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おすすめ本

「サラバ! 下」

西加奈子「サラバ! 下」

直木賞受賞作。
怒涛の後半。
前半ではわからなかったことが明らかになるので、上巻だけでやめちゃダメですよ!(笑)

両親が離婚した圷家。
姉の貴子は強烈な性格で、学校では浮いてしまい、それを見て育った弟の歩は、目立ちすぎず人に好かれるように、そつなく生きていきます。
お似合いに見えた両親が離婚し、歩には理由が知らされないまま。
実は結婚のいきさつから問題があり、父はそれを気に病んでいたのでした。
そして、父の選んだ道は‥

歩は両親のいいとこどりの容姿に恵まれ、大学では奔放な生活に。
美人の恋人も出来ますが、姉の貴子が巻貝アーティストとして注目を浴びたときに、とんでもないことに?

歩は、学生時代から始めた仕事を続けますが‥
頭が薄くなってきて、容姿にも自信を失います。
再会した姉は、アメリカで自分らしく生きていて、すっかり落ち着いた様子。
まともに生きてきたつもりの歩のほうは、どこか本気になれずにカッコつけたまま、ずるずると落ち目になってきている有様。
あいたた‥(苦笑)

迷惑をかけてでも、全身で体当たりして道を探っていた姉のほうが、確実なものを掴んだということでしょうか。
弟はこの小説を書き切ったということなので、ある意味、いじいじ悩む性格が活用されたってことなのか??

自伝的要素がある作品なので、そういう結末にしたのでしょうが、これは嘘かもしれない、と最後に言われても読者としては?
最初から、フィクションには違いないんですが~‥
平凡で深く考えない弟の、ありがちな年の取り方。いやこれは、気をつけたほうがいいかも?
そして、姉がらみの特異なシーンも精緻に描かれ、熱のこもった力作には違いありません!

「破門」

黒川博行「破門」角川書店

直木賞受賞作ということで読んでみました。
疫病神シリーズの5作目らしい。

建設コンサルタントの二宮はいちおう堅気なのですが、亡き父がヤクザだった縁で、いろいろ繋がりがあり、それで仕事もしていました。
収入は減り気味で困っていますが、優しい母親に借金し、何とかやりくりしています。
迷い込んだオカメインコのマキちゃん(自分で名乗っていて良く喋る)の世話をしたりと、けっこうのんきな暮らしぶり。
事務所によく顔を出す従妹の悠紀には、啓ちゃんと呼ばれて仲良くしていました。

ただ、二宮には腐れ縁の桑原がいたのです。
気の荒いザ・ヤクザの桑原に妙に気に入られ、何かと振り回される毎日なのでした。
二宮を啓坊と呼ぶ若頭の嶋田が映画に出資するという話に、桑原も乗ったはいいけれど、プロデューサーの小清水が金を持って行方をくらましてしまう。
金の行方を追いつつ、絡んでくるヤクザと喧嘩になったり、組同士の揉め事から身を隠したり、マカオに渡ってギャンブルにはまったりと忙しい。

テンポのよい会話で追いつ追われつの事件が飽きさせずに展開、意外ととぼけた要素も多いです。
お金が全くないかと思えば、急に美味しい物を食べるためにぱーっと使ってしまう。
高そうな店の名前や料理名は多いけど、具体的に美味しそうに書かれてはいません。
さすがに読み通せるけど‥結局、共感できる内容ではないですねえ。

「ホテルローヤル」

桜木紫乃「ホテルローヤル」集英社

第149回(2013年上半期)直木賞受賞作。
釧路のラブホテルに関連する話を、時系列をさかのぼっていく短編連作です。
暗めのトーンだけど、すっきりした印象が残る文章。

「シャッターチャンス」
恋人にヌードを撮りたいからと、廃業したホテルに連れて行かれた女性。
中学の時にはスポーツで人気者だった彼だが。
(いや、こりゃ別れたほうが‥)
廃墟と化したホテルという裏寂れた雰囲気。

