「おおあたり」

畠中恵「おおあたり」新潮社

安定した人気の「しゃばけ」シリーズも15作目。
今回は、いろいろな「おおあたり」の話が5つ。

長崎屋の若だんな、わけある生まれゆえに病弱な一太郎は、妖たちと仲良く離れで暮らし、ゆっくり大人になってきています。
少しは役に立ちたいという思いは強く、出来る時にはちょこっとだけ、頑張ります。
まあすぐ寝込んじゃうんですが、その合間に(笑)

幼馴染の栄吉は、和菓子屋の跡取りなのですが、あんこを作るのが異常に下手という。どっちかというと、お笑いキャラでしたが~
辛あられを作ってみたら、これが大当たり!
ところが? 意外な展開に。

獏の場久が離れで一席設けての怪談話で、おおあたり?
貧乏神の金次がなぜか富くじで、おおあたり。
絡む事件は、けっこう深刻ですね。根っから悪いやつばかりではないものの‥
さまざまな味が楽しめます。

仁吉と佐助の出会いの話では、5歳の若だんなの可愛らしい姿に出会えます。
若だんなラブの兄や達の一途さにほっこり。
人間には真似ができない?

いたって気のいい若だんなは、病弱なまんまでも、これほど取り柄がなかったとしても、存在価値はあるんだよと言ってあげたい。
実際には、頭も切れて、心が広く、ちゃんと役に立ってますよね。

終わって欲しくないシリーズ。
ちょっとは新味も欲しいけど、いつもの楽しさも欲しい~読者の贅沢な望みにこたえるのも大変でしょうね。
今回は、栄吉のあんこの物凄さで~大笑いの幕引き☆

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「王とサーカス」

米澤穂信「王とサーカス」東京創元社

太刀洗万智が主人公の長編。
前年の「満願」に続き、ミステリのいろいろなランキングで1位を獲得した作品です。

2001年。
太刀洗万智は新聞社を辞めて、初仕事。
海外旅行特集の取材のために、ネパールの首都カトマンズへ。
まずは事前に雰囲気をつかもうというゆるいスケジュールのはずで、宿で懐いてきた少年にガイドを頼んだのですが。
突然、王宮で国王たち王族が何人も殺害される事件が起き、あっという間に異様な空気になります。
太刀洗は、ジャーナリストとして取材しようとしましたが、暴動寸前の空気と報道規制に阻まれる。
そして、取材しようとした関係者に事件が‥!

『さよなら妖精』の出来事から10年がたち、海外のことも他人事ではないと感じている万智が遭遇した、思わぬ事件。
報道に携わる人間として、情報をどう集め、どう発信すべきなのか?
クールで真剣なヒロイン、太刀洗万智のこれからの生き方が問われると同時に、読んでいる人へも疑問を投げかけてきます。
実際に起きた事件を背景にしているため、重厚感も。
鋭い切り口と壮大なテーマが新鮮で、強い印象を残します☆

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「海の見える理髪店」

荻原浩「海の見える理髪店」集英社

直木賞受賞作。
家族をめぐる短編集です。

表題作「海の見える理髪店」がよかったですね。
海辺の町で小さな理髪店を開いている初老の主人公。
その店に初めてやってきた青年、じつは、離婚して早くに生き別れた父親に会いに来たのです。
気づいた父親でしたが‥

「いつか来た道」
不仲だった母親のアトリエを訪れる娘。
「遠くから来た手紙」
戦時中のような手紙が今届き‥?
「空は今日もスカイ」
ゴミ袋をかぶった男の子と出会って、一緒に行動することに。
ホームレスの男に助けられましたが?

「時のない時計」
亡き父親の時計を修理してもらおうと‥
「成人式」
娘の成人式が近づき、振袖のダイレクトメールが届いた。
両親は成人式に参加することにして、亡き娘の友だちも歓迎してくれることに。
悲しいけれど、いい話でした。

重いテーマが多いですが、しみじみと落ち着いた雰囲気で、さらっと読んじゃうこともできます。
誰でも、一生のどこかでは出会うかもしれない、家族の問題や、どうしようもない別れ。
切ないですね。

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「明日のことは知らず」

宇江佐真理「明日のことは知らず 髪結い伊三次捕物余話」文春文庫

シリーズ11作め。
作者はデビュー20周年だったそうです。

廻り髪結いの伊三次は、町方同心の不破親子の手伝いもつとめているため、捕物にも関わっています。
だんだん、若い世代の話が増えていましたが。
今回は伊三次の出番が続き、女房で芸者のお文姐さんのいいシーンもあって、古くからのファンも満足する短編連作となっています。

「あやめ供養」
伊三次が髪結いに行ったことのある町医者の家族に事件が起こり、容疑者として直次郎の名が。
久々の再会に驚く伊三次。
直次郎は、すっかり良い父親になっているようなのだが?

「赤い花」
魚問屋の末娘は、大柄な男勝りで、店にも出て働いています。
そんな娘に、縁談が‥?

