「黄金の羅針盤」

フィリップ・プルマン「黄金の羅針盤 ライラの冒険1」新潮社

フィリップ・プルマンの名作。
三部作の一作目で、一番中身が濃いです。
いぜんにハードカバーを借りて読み、重厚さと迫力に驚嘆しました。
文庫を買って読み直してますが、二度目のせいか文庫のせいか映画化された写真が載っているせいか~ずっと、わかりやすく感じます。

舞台は20世紀の初め頃(1930年代ぐらいかな)のロンドンに似た異世界。
両親を亡くしたライラは、おじである探検家・アスリエル卿を後見人に、大学の学寮に預けられて育ちます。
生来活発でおてんば、嘘の得意な~近所の子達のガキ大将的存在。
自分では知らないある運命を背負った子として、途方もない冒険に飛び込んでいく事になります。
地域の子供が謎の評議会にさらわれるという噂が立ち、友達のロジャーが行方不明になるに及んで、ライラは救出に乗り出すのです。
荒っぽい女の子がイイコになるってわけでもなく、強さを生かして難局にぶち当たっていく~果敢さが良いですね。

この世界には「よろいグマ」という知能も戦闘能力も高い白熊がいて、この中のはぐれ者イオレク・バーニソンがかっこいいんです。
イオレクに出会ってからのライラは勇敢で~後半、ぐっと盛り上がります。

この世界では人は皆、分身のような存在のダイモン(守護精霊)を持ち、常に行動を共にします。
ライラのダイモンはパンタライモンという名前で、オコジョになったりカナリヤになったり蛾になったりと便利に姿を変えます。
パンタライモンはすっごく可愛いですよ~。

ダイモンの姿はその人の本質を現していて、大人になると一つの動物の形に定まります。
探検家アスリエル卿のダイモンは雪豹。
世界を揺るがす陰謀に関わっている謎の女性・コールター夫人のダイモンは、金色の猿。
ジプシャンの中の女王的存在であるマ・コスタのダイモンは鷹。という具合です。

もう一つの特異な存在は「ダスト」
これが何かは、この世界の人達にも良くわかっていなくて、色々説があります。
一体どう転ぶのか全体像が少し見えかけた所で終わるので、ひい~って感じですよね。続きも必読です。

映画公開中。キャストはピッタリの感じですね。
児童文学の枠にはまりきらない重厚さと大胆さが~映画ではどうしてもスッキリ軽くなってしまうのではないかと思いますが…見てから読めば解りやすいかも?

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「ラスト・イニング」

あさのあつこ「ラスト・イニング」角川グループパブリッシング

人気シリーズ「バッテリー」の続編にして最終章。
中身は、「マウンドへと」という、あの試合直前の巧と門脇それぞれの心境を描いた短編と、「白球の彼方」という中編です。
中編の方は、横手中学を卒業して野球部のない高校へ進んだ瑞垣の視点で語られます。
瑞垣って人気あるらしいですね~!

「バッテリー」は新田東中学の1年生のピッチャー巧とキャッチャー豪の物語でした。
横手は近在の強豪で、いわば敵側。特に門脇は有名高校から勧誘される大物バッター。1年生の巧の投球に度肝を抜かれ、中学の最後に試合をすることを望み、いまだにとらわれている様子。
瑞垣俊二は門脇の幼馴染みで、頭は良いが屈折した性格。門脇の才能を最も理解するだけに傍にいて重圧に苦しみ、自分は野球から決別することを決意したのです。
このコンプレックスが良いのか、実はスゴク優秀なのが良いのか…
少々かっこつけ気味の言葉をたたみ掛けて引き込んでいく、あさの節~理想を高く掲げて現状をあれもイヤこれもイヤと否定していくのが若々しいので、瑞垣の言葉として違和感ないですね。

あれから2ヶ月がたって、さっぱりしたはずなのに~野球の夢を見てうなされ、戸惑う俊二。
可愛い妹にも最近かっこよくないと言われる有様。
門脇が苦労していたためにそれを放っておくのかと、まわりじゅうから心配され、色々言われる羽目になり…
何だか心地良い展開です。

