんじゃなくて。

調理師免許を持ち、フランス料理店で働いた経験もある著者。
料理の説明が詳しく、実感がこもっていて、実に美味しそう。

柴山幸太は、神戸で<ビストロ・コウタ>のオーナー・シェフをやっている新進気鋭の料理人。
小さいがすべてを一人で扱い、本格的な味の新作を次々に出す店です。

妻の綾香の友人・美佐の結婚披露宴に夫婦で出席し、中島という老人と知り合います。
新郎の木下貴史の祖父で、人間離れした味覚を持つ料理評論家。教会に併設されているレストランも経営していました。
幸太は中島にセンスをほめられ、後に中島はビストロを訪れます。

神戸ポートタワーで、一人の男性の刺殺体が発見されました。
木下貴史の家族が営む会社の社員だったのですが‥
しだいに事件に巻き込まれていく幸太。
事件の行方は?

最初に読んだのが2作目の「蜜蜂のデザート」で、美味しいスイーツの描写に引き込まれ、日常の謎的な気分で読んだのです。
こちらは受賞を目指したために派手なのか、連続殺人事件。
主人公にも、危機が迫ります。
それが迫力あっていいといえばいいけど‥
無理に大掛かりにしなくても?
まあどっちも書ける人なんですね。

「解錠師」

スティーヴ・ハミルトン「解錠師」ハヤカワ・ポケット・ミステリ

錠を開く才能がある少年の進んだ道は。
切ない初恋に心貫かれます。

8歳の時の事件以来、口を利くことが出来なくなったマイク。
「奇跡の少年」と報道され、カウンセラーにもかかりました。
酒店を経営する伯父に引き取られ、ミシガン州デトロイトの小さな町で育ちます。
高校の美術クラスで思いがけず才能を認められ、初めての友達が出来ました。
17歳半の時、上級生が卒業間近の夜の悪ふざけに、マイクが錠を開く才能を使うように求められ、事件に巻き込まれます。

奉仕活動のために被害者マーシュの家に通い、仲間の名を明かすよう求めるマーシュに、炎天下でプールを掘ることを命じられます。
その家の娘アメリアに恋をするマイク。
母を失っているアメリアのほうでも、どこか通じるものを感じたのです。
ほとんど表情も変わらない、話すことが出来ないマイクの中にあふれ出る感情。
気持ちをどう伝えたらいいか悩み、漫画的なイラストにして心の中の声を吹き出しに書いて、彼女の部屋に置いてくるのでした。
ここで漫画という形が出てくるのが、最近の作品ならでは?

今は服役中のマイクの手記という形で、犯罪に巻き込まれていくいきさつと、1年後の事件のなりゆきが交互に描かれます。
錠に魅せられたマイクの特技は、あまりにも危険な性質を持っていた。
大切な人を守るために特技を使うしかなくなり、ゴーストという解錠師に仕込まれ、依頼人を持つ立場になります。
心ならずも犯罪者となっていく中盤は重いですが、犯罪小説としてまずまずの読み応え。
利用されてしまうマイクがかわいそうで、どこか捨て身な態度にもはらはら。
そして、しだいに明らかになる子どもの頃の事件…
一筋の純愛が、希望をつなぎます。
意外に心地良い結末へ。

著者は1961年デトロイト生まれ。
1998年のデビュー作「氷の闇を越えて」で高い評価を得る。
これは2010年発表の作品。
2011年アメリカ探偵作家クラブのエドガー賞最優秀長篇賞と英国推理作家協会のイアン・フレミング・スティール・ダガー賞をダブル受賞しています。
2011年12月翻訳発行。
好評なため、すでに文庫化もされました!

「ジェノサイド」

高野和明「ジェノサイド」角川グループパブリッシング

感心しました。
スリリングで面白い!
推理小説ではないですが、広義のミステリ。

外国を視野に入れたどころではなく、人類の成り立ちと未来まで視野に入れた壮大なスケール。
ジェノサイドといえば大量殺戮。
世界各地で内戦が行われているが、すべてが報道されてはいないという。
しんどくなりそうな所も手際よく描いていて、こんな人どこにいたのと思うぐらい。
うまく人間的な興味で引っ張り、身近な設定も取り入れています。

アメリカ大統領のバーンズは、今日の予定の中の、ある情報に驚きます。
アフリカに新種の生物が出現!
人類絶滅の可能性…
対応してプロジェクトが動き出していくのです。

古賀研人は、日本の大学院生。
父の誠治を急な病気で亡くしたばかりでした。
不審な人物に接近されます。
ウィルス学者で大学教授だった父はひがみっぽい性格の男で、研人は尊敬出来ないでいましたが、薬学部に入り、創薬化学を選んだのは父の影響もあります。
あの父が、何に関わっていたというのか…
父が遺した手がかりを追って、古いアパートの一室にたどり着きます。
そこには、本格的な装置や実験用の動物までが隠されていました。
「いつか、一人のアメリカ人が訪ねてくる」という遺言の意味は?

