2009年前半に読んだ国内小説

2009年1月
「警官の血」  佐々木譲
「夢の守り人」  上橋菜穂子
「ブラックペアン1988」  海堂尊
「虚空の旅人」  上橋菜穂子
「上と外」  恩田陸
「ブランケット・キャッツ」  重松清

2月
「西の魔女が死んだ」  梨木香歩
「のぼうの城」  和田竜
「ラットマン」  道尾秀介
「カソウスキの行方」  津村記久子
「村田エフェンディ滞土録」  梨木香歩
「おそろし」  宮部みゆき
「象と耳鳴り」  恩田陸

3月
「忍びの国」  和田竜
「恋空」  美嘉
「ホルモー六景」  万城目学
「平成大家族」  中島京子
「婚礼、葬礼、その他」  津村記久子
「夏のくじら」  大崎梢

4月
「蛇を踏む」  川上弘美
「夏の名残りのバラ」  恩田陸
「フィッシュストーリー」  伊坂幸太郎
「天地人」  火坂雅志
「ファミリーポートレイト」  桜庭一樹
「密謀」  藤沢周平

5月
「犬はどこだ」  米澤穂信
「臨場」  横山秀夫
「シートン(探偵)動物記」  柳広司
「利休にたずねよ」  山本兼一
「遠まわりする雛」  米澤穂信
「テンペスト」  池上永一

6月
「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」  桜庭一樹
「タルト・タタンの夢」  近藤史恵
「沖で待つ」  絲山秋子
「新世界より」  貴志祐介
「ジーン・ワルツ」  海堂尊
「流星の絆」  東野圭吾
「星のしるし」  柴崎友香
「遊動亭円木」  辻原登

39冊。…そんなもんかしら?
梨木香歩がマイブームだったかも。どれもいいので、ベスト決めにくいけど…
「村田エフェンディ滞土録」がベストかな…
次が桜庭一樹。
赤朽葉家以上に好みなのはなかなか出ないだろうと思っていたけど、これがどうして。「ファミリー・ポートレイト」よかったです。ベスト3には入ります。

「タルト・タタンの夢」がすっごく好みなので~2作目も出ているそうですが、ぜひもっと続けて!

新しく読んだ作家さんでは、働く大人の女性の何気ない生活感が出ている作品が目立つかな。
津村記久子、絲山秋子さんなど…

伊坂幸太郎、万城目学は相変わらず、いい!
米澤穂信も「遠まわりする雛」これまでのベストかな。
初めて読んだ柳広司さんもすごく読みやすくて~お気に入り作家の仲間入り。

恩田陸は前から読んでいる作家さんだけど、多作なので読み切れていなくて、今年は多めに読んでみてます。
ちょっと前の作品がそれぞれよくて、やったぁ!て気分。
本格短編集「象と耳鳴り」と子どもが主人公の冒険物「上と外」など、全然違うけど、どっちもよくて。

ベストセラー作家・東野圭吾さんも~「流星の絆」が私的にはこれまでで一番よかったです。

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「いっちばん」

畠中恵「いっちばん」新潮社

2008年7月発行。しゃばけシリーズ第7弾。
いつものメンバーの~かわいくて楽しいお話でした。

表題作になっているのが「いっちばん」
長崎屋の若だんなの元気がない!
もともと病弱なのですが~幼なじみの栄吉が、和菓子作りの修行のために家を離れているので寂しいんですね。
前の通町界隈に掏摸が出て、しかも金持ち狙いなので問題に。
日限の親分が若だんなに相談に来ましたが、肝心の若だんなは…
元気を出して貰うにはどうしたら一番良いか?と頭をひねる妖たちです。
金平糖をかじる鳴家がかわいい。

「いっぷく」は、新しく店を出した唐物屋が、廻船問屋長崎屋に勝負をしかけてくる顛末。
江戸時代の商売のありさまが面白いです。

「天狗の使い魔」は、気がついたら天狗と空を飛んでいた若だんな。
さらった天狗の名は、信濃山六鬼坊。
話し相手だった山伏が亡くなったので、せめて山伏が飼っていた管狐を貰い受けようとしたがいれられず、人質として若だんなをさらったとわかります。
それは無理な要求なのですが…
なんとか納得させられないかと勝負しようと持ちかける若だんなが優しい。

「餡子はあまいか」は、安野屋で修行している栄吉が巻き込まれた事件。
器用な新入りは達成感がなかったらしく、栄吉は1つのことをやり続けることも才と言われるのでした。
「ひなのちよがみ」はお雛ちゃんのもめ事。
珍しく、若だんなの推理は必要なかったというのも…またよきかな?

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「遊動亭円木」

辻原登「遊動亭円木」文藝春秋

「花はさくら木」で初めて読んだ作家さん。
評判のよさうなのを選んだら、面白かったです。
谷崎潤一郎賞受賞作。

目を悪くして引退した落語家・遊動亭円木が主人公の短編連作。
才能があるようなないような~それほど売れなかった割には忘れられない味がありそう。
妹夫婦が経営するボタンコートというマンションの一室で、ごろごろ。
縁あって出向いた先でも、ごろごろ。
近所にある深い金魚池にはまって命を落としたという噂が広まるなど~とぼけた展開が面白いんです。

上海から来てマンションに住んでいた女性・王安莉が難病となり、同棲していたわけありの男・陳が逃げ出した後、入院に付き添う優しさ。
じつは、けっこう男前だったりして。
寧々という女性と、意外な縁ができるのも納得?
お酒やちょっとした食べ物、天然水なども、美味しそうなこと…

近所に住むパトロン的存在・明楽のだんなには可愛がられ、金魚池を埋め立てた土地を買って、あらたに金魚池のある庭園を築く道楽につきあいます。
奇妙でファンタジック、落語めいた人情味あるお話。
どっちかといえば、男の夢だろうけど…ちょいと泣かせる。
落語を聞きたくなるというか、落語をやってみたいような気分になりました。
とぼけていながら濃い味わい~読み応えあります。

2004年3月発行。

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「星のしるし」

柴崎友香「星のしるし」文藝春秋

30歳になる女性・野村果絵の揺れる心を描いた作品。
どうということはない日常のちょっとしたことを観察している~冷静な視点が面白いです。

恋人はいるけれども、結婚の予定はない状態。
かって結婚直前でとりやめた過去があったりします。ありがち…?
職場の先輩の熱心な薦めで、ライフカウンセリングの先生の所に行ってみます。
ヒーリングでマイナスエネルギーを調和して貰ったらしく、熟睡して肩こりが軽くなるのでしたが、1万5千円するので、それ以上通う気にはなれない。
とくに不幸でもないが、すごく幸福というのでもない、どうしてもと思う指針やこだわりもない…
こだわりがないのが不満なような。

その先輩は何故か、化粧が濃くなっていき、どうやら恋人が出来たらしいとわかってきたり。
風来坊が彼氏の家に転がり込むように馴染んでいたのが、ふっと姿を消したり。
友達と占いに行ってみたりしながら、何となく過ぎる日常。