「バッテリー」の6巻が物足りなかったのは、これを書くと決めていたからでしょうね。
あのままじゃ試合の結果もわからないし、門脇が瑞垣に投げ出されたままどうなったのか、何を話したのかorちゃんと話してないのか?瑞垣はあのまま野球をホントに捨てられるのか?ひっかかってました。
これで全て方向性が見えて、脇役もなかなか味があり、満足のいく内容でした。
甲子園に行くだけが全てじゃない、といった指摘も最後にしておきたかったことなのかも知れませんね。

ただし、巧と豪はちょっとしか出て来なくて、それがけっこう可愛いんだけど、でも少ないよな…とも思います。
瑞垣目線の2人というのも、なかなかではありますが…
豪の存在の大きさに注目し、友情とかいうような甘えた関係には思えない、って、うんまあね。でも、じゅうぶん甘やかさはあると思うけど!

6巻の書き方もわからないではないんだけどね~。
終わってしまう寂しさと、彼らの人生は続いていくという視線…
良い所で筆を止めたいような、ね。

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「一瞬の風になれ」

佐藤多佳子「一瞬の風になれ」講談社

本屋大賞受賞作。
ソフトカバーで出ている3分冊が第一部イチニツイテ第二部ヨウイ第三部ドン、という構成。
高校の三年間が描かれています。
男の子の一人称なので、綿密な文章という感じではないけど、ノリが明るくて読みやすい。

サッカー選手として成功していく兄・健一に憧れながら、自分はそれほどの才能がない弟・新二。
幼馴染みと共に普通の高校に進学することを決め、陸上を始めます。
スプリンターの天才だが性格に問題有りの幼馴染み・連と何だかんだ言いながら仲良く切磋琢磨していく~青春物です。
陸上は初心者という視点なのでわかりやすい。
試合前にはおなかがぴーぴーになるという緊張しいで走る格好は無様なほど、でも実は基礎体力に恵まれていると顧問に励まされる。
スパルタではない顧問の先生も好感持てます。

第二部は前半、主人公がだいぶ成長してきて、なかなか良い感じではないかと快適に読み進む…
はっ、3冊本の2巻て~後半何かが起きると思ったら起きてしまいました。それだけに泣ける結末ですが。

第三部、 3年生になった新二は手のかかる後輩に気を配りつつ、高校最後の試合になるという意識を持って真剣に練習に取り組んでいきます。
自然に成長している仲間達の確かな存在、400mリレーというチームプレーの醍醐味が伝わります。
建前上は内部恋愛禁止の陸上部で、チームメイトと奥手どうしのほのかな恋が育っていくのも微笑ましい。
女性作家のスポーツ青春物でも、これが一番健全かも。安心して読めます!

まだ残暑の蒸し暑さが残る中、8月に読んだ本の感想を書いているので~夏休みの宿題をしているようだわ(^^;

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「天山の巫女ソニン2海の孔雀」

菅野雪虫「天山の巫女ソニン2海の孔雀」講談社

生まれてすぐに巫女として見い出され、天山に連れて行かれて修行を積んだが12歳になっても才能が開かず、親元に戻された少女ソニン。
私物を持たない修行の身から、ごく普通の貧しい庶民の暮らしに入って戸惑ううちに、社会の歪みが幼い目にも自然に目につくという展開になっていました。
目立たない末っ子の王子と出会ったことから宮殿の侍女に上がり、王子達が姿を変えられた事件で思わぬ活躍をすることになったのが前作。

2作目では、子供ながら意外な才覚のある侍女として注目され、元巫女は何をするかわからないとやっかみ半分の視線も浴びているソニン。
王子と共に異国に招かれ、その地での跡継ぎ争いに巻き込まれます。
大人の世界はドロドロですが~落ちこぼれ巫女のぴかぴかの素直さが良いですね。
12歳にしてはしっかりし過ぎかも知れないけど、目の前のことに真っ直ぐ突き進むだけで、ぜんぜん恋愛にはならないのが12歳かな。
色々な要素がうまくまとまっていて、好印象でした。