友人のつてをたどり、天才的な韓国人留学生・李正勲(イジョンフン)を紹介され、先輩にも協力を依頼します。
なかなか開かなかったパソコンの中には、GIFTというプログラムが入っていました。
置かれていた携帯からは、コンピュータ音声で、ある指示が…
本当に味方なのか?その指示の目的は?

一方、バグダッドで要人警護に当たっていた傭兵ホーク・イエーガー。
正義があるとは思えない戦争にうんざりしつつも、3ヶ月の任務を終えて、リスボンに行く予定でした。
息子が難病で、あとどれぐらい持つかわからないという状況。
妻はその治療のために、幼い息子とリスボンにいるのです。
治療費がもっとかかるため、イエーガーは息子に会いに行くのを諦め、続いてさらに危険な仕事を引き受けることに。

アメリカでは、大統領に進言する面々が。
アフリカの奥地で起きた出来事にどう対処するか、無情な決定が下されます。
日本での動きも気づかれていますが、コガ・ケントの無防備な素人っぽさに首を捻っている専門家がいたり。

李正勲の協力を得て、研人はGIFTを使い、難病の治療薬つくりに挑戦します。
大学病院で見た女の子は、難病で余命一ヶ月ほどしか見込めない。
それはイエーガーの息子も同じだった…

イエーガーら特殊部隊に任命された4人の男が、訓練期間を経て出します。
報酬は高額で、危険で汚い任務なのは当然予想される所…
しかし4人のメンバーの選び方にはやや謎が。
治療出来ない伝染病が出たピグミーの集落を殲滅せよとの指令でした。
そして、「見たことのない生き物をみたらすぐに殺せ」と。
だが、現地に着いたイエーガーは、不審なものを感じます。
ピグミーの村にはナイジェル・ピアース博士がいて、誰も病気の兆候は示していない。
ピアース博士は、事情をすべて知っている、と呼びかけてくるのです。
そして、見たものは…

ピグミーの抱いている子どもの姿。
博士らを守る決意をしたイエーガー達を追いつめる罠が、四方八方から襲いかかってきます。
うち続く内戦で、戦闘部隊は各所にいるのです。
話がものすごくなっていくと、これでハッピーエンドになり得るかなあとはらはらしますが…

何と、この設定で、これほどハッピー感あふれる終わり方とは。
読後感の良さに、苦労が報われた?心地に。
なるほど、好評なわけです。
2011年3月発行。
「このミステリーがすごい!」1位。文春でも1位。
本屋大賞2位。
直木賞候補にも。

「二流小説家」

デイヴィッド・ゴードン「二流小説家」ハヤカワ・ポケット・ミステリ

主人公は、いくつものペンネームを使い分けてきた二流小説家ハリー・ブロック。
温暖な気候の惑星で肌もあらわな女達が登場するSFシリーズで人気があったなどと、笑わせてくれます。

今は母親の名前を美化したペンネームを使って、ヴァンパイアものを書いています。
吸血鬼物は皆女性の一人称で書かれ、作家はそこそこ綺麗だが年齢はいっていて痩せすぎでない女性に限るなどと、皮肉混じりの面白おかしい書き方で、ぐいぐい読ませます。

収入を補うためにやっていた家庭教師の仕事で、大金持ちの女子高生クレアと知り合い、退屈していたクレアの意外な才能に助けられて、変わった仕事を増やしていきます。
ある日、連続殺人犯から手紙が届くという事件が。
すべてを話しても良いというのです。
12年前に4人を殺したダリアン・クレイ。死刑執行まで3ヶ月。
これまで黙秘していた犯人だけに、大ベストセラーが生まれるかも?

