「この本が、世界に存在することに」

角田光代「この本が、世界に存在することに」メディアファクトリー

とてもわかりやすい文章で、本好きのハートに響く短編集。
本名なのでしょうか、四角い字体でかっきり書いたような~誰にでもわかり気づかずにはおれないような骨太で着実な文章に、名は体を表す…という思いがします。

18歳の時に売った本に再び出会う「旅する本」はやや幻想的な趣。
本の好みが合った恋人と別れる時に、本を仕分けする「彼と私の本棚」は、本など読まないらしい女性と付き合うことになった彼への複雑な思いもありで、何となく気分が想像出来ますね。
幼い頃に近所に一軒しかなかった本屋に万引きした本の代金を返しに行く男性の話「ミツザワ書店」は店先で万引きも気にせず本を読みふけっているおばあさんがいたというのが、ある意味本好きの楽園として描かれているみたいですね。
子供の頃はさんざん立ち読みしたよなあ…と懐かしくなりました。
万引きはしてないですけどね。…してないよね?うん。(本を借りて返し損なったままってのはあるけどぉ)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「ちんぷんかん」

畠中恵「ちんぷんかん」新潮社

2007年の新作、シリーズも6作目~(他に絵本「みぃつけた」があります)
安心して読めますね。

火事で煙に巻かれた若だんなが気がついた時には三途の川の河原に。なぜかついてきてしまった鳴家たちを帰そうとするうちに…「鬼と小鬼」
お払いで有名な広徳寺の僧・寛朝の弟子となった秋英が、初めて依頼者の話を一人で聞くようにと任されたところ、お払いするはずの絵の中に入り込んでしまい…「ちんぷんかん」

他に、若だんなの異母兄・松之助の縁談をめぐっての作品が続きます。
松之助は普通の人なので、お江戸の人情物といった感じですね。

若だんなは大妖を祖母にもち、死んだ子の魂が生き返ったという運命的な生まれつきで異常に身体が弱く、長生きは出来そうもない身の上。
たとえ普通に生きたとしても、若だんなを大事に思っている妖怪の手代達から見れば、一瞬のようにはかない時間しか、一緒にいられない…
今回はそんな命のはかなさを感じさせる話が多かったような。
作者の心境を反映しているのでしょうか?
桜の花びらの精・小紅の話は季節柄ピッタリでした。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

「中庭の出来事」

恩田陸「中庭の出来事」新潮社

2007年の作品で、たくらみに満ちた複雑な構成のミステリ。
ホテルの中庭で行われたパーティで、再婚したばかりの劇作家・神谷華晴が毒によって謎の死を遂げます。
「告白」という一人芝居を演じる女優を選ぶために、3人の女優をオーディションしている途中のことでした。
大女優、中堅の個性派、若手のサラブレッドという~まったく違う3人。
しかも、女優自身の人生の要素を交えて脚本を構成し直そうという野心的な企画。何か裏があるのでは、という可能性も…?

事件と、オーディション、捜査段階で繰り返されるシーン。
そのたびに少しずつ変化していく供述と推理。
劇作家・神谷のインスピレーションの元となったらしいのが、新宿のホテルの中庭で起きた若い女性の死。これについての推理も随所に挟まれてきます。
さらに、山の中の廃駅を劇場にしたという場所での舞台公演をめぐっての話も絡んできます。

ただのミステリじゃ物足りない!?という人向けの知的遊戯というのか~迷宮のような感覚を楽しめれば面白いでしょう。
作者の演劇好きも感じられて、女優のオーディションというのは面白いのですが~ちょっと、過程がややこし過ぎて、解決した感覚が起きないのが難かなあ?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

このミス2008

「このミステリーがすごい!2008年版」宝島社

2006年11月から2007年10月までに出た広義のミステリの人気ランキング本です。
国内73人海外73人ずつの投票で6冊ずつ選び、1位10点、2位9点、以下~6位5点という計算法。
20周年ということですが~20年の総括は前のだったか、特集号だか、どっか他の本でやっていたような。

出た時点でぱらっと立ち読みはしたんですが~
自分が少ししか読んでいないのはともかく、上位に食指の動くのが大してなかったのが寂しかったですね。でも細かくチェックすれば、おっといろんなのがあるぞ、というわけで。

国内編1位は佐々木譲「警官の血」、2位は桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」
読んでません~どっちも図書館にずっと前にリクエストしてあるんだけど。
国内で読んでるのは…
7位の「サクリファイス」8位の「楽園」17位の「悪人」18位の「中庭の出来事」(昨日読んだばかり)
21位以下(これ以下は順位がつかない)13点以上のリストの「私の男」「吉原手引草」
ベスト10にも足りないわ~まぁ仕方ないっすね…

海外編1位はディーヴァーの「ウォッチメイカー」ハイ、読んでます!
あとは~3位の「TOKYO YEAR ZERO」を最近読んでみたけど、好みじゃなかったです。
13位「病める狐」…やっと、このへんですかね~。
15位「双生児」…去年の作品として印象的ではあるけど、どっちかというとSF。
17位「異人館」知る人ぞ知る実力派ヒルの単発物。
18位「夜愁」ウォーターズは前作でミステリの女王になりそうな勢いでしたが、これはもう普通小説~評価は高いけど。
21位以下「再起」「終決者たち」「幼き子らよ、我がもとへ」
え、これだけ?誰も投票しなかったやつで、何か読んでるかしらね~。