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「バッテリー」

あさのあつこ「バッテリー」(Ⅰ~Ⅵ)角川文庫

だいぶ前から噂には聞いておりました。
今年は映画化もされ、漫画も連載中なので、大メジャーですね。
皆さんご存じと思いますが~~野球部員の話。
天才ピッチャー巧と相方のキャッチャー・豪の出会いと葛藤を中心に、中学入学前の春から1年間を描きます。

私は去年からぼちぼち読み始め、この8月はじめに6巻を読了。
翌日、NHKで取り上げられてビックリでした。
いちおう児童書ですが、20~40代の女性に熱心な読者が多いとか。
作者が子育てを終えてから書き始め、まだ本気になっていない、やり残したことがあるという強い思いに引き込まれるのではないかという分析でした。

作夏、高校野球で王子ブームが巻き起こる前に読み始めたので、けっこうイメージだぶりました。(いえ性格は違いますけど)
ピッチャーが凄すぎるとキャッチャーが受け止められなくて落とすことがあるというのも再認識。サインを出すってのも、考えてみるとキャッチャーの役割って大きいんですね。
昔々、いろんな野球漫画を読んでいた当時はもっと知っていたかも知れないんですけどね…大リーガーの結果ぐらいしか気にしなくなっていたので、なかなか新鮮でした。

一途だけどやたらと気が強くて自信たっぷりの巧は、最初は個人競技の方が向いているんではと思うぐらい。ピッチャーが強いと一人勝ちするってのも確かにありますけどね。
6巻まで読んでも1年だけのことなので、ほんの少ししか成長してません。
純粋さに力を入れて書いているから、中学1年なのでしょう。
でも、この一行、お姉さんは見落としませんわよ、ってのもありました…!?
病弱で母親に大事にされてきた弟クンの方が目に見えて成長しましたね。
その分、巧を囲む環境が自ずと変わった…
自分一人と気張っていた小学生までの彼が可愛いような気もしてきました。

脇役は傍若無人な天才の登場に振り回されて、その分成長するというか、変化します。
概して大人っぽくて、中学の野球部員がこんなにたくさん喋るかなあって感じですが~その勢いに引きまれるのが快感かも。
はっきりさせなかった試合の結末は、続く一冊「ラストイニング」でわかるそうです。
今手元にあるので、楽しみ。

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「盾(シールド)」

村上龍「盾(シールド)」幻冬舎

「12歳のハローワーク」のイラストレーターはまのゆかと村上龍が再び組んだ絵本。児童向けに限らない内容です。
人の心の柔らかい部分を守るには盾が必要。ではその盾とは何なのか?
幼馴染みのコジマとキジマは、山に住む老人に言われた言葉を大人になっても意識し続けます。

大人からみれば良い子の優等生だったコジマと反抗的だったキジマが、そのままの人生を辿るのではなく意外な展開になる(それも説得力がある)所が面白いです。
2人は作者とほぼ同年代か?子供からすると、リストラされたお父さんの気持ちや状況を知る手がかりになるかも…
後書きに「集団用の盾に頼るのはやめて、個人用の盾を獲得すればいいという単純なものではありません」とありますが、後半の展開はほとんどそう読めます。
コジマに比べてキジマの様子が後半は通りいっぺんなので。あれ以上詳しく具体的に書くと狭くなってしまうからかなぁ…??