不安を覚えつつも刑務所に会いに行くと、真実を話すのには条件があると。
熱烈なファンレターを寄越した女達に会って、それぞれを相手とするポルノ小説を書いて欲しいというのが条件。
会いに行った女性らも、ユニークで奇天烈。
それどころか、ダリアンと同じ手口の殺人が起きて、ハリーは第一容疑者に?

かっての事件で、双子の姉を失ったストリッパーのダニエラも、真相を知りたいと、参加してきます。
クレアと微妙に反目しつつも、珍道中は続く?
好きな探偵について喋ったり。
かなりのミステリマニアなのでしょう。
ダリアンの担当弁護士の助手テレサが、ハリーが書いているヴァンパイア小説のファンとわかって、どぎまぎしたり。
ハリーの作家としての悩みも描かれ、それでも書き続ける心境が語られています。
作家として発表しているという小説も織り込まれ、これがパロディ的で達者なものです。
警官や弁護士もにぎやかに絡んできます。
予想外の展開で、洒落のめした筆致で勢いよく。

作者は、ニューヨーク市クイーンズ地区生まれ。
文学で修士号を得た後、映画、ファッション、ポルノ産業など多様な職業に。
2010年のこれがデビューながら好評で新人賞候補に。
日本でも2011年発行の本のベストとして、「このミステリーがすごい!2012版」など、あちこちのベストテンで1位に輝いています。

「悪の教典」

貴志祐介「悪の教典」文藝春秋

人気のある教師が、実は…
とんでもない話だけど、妙にわかりやすく、さくさく読めてしまいます。
学校という舞台で、あり得そうな問題が多いから?

とある市立の町田高校で、2年4組を担任する蓮実聖司。
学校ではハスミンと呼ばれる人気者。
生徒の掌握や問題解決に実績を上げて、先生方の信頼も得つつありました。
しかし‥
家では、出窓にやってきて威嚇するかのような巨大なカラスを罠に掛けています。
大家のうるさい犬には、ハンバーグを投げて手名付けたり。
クラスは自分の王国にするべく、顧問をしているESSのメンバーや親衛隊のような存在の可愛い女の子を集めてあるのでした。
その代わりに、問題児も引き受けているのですが…
結果できあがった妙なクラスを、さらに理想に近づけるべく…?

同僚の先生も癖があり、一筋縄ではいかないのです。
武闘派の体育教師は、体罰で問題になります。
生物の教師は、標本を作るのに夢中で、ちょっと不気味。
ちんぴらが間違えて教師になったような男は、生徒にセクハラ?
とくに不人気な教諭には、大変な過去が…!
ここまで揃っている高校も怖いけど。
生徒のほうにも、いじめをする奴、弱みのある奴、カンニングを組織的に行おうとする奴と色々‥
このオンパレードが教典てこと?

そして、うすうす勘づいている生徒達も‥
妙な出来事が続くのは、学校を動かしているモンスターがいる?
片桐怜花ら、勘のいい生徒たちは、4人の教師のうちの誰かだと見当を付けるのですが‥

ここまでやったら。ばれるよねえ…
この主人公は殺人までやってのけますが、何というのか…
何かが欠けていて、何かが過剰。
心がないともいえるけど‥
クラスを思うように運営したいとか、力を発揮したいとか、余分なお金が欲しいとか、綺麗な女子生徒をものにしたいとか?
その欲望は~けっこう誰でも抱きがちなものだというのが、何とも。

自分の好きなようにやっていくために、ひそかに人を陥れていたのが、次第にエスカレート。
ついには大量殺人へとなだれ込む。
後半読むには体力いるかな。

「愛おしい骨」

キャロル・オコンネル「愛おしい骨」創元推理文庫

マロリーのシリーズではない新作。
読み応えあります。
「クリスマスに少女は還る」に続く系統でしょうか。
文章はスタイリッシュで、登場人物が非常に個性的な所はマロリーのシリーズにも通じます。

ある日、森に行った兄弟…15歳の弟ジョシュは帰らず、17歳の兄オーレンだけが帰ってきました。
町中総出で探したけれど、ジョシュは見つからないまま…
オーレンは遠くの学校へ行かされ、そのまま軍に入って帰りませんでした。元判事の父に追放されたと感じていたのです。