ちょっとだけ変化があり、気づいたことがあり。
淡々としている中で、それぞれの生きているちょっと奇妙で少しだけ必死な感じがじわっと来ます。
著者は1973年生まれ。2008年10月発行。

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「流星の絆」

東野圭吾「流星の絆」講談社

昨年ドラマ化されたので知っている人も多いと思います。
私も見ていました。

功一、泰輔、静奈の3人兄妹は、横須賀の洋食屋アリアケの子ども達。
ペルセウス座流星群を見に家を抜け出した夜、帰ってきたら両親が殺されていた…
腕の良い料理人だった父には、ある問題もあったのですが。
施設に預けられて育った3人は、チャンスを待ちながら成長し、いつかきっと犯人を突き止めて復讐しようと誓います。

血の繋がらない妹・静奈をとても大事に思っている二人の兄。
いつの日か復讐を実行するために、事件の時から顔なじみの刑事には兄弟の付き合いはもうないようなふりをしながら、じつは小さな詐欺でお金を稼いでいるのでした。
結婚詐欺のカモにしようとした青年・戸神行成に近づくうちに、その父親である「とがみ亭」の主人が怪しいと睨むのですが…

ドラマもテンポ良く描かれて面白かったのですが、原作を読んでみても配役がピッタリなのがわかります。
静奈は原作の方が大人っぽい迫力ある美女だけど…まあどっちもいいでしょう。
兄弟の思いやりがなかなか雰囲気よく、後味はとてもいい感じでした。
しあわせな気分になってしまったので~おいおい、いちおう人が死んでるんだけど…と思ったほど。
でも事件は子どもの頃だし、救いのある展開だったのでね。
2008年3月発行。

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「ジーン・ワルツ」

海堂尊「ジーンワルツ」新潮社

チーム・バチスタと同じ世界を舞台にした小説ですが。
現役医師として産婦人科の問題について提言というか~ずばずばと断言してあります。
一気呵成に書かれたようで、一気に読めます。

クール・ウィッチとあだ名される女医・曾根崎理恵。
帝華大学で発生学の講師をしている新鋭の医師です。
組織からははみ出し気味ですが、講義ぶりも大胆で小気味よい。
直接の上司である清川准教授にたしなめられながら、逆にだんだん主導権を握っていくような…?

理恵は、マリアクリニックという所でも産婦人科の医師として勤めているのですが、そこは閉院の危機に瀕していました。
原因は、何よりも小手先の医療改革のあおり。
たまたま北海道で産科医療の重責を担っていた息子が訴えられるという事件が起き、こちらでは、その母である院長が重い病気になるという悲運が重なります。

閉院まで決して見捨てずに仕事を続けると断言する理恵。
残った患者数人はそれぞれ年代も事情も違い、ある意味テストケースのよう。
50代の女性は代理出産ではないかと清川は疑うのですが…

問題解決は…理恵が離れ技を演じて、やったね!という物語になりますが~一般化できないような特殊ケースなので…
意見ははっきりわかっていいかもしれないが~小説として、もう少しふくらみが欲しい気も?
作者は1961年生まれ。
2008年3月発行。

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「新世界より」

貴志祐介「新世界」講談社

人口が激減した未来社会を舞台に展開する~ドラマチックな冒険もの。
ある集落で育つ少女・渡辺早季の視点から、図書館や学校が独特な権威を持ち、呪力という超能力のある人々の暮らしが描かれます。
一見したところは素朴な村なのですが、徹底的に管理された社会で、そのことに気づかずに育った子ども達が次第にいやおうなく、事態の変化に気づかされていくのです。

12歳の頃からの記憶から始まります。
優等生の瞬、赤毛の真理亜らと、和貴園で育った幼なじみへの恋心。
しだいに起きる異変…
野外学習でバケネズミと出会った彼らは、異様な体験をすることになります。
早季たちは、この時の記憶を改変されて成長しながら、どこか違和感を感じ…

バケネズミというのは大型で知性のあるネズミで、ハダカデバネズミを遺伝子改良して生み出されたもの。人間が携わらない下水掃除などに使役されていました。
女王を中心として群れを作るハダカデバネズミというのは実在するんですね。たまたま記事を見つけて驚愕しましたよ。見た目が何とも…名前の通りでcoldsweats01

大人になった早季は、保健課の異類管理という閑な仕事に就きます。
神栖66町で育った幼なじみは、ほとんど行方がわからなくなっていました。
町の外で起こったバケネズミどうしの争いが、思いもよらない事態に発展していきます。
早季は、もはや誰も近づかない古代都市・東京まで、向かうことに…
この社会の成り立ちの真相は?

なかなかの意欲作で、がっつり書き込まれています。
化け物がたくさん出てくるので、怖いのが嫌いな人はダメかも?
CGありの映画だったら違和感ないような雰囲気です。
かなり迫力ありました。
2008年1月発行の書き下ろし。

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「沖で待つ」

絲山秋子「沖で待つ」文藝春秋

2006年、134回芥川賞受賞作。
一作目「勤労感謝の日」は、働きづめに働いてきたキャリアウーマン・恭子が、セクハラ上司を殴って首に。
失業保険を貰いつつ、翻訳の仕事で娘を養う母と暮らしている状態になってしまう。
総合職としていい目を見たと思われがちなのでしたが、睡眠時間を削るほどの長時間労働はいったい何のためだったのか…
36では再就職も難しく、見合い話を持ち込まれても断り切れないのですが、これがまたイヤな相手で…
ずばずばとした語り口で、リアル。

表題作の二作目のほうが、ふくらみと意外性がありますね。
会社の同期の~男女を越えた仲間意識というテーマ。
及川は、東京の大学を出て住宅設備機器メーカーに就職、いきなり福岡へ赴任する羽目になり動揺したものでした。
案ずるより産むが易しというか~住めば都というか~それなりに落ち着くのですが。
同じ立場の太っちゃんこと牧原太と、決して恋愛にはならない関係ながら、同期のよしみで何となく友情が育っていきます。
太っちゃんとは、死んだら互いのパソコンの中を人に見られないように密かに破壊すると約束し合うのでした。

それなりに秘密があるのね~これがまた。けっこう妙でユーモラス。
星形ドライバーを使ってHDDを破壊するのか…
変わったタイトルの響きとその意味が、なかなか面白い。
2006年2月単行本発行。

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「タルト・タタンの夢」

近藤史恵「タルト・タタンの夢」東京創元社

フランス料理の店で起きるささやかな事件を描いた短編集。
ビストロ・パ・マルは、下町の片隅にある~カウンター7席テーブル5という小さなお店だが、味自慢!
料理長の三舟はフランスで10年以上修行して、名字とその風貌からサムライとあだ名されていました。
料理人の志村、ソムリエの金子ゆき。
ギャルソンは僕こと高築智行だけ。つまり、彼が語り手です。