対照的な2人がけっこう仲が良いことや、内面の悩みには通じる物があったこと、長い時を経て再会する所は良い感じです。
3匹のシェパードと共にね。

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「13歳のハローワーク」

村上龍「13歳のハローワーク」幻冬舎

なかなか良い仕事していると思います。
どんなことが好きな子供はそれをどんな方向へ生かせそうか、職業の紹介が大量に載っています。
その仕事に就くには何が必要か、ものすごく大変かどうかといったピンポイントの評が面白い。
特に好きなことがない子や、妙な物が好きな子へのアドヴァイスも新味があってなかなか有効なのでは。
小説家とは最後になるもので、最初から目指さない方が良いというあたりも、さすがの説得力。
画家というのは、自分が描きたくて描かずにいられないのなら、誰も認めなくても画家だそうです。

好きなことを生かして満足感を得るという方向なので、我慢して地道に暮らすとか、嫌なことをしてその分お金を貰うものだ、という視点はやや弱いかも。
どっちにしても辛いことはあるのだから、好きなことで辛い思いをした方が良いと書いてありますが。
…趣味だけにしておいた方が良い、という物もあるし…
それはもっと先に考えることでしょうか?

確かに~中学生ぐらいで、こういう本、読みたかったよな…
いや、19歳ぐらいでも良いな。
仕事についての本は当時何か読んだとは思うのですが…
今思うとスッゴイ極楽とんぼ!?まあ個人的な事情は多々あって、それは現在もそうですが(爆)
これだけ世の中にはたくさんの仕事があるのに、自分に出来るかも知れない物はごく僅か。ほとんどが縁もゆかりもないハナも引っかけて貰えない感じ。
そりゃ年齢的には可能性が閉ざされていても当然なのかも知れませんけど~13歳でも20歳でもそう広くはなかったよな…
…イラストレーターに画家に小説家に人形作家って~あなたね。(いえ自分に)もしかしてばかなんじゃ…
今やほとんど終わってる現実…頭が痛い~!?

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「青い鷹」

ピーター=ディキンソン「青い鷹」偕成社

「エヴァが目ざめるとき」「キングとジョーカー」が面白かったディキンスンのこれは児童文学。
児童というより文学の方に比重がかかっていると思って下さい。
小学生には難しい内容です~主人公は子供ですが。
紀元前2千年あたりのエジプトがモデルらしい歴史ファンタジー。
77年ガーディアン賞受賞作。

神官として修行中の少年タロンは、神殿の儀式で「神の羊」に選ばれます。
年に一度、王の命の蘇りを象徴して青い鷹を生け贄にする役なのに、具合の悪そうな鷹を連れてふと会場を出てしまう…そのため命も危うい立場となり、荒野で一人、鷹の訓練をすることに。
鎖国状態で神官が王の生命も握る閉鎖的な国の有様に、しだいに気づかされるタロン。若い王の信頼を得て、神とは何かと問いかけながら、巡り合った人々と力を合わせていきます。 

エジプトって、そのまま書いてもファンタジーなんですよね。詳しい資料や長編小説が残っているわけではないので、もちろん、作家の想像力によるものですが。
なかなか面白かったですよ~「ゲド戦記」やサトクリフの児童文学がお好きな方にはぜひお勧め。

知る人ぞ知る人気作家というか~ジャンルが多岐にわたるのと日本では名前の表記がディキンスン、ディッキンスン、ディキンソンと違うために全貌がわかりにくくなっているようです。
しかし名前と姓の間に・じゃなく=を使うのは変じゃないですかね?

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「シェイクスピアを代筆せよ」

ゲアリー・ブラックウッド「シェイクスピアを代筆せよ!」白水社

何かあまり重くない物で面白い新作(新しくなくても私が読んでないという意味)ないかなあ~と探していて、このブログを始めて間もない頃にbk1書評で発見して読んだこのシリーズを思い出しました。
「シェイクスピアを盗め!」というのが一作目で、なかなか面白かったのです。
ちょうど映画「恋に落ちたシェイクスピア」の時代で、視覚的には想像しやすいし~児童書なので書き込みは少なめですが、実在の人物が出てくるので歴史好きには楽しめました。
この点は2作目の本書も同様です。