20年後、故郷に戻った兄オーレン。
家政婦のハンナに呼び戻されたためでした。
オーレンは相変わらずスター性のあるハンサムで、人生を誤ったと思うハンナ。
母亡き後に兄弟を育ててくれた家政婦ハンナは、小柄で素性のわからぬ謎めいた女性。彼女が傑物なのです~。
オーレンを呼び戻した本当の理由は、ジョシュのものらしい骨が、少しずつ玄関先に届けられるという奇怪なことが起きていたためでした。
家は20年前のまま、弟の部屋は服や靴の位置さえ変わらず、犬は剥製にされているほど。

大金持ちの娘イザベルと街ですれ違ったオーレンは蹴りを入れられます。今は鳥類学者になっているイザベル。
11、2歳の頃、恋心がお互いにあるのは周りにも一目瞭然だったのですが、実際には口をきいたこともないままでした。
意地っ張りな幼い恋。
イザベルは昔、嘘のアリバイを証言しようとしていたことを知るオーレン。
年上の女性イヴリンの証言で、オーレンのアリバイは成立していたのですが。

何か隠している保安官。
図書館に住みこんで動かない巨大な女性は、町の怪物と恐れられています。かって夫を殺していたのです…
というように、何とも個性豊かな町の人々は枚挙にいとまがありません。

自己顕示欲の旺盛な弁護士アディソンはイザベルの義父。何か起こるたびに弁護に駆けつけるのですが、派手なやり方で嫌われています。
その妻がイザベルの母セアラで、すごい美女でしたが~今は重度のアルコール中毒。
お城のような豪邸に住みながら、虜囚の姫君のよう。
年に一度だけ、セアラの誕生日記念に舞踏会が催されるのが、町の大きな行事になっていました。

町で一人だけ招待されたことのない嫌われ者のゴシップライターのモンティ。彼は、美少年だった弟のストーカーだった?
写真で小遣い稼ぎをしていた弟は、15で既に才能を開花させていました。街のあちこちに貼られている弟が撮った写真。
そして、今も行われている降霊会…

町の人々の秘密が次第に明らかになっていきます。
父が調査を依頼した元警官のスワンをオーレンは訪ねます。
捜査官としての経験を積んだオーレン・ホッブズは、自らも疑いを掛けられながら、今度こそ真相にたどり着けるか…?
快感のこもったリズミカルな文体で、重い内容を描き分ける手練れっぷり。
きらきらと目くらましにあったような豪華なクライマックス。
複雑な味わいが残りました。

このミステリーがすごい!で海外の1位になっています。

「新参者」

東野圭吾「新参者」講談社

あべちゃん主演のドラマも、良かったですよね~。
最終回の日に、読みました。
設定の基本は、全く同じです。
各章のオチへ持って行くのを少し捻って、丁寧にねっちりやってましたね。

東京の下町の暮らしぶり、小さなお店を長年やっている人々。
所轄に赴任してきた加賀恭一郎警部補は、新参者といいつつ、穏やかに街に馴染んでいきます。
切れ者と噂の、だがそれにしては出世していないのでした。
丁寧に関係者の事情を追っていくやり方には、信念があるのですが。

マンションの一室で、三井峰子という四十代半ばの女性が殺された。
離婚して、翻訳の仕事を始めたばかり。
誰に聞いても、人に嫌われるような人柄ではなかったのに。
息子の弘毅は、俳優になると言って父と決裂して家を出て、母とも音信不通だった…

「煎餅屋の娘」「料亭の小僧」「瀬戸物屋の嫁」「時計屋の犬」といった章立て。
事件には一見関係ないかも知れないことだけど、少しずつ何かを知っている人々の小さな隠し事が、しだいにはっきりしてゆくのです。
民芸品やはさみの専門店など、日本橋を歩くのは楽しそう。行列の出来る鯛焼き屋さんもね。

小さな謎を解くのにいつも人情のからむ、あったかい筋立てなので、家族でテレビを見ていても大丈夫でした。
ドラマでは、被害者の息子の恋人・青山亜美が雑誌記者で、加賀の知り合いという設定も加え、比重が大きくなっていました。

「犬の力」

ドン・ウィンズロウ「犬の力」角川グループパブリッシング

ドン・ウィンズロウは、デビュー作「ストリート・キッズ」が大好きで、4作か5作は読みました。
これは評判が高いのですが、暴力描写が多いらしいので後回しにしていました。
これまでとはややイメージが違うよう?入魂の長編力作です。