豚足とレンズ豆の煮込み、シュークルート、ブイヤベースなど気どらない料理が主なお店。
こんなお店が近くにあったらなあ!happy01

パティシエはいないのでデザートはよそからも仕込み、料理長や料理人も作ることがありました。
常連の西田が、婚約者と食事をした後に体調を崩したというそのわけは?
その時に出たというデザートのタルト・タタンから、料理長が謎を解きます。

好き嫌いの多いお客と、その愛人の顛末は?
志村とその妻で歌手の麻美のフランス時代の思い出、ガレット・デ・ロワなど。 妻がフランスから買ってきたジャムを人にあげたら、妻が出て行ってしまったという、それほど怒った理由は?等々。

こういうのは、すごく楽しいですね~。
2007年10月発行。

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「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」

桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」角川グループパブリッシング

2004年に富士見ミステリー文庫から発行、2007年に単行本化。
何かに取り憑かれたように書き上げ、じりじりとコンスタントに売れ続けた不思議な作品であるらしいです。
2008年漫画化もあるみたい。読んでないけど。
2009年2月文庫化。

海野藻屑という妙な名前の転校生は、がりがりに痩せた美少女。
地元出身で一時は有名だった歌手・海野雅愛の娘とわかります。
同級生の山田なぎさは藻屑になぜか懐かれて、なりゆきでウサギの飼育係を手伝わせたりするのでした。

なぎさは何年も前に海で父を失い、その後ふとしたことから兄の友彦がひきこもりになっていました。
美しく頭がいい兄なのですが~何の役に立たないという。
母は働きづめで、貯金も保険金も生活保護も兄がネットでする買い物で底をつく有様。
なぎさは兄を守ろうと思い、中卒で自衛隊に入ろうと考えています。

藻屑の奇妙な言動を、砂糖菓子の弾丸と表したのが兄。
人に危害を与えることのない弾丸…そういう鋭いところはあるのでした。
同級生でなぎさが好意を持っていた野球部員・花名島は藻屑に恋し、3人で映画に出かけることになりますが…

不安定で鮮烈で妖しく哀しい~少女と少年。
中学生にはどう行動していいか判断が難しい状況で、無惨な事態に。
大人でもそれは手をつかねることなのですよね…
それでも、人生は続く…

桜庭さんらしい作品だと思います。

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「テンペスト」

池上永一「テンペスト」角川グループパブリッシング

琉球版ベルばらというか琉球版チャングム?
波瀾万丈の物語です。
時代は19世紀末、舞台は王朝末期の琉球。
大国の狭間で生き抜くために、優秀な人材が求められていたそうで、科試という(科挙のような)非常に難しい試験があったのですね。
とはいえ女子は教育の機会がほとんどなく、主人公の真鶴は男子誕生を期待した父に失望されて、名前もつけて貰えなかったほど。
養子の兄・嗣勇は官吏には向かないと家出してしまい、勉学好きな真鶴が猛勉強。
宦官と偽ってですが~何と13歳で、試験に合格してのけます。孫寧温と名乗り、才覚を生かすことになるのですが…

同じ時に15歳で合格した朝薫とは、良き友に。
兄は宮廷で女装して踊る踊童子になっていて、男女逆転したような立場となって、宮殿で再会します。ひそかに助け合うことに。
やがて、真鶴は日本人・雅博に出会って惹かれるのですが、その心を押し殺すのでした。

頭の切れる寧温は、難しい時期の外交に活路を開き、若くして評定所のトップとなりますが、秘密を知られて王の姉・聞得大君に脅されます。
当時の琉球では、王の姉妹が巫女として王を守るという制度があったのです。聞得大君は、王妃以上に絶大な権力を持つ霊能者でした。
この女性も波乱の運命をたどり、最下層に落ちたのを助ける男性の泣かせるエピソードも。

八重山島に流刑となった寧温こと真鶴。
やっと都へ行くチャンスをつかむのですが、それはなんと側室への道。
朝薫と親戚の真美那という天然お嬢様の友を得るのですが…
幕末の日本とも絡み、ペリーとも渡り合う離れ業を演じます。

歴史物的な面白さだけれど、時々突拍子もない展開があり、あ~これって歴史じゃなくてファンタジーなのか?と。
前の作品のはちゃめちゃさとは、またちょっと違うんですけどね。
一部悪趣味なのが何だけど…
いや~すっごく面白いです。

2008年6月号まで野生時代に連載、8月単行本発行。

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「遠まわりする雛」

米澤穂信「遠まわりする雛」角川書店

古典部シリーズの短編集。
古典部といっても古典がとくに問題になるわけではなくて、ひょんなことから部活で放課後を一緒に過ごすようになった高校生4人組が主人公のミステリ・シリーズです。
どちらかといえば軽めでユーモラス、日常の小さな謎を解く方が多いタイプ。

神山高校入学一ヶ月後、省エネ主義の折木奉太郎のぶつぶつ語る話「やるべきことなら手短に」から、長篇を補充するような形で少しずつ時がたっていくようになっています。
2007年雑誌掲載~10月には単行本発行。

表題作は書き下ろし。
古典部メンバーの一人・千反田えるは、豪農のお嬢様で跡継ぎ。
桃の節句に、千反田えるの地元では、生き雛に扮して行列をする習慣があるのです。
参加者に欠員が出来てホータローが急な代役を頼まれ、神社へ出向きます。
桜の舞い散る下を十二単を着て通るとは、なんとも美しげ。
なんだかんだで、えるには弱いホータローも、ついに省エネ主義を脱却せざるを得なくなりそうかも…?

そして、微妙な関係の福部里志と伊原摩耶花のバレンタインデー、友情と恋愛の行方は?
高校生らしく露骨な進展はないのですが、さわやかにというかちょっと照れる~感じで、心がほのかに通い始めるんですね。
なかなかハッピーで、楽しかったです。

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「利休にたずねよ」

山本兼一「利休にたずねよ」PHP研究所

利休の切腹の日から、いろいろな時点に遡る構成。
視点もつぎつぎに秀吉や、細川忠興、織部、家康、三成、利休の妻や師などと変えていく趣向になっています。

老いて沈着に見える利休の~内心の激しい憤怒と、秀吉との葛藤。
堺の魚屋の息子・与四郎がどのように成功し、なぜ死を賜ることになったのか。
利休の茶といえば侘び寂びという言葉の渋さにとどまらない、強いイメージが広がります。
利休の審美眼に驚嘆する人々、美しさへの執着のすごさにそれも欲と思う僧や、半端な弟子の懲りない性分など、面白く描けています。

茶道にのめり込んだ日々、若い頃の情熱…
高麗から拐かされた美しい姫との若い日の短く激しい恋が、心の奥に眠っていたという~その印象は鮮烈です。
宣教師のヴァリニャーノまで登場。
緊迫した時代の空気感が感じられるようで、堪能しました。

この作家を読むのは初めてかな…
臨場感のある描写で、きりっと引き締まった文章。利休という題材にふわさしく、完成度が高いといえるでしょう。
第140回(2008年度下半期)直木賞受賞作というのも納得です。