「本日開店」
20も年上の住職と結婚した妻。
夫は人格者だが、不能だった‥
経営難のため、檀家の男性と関係するという思わぬことに‥

「えっち屋」
「ホテル・ローヤル」廃業の日。
ホテル経営者の娘は、在庫を引き取ってもらう後始末に来た男と‥

「バブルバス」
夫の父を狭い家に引き取った夫婦。
家ではプライバシーもない。
臨時収入で夫をホテルに誘う妻のバイタリティ。

[せんせぇ」
妻に最初から裏切られていたと知った、教師の夫。
さまよう彼に、女子生徒が両親とも夜逃げしたといって、ついてきます。

「星を見ていた」
ホテルで清掃の仕事をしている、60歳の女性。
働きづめの人生で、夫は身体を壊して働かなくなり家にいるが、夫婦仲は悪くないのです。
連絡をよこすことも滅多にない子供3人も、元気でやっていると思っていました。
次男が送金してくれたと思ったら‥
一途なおばさんのミコがかわいらしく、癖のある周りの人々もあたたかい。

「ギフト」
いい土地を見つけて、ここにラブホテルを建てようと思い立った田中大吉。
妻には大反対され、若いるり子という愛人と籍を入れる成り行きに。
ちょっと問題ありの男だが、それなりの夢や人のよさも感じられます。

全然違う人生を送るそれぞれの人物がそれらしく、ちょっとした描写で上手く書けている印象。
一部を切り取って深追いし過ぎないような、この読みやすさも受賞の一因かと。
この後、どうなったのかというと、かなりアンハッピーになりそうな話もあるわけですが。
年月をさかのぼっていくのが、暗くなり過ぎなくて、いいかも。
出来としては良いんだけど、どうしてもこれ読んで!ってほどじゃないかも。
「星を見ていた」などで、周りの人のあたたかさをふと感じるような展開は、いいですね

「恋歌」

朝井まかて「恋歌」講談社

第150回直木賞受賞作。
中島歌子の波乱の人生、水戸藩士に嫁いだ若き日を描いたもの。
熱っぽく、引き込まれます。

樋口一葉の師として名を残し、明治時代に<萩の舎>を主宰し多くの弟子を持っていた歌人・中島歌子。
後年病に倒れたとき、弟子がその手記を発見して読むという形で描かれます。

江戸の裕福な宿屋に生まれたのんきな娘・中島登世は、水戸藩士・林以徳と恋を貫いて結婚。
水戸でお武家様の妻として、生真面目な義妹てつが取り仕切る家に暮らすことに。
水戸藩では天狗党と諸生党が相争い、天狗党内部でも分裂がありました。前半はそういう危機感もありつつ、若妻の暮らしぶりを。
天狗党に属する夫・以徳は穏健な考えだったのですが、突出した行動をとった面々と同一視され、ついには逆賊となってしまう。
天狗党は妻子まで捕らえられ、登世もてつと共に入獄。
夫の無事を信じつつ、辛い時期を耐え抜きますが‥

水戸では、報復のため血で血を洗う抗争が続いたとは。
ここまでとは、知りませんでした。
素直な若い娘が巻き込まれた動乱の、思いもよらない激しさ。
あまり書かれていない後半生は別人のようで、ややギャップがありますが。これほどの経験があり、胸のうちに秘めた思いもあって、歌がほとばしり出たということ。
中島歌子は華やかなイメージがある女性ですが、亡き夫を最後まで愛していたのですね。
財産を誰に遺すかの決定も、水戸時代のことを深く憂いてのことなのでしょう。

君主の未亡人・貞芳院が後に語る水戸藩の実情が印象的です。
あまりの貧しさと抑圧ゆえに気持ちにゆとりがなく、怒りを身近に爆発させたと。
その貧しさは、初期の石高設定で見栄を張ったことや、水戸光圀以来の大事業が財政を圧迫したためなどもあることを思うと‥
低所得層が増えている現代日本の空気が、次第に悪くなっていることも、考えさせられます。江戸時代の庶民のように、娯楽を限定させられてはいないですけどね。

直木賞も納得の力作でした。
読んでいく作家さんが増えました!

「昭和の犬」

姫野カオルコ「昭和の犬」幻冬舎

直木賞受賞作。

滋賀県で育ち、暗い家庭から脱出するように東京の大学に入った柏木イクという女性の50歳前までの話。
自伝的小説です。

父親は突然、理不尽に「割れた」ような怒り方をする。シベリア抑留が長く、悲惨な体験をしたのでしょう。
そんな夫に絶望している母親もどこか壊れていました。
イクは幼い頃はあちこちに預けられ、教会の託児所から移った初めての我が家は、仮設事務所だったので安く借りられたもの。
山中に一軒だけ建つ、「ララミー牧場」の家のようだと思うのでした。
家には迷い込んだトンという黒い犬と、シャアという猫がいました。
シャアは人懐こく優しい気立てだったので、イクは犬と猫の性質を逆に感じて育ちます。