アート・ケリーは元CIA。
メキシコでの麻薬密売ルートを撲滅しようと、DEA捜査官となります。
若い日に後見人のような存在「叔父貴(テイオ)」として面倒を見てくれた名士ミゲル・バレーラが、実は組織の大立て者で、大ボス検挙の手がかりをくれたのは自分がトップにのし上がるため。
アートは利用されたと知ります。

アートだけではなく、組織側の若い者がいかに取り込まれていくかも描かれます。
バレーラの甥のアダンとラウル兄弟。
摘発されにくいように上流階級に食い込む方策をとるとは…
羽振りのいいラウルの遊び仲間となり、良家の子息だった大学生ファビアンは、やがて冷酷な殺人者となっていくのです。
アイルランド移民で、足を洗おうとして果たせないショーン・カラン。
互いにバトルを繰り広げつつ、人生行路を切り開いていきます。

カランと若い頃に出会ったことのある高級娼婦のノーラ。
カトリックの枢機卿フアン・パラーダと知り合い、民衆の中に立ち混じって働く彼に共感して、奉仕活動に通うようになります。時折「白い館」での仕事も続けながら。
映画「ゴッドファーザー」を思わせる家族の絆や裏切り、組織の興亡。
この作者らしいテンポ良くリズミカルな文章で、目に浮かぶように、読ませます。

DEA南西国境特務室の室長となったアートは、部下を殺されたことから更に執念を燃やして組織撲滅へ動きます。
いよいよ事態は国際的にも紛糾、どっちに正義があるのかわからない泥沼の闘争へ。
1970年代から2004年にいたる~中南米の麻薬抗争を大筋でたどっているそうです。
若い頃から描かれてきた人物が一堂に会したり、運命が交錯する所が面白い。

最後の方の銃撃戦や、手に手を取っての逃避行、虚々実々の駆け引き、橋の上での身柄引き渡しと最後まで盛り上げます。
いや~すごい迫力でした。

「警官の血」

佐々木譲「警官の血」新潮社

三世代にわたる警官一家の歴史を淡々と書ききった大作。
戦後すぐに警官となった安城清二が一代目。
上野界隈が浮浪者で溢れていた時代から、次第に復興していく有様が描かれます。
今から考えると想像を絶するようで、歴史的な興味がわきます。
軍隊帰りの清二は、民主主義の時代に希望を抱いて、息子には民衆の英雄という意味で民雄と名付けます。
民雄って古くさい響きだけど、そういう意味だとは…

清二は穏やかな家庭を築き、人情味のある駐在として人望を集めますが、天王寺の火災の時になぜかその場を離れ、鉄道事故で死亡。
現場を離れたのが不審に思われて自殺説も出たほどで、殉職扱いにはされなかったのでした。

息子の民雄はその時、8歳。父と同期の「血の繋がらないおじ達」の援助で高校を出、警官に。
父のような駐在になりたかったのですが、心ならずも公安の仕事を任ぜられます。北大に入学してまで学生運動のスパイに入り、やがて神経を病むようになってしまう。内ゲバの始まりそうな時代、学生運動に潜入する様子はスリリングです。
父の死の謎を解くのが警官になった目的の一つでしたが、それもなかなか果たせません。
やっと願いがかなって駐在になった民雄は、人が変わったように穏やかに。
ところが、人質を取った強盗事件で、殉職となります。

民雄の息子・和也は、子どもの頃は母を殴ることがあった父に反発していましたが、後にはやはり警官に。
意外にも上司の内偵を命じられ…
祖父と父の扱っていた事件を密かに捜査し、不審な死の謎を追います。
その時代の特徴を表す事件や警察組織の変容が描かれていて、面白かったですよ。
かねてからの知り合いと所帯を持った清二、療養中に知り合った娘と結婚する民雄、救急救命士と恋愛する和也、とお相手にも時代が現れています。

全体として事実関係がわかりやすく捌かれていて、特別な濃厚さや甘さはないんですね。大人の男性の目には社会はこう映っているのだろうなあと感じました。
2007年9月発行。