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「シートン(探偵)動物記」

柳広司「シートン(探偵)動物記」光文社

シートン動物記で有名な、あのシートンが探偵役という設定の短編集。
新聞記者である私に、高齢になったシートン先生が知られざるエピソードを語る、という形式になっています。
何となく古きよき時代を思わせる文体で、自然な雰囲気。
じつは動物たちが事件を解決した?!といった趣向になっているのがとても楽しい。

「カランポーの悪魔」はあの狼王ロボが登場、近くの農場で恐れられていて、しかもそこで人が殺され…?!
「銀の星」はホテルでの密室盗難事件。シートン先生がよく知っているカラスの群れが登場。
「森の旗」は、貧しい家に飼われていたリスが関わった…
ネタばれになるので書けませんけど。

読みやすく、ポイントを押さえてあって、なかなかいい感じです。
2006年5月発行。
「シートン動物記」は子どもの頃に熱心に読みましたが、じつは内容をほとんど覚えていません。
哀しい部分が多いので~どうも記憶から抹殺してしまったようなんですね。

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「臨場」

横山秀夫「臨場」光文社

ドラマ化されるので、その前に読んでみました。
凄腕で知られる検視官・倉石義男が主人公。
L県警で、腕の確かさを知られ、終身検視官の異名を持つ警視・52歳。
痩身で職人気質、ヤクザのような物言い。

といっても視点は他の人で、次々に変わります。
その人が事件にどう関わるかわからないのが、スリリング。
組織の縄張り意識や対立、記者との駆け引き、事件に個人的な関係を持つ刑事など…どう転ぶかわからない~変化に富んでいます。
比較的抑えめの文章で、ばさばさと切り込んでくるような内容。
揺さぶりをかけてくる展開が面白い。

検視官というのは解剖はしないようので、アメリカで言えば~検死官のスカーペッタよりも、鑑識のリンカーン・ライムに近いのかな?
といっても、CSIのような水も漏らさぬ鑑識という感じではないけれど。
日本のドラマのテンポで、事件物を45分にまとめるのは大変そう。
事件数がそんなにないのは、あらたに創作?
これまでの所はかなり、原作に忠実です。どうなるのかな…

ドラマは内野さん主演ということで~原作よりは少し若々しく、まともに見えます。
とても優秀で、まあ人あたりはぶっきらぼうで、辛い過去もあるようだし、雰囲気は組織からはみ出しそうだけど、人の良さそうなのがありあり。
辛いことも知っている、力を尽くすことも知っている、目の表情がいいですね。
家にやたらと植物をおいているという設定になっていて、話しかけて可愛がっています。
おそらく妻を亡くした後、いっさい捨てられなくなり、ひたすら増やしているのかな…?
「根こそぎ拾ってやる」というのが決めのセリフですからね!?

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「犬はどこだ」

米澤穂信「犬はどこだ」創元推理文庫

新米探偵が地元の事件に取り組む話。
といっても、ほとんど巻き込まれ型みたいな~成り行きなんですけどね。

優等生だったのに就職した後に思いがけない理由で挫折してしまい、あえなく2年で退職することになった紺屋長一郎。
半年ほど呆然とした後に、迷い犬を探す事務所を開くことにします。
妹の梓夫婦の経営するカフェに近い部屋を借りて、のんびり仕事をしようとしていたのですが、なぜか来た依頼は人捜し。
剣道部の後輩・ハンペーが探偵に憧れて押しかけてきて、いきなり助手も出来るのでした。

失踪した若い女性・桐子を長一郎が調べ、もう一つの調査はハンペーに任せることにします。
村の神社にあった古文書を調べて欲しいという依頼でしたが、これが次第にリンクしてくるのです。
ネットなど現代的な要素と、戦国時代の土地の言い伝えが予想外に繋がるあたりが面白いです。

気力を失っていた主人公が次第によみがえるのも、なかなか良いところ。
ただ事件はえーっと…あれでいいのか?ネタばれになるので、あまり書けませんが。
後味はあまりいいとは言えないんですが…まあ新鮮な方でしょうか。う~ん?
2005年7月発行。

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「密謀」

藤沢周平「密謀」新潮社

直江兼続のことを他の作家がどんな風に書いてきたのかな?と。
藤沢周平なら、かたいでしょう!
たしかに手慣れた描写で、安心して読めます。

人物像はそんなに変わりないですね…
兼続はもう大人になっているところから始まるので、立場はしっかりしてます。
妻のお船はちょっとしか出てきません。家付き娘で権高いところもちょっとあるが、まあ上手くいっている夫婦という。
後年になってから会った石田三成とは意気投合するんですね。
渋めですが、満足のいく読後感。
戦国武将の力関係の大きな動きが見えてくる感じがあって、迫力があります。
え~と、やはり時代物は、歴史の流れをこれぐらいは説明してくれないと…

密謀とは地味な題?と思ったけど、三成と挙兵のタイミングを合わせたあたりを指すんでしょうね。
天下に一番直接関わり合った時点ということでしょうか。
他の点でも虚々実々のせめぎ合いが続く~戦国時代ですが。
信長秀吉よりも家康との戦いがクライマックス。
チャンスを待っていた家康の自信満々な感じ、でもそれをそのままにはさせないと思う勢力も意外にあって…激しくせめぎ合うのですが。
関ヶ原の決着で、ずばっと終わります。

脇筋で、越後の隠れ里の草(忍び)達と、流れてきた孤児の兄妹の話が。
妹娘はお船が手元で育て、兄・静四郎を兼続が兵法者に預け、彼らが暗躍するという話になっています。
彼らの恋愛があるけど、兼続本人は落ち着いたもの。
とはいえ頭が切れるだけに野心もないではなかったのに、景勝が望まなかったため、ここまでとなるんですね。
ものすごく口数の少ない景勝がふっと語る一言に趣があって、なかなかいいのです。
この作者の、原作ドラマや映画は何度も見ているけど、考えてみたら本読んでなかったかも…
納得がいく…切ない終わりでした。

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「ファミリーポートレイト」

桜庭一樹「ファミリーポートレイト」講談社

とっぷり桜庭一樹カラー全開。
けっこう濃厚で強烈なので、これを最初にとは勧めないけど…
どの作品の次でもいい感じ。
主人公が大人になるまで、しっかり描ききってあるので。

若く美しい母親はマコ、その娘がコマコ。
コマコの視点から語られる、二人だけが密着した流浪生活。

赤い物が流れていた階段から母と二人で逃げる、原初の記憶。
子どもはいないことになっている部屋で育ち、学校へも行かないまま。
追っ手がかかっていると知ると、また別な土地へ。
どうなるのかと、はらはらさせられます。

悪夢のようでもありますが、ただ母だけを熱愛する幼女の感覚がいきいきと描かれていきます。
身元がわからなくとも生きていける場所は、どこかに少しはあるんだな…なんてね。
葬式婚礼、豚の世界の女王、などの章は、それだけでまとまった幻想譚のよう。

やがては遅ればせの学校生活…
食べることに興味がなく、痩せて背の高い娘になり、高校時代は妙に女の子にはもてたり。
文壇バーでのバイトでも、カウンターで寝泊まりする有様から、いつしか転身。
ストーリーを知らない方が面白いかなあ~?
でも細部も書き込んであるので読み応え有り、あらすじを知っていても予想通りという展開ではありません。
若い女流作家となってからも、まだまだ続く!?