シェイクスピアのいる一座に、ひょんなことから少年俳優(おもに女形ですね)として加わることになった孤児の少年ウィッジ。
それなりに役をこなしていますが、もう一つパッとしない。
そんな所へ他の劇団で光っていた気の強い美少年が移ってきて、ウィッジの持ち役を奪ってしまいます。
一方、ロンドンはペストに襲われ、劇場は閉鎖、一座は地方へ巡業へ出ますが、これまた厳しい道のりなのでした。
(ポール・ドハティの歴史ミステリを思い出す猥雑さ…書き込みが多いのがお好きならこちらもオススメ)

こちらのよく知らない史実を生かして~波乱の出来事がありありと描かれているので、どんどん読めてしまいます。
名字すらつけて貰えなかった寄る辺ないウィッジが、仲間や友達を得て、しだいに人として形をなしていくような成長ぶりにほろっとしましたよ。
ペストや飢えで死ぬかも知れないという危機感は、すごいと思うと同時に、今の日本からは遠くもあり、現代に生きていて良かったとほっとしたりします。が~今も様々な危険があることはありますね~。
乗り越えていくのが人生の醍醐味でしょうか…!?

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「ライオンと魔女」

C.S.ルイス「ライオンと魔女」岩波書店

今年映画が公開されたナルニア国物語の第一作。
家にある古い本を読み返してみました。
検索したら「ライオンと魔女」ってすごくたくさん出ているんですね!表紙絵が同じなのを左サイドにアップしましたが、うちにあるのは改版でも新版でもない、既にリストには載っていない古い版です。初版(66年)ではなく第9刷(72年)でした。

やっぱり、面白いですね~。
イメージが豊かで、さすがに、三大ファンタジーと言われる世界の名作ですから!
中でも一番子供向けで、なんというのでしょうか、慈しむように語られるのが馥郁たる香り漂うような。
シリーズ全体を楽しみに読みましたが、何度も読んだのはほとんどこの一作だけ。
箪笥の中に入っていく所が好きなのと、アスランが大好きだったんですね。
ライオンというのは子供の頃は特別な存在でした。
「ジャングル大帝」のレオでもあり、「野性のエルザ」のエルザでもあって。
ただアスランが好きなだけに違和感を感じる部分もあって、大人になってからは記憶の中だけで大事にしておいて読み返すことのなかったシリーズでした。

今回読んでみたら、ビーバーの夫婦が好きだったことを思い出し、楽しかったです。家を自慢にしているだんなさんと荷物を作るのにたくさん入れたくて迷う奥さん。
挿絵もとても良いと思いましたね。
最後の方は急展開で、戦争にまでなるのが、児童書でこんな風にする必要があるだろうかと大人としてやや不思議な気分に。物語中ではすっかり成長した兄弟が急に戻ってきてしまうのが…
ちらっと大人の世界をかいま見て、そしてまた自分の部屋に戻る…そこが良いのかしら?

エドマンドは嫌な子で、実際にも時々いるよなあということをずっと覚えていたんですけど~読んでみて彼の目が覚めた時の様子や、アスランが二人だけで話しかけ、周りもそっと仲間に入れようとする気遣いをするところが良いと思いましたね。
大きな間違いをしても取り返しがつかないわけではなく、ちゃんとやり直せる、成長もするんだということ。
これは大事なポイントですね。

ターキッシュ・ディライトの誘惑も~ある意味では楽しいポイントでしたけどね!
本文ではプリンになっているけど後書きではターキッシュ・ディライトとあって、長いことどんな物だろうと想像を巡らしておりました。
これは版によっては違う書き方なのかなあ??