身近にはいつも犬がいました。
ただし、当時は犬を飼うといっても、繋ぐことさえするとは限らず、名前をつけて餌をやれば飼っているという。餌も残飯を与えるだけ。 父親は犬に言うことを聞かせることが出来て、それは初めて会うドーベルマンですらそうだったのです。 (犬が主人と認めるような権威を発散していたのでしょうね)

そんな父のやり方を見ていたせいで、犬の扱いが上手いイク。
何のとりえもないと感じていましたが、学生時代に貸間を転々として住んでいるときに大家の飼っている犬の世話をしたり、何かと関わっていました。
就職して住んだ家の大家の初音清香はお嬢ちゃまがおばちゃまになったような女性で、白い小型犬(ビションフリーゼ)のベルに洋服を着せて室内で飼っていたのです。
そういう犬を初めて見たイクは違和感を覚える。 まだ珍しい時代だったんですね。
だんだん懐かれると、かわいくなってくるのですが。

イクが35のときに父はなくなり、その後5年間は人が変わったように母は明るくなりました。 だがその後は病気になり、人が変わったのも病気ゆえの変調だったのかと思われました。
両親がやや高齢だったので介護で往復するのも早い時期からあり、下宿先の初音家に病人がいたせいもあってか、どこか暗い印象を持たれるイク。
子供の頃飼っていた犬ペーにそっくりなマロンという犬に出会います。 思わずすぐに手を出して撫でたら、犬のほうもふしぎと嫌がらない。
連れていた老人が散歩で通りかかる時間を見計らい、10分ほど犬と遊ぶ時間を過ごすことになります。

ある日、ふとこれまでを振り返り、特別でない日々を送ってきた自分が幸せだったと感じます。
父を苦しめた戦争を経験することもなく、平凡に生きてこられた。
そこに犬がいたせいで、父も母も癒されたことがあったのだろうと。
ラストで幸福感が溢れるようになるとは、これまでの淡々として苦味のある描写からは予測していませんでした!

親を見送った後の感慨というのは、実感としておおいに理解できます。
作者とは世代が近く、テレビ番組はわかる方が多いし、犬の飼い方の変化もまさしく!かなり知っています。
作者に比べると生まれたところが都市部なので状況も違い、ずっとのほほんとした育ちなので、申しわけないぐらい幸せに感じますが(違う苦労はあるにしても)。

「ハルカ・エイティ」と「リアル・シンデレラ」を前に読んでいます。
どちらも直木賞候補作で、女性の半生記という点は共通。 自伝ではないためか、この作品よりも優しい穏やかな筆致でした。
作品リストを見ると、もっと挑発的で強烈なタイトルが多いのですが、そうでないのを読んだようです。
この作品はやや離れた視点から幼い日のことを眺めていて、その冷静さがいいですね。
感情移入したい人には、あるいはややとっつきにくいのかも知れませんが。
感情がないかのように生きているイクに、実は大きく感情が動いていることが端々に見受けられるのが、読んでいて胸の詰まるところです。
犬のことをべったりと書いてはいないのが、犬を飼ったことのない人には入りやすいのか?わかりやすいのかどうなのか。
猫も犬もべたべた可愛がって育ててきた自分だったら、嫌いな人には付いてこれないぐらい甘い話を書きそうです(笑)

「何者」

朝井リョウ「何者」新潮社

直木賞受賞作。
就活をする大学生の話だってこと、知らない人ないぐらいじゃないかな。

自分は何者なのか、生まれて初めて突きつけられるような就職活動の時期。
不況で就職難なので、結構いい大学の学生でも次々に落ち続けることに。
特異な状況で、内定が出たことが学内でヒエラルキーの頂点に立つことになるという。

演劇サークルで脚本を書いていた二宮拓人。
今はすっぱりやめて、就職活動中。
3年のときから拓人とルームシェアしている光太郎はバンドのボーカルですが、今回のコンサートを最後に引退することになっていました。
いぜん光太郎と付き合っていた瑞月が、1年の留学から帰って来ます。
拓人は瑞月に片思いしているのですが、見守るしかない。瑞月は拓人にはけっこう優しくしてくれる良い友人ではあるけれど、そういう対象ではないのは目に見えている感じ?
光太郎は人に好かれる性格で、コンサートの後は髪を切って変身。
突然、追い越されてしまいそうな拓人ですが‥