救いのある結末。
切ないです。

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「天地人」

火坂政志「天地人」日本放送出版協会

NHK2009年大河ドラマの原作を読んでみました。
直江兼続の生涯を描いた作品です。

家老の息子で、頭脳明晰のうえ、眉目秀麗。
景勝の母である仙桃院に見いだされ、謙信にも気に入られて教育を受けたのは、史実どおりなんでしょう。
口の重い主君・景勝を補佐し、執政としてすべてを担ったという。
景勝の方はちょっと頭悪いんじゃ…ってぐらいの印象ですねcoldsweats01
人柄は落ち着いているので、兼続と名コンビになれたわけで。
兼続はやや出来すぎな感じで、感情移入はしにくいかも。欠点といえば才走る傾向だけ?
とはいえ、ストーリーはわかりやすく、さらっと描かれています。

ドラマの最初の方での印象的なエピソード(泣き虫・家に逃げ戻ったときに景勝が迎えに行った・初陣で殺せなかった、など)はほとんど脚本家の創作らしい。
あるいは他の資料による部分もありなのか?
あちこちに暗躍する忍びの娘・初音は、原作では、呪術師などが集まる村で育った歩き巫女。武田方に組みしていたが上杉に縁をつなごうとするという設定になっています。
真田家の生まれなのは同じですが…ドラマでは信長のそば近くにいるってのは危険すぎるような気が?!

大河ドラマの行く先を、ちょっと先取りで読み終えてしまいました。
上杉の見地から見ると、天下の趨勢はこう動いたのか… という興味で読めます。
意外な行く末をたどる人も…
動乱の時代に、上杉も波乱の運命をたどります。
兼続は、家臣としては異例な30万石を秀吉から賜ったこともあるという。
(これは返上して6万石だけ受け取ったそうですが)
兼続の書いた漢詩なんて、残ってるんですね~しかも恋歌?!
初音と、妻のお船と、さらに利休の娘と、3人の美女と絡むモテ男。まあハンサムで頭も良く、妻と離れている時期もあったとなれば、長い人生の中でこれぐらい可かなぁwink

天の時、地の利に叶い、人の和ともに整った武将はかってない、とは謙信の言葉。
それを理想の武将として目指したのでしょうが、それがすべて揃った時には自ずと争乱もなくなると。
私利私欲でなく義を貫くこと。
ただし、無用な血を流すことなく、生きるためには長い物に巻かれる?ことも… (こういう表現はありませんが)

最後は民のために徳川の軍門に下るのが、天地人の人の巻という終わり方ですね。
120万石から30万石に減らされても、リストラすることなく領地を経営したというのが一番えらい!印象が残ります。
経済的に混乱している今の時期に読むとね。

教養もあったという妻のお船は、秀吉の頃には景勝の正室に付き添って京へ滞在、後には女としては異例の三千石扶持だったという~活躍ぶりはなかなか頼もしい。

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「フィッシュストーリー」

伊坂幸太郎「フィッシュストーリー」新潮社

2007年発行の短編集。
フィッシュストーリーとは、英語でほら話の意味もあるとか。
最近、映画化されましたね!
そのままではないらしいですけど…
「終末のフール」も少し加えられているのだろうか?

「フィッシュストーリー」は売れないバンドの最後の録音にまつわる話。
無音の部分がある不思議の理由、後々になって思いがけない影響が…
「サクリファイス」はへんぴな村でのおこもりの習慣に関わるミステリ。
因習のある村に、人を探して入り込んだ黒澤は…?
この本には、空き巣のプロの黒澤(ゴールデンスランバーなどに登場)が出てくる話が2本含まれます。

「動物園のエンジン」はシンリンオオカミが脱走した事件の後に退職した職員・永沢の謎。
ホームレスのようになりながら動物園に出入りしている彼は、動物に愛されているのか?彼がいるといないとでは動物園の空気が違うという。
動物園を訪ねた旧友が、何があったのかを推理していきます。

「ポテチ」は、新米の空き巣狙い・今村の恋人になった女性・大西の視点から、野球選手・尾崎や、それに絡む女性との奇妙な縁の話。
空き巣にも普通の生活があるのが、奇妙でほのぼの。結末は切ない。

変わった人が多いですが、ありえないほどでもないかもしれない?登場人物達、奇妙ないきさつがどう転ぶかわからない…
どこかユーモラスでもの悲しさもあり…とても面白かったです。

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「夏の名残りの薔薇」

恩田陸「夏の名残りの薔薇」文春文庫

山の斜面に孤立した豪華なクラシック・ホテル。
嵐の山荘を思わせる館に、毎年秋になると、招かれた客達が滞在するのです。
沢渡財閥の三姉妹は、招待客を前に意味ありげなお喋りを続けます。毒気のある内容なのに、なぜか聴かずにはいられないような…

三姉妹の甥・隆介の妻で妖艶な桜子は、秘密の関係を伯母に気づかれます。
今まで来たことがなかった育ちの良い夫・隆介がいつになく駆けつけ、周りは緊張するのでした。
次女の娘で女優の瑞穂も、様子がおかしい…

秘密を抱えている人、一部を知っている人、ほのめかす人、疑う人…
それ以上の悪意と恐怖が館を覆っているような…
かって三姉妹に何があったのか?
映画「去年マリエンバートで」をモチーフに挿入しつつ、記憶の変容をテーマに描く、意欲的な作品。
語り手によって次々に説明が変わっていくのです。そこまでしか知らないのか、嘘なのか、記憶違いか…?
本格推理のバリエーションとして書かれた物のようですが~理屈で割り切れない耽美ホラー系の酩酊感があります。

2月前半に読んだのですが、あまりに季節はずれなので、アップは少しずらしました。内容的には何年にもわたる話なので、読むのには差し支えありませんでしたけどね。
単行本は2004年9月発行。

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「蛇を踏む」

川上弘美「蛇を踏む」文春文庫

1999年発行。第115回芥川賞受賞作。
「センセイの鞄」が受賞作かと勘違いしていて、しかも、この作品も読んだ気になっていたのが読んでなかったことに気づいたので、読みました!

