「死者に祈りを」

フェイ・ケラーマン「死者に祈りを」創元推理文庫

デッカー&リナのシリーズも9作目。

警部補に昇進して部下も増え、ますます忙しくなったピーター・デッカー。
最愛の妻リナと3人の子供たちとも、すれ違いになりがち。

高名な医師が惨殺された事件が起きます。
医療の最先端をリードする心臓外科医で、医療スタッフも曲者ぞろい。
背景にある重層的な問題が、次第に明らかに。

厳格だったらしい医師の家族関係は複雑で、そのあたりもじっくりと描かれていきます。
事件の報を聞いて、動揺を隠せないリナ。
被害者の息子の一人が、リナの最初の夫の親友で、夫が亡くなる前後に力になってくれた古い友人だったのです。
ハンサムで生真面目な青年ブラムは、頼られる長男だったのに、家族の信仰となぜか決別し、今はカトリックの神父になっていました。
若き日に深い心の交流があったブラムを心配し、個人的に接触するリナに、気を揉むデッカー。

アメリカのユダヤ教徒の世界や、慈しみ合う家族の様子が、丁寧に描かれていくのが魅力のシリーズです。
ひとつの宗教でまとまっている育ち方というのは実感としては知らないことだけど、何となく少しはわかってくるような。
デッカー自身は自分がユダヤ系とは知らなかったという育ちですが、リナと出会って、自らのルーツに目覚めたという。

名士の家族が崩壊していくのは、アメリカのミステリの伝統的なパターンでもあるかな。
驚かされる事情もあり、複雑な味わいでした☆

amazonの書影をいつも左列に出しているのですが~この本がリストにありませんでした‥絶版か何かでしょうか?(汗)

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「ファーストレディの秘密のゲスト」

スーザン・イーリア・マクニール「ファーストレディの秘密のゲスト」創元推理文庫

マギーのシリーズも、5作目。
元気な若い娘が主人公のコージーみたいな表紙ですが~
主人公はまあそうだけど、けっこう苦い味もある本格的なストーリーです。

マギー・ホープは、わけあってアメリカ育ちのイギリス人。
チャーチル首相の秘書になったことから、諜報員の訓練まで受けて経験を積んできました。
今回は、首相のアメリカ訪問に同行します。
苦境に立つイギリスは、アメリカの参戦を熱望していました。

アメリカ大統領は、フランクリン・ルーズヴェルト。
夫人のエレノアも知的で有名な女性ですが、思わぬスキャンダルに巻き込まれそうになります。
大統領夫妻の秘密に近づきつつ、絡み合う事件をひそかに解きほぐそうとするマギー。

かっての恋人のジョンは、激戦地帰りのパイロット。
首相に同行しましたが、英雄として人気が出たのをきっかけに、アメリカで思わぬことに?
こんな展開になるとは、ねえ‥
つらい過去を乗り越えて、マギーもさらに別な意味で?たくましくなるんでしょうか。
なかなかの読み応えでした。
マギーの運命やいかに?

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「愛憎の王冠 下」

フィリッパ・グレゴリー「愛憎の王冠 下 ブーリン家の姉妹 2」

力作の後編です。
激動の16世紀イングランド。
メアリー女王とエリザベス女王の二人に仕えることとなった女性ハンナの波乱の人生。

ヘンリー8世没後の混乱期。
キリスト教徒内部でプロテスタントとカトリックのせめぎ合いが続き、どちらも命がけ。
聖なる道化として宮廷で女王の側近くにいるハンナは、派閥と無関係なので、女王の慰めとなります。
スパイまがいのこともするのですが、それぐらい女王たちの方もお見通し。
ハンナ自身はキリスト教徒でさえないユダヤ人であることを隠している恐怖がずっとつきまとっているのですが。

本を読んで育ったハンナは、当時としては自立心の強い、婚約者にとっては面倒くさい女性。
やっと結婚したものの、さらに思いがけないことに‥?
ぐっと大人になっていく展開になります。

メアリー女王は、30代も後半になって政略結婚。
スペイン王子の肖像画をひと目見て恋した可愛い女でしたが、不運な成り行きに‥
カトリックの信仰を守ることだけが支えとなり、異端の処刑でブラッディメアリーと怖れられることに。