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「イルカの家」

ローズマリー・サトクリフ「イルカの家」

サトクリフにしては珍しく、少女が主人公。時代も16世紀っていうのはこれだけかな?
自伝的要素が含まれる初期の作品で、愛らしい佳作です。

両親のいない少女タムシンは育ててくれた祖母も亡くなったため、9歳まで慣れ親しんだふるさとデヴォンを離れ、一週間も馬に乗ってロンドンへ行くことになります。
引き取ってくれた伯父は鎧作りの親方。1階よりも張り出した2階を支えるのが青く塗られた木のイルカという綺麗な家に住んでいます。
明るい伯母も元気な従兄姉達も優しくしてくれますが、ふるさとから引き離されたタムシンはひそかな孤独感から逃れられません。
サトクリフ自身は孤児というわけではないのですが子供の頃から難病で孤独だったため、そういった所が反映しているようです。

ロンドンは今よりも小さく居心地の良い街だったそうで、国王ヘンリー8世が若かった頃、人々は明るい色を好み、祭りなどの催しを楽しんでいました。テムズ河を王とアン・ブリン一行が華やかな屋形船に乗って行くのを見るシーンも出てきます。
ファッションや料理などの文化が発展した、希望に満ちた時代だったんですね。
セイヨウイヌハッカとかキンセンカとかサンザシとか、全編にたくさんの植物が出てきて、香料にしたりお菓子に入れたりお祭りの飾りにしたりと何とも楽しそう。
ピクニックの時に魔法使い?のお婆さんの家に迷い込んでプレゼントを貰い、鉢植えがクリスマスに咲くと言われて楽しみに待つのです。
当時の風習もよく調べて、タムシンが目をみはるように見つめる日々の暮らしが慈しむように丁寧に描かれて、小さな喜びを大切にする作者の愛情も感じられ、心地よく頁を繰っていけます。

ふるさとの港で海を見て暮らし、船に乗って海へ出て行くことを夢見ていたタムシンは、女の子には無理とわかっていても夢を捨てきれずにいました。
思いがけずに理解者を得て、孤独から救われることになります。
当時の色鮮やかな地図を見ながら自分の船を走らせる冒険を想像して夢を膨らませる少女たちの姿が楽しい。
大航海時代だったんですねえ…
従兄の一番上のキットは家の跡を継ぐ前に一度だけと海へ出て、遭難してしまい、次男のピアズが徒弟となって修行しているのですが、実は…

「聖なる暗号」の中にある16世紀の少年の手記と近い時代です。あちらはもうエリザベス女王の時代だったので、こちらの方が早いですが。
16世紀を舞台に少女が主人公の作品というのも、そもそも、これしかないかも知れませんね?

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「ダイブ!!」

森絵都「ダイブ!!」角川文庫

飛び込みがテーマの、森絵都のスポ根小説。
ほとんどスポーツ漫画のようで、登場人物も活気に満ちてさわやか、すっきりした文体でとにかくわかりやすく、一気に引き込まれました。引き込むテクニックは小説ならではの書き方にあるんでしょう。
飛び込みはマイナースポーツで日本の競技人口は600人しかいないそうです。オリンピックなどでも確かに放映時間が短いんですよね。でも一瞬の見事な回転や引き締まった体型は目に焼き付いているので、楽しく読めました。
この作品で少し人気が増したんじゃないでしょうか?

中学生の知季が台に乗るたびに後悔する、という出だし…
ごく普通の家庭で育った少年が飛び込みに魅せられ、3月生まれで同じ学年にいる双子のような弟のごく普通の青春を羨みつつ、大した欲もなかったのが、アメリカ帰りの若い女性コーチに才能を見い出されます。
ダイビングクラブMDCは存続の危機にあり、新コーチの夏陽子は実は創設者の孫娘。親会社を説得するために、所属選手の中から誰かをオリンピックに出場させるという条件を出します。
一番有望な選手は高校生の要一。
もともと知季の憧れだった要一は、親も飛び込みの選手だったエリート。
知季以上に他の全てを犠牲にして飛び込み一筋に生きてきました。ちょっと、岡ひろみとお蝶夫人みたいで楽しい~。