仮に私が投票するとしたら、国内では「楽園」1位、「悪人」2位、「吉原手引草」3位、「私の男」4位、「中庭の出来事」5位、「ちんぷんかん」6位かな。

「悪人」は連載で読んでいたためブログで紹介はしてませんが~出会い系サイトで知り合った男女の関係を描き、犯人の男は悪人とされるわけですが、これが(問題はあるけど)悪いヤツじゃなくて気の毒で泣かせます。
「ちんぷんかん」の畠中恵はいちおう巻末のリストに入ってるけど、時代物かファンタジーの要素が強いので、誰も投票しないみたいですね~13点以下なのかも。
あれ、伊坂幸太郎は?去年じゃないのか~。

海外だったら~1位「ウォッチメイカー」最近のディーヴァーでは一番気に入ったので。
2位「再起」フランシスの復活を祝して。
3位「病める狐」お気に入り作家ミネット・ウォルターズのまずまずの力作。
4位「異人館」歴史がらみだし、なかなかの出来で好感度高し。
5位「夜愁」じつは一番印象が強いんだけど、ミステリとは言い難いので、このへんで。
6位「幼き子らよ、我がもとへ」歴史物だから~ひいきしてみました。アイルランドの7世紀というのが渋い!ヒロインは清新です。

次点「警視の週末」これは女性作家のコージー系と思われてるのかも知れませんが読み応えあります。「異人館」とちょっと似た要素があって、面白かったですよ。
あら、「終決者たち」が入らなかった…う~ん?

| | コメント (0) | トラックバック (1)

「楽園」

宮部みゆき「楽園」文藝春秋

あの「模倣犯」に出ていたライター前畑滋子のその後。
いちおう解決はしたものの、あまりに悲惨な事件に深く関わったため痛手を抱えてしまい、事件についてまとまって書く事も出来ないまま、9年がたっていました。
夫の両親を見送り、夫の仕事が忙しくなった後、ライターの仕事をぽつぽつと再開。
というところへ、事故で亡くなった幼い息子が生前に描いた絵を見て欲しいという女性の訪問を受けます。

サイコメトラーというのか、後に殺人事件があったと発覚した家の絵を描いていたというのです。
古風なお母ちゃんといったふんわりした雰囲気の女性にほだされて、半信半疑で話を聞くうちに、他でもないあの事件の現場の絵を見つけ、衝撃を受ける滋子。
仕事抜きで過去の事件の真相を洗い出すことに…

頭の中でぐるぐるする物を絵に描いたという12歳の少年・等の能力とは何だったのか?
16年前に、非行に走った長女を両親が思いあまって殺したという事件のあった一家の次女の依頼を受けて、滋子は周辺を当たります。
同じ頃、幼い少女が興味を持った家には… という脇筋も展開。
家族が手を離れていく時、特に我が子が道を外れた時、周囲はどうしたらいいのか。
事件は重すぎるほど重いですが、救いのある結末になっています。

「模倣犯」の続編で地味めと聞いて、すぐには手が出ませんでした。
作中人物の滋子もなかなか立ち直れなかったように…
後書きによると、作者も前作を書き上げるのに非常に苦しんだそうです。
この作品も、読んでいる途中でちょっと暗い気分に覆われました。
が、その後は何とか!事件のあった街の幼馴染み達や、滋子のダンナさんなど、元気な人々に救われました。
トータルでいえば~さすが筆力があり、目の付け所も確かな作品です。
前作を読んでいなくても読めますよ。

トマス・ハリスは楽しんでべろべろ読めちゃう(心の準備は多少必要だけど)のとどう違うかというと…
トマス・ハリスの方が登場人物に対して距離のある描き方で、エンタテインメントとしても一個の作品としても昇華されているのかな。
こちらは日本の話だから~読む側にとって現実味がずっと大きい、ということもあります。

宮部さんはおだやかで冷静な書き方をする人で、作者自身の感情や主張をストレートに出すことはしません。ただ、弱い立場の人が理不尽な目に遭うことに対する憤りは、間接的には一番感じられる所です。
今回は女性が中心なので、いつもよりも、色々な立場の登場人物と共に考えさせるような書き方になっている気がしました。

| | コメント (2) | トラックバック (1)

「サクリファイス」

近藤史恵「サクリファイス」新潮社

最近、決まったばかりの本屋大賞2位です。
候補に挙がったと聞いて読んでみたもの。
初めての作家さんで、タイトルでも見当がつかなかったけど~自転車ロードレースの話。
日本ではマイナーなスポーツで、ルールも解りにくいけど、独特なルールゆえの面白さに焦点を当てているので、だんだんに解ってきます。

白石誓(ちか)は中距離でインターハイにも出たほどの選手でしたが、本人は勝つことに意味を感じられないでいました。
チームプレーに魅力を感じてロードレースに転身。アシストに力を尽くします。

5時間以上スピードを出して走るので、先頭にいる選手は風圧を受けて消耗することになるため、競い合うチームでも先頭は時々交替するのがマナー。その辺が紳士のスポーツなんですね。
チームのエースを守るためには、他の選手がその前を走ったり、先頭集団に入って全体を引っ張ったりするという作戦をこらす。個人の成績は二の次で、エースを立てるのが、アシストの役割なんですね。