妹のエリザベスは命の危険に晒され、異母姉のメアリーに迫られて礼拝には出るものの、改宗は拒み通す。
恐怖で再三病気になりながら、回復して宮廷に現れたときには人々を魅了。

どちらも父には否定された女性の身で、自らの地位や国のあるべき姿を必死に考えていた‥
それを思うと、ハンナも現代からタイムスリップしたような女性ではなく、激動の時代を体感しつつ生きたのかな、と。
人のさまざまな感情を濃く描きつつ、歴史の大きな揺れ動きを実感させる展開。
面白く読めました!

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「愛憎の王冠 上」

フィリッパ・グレゴリー「愛憎の王冠 上 ブーリン家の姉妹 2」集英社文庫

映画化された「ブーリン家の姉妹」のシリーズ2作目。
主人公はアン・ブーリンと妹ではなく、次の世代の話。
メアリー女王と後のエリザベス女王という異母姉妹の激しいせめぎ合いを描きます。

主人公は、この二人に仕える娘ハンナ。
ユダヤ人であることを隠して暮らしている本屋の娘でした。
若きロバート・ダドリーと師のジョン・ディー博士に神託の才を見出され、道化として宮廷に上がることに。
当時、聖なる道化という、召使の序列から少しずれた存在が王族に可愛がられていたのですね。

父親のヘンリー8世亡き後、王位は姉妹の弟のエドワードへ。
少年王は病弱だったため、権力は宰相ダドリーに握られていました。
王位継承順位は、エドワードの次が長女のメアリーと決まっていたのですが。
宰相は他の人物を立てようとを画策、失敗に終わります。
ハンサムなロバート・ダドリーはこの宰相の息子で、エリザベスの幼馴染で後の有名な恋人ですが~とうぶんは謀反人の息子の汚名を着ることに。

メアリー女王のことは、あまりよく知りませんでした。
スペイン出身の最初の妃キャサリンの娘ですが、思えば気の毒な生い立ち。
王女として生まれ育ちながら、若い頃はずっと、父親の浮気と両親の離婚に苦しみ、弟が王位についた後もカトリックなので不遇だったのですから。
ハンナの目を通して、地味だが誇り高くて忍耐強く、危機に際して立派な振る舞いを示した様子が語られます。

このハンナ、エリザベスにも憧れてしまうんですけどね。
弟とも仲が良く、国民に人気のあったエリザベス。
すらっとして若々しく、人の気持ちを惹きつけるところがあったのです。
それは生き延びるための知恵でもあったのでしょうが‥

ハンナ自身は、ユダヤ人であることがバレたらと怯え、初恋のロバートに逆らえずスパイの役を務め、親の決めた婚約にも乗り気になれないまま。
宮廷の華やかな人々とその危機に次ぐ危機に幻惑されたように日を送ることになります。

知らなかった事情や、年代の変化が丁寧に追われていて、さらにイングランドだけでなくユダヤ人の世界も描かれるので、非常に濃くてドラマチック!
2作目がこんなに面白いとは予想外でした。
下巻の感想は明日に。

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「ささやかで大きな嘘」

リアーン・モリアーティ「ささやかで大きな嘘」創元推理文庫

米英のベストセラー、150ヵ国で読まれているそうです。
美しい海辺の町の幼稚園に子供を通わせている親たちの間で、どんなトラブルが起きたのか?
事件があったことだけを最初に書いておき、それから半年前に遡って、事件までが語られていきます。

名門の幼稚園では、資金集めや派閥争いが盛ん。
富豪の子供もいれば、その家で働く人の子供もいるという。
シングルマザーで質素なジェーンは、引っ越してきたばかりで、最初は子守と間違われてしまいます。
しかも、ジェーンの息子がいじめをしたという疑惑をかけられ、不本意だが晴らすことが出来ないまま。
おしゃれで気っ風がいい庶民のマデリーンは、幼稚園のボスたちとは距離があり、ジェーンに味方します。
マデリーンと親しいセレストは、裕福な銀行家の妻で、かけねなしの美人なのに、なぜか遠慮がちな性格。
この3人のいきいきした個性と友情がそれぞれの秘めた内心と共に描かれ、なかなか読ませます。

マデリーンは、別れた夫が近くに戻ってきて、再婚した妻との間にできた子を同じ幼稚園に通わせることになったため、猛烈にイライラ。
セレストは、ひた隠しにしているが、夫の暴力に苦しみ、大したことはないと考えてみたり、自分のせいと悩んだりしていた‥
セレストの考え方は、現実にDV被害者が考えがちなことだそうです。

幼稚園での派閥争いや、行事の度の張り合い、保護者たちの抱えた秘密、もつれ合った感情が、資金集めの懇談会で爆発‥
その真相は?