もう一人、夏陽子が地方から連れてきたのが沖津飛沫。
祖父に仕込まれて伝統的な行事として崖から海に飛び込んでいた彼は、体格の良い野性派で、年上の彼女がいる大人っぽい奴。
実はプールが初めてという彼がどんな飛び込みをするのか…これも面白いです。
この3人のライバルの成長と葛藤、それぞれの個性を生かした技の追求、しだいにはぐくまれる友情が描かれます。

オリンピックを目指すとなったらいよいよ他のことをする暇がないので友達も出来ず恋も上手くいかない、ライバルしか身近にいないわけですね。飛び込みにかける気持ちを理解し合える貴重な存在が、どうしても敵でもある難しさ。
大人の世界の思惑も絡んで、選手は予想外の試練に立たされます。
いったんトップになった要一がスランプに陥り…さてどうなるか?
 
後半は、重要な試合の経過を演技のたびに変わる順位を示しながら描き、まわりを囲む大人達や脇役の思いも明らかにしていくという憎い構成で盛り上げていきます。
スポーツ漫画やスポーツ鑑賞が好きな人にはゼッタイお薦め。
大人でも十分、味わい深いものがありますよ~。

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「ぼくの・稲荷山戦記」

たつみや章「ぼくの・稲荷山戦記」講談社文庫

今年文庫になったばかりですが、91年にこの作品で第32回講談社児童文学新人賞を受賞してデビューとのこと。
波津さんイラストの薄緑の表紙が目について、あ~こういう男の子の話なのね?とさわやかな印象。

中学生のマモルは母を亡くし、父は遠洋漁業に出ていて、ふだんはタバコ屋の祖母と二人暮らし。
じつは先祖代々、裏山の稲荷神社の巫女を務める家柄で、祖母はたまに口寄せなどもやっているのでした。
ある日、着物姿で髪の長い美青年・守山が下宿人としてやって来て、山と古墳をレジャーランド開発から守る運動を始めます。
祖母が礼儀正しく接する守山の正体は…!?

わかりやすい文章で、ファンタジー的なシーンもなめらかに描写されて違和感がなく、うまいものです。
跡取りとして頑張る素直な少年と意外な協力者、抗議運動の顛末とファンタジーにしては社会性があり、珍しいほど現実的に話が転がっていきます。
作者の若い頃の経験が元になっているそうで、なるほど…
後に市議にまでなっている前向きで行動的な資質が生かされている物語ですね。

ちょっと前の空気のような気もしますが、シンプルな良さは今にも通じるのではないでしょうか。
古墳の壁画などは、もっとちゃんと保存するように言いたいです~!

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「秘密の手紙0から10」

シュジー・モルゲンステルン「秘密の手紙0から10」白水社

10歳の少年エルネストは祖母と二人暮らし。
テレビもない質素な家で、メイドが作って置いていく決まり切ったものを食べ、半年ごとに仕立屋の作る服を着て、時代から取り残されたように暮らしています。
母親はエルネストを産み落としてすぐ亡くなり、父親はそのショックからか出奔して行方不明、それまでに祖母は夫をはじめ全ての家族を亡くしていて、もう子供を育てる気力が残っていなかったのです。
意図的な虐待というわけではないのですが、子供が育つにふさわしい環境でないのがいたましい。
そういう生活しか知らないエルネストが気になっていたのは、閉じこもりがちの祖母が部屋で読んでいる古い手紙でした。

ある日、ヴィクトワールという少女が転校してきて、じつは美少年のエルネストに一目惚れ。
何と14人兄弟という大家族で育った物怖じしない少女は、つぎつぎに彼の前に扉を開けていきます。
虐待でなかった証拠に、エルネストは素直に育っていて、全てを新鮮に受け止めます。
エルネストがお祖母さんをレストランでの食事に誘い出すことに成功するあたりは、ほのぼのさせられました。
そして、写真でしか知らなかった父親が意外に近くで生きていることを知ったエルネストは…

前半の凍りついたように固まった状況から、一気に事態が動いていく様が心地よく、暖かい気持ちになります。
作者はアメリカ生まれでフランス在住。
フランス児童文学大賞はじめ、16もの賞に輝いたという作品です。