誓は、ワンマンなエースの石尾豪を尊敬していましたが、石尾には伸びてくる若手をつぶすという黒い噂が…
その真相は?
突っかかってくる同世代のライバルと共に練習し、ベテランのアドバイスを聞きつつ、世界へ出ていくチャンスに胸を弾ませ、別れた恋人との再会に葛藤し…
ぐいぐい引き込んで、あっと言う間に読ませてくれます。
別れた恋人が誓の性格を全く理解していないのが、苦みとして効いてるような…
最近ヒットが多い~女性が描くスポーツものの一つと見ることも出来ますね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「街の灯」

北村薫「街の灯」文春文庫

15歳のお嬢さんを主人公に、昭和初期の上流階級の世界を描くシリーズの一冊目。
2002年に書かれた作品「虚栄の市」「銀座八丁」「街の灯」3作収録。

女子学習院に通う花村英子は社長令嬢。
本好きで、好奇心が強く、頭の回転が速い。
華族令嬢にも友達はいるが、それよりはだいぶ気楽な暮らしぶり~といっても当然のようにお出かけには振袖を着て「ごきげんよう」と挨拶しあい、運転手や女中頭のお供がなければ外出もままならない。
学校の送り迎えをする運転手に若い女性の別宮みつ子が雇われます。これは異例のことで、父の知り合いだったから、娘に少しは社会勉強をさせるための案内役と護衛にという気持ちもあってのこと。
ベッキーさんと呼んで、すっかり仲良くなり、一緒に小さな事件を解決していきます。

世間を知るクールで控えめなベッキーさんがやたらカッコイイんです。
壮士もお坊っちゃまも圧倒する文武両道、必殺・男装の麗人?運転手!
この段階では正体は不明で、事件の推理もけっこう少女の方が中心です。
優雅さ漂う暮らしぶりとちょっと懐かしいような銀座の風景などが楽しい。
レトロな魅力がありますが、実は5.15事件とか剣呑なことも起こっている時代なんですね。江戸川乱歩を良家の子女は読んではいけないというあたりも面白い…ま、そうでしょうねぇ。
2作目を先に読んでピンと来なかったんですが、こっちが先の方が良いですね。

北村さんをアップするの、このブログでは初めてかなぁ。
初期の物は8割方読んでると思います。血なまぐさい事件がなくて、素直な女の子がヒロインで、心安らぐ感じが貴重だったから~いいんですよね。
女3人の友情と闘病中の遅ればせの恋を描いた「ひとがた流し」はとても良かった!直木賞とるべきだったと思ってます。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

「私の男」

桜庭一樹「私の男」文藝春秋

第138回直木賞受賞作。
本屋の店頭に平積みになっているので、知っている方も多いことでしょう。
女性だって知ったのはいつだったかな…ライトノベルを一冊読んだことがあるきりだったので、化けたな~という。何年もたっていることを考えると…知性、繊細さ、未成熟な強さなど~やはり通じる所もありますけどね。

ねっとりした文体で危険な匂いをさせつつ、わかりやすいイメージも連ねて、引き込みます。
腐野花という(とんでもない名前!?の)ヒロインが、24で苦労知らずの青年と絵に描いたような結婚をしようとしている所から話は始まります。
ただし、新婦側の親族は養父一人だけ。
震災で家族をすべて亡くした9歳の時から、遠縁の若い男性・淳悟に引き取られて、2人だけで生きてきた花。
北の海で起きた暗い過去を捨て去ろうとしますが…
孤独な2人の運命的な結びつきが描かれます。

このタイトルでこのカバー絵、父娘の話というので、ちょっと引き気味でやっと読みました。
なるほど、期待させるような色っぽさや暗さも出しているけど~意外な展開で少しずつ空気をかき混ぜ、嫌悪感まで行かないようにしてあるような印象。
現実の中でもがき、破綻していく状況でも、一途な気持ちというのは切なさがありますね。
人が人を求める原点を感じさせます。
こういう人物像を魅力があるように書いちゃうのもいかがなものか、という気がしないでもありませんが…破滅的な人間の危険な魅力?
脇役に実在感があって、ちょっとした登場シーンも読ませます。
色々な要素を含みながら、こってりと力強い文学的な空間を構築、上手いこと書けています。
ラストがこの地点というのも、なかなか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「太陽の塔」

森見登美彦「太陽の塔」新潮社

大学生の笑えて切ない失恋妄想小説。
これでファンタジー大賞を受賞してデビューしたとは知りませんでした。
ファンタジーかなあ…?そういえば、そういう雰囲気もあります。
叡山電車や百万遍交差点など、京都には名前だけでもファンタジックな場所や物があるんですね~。

主人公は休学中の5回生という~大学生といってもかなり追いつめられた状況にあります。
華のない生活で、モテない同士のおかしな仲間もいるのですが、思いは3回生の時に奇跡的に出来た恋人・水尾さんへと向かいがち。
膨大な水尾さんノートなる物を作っていて、1年前にふられたのに、いまだに彼女の行動をさりげなくチェック。自分はストーカーではないと理路整然と語っておりますが…
悪い奴じゃないんだけどねえ。
ふられるに至ったいきさつも笑えます。
まあ、しょうがないさ!若い時の恋はなかなか続かない~でも失っても恋しないより恋した方が良いんだよ、と肩を叩きたくなります。