瑞月の友達の理香が、アパートの上の部屋に住んでいるとわかり、4人は就活の情報交換を始めます。
理香も留学経験があり、ボランティアにも積極的なしっかりしたタイプ。
理香の部屋には同居し始めたばかりの恋人・隆良もいました。
就職はまったく考えていないという隆良は、いささか気取った芸術家肌のよう。
拓人はかって二人でコンビを組み、今も演劇を続けている烏丸ギンジが隆良に重なって見えて気になり、現実味がないと感じてしまうのです。

ツイッターやフェイスブックを駆使する若者達の人間関係は、リアルな付き合いとネット上の短い文章の語るものが交錯します。
どちらが本当なのか、どちらもまやかしを含むのか?と思わせるような‥
しだいにピリピリして来た彼らは、批判し合うことに。

あ痛たたた‥てぐらい、痛烈ですね。
まあその結果は‥
一段階成長したという希望が持てる結末。
ここまで書くとは~前半の余裕はこんなところへ行き着く前提だったとは。
就職活動を終えたばかりで、良くぞここまで抉るように書けたもの。
なるほどの直木賞でした!

こういう就職活動をしたことがない自分って、馬鹿なんじゃないかとしばし呆然‥いやカッコつけてたとかでは全然なく。
事情があったんだから仕方ないわねぇ‥とだんだん思い出しました。でも賢かったとはいえないけど(苦笑)

読んだ時点では、単行本化されている作品はこれでコンプリート。
次はどんな作品が来るか?
楽しみです!

[追記]「世界地図の下書き」っていうのが新作ですね~!

「鍵のない夢を見る」

辻村深月「鍵のない夢を見る」文藝春秋

5編入った短編集。
三面記事にあるような事件に巻き込まれていく人々。
女性の一人称で、未熟だったり身勝手だったりする所も見えつつ。
普通の人間が、思わぬ成り行きで、魔が差す瞬間を描きます。

直木賞受賞作。
そのことを忘れて読んでいて、途中で直木賞っぽいなとふと思いました。
多くの人に読ませたいような、わかりやすく時代性があり、文章もしっかりしていて地道な作品というか。
その作家の個性が強烈に出ている作品は、票が割れるのか、選ばれにくいんですよね。

「仁志野町の泥棒」
小学生の時に転校してきた女の子。クラスの人気者が特定の友達として仲良くなるのですが。
その母親には盗癖があった…

「石蕗南地区の放火」
実家の向いにある消防団の詰め所が火事になります。
災害保険の仕事で出向いた女性は、知り合いが放火したのではと疑う…

「芹葉大学の夢と殺人」
夢を抱いていた大学生に、その夢をわかってくれて、見た目もよく自分の夢も語る彼氏が出来ました。
ところが彼の方は成長しないまま…卒業後は別れることになったのです。
(文章で読めば、そりゃあやめとけ!っていう感じなんだけどねえ)
冷静さがなくなるとき。
教授殺害を知って、彼が犯人ではないかと疑うことに。

「君本家の誘拐」
買い物の途中で振り返ったら、ベビーカーがない!
ほんの一瞬だったのに…寝不足で追いつめられていく母親の心理。誰にでも起こりそうで、痛いです。
結末には、救いが。

それぞれの性格、自業自得かも知れないが運が良いとはいえない事の成り行きと、細やかな心の動きがなんともリアル。
あまり感じ良くはないけれど。毒があるというほどでもないかな…
安定した筆致で、鋭くしっかり描かれてはいますよね。
大人になったな~っていうか。

「本日は大安なり」

辻村深月「本日は大安なり」角川書店

結婚式場で、挙式当日に巻き起きる出来事。
NHKでドラマ化されてましたね。

老舗のホテル・アールマティの中にある優雅な結婚式場。
ウェディングプランナーの山井多香子を中心に、つぎつぎに視点を変えて。
見ず知らずの人が4つの式場で互いを見かける様子なども入って、面白く描かれています。

何かと文句の多い不機嫌な花嫁・玲奈。
衣装を3点にすると時間が長くなりすぎるとか、結婚式や披露宴で問題になりがちな点が、具体的に取り上げられています。
調整に四苦八苦する多香子でした。
こういうときに悪いことは重なるもので、連絡ミスがあったりします。
じつは多香子には、玲奈を好きになれない理由があったのだが…
次第に気持ちが変わってくるような。
披露宴の時に、サブライズな演出に。

双子が互いに意識しまくっていたために起きる事件。
姉の鞠香と妹の妃美佳。
姉となった鞠香はしっかりするように期待されて、その通りに育っていきました。
甘やかされながらも陰になりがちな妃美佳は、明るい姉に対して強烈なコンプレックスを持ち、離れて生きようとしていたのです。
いざ結婚という時になって、どうしても自分でなければという人なのか、新郎を試そうと…?