展開に意外性もあり、テンポが良くて、面白かった!
重い部分を含んだ話なので、どこまで行くのかなと不安もありましたが‥
読後感は大丈夫、良かったですよ~。
なるほど、映画化も企画されているわけです☆

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「貧乏お嬢さまと王妃の首飾り」

リース・ボウエン「貧乏お嬢さまと王妃の首飾り」原書房

貧乏お嬢さまのシリーズも5作目。
正しくは?英国王妃の事件ファイル。

公爵令嬢のジョージーは、王族ですが親が破産したため、財産は全然ないのです。
なんの職業訓練も受けていないので、あれこれ工夫はするのですが。
いつもにもまして、お金に困っている出だし。
イヂワルな義姉の仕打ちがひどいのだが‥笑える結果に。

英国王妃のコレクションから「嗅ぎ煙草入れ」が紛失。
その行方を探る司令を受けたジョージーは、一転して、豪華列車で南仏へ行くことになります。
しかも、あのココ・シャネルに出会い、頼まれてショーに出ることに。
長身を活かして、珍しく贅沢なファッションに身を包むことになったのですが‥?
早くに離婚して出ていった女優の母の別荘に滞在して、ふだん一緒にいられない母親と暮らす事も出来たり。

恋人と思っていたダーシーには、他の女性の影?
ドタバタ騒ぎの中にも、ハンサムな大富豪のフランス貴族に誘われるというお楽しみもあり。
1933年なので、シンプソン夫人と付き合っている皇太子も出てきたり、「ダウントン・アビー」と同じ頃なんですね。

ついに、ダーシーとの仲も、微妙に進展~
そう来なくっちゃ!
ヒロインが前向きでチャーミングだから~応援したくなります。
お気に入りのシリーズ、満足な読後感でした☆

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「眠れる森の美女にコーヒーを」

クレオ・コイル「眠れる森の美女にコーヒーを」原書房

クレアのシリーズも14作目。
コージーにしては書き込みの多い作品です。
今回はちょっと味わいが変わっている?

クレアは、ニューヨークの老舗コーヒー店のマネジャー。
元姑がオーナーで元夫がバイヤーという複雑な環境ながら、才能ある店員たちにも恵まれています。
クイン警部との恋も、遠距離になった悩みを抱えつつ、進行していきます。

セントラル・パークでの秋のフェスティバルに参加することになったクレアたち。
おとぎ話がテーマなので、扮装をした人物が公園内にいっぱい。
クインの子供たちの子守をしていた娘も、プリンセス役を演じることになっていました。
ところが‥?

元夫マテオに容疑がかかり、クレアは手がかりを探して奔走することに。
マテオが買い付けた不思議な効能のあるコーヒーを使って、幻夢を見ることまで試み‥?
大学の研究者がデータを取るといった実験になるのが面白いところ。

リアルさと奇想天外な要素、ニューヨークならではの派手さ、ユーモアやロマンスと盛りだくさん。
好奇心は旺盛とはいえ真面目な性格のヒロインで、よくここまで盛り込めるものです☆

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「正義の裁き」

フェイ・ケラーマン「正義の裁き」創元推理文庫

デッカー&リナのシリーズ、8作目。
ここから上下分冊になっています。
なるほどのボリューム、筆も乗ってます☆

再婚したリナとの間に幼い娘も生まれ、和やかに暮らしているピーター・デッカー。
前妻との間の娘がニューヨークで大学生になっていて、近辺でレイプ事件が起きているのが一番の心配事でした。
ニューヨークへ行って事件を解決しちゃいそうな勢いだけど、さすがにそこまでは‥