太陽の塔、ってあの!万博のだったんですね。
主人公も水尾さんもひじょうに強い印象を持っていて、水尾さんがはまっちゃったというのがまた笑える。
あとがきの本上まなみさえもそうらしい。う~ん、まあ、確かに。
岡本太郎氏はハンパじゃないですね~。

あとがきが本上まなみなのは、作者がファンだかららしい。何しろ、主人公が自転車に「まなみ号」って名付けてるんですよ。
ちょっと「夜は短し恋せよ乙女」のヒロインとも通じる所あるし…なるほど、清楚な外見で~けっこう自然に人を振り回すようなタイプが好み?coldsweats01

| | コメント (5) | トラックバック (0)

「天璋院篤姫」下巻

宮尾登美子「天璋院篤姫」(下)講談社

大河ドラマの原作、後半です。
御台所にはおさまったものの、将軍である夫は身体が弱く、たまのお渡りをただ待つしかない日々。
それでも篤姫には夫婦としての情がわいていきます。
ハリスに通商条約を迫られる中、夫・家定の急死。
それも将軍の死はしばらく伏せられる習慣で、既に亡くなっているのも知らされず、病と聞いても看病に行く事すら出来なかったのは、無念だったでしょう。そういった心の動きをぐいぐい描き込んで読ませてくれます。

次の将軍となった家茂はまだ少年で、いぜんから本丸に住んでいたので馴染みがあり、篤姫を母上と立ててくれます。
しかし、和宮降嫁で京都と江戸それぞれの女中達が対立、大奥を揺るがす騒動となります。
和宮は4年の結婚生活で同居は2年6ヶ月、これでも篤姫よりは少し長いんですね。

10歳しか違わない和宮とは、江戸城明け渡しに際して、力を合わせて奔走することになります。
晩年は、共に江戸の町見物もしたという~微笑ましいエピソードも。
国政の大変動期を内側から描いて迫力があり、面白かったです。

徳川家は一大名となり、後には公爵となります。篤姫がさっさと薩摩の迎えに応じて城を捨てていたら、扱いはもっと悪かったかも知れませんね。
跡取りを江戸屋敷で育て上げた後半生はけっこう充実していたでしょう。手狭になった暮らしも今泉で育った頃を思い出させて、大きな大名家で生まれたお姫様よりもずっと適応しやすかったのでは。
尊敬された一生だったという事で、何だかほっとしました。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

「チーム・バチスタの栄光」

海堂尊「チーム・バチスタの栄光」宝島社

2005年の第4回このミス小説大賞受賞作。
最近映画化もされてるので、ご存じの方も多いのでは。
阿部ちゃん主演と聞いて最初は桐生医師かと思ってしまった…それじゃ主役じゃないもんね。探偵役の設定はブサイクなのでつい。

バチスタとは平たく言えば~肥大した心臓を切り取って小さくする手術で、発明者の名前が通称となっているんだそうで。
東城大学医学部付属病院では、アメリカ帰りの天才外科医・桐生恭一を中心に、バチスタ手術のためのチームを結成。驚異の成功率を誇っていました。
ところが3例続いての死亡という異常事態に。
たまたまなのか、医療過誤か、悪意によるものか…?
高階病院長は神経内科の万年講師・田口に予備調査を依頼します。

田口公平は、不定愁訴外来という(愚痴外来と噂される)暇な部署で満足している~のんびりした男。
外科は門外漢なので、素人同然に説明を聞いていく事になります。
導入としては上手いが、結局手術中の事なら解明出来ないのでは?まして読者には解決の予想の立てようがないのでは~?
と思いつつ、読み進むと…

後半は、全く違うタイプの探偵役が投入され、事態を混乱させつつ、面白く読ませていくのです。
医療過誤を調査する組織を立ち上げようとしている厚労省の窓際役人・白鳥、才気はあるが性格も見た目も良くないという~こいつがわざと(というか自然に)人を怒らせて真相を暴いていきます。
特殊な才能があるという点ではホームズタイプになるのかな。
事件の解決は、手段はともかく、機会や動機などはだんだんと読者にも推理出来ます。
大学病院という組織内のいかにもありそうな対立や力関係あれこれや天才外科医と名コンビの部下の手術ぶりなど、こういった話に読者が期待する物もしっかり用意されています。
なるほどね~飽きさせずにスイスイ読ませるのがデビュー作にして大ヒットも納得。

映画だと田口の役を女性にして、竹内…う~ん、まあ…理解は出来るけどね。
登場人物を2回尋問して、別な面を見せるというのは映画にもしやすいでしょうね。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

「着物をめぐる物語」

林真理子「着物をめぐる物語」新潮社

着物をめぐる11の短編を集めた物。
それほど厚くない文庫ですが、中身はねっちりと濃いめ。
章ごとに着物の写真もついて、ムードを盛り上げます。

「松の緑」は加賀友禅作家の父に反発していた娘がいつしか跡を継ぐ事になる話。加賀の芸者の出の衣装…すごそうです。
銀座のマダムが店を持つに至る回想の「形見」、戦時中に着道楽を通した姉を妹がひややかに語る話、若い女優が初めて時代劇映画に出た時の着付師の話など。
すべて聞き書き風の一人称です。着道楽で知られる作者の思いも感じられますが、実際に取材もしたのでしょうね。