男の子が叔母の結婚を心配して、なんとか中止させようとしたり。
母の妹を「りえちゃん」と呼び、懐いていた真空。
7つ年下でもっさりした彼氏が別な女性といる所を見て、悪い人なのではないかと不安になり…?

はては、とんでもない新郎もあったもので、浮気相手に実は結婚していると言うことも出来ず、当日を迎えてしまい…?!

大騒動がどう落着するか?
式場側の意識の持ち方や、プランナーの腕の見せ所もあり。
プランナー自身の披露宴にまつわる過去が…!
2年後のエピローグがあり、それぞれの未来へのスタートも微笑ましい。

平成23年2月大安の日に、発行されています。
著者は1980年生まれ。2004年メフィスト賞を受賞して、デビュー。
先頃、みごと直木賞を受賞しました!

「星々の舟」

村山由佳「星々の舟」文春文庫

直木賞受賞作。
舟は家族を意味しているのでしょうね。
星座のように、孤独なようでも繋がっている…

戦争帰りの父は、傷跡を抱えて時に荒れる男。
長男とは大人になっても距離があるままでした。
長兄・貢とは年の離れた次男・暁は、子連れの家政婦から後妻となった継母になつきますが…

実の兄妹と知らずに愛し合ってしまった暁と、連れ子の沙恵。
自分だけが一家をつなぐつもりでいた一見明るい末娘にとっても、世界は壊れてしまう…
団塊の世代で、堅実に暮らしながらも、自分の居場所を探し続ける長兄。
いじめにあっていた相手にまた出くわしてしまうその娘・聡美。
その孫娘を可愛がる祖父と、視点を変えながら描いていきます。
背景にあった祖父の悲惨な体験が、哀切。

きちんと描写された手堅い出来映えです。
もがきながら生きていく切なさや、なかなか理解して貰えない内心のけなげさが、きらりと透明な光を放つようなのが、この作者らしい。
発表当時も読みましたが、再読。

とっくの昔にご紹介したつもりだったんですが。
直木賞のカテゴリを作ってみたので、探したら…な、ないっ。
ブクログの「sanaの本棚」をチェックしたら~2010年2月にアップしてありました。
しかも、その時既に再読とは…?

「下町ロケット」

池井戸潤「下町ロケット」小学館

直木賞受賞作。
「がんばれ!」と迷わず言えて、「やったあ!」と素直に喜べる。
いまどき珍しい話?

佃航平が下町の工場を継いだのは、ロケット打ち上げ失敗の責任を取らされた後のことでした。
研究者だった人間が、6年を経て、大田区の町工場を技術と情熱で引っ張り、いつしか立派な経営者になっています。
ただ研究費が莫大で、一見したところは赤字だらけの中小企業なんですが。
大きな取引先からは切られ、銀行には渋い顔をされてしまいます。
しかし、銀行から出向してきた殿村は、意外にも次第に重要な戦力になっていくのでした。

大会社ナカシマ工業からは見下されて、吸収合併を狙っての訴訟を起こされます。
高性能小型エンジンのステラはもちろんオリジナルなのですが、特許のとり方しだいでは、隙をついて後追いで広範な特許を取ることも可能なんだそうで。
専門家でないと、どちらが先か、判別は難しいのです。
一般の弁護士では反論が難しく、裁判は暗礁に乗り上げかけます。
特許を買い取ろうという動きも。

危機にどう対処するべきか?
給料が決して高いわけではない社員達も、巨額の研究費に不満を覚える‥
しかし、いい仕事をしたいというプライドが誰にもある!
エンジン会社としては、部品を作ってこそ。
特許を売ることで儲けるのは、一見巨額をすぐ手に入れられるようだけれど、それで将来を閉ざしていいのか?
様々な人の力を借り、勇気と決断をもって、佃は回りを説得していくのです。
元気が出る快作ですね。

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