ホテルの一室で若い娘が発見され、プロム(高校の卒業パーティ)の夜に羽目をはずしたらしいとわかってきます。
高校生仲間は嘘をついたり、親がかばったり。
交際相手だったらしい少年クリスは美形で才能もあり、18歳にしてクール。
同級生とは一線を画していました。
高校では、派手なグループにいたのですが。
複雑な背景を持つクリスはと、生真面目でけなげな少女テレサとの高校生活もたっぷり描かれていて、青春物が一本入っているよう。
これまでの作品とは一味違う魅力があります。
一途な恋の思いがけない成り行きが、切ないばかり。
若い二人が思いつめていく世界の深みに引き込まれるようでした。

捜査に当たったデッカーは、嘘発見器にも引っかからないクリスにある疑惑を抱いたのですが‥
デッカーの家庭生活はいつもほど前面に出てきませんが、いいお父さんでもある誠実な刑事ぶりが、やがて生きてくることに。

1995年の作品で、2008年の翻訳発行。
かなり特異な環境がそもそも日本とは違うせいか、年月のずれはそれほど感じませんね。

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「黒いダイヤモンド」

マーティン・ウォーカー「黒いダイヤモンド」創元推理文庫

警察署長ブルーノのシリーズ3作目。
好感の持てる作品です。

フランスの、のどかなサンドニ村。
ブルーノは警察署長といっても、村でただ一人の警察官。
村長の直属で、地域に溶け込んでいる駐在さんのような立場。いや、もっと存在感大きいかな。

名産のトリュフの収穫で、市場がにぎわう季節。
ブルーノは、狩猟仲間のエルキュールから、調査を依頼されます。
粗悪な中国産トリュフが紛れ込み、評判が落ちかねないという。
ところが、そのエルキュールの身に事件が。
実はエルキュール、かって情報部に所属した秘密警察官で伝説的な存在だったのです。犯人の動機は何だったのか‥?

騒動に巻き込まれた友人のベトナム人夫婦の世話をしたり、村の製材所でも揉め事が起こり、四方八方ブルーノは飛び回ることに。
恋人のパメラとの仲はやや危険信号‥?
子供達にラグビーを教えているブルーノ、子供と大人の試合に出たりするお楽しみも。

事件は今のフランスの状況と歴史的な背景を踏まえ、かなり本格的な構造になっています。
とはいえ、ブルーノは料理上手で、生活を楽しむフランス人たちが織り成す出来事は、コージー的な要素も。
元恋人と仕事で顔を合わせたかと思うと、また新たに魅力的な女性が登場するのは、男性が書く男性主人公だから?(笑)
頼りになるお巡りさんと村人のあたたかい気持ちの通い合いに、読後感はわさやかです☆

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「幽霊はお見通し」

エミリー・ブライトウェル「幽霊はお見通し」創元推理文庫

「家政婦は名探偵」のシリーズ3作目。
ヴィクトリア朝の英国ロンドンが舞台。
家政婦のジェフリーズ夫人をリーダーに、召使が探偵団として活躍します。

ウィザースプーン警部補は、殺人事件が大の苦手。
なぜか捜査の腕があると思われていますが~
実は陰で大活躍をしているのは、優しいご主人を思うお屋敷の使用人たちなのでした。

評判の霊能者が開いた交霊会。
家に帰宅した直後の裕福な女性が襲われた事件が起きます。
最初は強盗かと思われましたが‥?
器量よしのメイドのベッツィも交霊会に興味を抱いていることに、しっかり者の御者のスミスが不満で喧嘩になったり。
頼りない従僕のウィギンズも、懐いてきた野良犬に優しかったりと、人間味のある展開。

アメリカから来た未亡人のルティ・ベル・クルックシャンク夫人の執事ハチェットも初参加。
渋い雰囲気ながら、独自の腕を発揮しそうです。
事件はけっこう考えてあって、途中でわかりますが、それなりに推理を楽しめます。
ものやわらかなジェフリーズ夫人が、ご主人様とお茶を飲みながら、真相にたどりつくよう上手に誘導するのが、何ともユーモラス。
楽しく読めるのが嬉しいですね☆

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