歌舞伎座の衣装方が語る、大部屋のむんむんするような独特の熱気など、面白かったです。
衣装は毎日けっこう汚れてしまうので、まず霧吹きで汗をとばす、この加減が難しいというのに納得。乾いてからベンジンで汚れを取るそうで。
着た着物にはやりたくなるけれど、水で濡らすのは素人には無理ですもんね。

ねっとりして、ちょっと恨みがましいような、ほのかに残酷な気配が漂う、念入りに仕立てた着物ならではの怨念めいた想い。
女を夢中にさせる力を「こんなことがセーターやスーツで起こるでしょうか」と言われると、確かに…そんな気も?
古着屋さんで買うのが、ちょっと怖くなるような。お手ごろ価格のには大した念も入ってないから大丈夫かな~。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

「れんげ野原のまんなかで」

森谷明子「れんげ野原のまんなかで」東京創元社

「千年の黙」でデビューし、時代ミステリの印象が強い森谷さんの現代物。
受賞後第一作だったんですね。
秋庭という市の端っこにある図書館が舞台です。

図書館司書の若い女性・文子が博識な上司の能瀬らと、図書館をめぐって起こる小さな謎を解き明かしていきます。
子供達が図書館に忍び込もうとするわけは?
ほとんど動かない洋書の本棚で作られた暗号とは?
地元の大地主が寄贈した場所に建てられた図書館なので、土地柄に秘められた謎もあります。

風邪で寝ている時に読むのにピッタリでした。ちょっと北村さんの初期作品ぽいかな?
季語をあしらった章タイトルが森谷さんらしい。
本好き、図書館好きなら思わず、にっこりするような話題もあって~かなり好印象。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「オーデュボンの祈り」

伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」新潮社

私にとっては「死神の精度」「終末のフール」と遡って3冊目の伊坂幸太郎作品です。
作者は71年生まれ、95年東北大卒、SEに。
96年、サントリーミステリー大賞佳作。
本作品が第五回新潮ミステリー倶楽部賞受賞で、初の単行本に。

主人公・伊藤は、目を痛めたために、5年勤めたシステムエンジニアの仕事を辞めます。
二ヶ月後には衝動的にコンビニ強盗を起こすダメ男っぷりですが~現れた警官は中学の同窓で非常にたちの悪い男(生まれつき残虐で、これが権力を持ったという最悪のパターン)
伊藤は事故ったパトカーから飛び降りて逃げ、なぜか目が覚めた時には謎の土地・荻島にいたのです。

百年以上、鎖国のように存在を知られずに来た島だというんですね。
異世界ファンタジー…というわけでもありませんが…
「他の誰も書かないような作品を書こうという意気込みが感じられる」という選評には、なるほどと思いました。

たった一人だけ外界とボートで行き来している老人もいて、少しは情報も入り、荻島の人々は一見普通に暮らしていますが、どこかがずれている。
何でも知っている予言者のような喋る案山子・優吾の存在、どこか謎めいた住人達。
百年以上もよそ者は来なかったのに、伊藤の前にも何だか嫌な奴が一人島に来ているんです。それは何故か?
案山子に会った伊藤は、かっての恋人に葉書を出すように言われて…

この島の中で起きている事件とは?そして伊藤は元の世界へ戻れるのか?
奇想天外な設定ですが、人間像は意外にリアリティがあります。
さすがに初期の作品で、若いなあ。

オーデュボンは鳥の写真を撮影した写真家の名前。
絶滅種の鳥が生き延びるのを祈る…
そのイメージは良いんですが、何だろう…伊藤という青年が空っぽなような。鳥に興味があった様子もないし。仕事や恋人の断片的な事以外にも、もう少し自分自身の思い出とか、この長さだったらあってもいいのでは。
誰にでも感情移入出来るように、ということなんでしょうか。
奇抜な設定と展開を書き込むのに重点を置いているのかな~。

本人にとっては、好きなものは入れたい、思う存分書きたいという思い入れがあるのでしょう。
読む側にとっては、モチーフが響き合う構成になっていないと、唐突に感じて何だかな?と首を捻る事になる~その辺が、後の作品だと変わってきます。
自分が何を書くのが得意か、という見極めが出来ていったのが感じられますね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「コキュ伯爵夫人の艶事」

藤本ひとみ「コキュ伯爵夫人の艶事」新潮社

フランスを舞台にした四つの短編で構成されています。
「コキュ伯爵夫人の艶事」は1682年、
「令嬢アイセの秘事」は1722年、
「ダンフェル夫人の断頭台」は1792年、
「農夫ジャックの幸福」は1794年、
と移り変わっていく時代背景に絡ませながら、個人の幸福と意外な運命を描きます。

当時のフランスでは、貴族の子供はすぐに里子に出されて親の愛を知らずに育ち、特に女の子は修道院に入れられて、親の決めた結婚までは世間の風に当てない習慣でした。
結婚後は急に、夫の浮気は当たり前な退廃的な社交界の荒波に投げ出されるわけで、女性も恋愛出来ないわけではないのですが~男性のようにはいかないあたりが微妙。
年代や階級によっても違ってくることで、そのあたりの変遷を巧みに取り入れながら、面白い話に仕立てています。