「赤のまんまに魚そえて」
伊三次はお礼すると言われたとき、弟子の九兵衛のために、髪結いに持っていく台箱を誂えてもらうことに。
その祝いの席の準備が始まります。
急に、老舗の若旦那の髪を頼まれた伊三次でしたが‥

「明日のことは知らず」
伊三次の息子の伊代太が通りがかりに見かけ、ほのかに憧れていた女性の身に何が‥
一方、武家に奉公に出ている不破の娘・茜は、女ながら武芸を生かせる職場に、何年かはいることになっています。
跡継ぎの男の子の世話と護衛をしていますが、殿様の最愛の子ではないため微妙に肩身が狭い立場。
身体の弱い少年の覚悟と諦念と優しさが切ない。
伊代太と茜、今は遠く離れている二人が、ふと互いを想う。

人情味ある展開で、しみじみ。
文庫化された2012年、作者は闘病中で、惜しくもその後亡くなられました。
まだ読んでいない作品を少しずつ読んでいきます。

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「書店ガール 5」

碧野圭「書店ガール 5」PHP文芸文庫

書店ガールも5冊目。
主人公が微妙に変わっていくのですね。今回は前回に続いて彩加と、もうひとりは初めて男性~
初回から出てはいる、亜紀のダンナの小幡くんです。

宮崎彩加は、契約社員から駅ナカ店の店長に抜擢されました。
取手という初めての土地は、吉祥寺とはかなり違い、駅ナカ書店の規模や意味も違います。
バイトを雇うのも、店長の大事な仕事。
時には一人だけで仕事をこなしながら、面接にも悪戦苦闘しつつ‥?

一方、当初のヒロインだった亜紀の夫・小幡伸光は、馴染んでいるコミック編集者から、ライトノベルへ配置換えに。
レーベルの編集長となり、新人賞をめぐって奮闘が続きます。
こんな入り組んだ裏事情があったとは。

小幡氏の仕事が詳しくテンポよく描かれるので、男性の方が描きやすいのか?とやや疑問を感じましたが。
実は作者自身が長く出版社に勤め、しかもラノベの賞に関わったこともあるのだそう。

彩加の店で働き始めたバイトの田中くんは、ラノベに詳しく、棚に並べる本についても目が効きます。
そして‥?
彩加と伸光の仕事が、交錯することに。
やや上手く行き過ぎの感もありますが~
面白さと読後感の良さでは、シリーズ一番でしょう。
オススメできます☆

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「コンビニ人間」

村田沙耶香「コンビニ人間」文藝春秋

2016年上期、第155回芥川賞受賞作。
コンビニに勤め続ける女性が主人公。

古倉恵子は36歳、独身。
子供の頃から変わっていて、周囲に驚愕されること度々。
できるだけ普通のふりをしているのだけど、家族には心配されてきました。
わかりやすい文章で、大げさなこともなく、読みやすいですね。
変わっているエピソードと、普通のふりをする方法が芥川賞的かも。

幸い、恵子はコンビニのバイトが性に合い、大学卒業後も就職せずにバイトを続けて、18年目になります。
マニュアルが決まっているとはいえ、プロとして有能なので~
読んでいて、いいじゃないの~何が悪いの?って気分に。
発達障害というタイプに相当するのでしょうが‥そう一口に言っても、それぞれ個性が違うわけで。

新入りの男性・白羽がやってきて、これがなんとも理屈っぽいうえに、店員としては困ったやつ。
あっさり切り捨てることなく、白羽の話を聞く恵子さん。
恋愛経験のない恵子は、男性と暮らしていたら周りを安心させられるかと、同居することを思いつく‥
おいおい?

ここまで変わってはいないにしても、恋愛経験の少ない女性が見合いしたり、ふとしたきっかけで付き合い始める時ってねえ、周りからのプレッシャーやその場の成り行きかもしれない。
自分だって、変わっている部分だけをより出して書いたら、けっこう通じるものがあるのだろうか?などと考えてみたり。いやタイプはぜんぜん違うけど。

同調圧力って、どこにでもあるものなのでしょうが、日本は特に強いほうかもしれません。
いろいろ考えさせられる、芯になる部分があり、どことなく仄かな明るさもあり。
多くの人が読むことになる賞にふさわしい作品だと思います☆

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「琥珀のまたたき」

小川洋子「琥珀のまたたき」講談社

母親に連れられて、別荘地の古い館の中で暮らす三人の子供たち。
小川洋子さんならではの切なく美しい世界です。

父親が破産し、人里離れた所にある別荘だけを与えて去った。
末の妹を思わぬ病気で突然なくし、母親は呪いと思い込んでしまう。
子供たちを失うまいと懸命になるのです。
この母親も遠くまで働きに通って子供たちを養う頑張りを見せ、家の中で出来る様々なやり方を工夫して、子供たちを可愛がり育てるのでしたが‥

オパール、琥珀、瑪瑙という新しい名前のついた姉と弟たちは、家の中だけで、寄り添って生きていきます。
父が出版した図鑑を使った空想や、遊びの数々。
琥珀は図鑑の隅に絵を描き、 亡き妹が生きて動いているかのような姿を皆が見つめることに。
閉ざされた世界の出来事が濃密で、とても豊かにも見えてくるのです。
いつかは壊れるだろうと予感させて、哀しく儚いのですが。