表題作は、数珠を作って売る店に勤めるサナダという女性が主人公。
サナダって。
ある時、道で蛇を踏んづけたところ、踏まれたからしょうがないと蛇が立ち上がって人間の女性の姿になり、部屋に居着いてしまう。
母と名乗って料理を作り、いらだちつつも断り切れずにいると、なぜか体を巻き付けてきたりして。
夜はするすると天井に登り、寝ているのでした。
同じような現象が、実は勤め先でも起きていて…
お寺の住職の大黒さんが、実は蛇だという?
不条理でどこかとぼけた、少し色っぽい妙な小説。

「消える」は、家族が5人と決められた社会で起きる出来事。
ゴシキという先祖の霊が入っているとされた壺がある日消え、兄の姿が消え…
展開によってはSFの短編にもなりそうだけど。
管狐(くだぎつね)を飼うと良いことが起きるいう話があり、基本は妖怪好きなのかしら~というより作者自ら後書きで言う「うそばなし」!ですね、まさしく…

「惜夜記」は短編連作のような、悪夢のような、綺麗に磨き上げられた、つくりばなし。
「センセイの鞄」しか読んだことがなかったので、ややびっくりしました。
なるほどねえ…これが芥川賞かぁ。
「文学にはオチがないんだ」と友人のダンナが言ってたことを思い出しちゃいました。

著者近影が隅っこのカットでなく1枚入っているのは、ヒロインのイメージだから?やはり美人だからなんでしょうね~bleah

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「夏のくじら」

大崎梢「夏のくじら」文藝春秋

大学に入って、地元の祭りに参加することになった若者の夏。
丁寧にわかりやすいエピソードが重ねられ、今時珍しいさわやかさがあって、なかなかよかったですよ。

高知で大学に入って、祖父母の元から通うことにした篤史。
東京育ちなのにと驚かれますが…
中学3年の時に一度だけ参加したことがある、8月のよさこい祭りに、鯨井町のチームのスタッフとして参加することになります。
従兄弟の多郎に押し切られたような形でしたが、実は4年前に出会った年上の女性のことがずっと気にかかっていたのもあって。

チームのテーマは元気な~恋するくじら。
篤志は、サイトを作る係になり、プロのダンサー・カジから踊りの特訓も受けます。
協調性のない性格で、衝突もするのですが…
大がかりな行事は知らないことばかり。みんなで作り上げていく熱気が楽しい。
うちの近所のお祭りにも、よさこい踊りのチームが来ること、あるんですよ。こういうののセミプロの人だったのかなあ?

篤志が初恋の人を探しているという噂がだんだん広がり、皆が協力してくれます。
それぞれの人生が、ちょっとだけ動いていく時期でもありました。
春から夏にかけて読むのにピッタリですね。

2008年8月発行。
作者は2006年「配達あかずきん」でデビュー。

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「婚礼、葬礼、その他」

津村記久子「婚礼、葬礼、その他」文藝春秋

今期、芥川賞を受賞した作家さん、昨年の作品です。
わかりやすく現実的なので~とっつきやすいと思いますよ。

OLのヨシノは、人を呼ぶ側に立った記憶があまりない。
母子家庭で母の勤務が長く、お誕生日会などもしなかったのですね。
最近は呼びつけられる事が増え、今年3度目の披露宴に出席することになったのでした。
それが、同じ日に旅行を予約した当日。 すぐキャンセルする羽目に…
親しい友美と内田君だから、スピーチと二次会の幹事まで引き受けることに。
当日、なんやかやで飲まず食わずで準備して会場入り。
ところが、スピーチ前に上司から連絡が入り、マジマ部長の父が亡くなったのでお通夜に駆けつけろと言われてしまう。
生と死と…ありそうなてんやわんやの中での思い。
泣きたくなっちゃう日、誰にでもありますよね~!

同時収録の「冷たい十字路」は、二つの高校の通学生が自転車をとばす危険な道で、衝突事故が。
目撃したOLのイマザト、注意事項を配布する仕事にかり出される高校生たち、怪我人と一時付き合っていたミドリバシ、その教え子で現場を通学する小学生のひかる、その母イタカノ…
さまざまな視点から語られます。
現実に危険な地点ってありますよね。
道路事情もあり、人間関係もそこに人知れぬファクターとなって加わる…
ちょっとぞくっとする、不可思議な味わい。

2008年7月発行。
作者は1978年生まれ。

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「平成大家族」

中島京子「平成大家族」集英社

子ども達が巣立ったはずの家へ、いろいろな理由で再び家族が舞い戻ってくるという話。
夢に描いたようには、なかなかうまくいかないもの…
幸福な人生とは?
試行錯誤しつつ、にぎやかに展開する家族の行方。

一家の主・緋田龍太郎は、歯科の仕事をほぼ引退して、悠々自適のはずでしたが…
2006年、30歳になる長男・克郎は引きこもり~父親はふだん忘れようとしているその姿を見かけると、いらいらしてしまう毎日。

長女・逸子は期待をかけた愛娘でしたが、勝手に結婚して(父の観点からすれば)出て行ったのが、夫が破産して、親子三人で転がり込んで来ます。
孫息子・さとるは、有名私立中学から地元へ転校することになって、いじめに脅え、狭い部屋で親と同居する生活から切れて、物置に立てこもります。

次女の友恵は、さばさばしたキャリアウーマンと思われていましたが、じつは不妊治療に苦しみ、離婚してやはり引き上げてくるのでした。
若手の売れないお笑い芸人と関係があり…

龍太郎の妻・春子は、ぼけかかった実母のタケを介護する生活。
こんな大変な家族はいないように思うのですが、同窓生と会うと、そんなのは大したことないと次々にもっと苦労している例を聞かされ、ほとんど話を封じられてしまう。まあ、そんなもんですか? coldsweats01
タケの言動がおかしみを添え、平穏な状況なら一番心配なはずだけど、けっこうほっとさせる要素に。

一方、克郎とヘルパーのカヤノとの間に思いがけない愛が…
それぞれの視点から本音が語られ、かなりリアル。
一時は危機的ですが、ユーモラスな描写で笑える余裕はあり、徐々に道が開けていく~救いのある展開になっています。
ちょっと元気が出るかも?
作者は1964年生まれ。03年、「FUTON」でデビュー。

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「ホルモー六景」

万城目学「ホルモー六景」角川書店

鴨川ホルモーの続編?というのか、こちらは短編集。
京都の大学生たちが巻き込まれた謎の伝統行事・ホルモー。
普通の人には見えない小さな妖怪・オニを駆使して、大学対抗で戦うことになるのですが…
「鴨川ホルモー」を先に読んでないと、ちょっと無理がありますかね。
忘れないうちに読んだ方が良いかも?私も少し間を開けすぎました~。
関係なく読める話もありますが。

今回はもてない女子たちがメインという感じですが、それぞれの個性やこだわりがユーモラスに描かれ、テンポのいい文章で笑えます。
なかなか感じが良いのよね~。
女子学生が明治時代の京都で書かれた手紙を見つけたり、若き日にラブレターを書いて失敗したエピソードが「檸檬」につながる話とか。

時代を超えた手紙のやりとりをすることになる「長持ちの恋」は切ない…
手紙の相手が天正の京都にいる侍なんて…え、本能寺?わーっ大変ですがな…
京都の町のどこをどう歩くと、ここに描れた何かがあるのかな~京都ならではの歴史散策をしたくなりますね。
2007年11月発行。

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「恋空」

美嘉「恋空」スターツ出版

噂の携帯小説。
若者のすなる携帯小説なるものを読んでみようと、図書館で借りてみました。
今は携帯サイトで何十万も小説が書かれているんだそうです。
その一番有名な作品でしょうか?