1994年から95年にかけて発表されたもの。
18世紀を中心にしてフランスを舞台にした小説を書き続けてきた手練れぶりを見せる作品群。
「貴腐」も似た系統の小説集ですが、あちらはちょっと~後味が良くなかった。(宮廷での恋愛遊戯やサド公爵に興味があれば、読んでも良いと思いますが)

こちらの後味が良いのは、最後の「農夫ジャックの幸福」が効いているんですね。
一代で農場を広げた頑固な働き者の老人 …だが、彼の幸福とは?
人生は何だったのか振り返りかける時、革命も末期になって思いがけない出会いがあり…ぐっと来る話になっています。

| | コメント (6) | トラックバック (0)

映画「細雪」

市川崑監督を追悼して先日BSで放映がありました。
この映画、大好きなんですよ。83年の作品。
(劇場では見てませんが)
谷崎潤一郎の原作も、日本の小説の中では特別なお気に入りです。
妙に面白いんですよね…

昭和13年。
芦屋に住む名家の四姉妹が、揃って京都でのお花見に集まった所から始まります。
本家を継いでいる長女を岸恵子で、着物姿が最高に決まってます。背筋はしゃっきりしていて、真面目なんだけどどこか抜けていて。お婿さんの伊丹十三もそれらしくて~面白いの。

分家の次女を佐久間良子。
一番普通に女っぽい役でしょうか。もう親はなく、妹2人を預かっているので、けっこう気の揉める立場です。
これもお婿さんの夫を石坂浩二。義妹の雪子のはかなげな色っぽさに骨抜きになっているのが笑えるんですよ~ちょっと谷崎の想いを偲ばせる、この演技がね~。

三女の雪子を吉永小百合。
雪子の縁談を中心に話が進むので、彼女が魅力的でないと話になりませんが、これがとても良いんです。
いかにもお嬢様らしく品のある美形で、内気で弱そうに見えるけど頑固な所もある、なかなか一筋縄ではいかない雰囲気。
似合わない見合いを押しつけられるのに昔は同情したけど、大人になってから見ると、厄介な女だなあって感じしました。
婚礼のために親が用意しておいたという着物がすごいです。

四女の妙子に古手川祐子。
昔は船場の名家だった薪岡家だけど、末っ子が育つ頃には傾きかけていたからか?一人だけ雰囲気違います。姉たちのようになれないので居場所を求めて足掻いている様子。
確かに原作でも毒があるような所ありましたけどねえ…
品がないので、ちょっと損している感じがするわ。

それでも四姉妹ともパートナーとはそれなりに上手くいく展開なので、記憶よりわかりやすいというか~起承転結あるじゃん!と思っちゃいました。
何となく~優雅にお喋りしながら、何事もなくだらだら続いていくような感じがしてたんですよ。
でも長女一家の東京転勤もけっこう大変な事だし、じつは震災が起きていたり?、妙子なんか波乱の青春じゃないですか。
暮らしは優雅なようでも、実は戦争に突入していく時期だったわけなんですね。
失われていく美しさへの谷崎の思い、監督の思いが感じられます。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

「信長の棺」

加藤廣「信長の棺」日本経済新聞社

「信長公記」を書いた太田信秀(後の牛一)を主人公に、本能寺の変の謎を解き明かしていく物語。
信長に事務方として仕えていた牛一は、本能寺の変の直前に信長からひそかにある物を託されたという設定。
凶報に衝撃を受けながら、逃げまどう家臣達の中でいかに行動するべきか考える緊迫した描写が面白い。

信長に傾倒する彼は、隠居後も一人で信長記を書き続けていました。
秀吉の正式な依頼で、それを秀吉の意図に添うように書き直していかなければならなくなります。
信長の残酷な面はあまり書きたくなかった牛一。
秀吉は自分の残酷な面を目立たせないために、信長のそういった部分は書かせたがるという~さもありなん?
秀吉には見せない部分をひそかに書いていたり、一部が盗み出されて流布したり、かくて色々なバージョンが出回るわけです。

子供の頃は秀吉が好きだった事を思い出しました。残酷な面は子供向きの「太閤記」ではほとんど書かれていませんからね…
信長は好きというのではないけど~カッコ良くあって欲しいキャラかな?

牛一は信長の遺体がどこにあるのか見つけてちゃんと葬りたいという気持ちも抱きながら、ひそかに光秀謀反の真相も探り続けるのです。
信長の遺体を廻る謎があるとは知りませんでした。
秀吉が探し回っていたが見つからなかったとか、遺体を見た人が綺麗な顔だった(つまり本能寺で焼失してない)という証言がどこかにあるのでしょうか?
どの辺が史実で、どれぐらい根拠があるのか?どこからが独創なのかが解りませんが~変わった角度から描いてあって、なかなか面白かったです。
地味な人間同士の信頼関係がしだいに生きて来るという話の展開だから、夢がありますね。

作者は1930年東京生まれ、経済経営畑の著作の多い人だそうで、05年発行の本書が作家デビュー。
年末にテレビでやっていたのを録画したのに、見切れずに消してしまいました~しまったなぁcoldsweats02

| | コメント (2) | トラックバック (0)

「天璋院篤姫(上)」

宮尾登美子「天璋院篤姫」(上)講談社

今年の大河ドラマの原作。
テレビで見やすいホームドラマ調の展開に慣れていたため、漢字が多い!と思ってしまった。
新装版は字が大きくて読みやすいです。
それに平家物語などよりは時代が近いので~まだ解りやすいですけどね。
150年前かぁ…