後々、芸術家専門の老人ホームという、これもまた現実にしては不思議さのある場所で、伴奏専門のピアニストだった女性が、才能あるアンバー(琥珀)氏という人物に惹かれ、そっと見守っています。
子供の頃の世界と交互に描かれ、どちらも少し物悲しいけれど。
親の犠牲になったという一面を見れば、痛ましい人生。
狭いことが悪とは言えないのではないか‥
とはいえ。
こちらの印象も揺れ動きます。

実在感のある儚さ、精緻な描写。
フランス映画のような雰囲気で、映像としてあのシーン、このシーンがありありと目に浮かびます。
読んで何ヶ月もたっても。

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「あきない世傅 金と銀 源流編」

高田郁「あきない世傅 金と銀 源流編」角川春樹事務所

「みをつくし料理帖」で人気の作者の新シリーズ。
待ってました! (感想を書くのは遅れたので~もう3作目も出ています)

村で寺子屋を開いていた父は学者肌で厳しく、商売など疎んじていました。
娘の幸は優しい母や優秀な兄を頼りに、素直に育っていました。
ところが、父と兄が相次いで亡くなり、9歳の幸は、大坂天満の呉服屋「五十鈴屋」へ、女衆として奉公に出ることになります。

五十鈴屋の「お家さん」は当代の祖母で、3人の孫息子を育て上げたしっかり者。
ところが、この三兄弟、後継ぎの徳兵衛が女遊びにうつつを抜かし、商売の才がある次男は兄に苛ついて喧嘩ばかり。
三男は優しいのだが、家業には興味がない‥

商売に興味をいだき始めた幸ですが、女衆は店のことにはかかわらないのが当然の決まりでした。
五十鈴屋の要石と言われる番頭の治兵衛は、そんな幸を見出し、ひそかに育てようとする‥

女主人公の一途さや真面目さは同じ。
所々に変化をつけようという意図も見られますね。
当時の不況ぶりや、身分や約束事の面倒臭さも、人間臭い描写の中に語られていきます。
展開は早めで、幸はどんどん大きくなりそうです。
楽しみ!

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「ねこのおうち」

柳美里「ねこのおうち」河出書房新社

公園に捨てられた猫をめぐる人々の物語。
どこか童話的な語り口です。
柳美里さんがこんな本を書くとは思わなかった‥

雑種だからと、あっさり捨てられてしまった子猫。
近所の猫を気にかけ、時々えさをやっていた渡辺さんのおばあさんが、飼うことにします。
ニーコと名づけた猫と、とても仲良く暮らしていたのですが‥

おばあさんが病気になって入院させられ、ニーコは再び公園へ。
6匹の子猫を生みます。
生き延びた子猫たちを拾う人も、飼えない人も、それぞれに事情がありました。
子供の間のいじめや、猫嫌いの人‥
容赦のない現実も、太い筆で描くようにばっさり書かれていますが。

動物病院の先生や、すべてを見守っている人も。
そして、かって捨てた経験を悔やむ人もいました。
老人ホームで猫を飼うことにして、暮らす人の心を癒すとは。
記憶もあまりなくなっているおばあさんに駆け寄った猫、おばあさんがニーコと呼んで撫でている猫。
涙せずにいられません。
こんな老人ホームに住みたいものです☆

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「下鴨アンティーク アリスと紫式部」

白川紺子「下鴨アンティーク アリスと紫式部」集英社オレンジ文庫

京都の下鴨を舞台に、アンティーク着物をめぐる謎を解くファンタジックな物語。
かわいらしくて、好みに合う要素がいっぱい!

野々宮鹿乃は、高校3年生。
旧華族の家柄で、祖母の遺した家に、兄とその友人と住んでいます。
兄の良鷹は古物商だが、家でぐうたらしていることが多く、無駄に?顔と頭だけはいいという。
兄の親友・八島慧は近くの私立大学の准教授で、離れに下宿しています。
兄同様に友達は少ないらしいけど、頭がよく物静かで、鹿乃のよき理解者。
鹿乃のことはまだ子ども扱いしているけど‥?

土蔵にある着物を虫干しすると、思わぬ出来事が‥!
「アリスと紫式部」だなんて、そそる章タイトルですこと。
六条の御息所は、興味を惹かれる人物ですよね。
「牡丹と薔薇のソネット」
あきらめたはずの恋、でも思いはそこに‥?
「星月夜」
意地っ張りな祖母のほほえましい恋心。
ひそやかに登場した白猫ちゃんの存在が、心地いい。

高校生にしては珍しく?着物好きな鹿乃は、家では週末などに着物を着て、それもテーマを決めた見立てを楽しんでいます。
着物は好きなのでかなり、ありありと目に浮かび、とっても楽しい。
イラストや装丁も合っていて、うっとりと味わえる綺麗なお菓子のような世界です☆

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