高校に入って出会った美嘉とヒロの急展開する恋愛物語。
ヒロは美形だが金髪で、見た目は不良っぽく、近寄りがたい雰囲気。
高校に入って髪を茶色に染めて「高校デビュー」した、ちょっとだけヤンキーの美嘉は、最初は携帯(当時はPHS)で連絡をし合うのです。
ドラマはずいぶん綺麗な子が演じていたような気がしますが、文章ではとくに取り柄のない小柄な子という設定。
自分の体験を書いているからでしょうか。

ストレートな恋心と、デートの進み具合、ふいに恋人を失う悲しさ。
クラスの友達とうまくいく時と行かない時と。
しだいに新しい仲間も出来て、励まし合いながら将来の進路を決めていくのです。
理解してくれるBFも出来て、幸福になりかけるのですが…
壊れかかった家族の再生という面も。
波瀾万丈のストーリーですが、描写はわかりやすく、若い人にはすっと入ってくる文章なんでしょう。
共感しやすい要素が盛り込まれているし、悲劇的な状況を乗り越えて、なかなか前向きなのがいいですね。

元カノの嫌がらせがかなりすごい。こんなの、黙ってちゃダメだよ~!
仲の良かった姉がいてさえ、家族にはなかなか相談しないものなんですね。
いやがらせしていた人間も後になると謝ってきたりする所に希望が持てる?
ちょっと前の話なんだけど~今の若い人はこうなのか…という視点で読んでしまう大人でした。

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「忍びの国」

和田竜「忍びの国」新潮社

話題の「のぼうの城」に続く2作目。
信長の天下統一が成りかけている時代。
伊賀の地には二百数十年の間、守護もいないも同然で、城塞を築いた地侍が争いを繰り広げていたそうです。

信長の息子である信雄は、義父である北畠具教を、北畠に遺恨を抱く柘植三郎左右衛門らと共に暗殺、伊勢の地を手に入れます。
北畠の娘・凛は、政略結婚で信雄の妻だったわけですが~秘蔵の茶入れ・小茄子を隠し持って出奔。 当時は茶道関係の逸品には途方もない値打ちがあったんですね。
同行した日置大膳と長野左京亮は対照的な性格でした。
信雄は伊賀の挑発に乗り、信長の禁を破って、戦闘を開始しますが…

伊賀者は忍術をよくするが金次第で働くことから武士には見下され、伊賀は虎狼の族が棲むと貶められていました。
中でも無門とあだ名される男は凄腕でしたが、他郷の美しい姫・お国を妻にするためにさらってきたものの条件を出され、家を乗っ取られた状態で冷たくあしらわれている有様。
この妙なカップルが、なかなか泣かせる展開に持って行きます。

無門らの気の荒さやとんでもない技、独特な考え方などと、武士の側にもあるいろいろな立場や性格の違いが書き分けられていて、面白く読めました。
「のぼうの城」ほど一般性はないかも知れないけど、ある程度時代劇が好きならオススメ。
2008年5月発行。

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「象と耳鳴り」

恩田陸「象と耳鳴り」祥伝社

恩田陸にしては珍しい~本格ミステリの短編集。
1999年に編まれた物の、2003年発行の文庫版でした。
こんなのがあるの、知らなかったんですが~かっちりと練り上げた味わいに感動しました。

退職した判事・関根多佳雄を主な主人公に、その周辺で起こる事件。
高齢の男性の視点だからか、男性が書いたかのような淡々とした面もあり、女性ならではのなめらかさもあり…
どっちかというと渋めですが、かなり読みやすい方ではないかと思います。

ふとしたことから気づく友人の死の真相。
渋谷の雑踏に突然現れた男の死体の謎。
写真を見て持ち主を推理しようとする関根の息子と娘など、思いがけない着想が楽しく、なんともいえない面白みがあります。
関根一家が登場する作品は他にもあるのかな?

「往復書簡」というタイトル通り、手紙の往復するうちに事件が解決する話なども、 趣向が凝らされていますね。
発表当時、洗練の極みという評があったというのもうなずけます。

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「おそろし」

宮部みゆき「おそろし 三島屋変調百物語事始」角川グループパブリッシング

2008年7月発行。
神田で袋物を扱う三島屋に来て働いている姪のおちかは、叔父夫婦には可愛がられているが、実家にはいられない事情を抱えた身。
おじの碁の相手をするために来た客が庭の花を見て、ある身の上話を始めます。
おちかも何か経験したことがあると察したために、誘われたかのようでした。
それ以来、おじの発案で、珍しい不思議な物語を人から聞いて集めるという聞き役をすることになるのです。

最初に現れた粋な女性は、子どもの頃に百両で1年間、家族がふしぎな屋敷に住み込むことを頼まれた話をしますが…
おちかの実家でのいきさつもじょじょに明らかに。
言いにくい経験を抱えた人の思いが交錯し、取り返しのつかないことを悼みつつ、しだいに恨みも苦しみも晴れていく…
おちかが訪ねてきた兄と再会するあたりでは、もう泣けました。

地道にてきぱきと働く三島屋の人々の様子が心地よく、江戸情緒のいい面を味わえます。
そこに隠された哀しみや、異様な出来事の対比がお見事。
後半は、一部ちょっと「百鬼夜行抄」と似た感じで、私にとっては非常に読みやすかったです。
RPGも書いてるし、ほんとに何でも書く人だけど…
時代物での切なさなどは、もともと通じるものもあったかも知れませんね。

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「村田エフェンディ滞土録」

梨木香歩「村田エフェンディ滞土録」角川書店

1899年、土耳古(トルコ)に留学した村田の手記という形。
エフェンディというのは、トルコで知識階級の男性に対してつける尊称で、ちょうど「先生」と言われるのに似た感じだそうです。そういえば「イスタンブールの群狼」などにも出ていましたね。
歴史物というか、前半はファンタジーといった方が良いのか…

スタンブールの下宿に集う国際的な顔ぶれの友人達に起こる出来事が、どこか乾いた空気の中、最初はゆったりしたタッチで描かれます。
英国人のディクソン未亡人が営む下宿には、トルコ人の下男ムハンマド、美男のギリシャ人のディミィトリス、ドイツ人考古学者オットーなどが生活していました。
拾ってきた鸚鵡のエピソードなど、いかにも楽しい。

苦難の旅を続けて到着した日本人・木下を見舞い、お礼にと稲荷の札を貰って困惑する~宗教心のない村田。
さらに、バザールで売っていたアヌビス像も預かります。すると怪異現象が…?!
下宿の礎石は、正体もわからないほど古い遺跡を流用してあるらしく、そこの神々と争っているかのよう…?