すぐに濃厚な語り口にぐっと引き込まれました。
桜島を見るのも最後になるだろうと思う出立の日から回想していきます。
幸せそうな家庭でしたが、実は父親には側室が2人もいたりしたんですねえ。そういう経験もあった方が御台所になるには良いかも知れませんが。

乳母の菊本のエピソードは原作通り。
他は幼い頃の話は少なく、尚五郎は影も形もありません…
西郷は篤姫の輿入れの道具を揃える仕事をしたんですね!似合わないけど~史実なので、どこかでも聞いた覚えあります。

養女の話が出てから御台所になるまでには何年もかかったとは、驚きました。
南の果ての薩摩の分家から、段階を踏んで出世街道を上がっていく、ところがその頂点の将軍家というのが~豪華な暮らしはしていてもねえ…
夫となる将軍は病弱で変わり者…篤姫の戸惑いや愛情がよくわかり、自然に感情移入出来ます。
世継ぎを誰にするかという激しいせめぎ合いが一段落しそうな所まで。以下、下巻!

身分制度がはっきりあって、皆がそれを受け入れていた感覚というのはどんなものでしょう。
そして、それがもろくも崩れ去っていく…
ちょうど黒船も来航したとドラマでもやっている所ですが。
明治になるまでもうあと、ほんの15年ぐらい?
どっちへ転ぶか~難しい時代だったんですねえ。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

「終末のフール」

伊坂幸太郎「終末のフール」集英社

小惑星の衝突で8年後に地球が滅亡すると宣言されてから5年後、という設定。
一時は大荒れだった世の中が少し落ち着き、思い思いに最後の時期を過ごそうとする人々を描きます。

第一話「終末のフール」
そんな宣言よりも早い10年前に家庭が崩壊していた一家。
頑固な父は人を馬鹿呼ばわりすることが多い男で、弟の死をきっかけに決裂して家を出たきりの娘が、住む者も少なくなった実家のマンションを訪れます。感激の再会とはいかないが、控えめだけどしっかりした母親と三者三様の思いにじわじわと来るものがあります。

優柔不断な男が年上の妻に妊娠を告げられて悩む第二話「太陽のシール」引きこもっていた娘が恋人を見つけようと決意する「冬眠のガール」といったように章のタイトルが韻を踏んでいるという凝りよう。

5年の間に喪った人も物も多いわけですが…奇妙な設定にあぶり出される家族の葛藤はかなりリアル。
たまには、こんな事を考えてみるのも良いのかも?特に若い人だったら…
もうすぐ世界が終わるとしたら、何が一番大事か。

このトシになると、身近な人が数年でいなくなるような可能性は現実そのものなので、そのへんがちょっと解りすぎるようで邪魔にもなって微妙。
しかし、伊坂幸太郎は上手いです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「とっても不幸な幸運」

畠中恵「とっても不幸な幸運」双葉社

時代劇の「しゃばけ」シリーズで人気の作者の短編連作。
現代物です。
新宿の古いビルの地下にある「酒場」という名の酒場。商売気のない強面の店長となぜか入り浸りの常連ばかりで成り立っているのでした。
30代でやもめの店長が義理の娘を引き取ることになったというので、似合わない家庭生活をちゃんと過ごせるのか~!?と危ぶむ常連達。
中学生の娘のり子が100円ショップで買った「とっても不幸な幸運」という缶を開けた時…?

現代物も書けるのねと思わせます。
ちょっとした謎を解きながら明かされる、それぞれの人生…
軽い味わいですが、不幸な幸運てのは~確かにあるかもしれないですよね。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

「映画篇」

金城一紀「映画篇」集英社

映画のタイトルにちなんだ連作集。
作者はコリアン・ジャパニーズ。読むのは初めてですが、映画「GO」はテレビで見ました。窪塚君がコウ嬢に恋する話ね。

一作目の「太陽がいっぱい」
デビュー作が映画化されるので撮影現場に出向いた小説家が幼馴染みの女性と再会し、中学時代の親友・龍一の事を思う…
一緒に映画を見まくった親友どうしなので、映画のタイトルが続々~男の子が好きそうなのばかりで、私には思い入れがないのが多くて笑っちゃいました。(「スティング」は入ってました)
アクション物はけっこう見ているけど、それについてえんえん喋るなんて事はないもの。
どっちも父親がいないので、ヒーローの条件に父親がいない事をあげていたりするんですね。

総じて映画への愛たっぷりの本ですが、つまらないフランス映画というのが何度も出てきて、タイトルがないのが気になる…(ゴダールか!?)
特定の作品じゃないのかも知れないけど、そんなにつまらないのって妙に見たくなりますね。

映画にちなんだ短編にうまく繋がりを持たせてあり、最後の「ローマの休日」の自主上映で、それまでに登場した人々がすれ違うのがさりげなくて雰囲気あります。
最後がまたいい話~!
長年連れ添ったお祖父さんを亡くして元気のなくなったお祖母さんを心配して、ちょこっと問題ありの従姉弟達が結集して頑張る話で、おバカな小さな従弟や、口は悪いけど根が人の良い主人公の恋愛も自然体でイイ感じ~心があったかくなりました。