その他のカテゴリー

bベスト本 | i本屋大賞候補作 | l本屋大賞 | l直木賞 | l芥川賞 | l:日本エッセイスト・クラブ賞 | mf:世界幻想文学大賞 | mf:日本ファンタジーノベル大賞 | m:CWA賞 | m:MWA賞 | m:このミステリーがすごい! | m:アガサ賞 | m:マカヴィティ賞 | name:あさのあつこ | name:万城目学 | name:三上延 | name:三浦しをん | name:上橋菜穂子 | name:上野千鶴子 | name:中島京子 | name:乾くるみ | name:五木寛之 | name:京極夏彦 | name:仁木英之 | name:今野敏 | name:伊坂幸太郎 | name:佐々木譲 | name:佐藤多佳子 | name:佐藤賢一 | name:佐野洋子 | name:勝間和代 | name:北村薫 | name:原田マハ | name:坂木司 | name:大島真寿美 | name:大崎梢 | name:太宰治 | name:姫野カオルコ | name:宇江佐真理 | name:宮下奈都 | name:宮部みゆき | name:小川洋子 | name:小川糸 | name:山之口洋 | name:山崎ナオコーラ | name:山田詠美 | name:島本理生 | name:島田荘司 | name:川上弘美 | name:恩田陸 | name:有川浩 | name:朝井リョウ | name:木内昇 | name:杉本苑子 | name:村上春樹 | name:村上龍 | name:村山早紀 | name:村山由佳 | name:東川篤哉 | name:東野圭吾 | name:松井今朝子 | name:林真理子 | name:柚木麻子 | name:柳広司 | name:栗田有起 | name:桜庭一樹 | name:梨木香歩 | name:森絵都 | name:森見登美彦 | name:森谷明子 | name:横山秀夫 | name:橋本治 | name:池上永一 | name:津村記久子 | name:海原純子 | name:海堂尊 | name:湊かなえ | name:町田康 | name:畠中恵 | name:百田尚樹 | name:矢崎存美 | name:磯崎憲一郎 | name:神田茜 | name:米村圭伍 | name:米澤穂信 | name:綿矢りさ | name:荻原規子 | name:菅野雪虫 | name:葉室麟 | name:角田光代 | name:誉田哲也 | name:貴志祐介 | name:辻村深月 | name:近藤史恵 | name:道尾秀介 | name:長野まゆみ | name:香山リカ | name:高田郁 | oその他の作家 | o海外作家:C.J.ボックス | o海外作家:M.C.ビートン | o海外作家:P.Gウッドハウス. | o海外作家:R.D.ウィングフィールド | o海外作家:S.J.ローザン | o海外作家:アガサ・クリスティ | o海外作家:アラン・ブラッドリー | o海外作家:アリアナ・フランクリン | o海外作家:アリス・マンロー | o海外作家:アレグザンダー・マコール・スミス | o海外作家:アンナ・マクリーン | o海外作家:アン・クリーヴス | o海外作家:アン・タイラー | o海外作家:アン・マキャフリイ | o海外作家:アーシュラ・K・ル=グウィン | o海外作家:アーロン・エルキンズ | o海外作家:エリザベス・ギルバート | o海外作家:エレイン・ヴィエッツ | o海外作家:エレン・カシュナー | o海外作家:カズオ・イシグロ | o海外作家:カミラ・レックバリ | o海外作家:カルロス・ルイス・サフォン | o海外作家:キャロル・オコンネル | o海外作家:キンバリー・ウィリス・ホルト | o海外作家:ギヨーム・ミュッソ | o海外作家:クリストファー・プリースト | o海外作家:クレイグ・ライス | o海外作家:クレオ・コイル | o海外作家:ケイト・キングズバリー | o海外作家:ケイト・モス | o海外作家:ケイト・モートン | o海外作家:ゲイル・キャリガー | o海外作家:コニス・リトル | o海外作家:コニー・ウィリス | o海外作家:コリン・ホルト・ソーヤー | o海外作家:コルネーリア・フンケ | o海外作家:サラ・ウォーターズ | o海外作家:サラ・スチュアート・テイラー | o海外作家:サラ・パレツキー | o海外作家:シャロン・フィファー | o海外作家:シャンナ・スウェンドソン | o海外作家:シャーリィ・ジャクスン | o海外作家:シャーレイン・ハリス | o海外作家:シャーロット・マクラウド | o海外作家:ジェイソン・グッドウィン | o海外作家:ジェイニー・ボライソー | o海外作家:ジェイン・オースティン | o海外作家:ジェフリー・ディーヴァー | o海外作家:ジェフリー・フォード | o海外作家:ジェラルディン・ブルックス | o海外作家:ジャニータ・シェリダン | o海外作家:ジャネット・イヴァノヴィッチ | o海外作家:ジュンパ・ラヒリ | o海外作家:ジョアン・フルーク | o海外作家:ジョナサン・キャロル | o海外作家:ジョン・ハート | o海外作家:ジョージ・R.R.