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「宇宙のみなしご」

森絵都「宇宙のみなしご」講談社

評判が良いので、読んでみました。94年11月、第一刷発行。12年前かぁ…その頃、中学生で読んだ人は幸運でしたね。

中学生の陽子は、担任のすみれちゃんが急に辞めた後、それ以上の深い理由はなく、学校に行かなくなる。
気の強い陽子はクラスでも特定のグループに入らずに行動していて、数日は何事もないように過ぎます。
印刷工場を経営する両親は忙しくてほとんど家におらず、おっとりした弟のリンと仲が良いので、退屈しないように一緒に色んな新しい遊びを考えてやって来たのでした。
夜中によその家の屋根に登るという遊びを思いつき、スリルと不思議な感覚を味わいます。
そこへ意外な仲間が加わって…

わかりやすい文章で日常的なちょっとしたことを描きながら、思うように出来ない思春期のもやもや、孤独への恐れ、行き場に迷うエネルギーといった形にならないものが漂います。
友達の抱えている問題はその子にしたら真剣なものだけど、陽子の健全さもあって深刻になりすぎずに前向きで、感じの良い流れになっていますね。

宇宙のみなしごという言葉が素敵です。
「ぼくたちはみんな宇宙のみなしごだから、ばらばらに生まれてばらばらに死んでいくみなしごだから、自分の力できらきら輝いていないと、宇宙の暗闇にのみこまれて消えちゃうんだよ」
それが辞めた先生が友達の一人に言い残していた言葉で、自力でやっていかなければならないからこそ時には手をつなげる仲間を作りなさい、と…

小学生の頃、木登りがけっこう好きで屋根にも何度か(昼間、自分ちのですが)登ったのを思い出しました。
私が今読むにはさすがに子供向けな感じですが~時間の過ごし方としては良かったです。損はありませんでした。
大人になっても一人で部屋の外の暗闇を感じることは出来ます。輝く星でいっぱいの宇宙を想像すると、みなしごというよりはふと、宇宙の子供のような気持ちになりました。

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「駆けぬけて、テッサ!」

「駆けぬけて、テッサ!」K.M.ペイトン(徳間書店)

ジャンルとしては児童文学というのか、ヤングアダルト向けというのでしょうか。
「フランバーズ屋敷」シリーズなどで知られる、大人にも読める作家ペイトンの作品です。

馬と共に育った少女テッサが主人公。
実の父はいささかだらしなく、離婚するのもやむを得ないのですが…
母の再婚後、義理の父親というのが金持ちだが性格が超悪い。
テッサは思い切り反抗して問題児となってしまいます。
放り込まれた牧場で、なんと実父の育てた子馬ピエロに出会い‥
荒々しい少女が馬を可愛がるようになって成長していき、大波乱の後についには騎手を目指す、心温まる物語。

実際に愛馬を競馬に出していたペイトンならではの、リアルな描写が楽しめます。
名作「黒馬物語」をふまえているところもあるようです。
ちょっと少女版ディック・フランシスみたいでもあるかな(^^)

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子供向けのシェイクスピア

ゲアリー・ブラックウッド「シェイクスピアを盗め!」白水社

時はエリザベス一世の時代のイギリス。
孤児院から引き取られ、速記を発明した博士に仕込まれた少年ウィッジが、シェイクスピアの戯曲を盗み取ろうとする悪巧みに巻き込まれます。
著作権が確立していない当時、出版される前の戯曲を他の劇場でも舞台にかけることが出来れば、大きな儲けに繋がるのでした。

ウィッジを金で買った雇い主に脅されて、仕方なく劇場の周りをうろちょろするうちに、意外な成り行きで役者仲間に加わったウィッジが、しだいに自分の居場所を得ていく…
劇場の裏側が子供の視点で面白く描かれています。
「恋に落ちたシェイクスピア」の子供版みたいな~

青少年向けでやや軽めですが、続編もあるそうなので楽しみ。

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