映画を知らなくても楽しめますが、まだ「ローマの休日」を見ていない若い人はぜひ見てみて!
本屋大賞の候補作だったと思いますが、あれ、まだ決まってなかったっけ…?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「似せ者」

松井今朝子「似せ者」講談社文庫

江戸時代の歌舞伎役者をめぐる短編集。
テンポの良い語り口で、読ませます。
帯のコピーに「芸に生きる人間達の愛、業、切なさ、人情」とあります~なるほどね。

一作目の「似せ者(にせもん)」
名優・坂田藤十郎の番頭を30年もつとめた与市が、藤十郎の没後、そっくりな旅回り役者に二代目を継がせる顛末を描きます。
「狛犬」
悪役の似合う助五郎とぼーっとした広治。
対照的な若い役者2人の微妙な葛藤と皮肉な盛衰を、幼馴染みの女性を絡めて、助五郎の視点から描きます。
「鶴亀」
一世一代のはずの引退興行を繰り返す人気役者・鶴助と、仕打ち(興行師)亀八の奇妙な関わり。
「心残して」
囃子方の見習い・巳三次とたまさかお囃子に加わった若いお侍の出会いと別れ。「心残して」というのはお侍の歌った幕切れのせりふ。切ないです。
どの作品も情景が生き生きとしていて、まるでその時代に生きていたよう?

作者は53年京都生まれ、松竹に入社して歌舞伎の企画製作に携わった経歴。97年小説デビュー。この作品は直木賞候補にもなっています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「朝日のようにさわやかに」

恩田陸「朝日のようにさわやかに」新潮社

ひさびさの短編集。
どっちかといえばミステリー&ホラー系のちょっと怖い雰囲気ですね。

最初の話は人里離れた寄宿学校に起きる事件で大金持ちで美形のヨハンが主人公~「小鳥の巣」などのコミックの影響を受けた世代なんだなと今さらのように思い出します。
「寂しいお城」は童話風。みどりおとこというイメージが面白い。

本人は短編は苦手とのこと、そのせいか~ずいぶん色合いの違う話が入っていて、恩田陸オードブル味見集みたいな。
こっそり覗き見するように、一人静かにつまみ食いする気分ですね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「名もなき毒」

宮部みゆき「名もなき毒」幻冬舎

「誰か」の続編~事件は違うので、独立して読めます。
1年ぐらい前の話題作かな。

財閥の娘と結婚した杉村三郎が主人公。
いたって欲のない、人が良いだけの若い父親という~探偵役としては異色の設定。
若く美しい金持ちの妻を持つ人も羨む境遇だが、会社は継がないと決まっているのに金目当てという誤解から非難も浴び、親には勘当される始末~嫉妬の視線にも晒されて実は気苦労の日々なのでした。
この普通の男が妙に事件を呼ぶ?日常に潜む悪を描くシリーズのようです。

バイトに雇った娘の異常な行動を調べているうちに、コンビニでの無差別殺人の被害者一家と知り合い、二つの事件に対応する羽目に。
クレーマーとでもいうのか、この娘の嫌がらせや凝りなさかげんには閉口します。
名もなき毒というのは、飲み物に入れられた毒と、ハウスシックの原因になる土壌汚染などの毒、そして人の心に中にあり周りを害する毒…という三つの毒のようです。
ハウスシックの症状は、不定愁訴と言われたり他の病名がついたりしやすいような、ごくありがちなものなので~え、私の症状も?と考えてしまったりして。
穏やかなタッチで淡々と描かれますが、すぐそこにあるようでリアル~!で怖い…
リアルすぎて後味はさっぱりはしませんが、読んだ甲斐はありました。

主人公とは違って?プロ意識の感じられるルポライターや、新入りのバイトになるゴンちゃんなど、新しいキャラが新鮮。
主人公はだんだん探偵になりそうな感じですが、どうでしょう~見るからに幸せそうな人って、犯人や被害者の反発を買いそう?事件にも向き不向きがありそうですね!?

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2007年のベスト本

2007年に読んだ本についてもご紹介がやっと一段落しました。
左サイドに出してある本の表紙(アマゾンにリンクしている~いちおうアフィリエイトになっております)もずっと変わっていなくて、最近の紹介と無関係な状態だったので、出来るだけ最近のものを足しました。
正確な順番ではなく、その時のタイミングで、深い意味なく落ちているのもあります。何せ腱鞘炎なものですから~…

1月6日に「2007年に紹介した本」1月9日に「2007年に読んだ国内小説」に書名だけアップしてあります。右上のカレンダーの日付をクリックして下さるか、左サイドのバックナンバーの1月をクリックして下されば、出てきます。
他の本や内容については、右サイドのHPのリンク「sanaの本棚」の方が多分、出しやすいです。画像をクリックすると書評が出て、アマゾンへも飛べます。「リストビュー」にすると、全冊のタイトルが出ますので~タイトルをクリックすると紹介が読めます。

ベスト本も決めかねますが~左下に並んだ画像を見ると~大体はわかりますよね。
「夜は短し歩けよ乙女」「天平冥所図会」が好感度高かったです。
「風が強く吹いている」「一瞬の風になれ」「バッテリー」「ラストイニング」も。
「東京タワー」も良かったし、「風に舞いあがるビニールシート」も真面目な作品でした。
「チョコレートコス