マーティン | o海外作家:ジョー・ウォルトン | o海外作家:ジル・チャーチル | o海外作家:スティーグ・ラーソン | o海外作家:ステファニー・メイヤー | o海外作家:スーザン・プライス | o海外作家:スー・グラフトン | o海外作家:タニス・リー | o海外作家:ダイアナ・ウィン ジョーンズ | o海外作家:ダイアナ・ガバルドン | o海外作家:ダン・ブラウン | o海外作家:ディック・フランシス | o海外作家:デイヴィッド・アーモンド | o海外作家:デニス・ルヘイン | o海外作家:デボラ・クロンビー | o海外作家:トレイシー・シュヴァリエ | o海外作家:トーベ・ヤンソン | o海外作家:ドナ・アンドリューズ | o海外作家:ドナ・ジョー・ナポリ | o海外作家:ドミニク・シルヴァン | o海外作家:ドン・ウィンズロウ | o海外作家:ナンシー・ピカード | o海外作家:ネレ・ノイハウス | o海外作家:ノア・ゴードン | o海外作家:パウロ・コエーリョ | o海外作家:パトリシア・A.マキリップ | o海外作家:ピーター・キャメロン | o海外作家:ピーター・ディキンスン | o海外作家:ピーター・トレメイン | o海外作家:ピーター・ラヴゼイ | o海外作家:フランセス・ファイフィールド | o海外作家:フレッド・ヴァルガス | o海外作家:ヘイリー・リンド | o海外作家:ヘニング・マンケル | o海外作家:ベリンダ・バウアー | o海外作家:ベルンハルト・シュリンク | o海外作家:ポール・ドハティ | o海外作家:マイクル・コナリー | o海外作家:マーガレット・アトウッド | o海外作家:マーセデス・ラッキー | o海外作家:ミネット・ウォルターズ | o海外作家:ミュリエル・バルベリ | o海外作家:メアリ・W.ウォーカー | o海外作家:メグ・ガーディナー | o海外作家:メグ・キャボット | o海外作家:ユッシ・エーズラ・オールスン | o海外作家:リサ・クレイパス | o海外作家:リチャード・ノース・パタースン | o海外作家:リース・ボウエン | o海外作家:ルーシー・モード・モンゴメリ | o海外作家:レジナルド・ヒル | o海外作家:レスリー・メイヤー | o海外作家:レーネ・レヘトライネン | o海外作家:ロイス・マクマスター ビジョルド | o海外作家:ロビン・ホブ | o海外作家:ローズマリ・サトクリフ | o海外作家:ローズマリー・マーティン | o海外作家:ローナ・バレット | o海外作家:ローラ・チャイルズ | o海外作家:ローラ・リップマン | o海外作家:ローリー・キング | o海外作家:ローレンス・ブロック | o海外作家:ヴィヴェカ・ステン | o海外作家:ヴォンダ・N.マッキンタイア | お人形 | お人形着物 | お茶 | アニメ・コミック | ウェブログ・ココログ関連 | グルメ・クッキング | コージー | ジェイドール | ジェニー | スイーツ | ドールmomoko | ドール:Misaki | ドール:SD | ドール:シドニー | ドール:ピュアニーモ | ドール:プーリップ | ドール:ユノアクルス・アズライト | バービー | ファッション | ファンタジー | フィギュアスケート | ベスト本 | ミステリ | リカちゃん | ロマンス | 介護 | 健康・ダイエット | 児童書・YA | 動物 | 国内作家:あ行 | 国内作家:か行 | 国内作家:さ行 | 国内作家:た行 | 国内作家:な行 | 国内作家:は行 | 国内作家:ま行 | 国内作家:や行 | 国内作家:ら行 | 国内作家:わ行 | 国内小説 | 家事 | 心と体 | 日記 | 映画・テレビ | 書籍・雑誌 | 歴史もの | 海外小説 | | 病気体験 | 着物 | 経済・政治・国際 | 絵本 | 舞台・バレエ | | 言葉・歌 | 評論・エッセイ | SF

2017年5月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

カテゴリー

無料ブログはココログ

最近のトラックバック