ふだんは顔を隠しているイスラムの女性達の、室内で見せる妖艶な美貌に驚いて、これは隠すのも無理ないと思ったりする村田でした。
終盤は時代からいって、革命や戦争へとつながり、厳しく切ない展開に。
とりどりの要素が不思議な印象を残します。

帰国後に村田が「家守奇譚」の家に転がり込むあたり、あの作品を読んでいる読者には楽しいですね。
2002年から書かれ、平成16年発行。文庫本も出ました。

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「カソウスキの行方」

津村記久子「カソウスキの行方」講談社

最近、芥川賞を受賞したばかりの作家の2006~7年に書かれた3作が入った作品集。2008年2月発行。

表題作のカソウスキは、仮想好きという意味。
頑張ってOLしてきたのに、後輩に課長のセクハラを相談されて部長に直訴したのがあだとなり、30を前に郊外の倉庫勤務に左遷された主人公イリエ。
同僚の地味な独身男・森川を仮に好きなつもりになることで、やる気の起きない生活をやり過ごそうとします。
テンポ良くリアルで、辛いこともあるけど、ちょっとおかしい~けっこうありそうな。
さばさばとして正直な主人公に好感が持てます。

2作目の野枝は、一目で惹かれた男性・鹿戸がもうすぐ結婚すると知って、いきなり失恋。
結婚相手の彼女がブログを公開しているのを見て、いかにも男受けしそうな様子に何だか納得がいかず、妙にはまってブログを読み続けてしまう。
ある意味ストーカーめいた…皮肉な成り行きがなければ、軽く忘れられたかも知れない一瞬の恋なのにねえ。
そんな話も出来る友人関係がけっこう楽しげ。

3作目は、結婚を前にした男ハルオの回想で、だらしがないところのある花嫁サトミに遅刻やドタキャンされたら適度にやり返す、といったゲーム的な交際のありさま。
内容はいたって日常的で、気負わずに読めます。
妄想ぽく思い詰めるところが~共通項?
変なこだわりに軽く吹き出しそうになったり、にやにやさせられる描写がよくありますが、爆笑まで行かないのが文学なんでしょうか。

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「ラットマン」

道尾秀介「ラットマン」光文社

2008年1月発行のミステリ。
アマチュアロックバンドを14年続けているメンバーの一人、姫川亮には幼い頃に父と姉を失った過去がありました。
高校時代から付き合ってきたひかりとも、結婚する気にはなれないでいます。ひかりの妹で今はバンドに加わっている桂に、内心惹かれているせいもあるのですが…
ひかりと桂もまた、父が家を出たまま行方不明という欠落感を抱えていました。
長年使っていたスタジオが閉鎖されることが決まり、最後の練習の日、事件が起きる…?!

ラットマンというのは心理学用語というか~人間の顔と並べれば人間に、動物と並べれば鼠とも見えるような絵のことだそうです。確かに、そう見えます!
23年前の事件とリンクして、中盤は絶望的に思えた事情が二転三転する、意外な面白さ!
それが爽快感に繋がり、読後感もなかなかいいです。

作者は1975年生まれ。2004年デビュー。
前に読んだ「シャドウ」で2007年の第7回本格ミステリ大賞受賞していたんですね。
「カラスの親指」で第140回直木賞候補、と順調にキャリアを積み上げているようです。

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「のぼうの城」

和田竜「のぼうの城」小学館

成田長親は、武州忍城(おしじょう)の城主・氏長の従弟で跡取りだが、でくのぼうという意味で「のぼう様」とあだ名される不器用な大男。
野良仕事が好きでよく田畑を手伝うが、それも邪魔になるばかり。
城代である父の泰季を尊敬していたのですが、父の方は家老に跡を継がせようかと考えるほどでした。

北条攻めに際して、城主・氏長は、長年恩顧の北条の味方をせざるを得ず、小田原城へ。
けれども秀吉の力はもはやまぎれもないという時期なので、こっそり敵方とも内通、攻めてきたらすぐ降伏するように指示します。

のぼう様こと長親は、軍議の場でもぼんやりと、どちらにも味方せずにこのまま暮らしていけないのかとつぶやいていました。
そんな長親に見込みがあるのかないのか?迷いつつ見守っているのが~家老の丹波守利英でした。
城主の娘・甲斐姫を秀吉に差し出せと言われて、長親が降伏の予定を覆します。
家老の丹波らと共に百姓の力を借り、意外な善戦をしてのけるのです。

さかのぼること8年前の天正10年、秀吉が行った高松城の水攻めの規模の大きさに感嘆していたのが、若き石田三成でした。
その一ヶ月後には本能寺。
この天正18年には北条攻めに加わり、三成が初めて戦闘の指揮を執ることになったのです。

秀吉のそばにいすぎた三成がちょっと気の毒になりますが…まあ自業自得な所もあるから仕方ないですね。
対照的な長親と三成が、最後に相まみえることになります。
軽快な筆裁きで、面白くまとまっています。

作者は69年生まれ。
この話と同じ「忍ぶの城」の脚本で03年に「第29回城戸賞」を受賞。
小説は07年12月発行。

[お詫びと訂正]信長の北条攻めと書いてしまってました…??
申し訳ない。読んだときのメモにはなかったんですが、ふっと書き足してしまって…頭がヨワ~イのね。
「忍びの国」とごっちゃになったようですcrying

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「西の魔女が死んだ」

梨木香歩「西の魔女が死んだ」新潮文庫

昨年、映画化されたので~有名ですね。
それは見ていませんが…
原作はテンポ良く話が進み、過不足がないのがお見事です。

中学1年で不登校になった少女・まい。
「扱いにくい子」「生きにくい子」と、母が電話で話すのを聞いてしまいます。
父は単身赴任中で母も仕事が忙しく、イギリス人の祖母(母の母)に預けられることになります。
「おばあちゃん、大好き」と言うと、「アイノウ」と答えてくれる祖母。

イギリス人の祖母は、日本を気に入った曾祖父の話を聞いて、日本に憧れて留学し、そこで出会った男性と結婚して、ずっと日本にいるわけなのです。
祖母は魔女の血筋と聞いたまいは、魔女の修行をしたいと言いますが、その修行とは…
きちんと生活して、自分の考えを決めるといった、誰にでも通じることなのでした。

ハーブを育て、自家製のジャムを煮て、洗濯機もない暮らし。
切り株のあるお気に入りの場所を、孫娘にとっておいてくれた祖母。
人生における大事なことはすべて、教えてくれた人なんですね。
とんがっていた思春期の少女にすんなり寄り添って、見守りながら共に成長したかのような気分になれました。
この素晴らしいおばあさんに、まいの母は押しつぶされそうになったという一言もありました。
しっかり者で正しい母親だったからこそ、その娘が自分らしく生きようともがく時期にはそういうこともあるだろうなぁ…という感慨も覚えました。

さすがに、よくまとまったいい話です。
ちょっとショッキングな題名も、実は必然的な~大事な意味があるのでした。
マクレーンの娘サチが、映画でおばあさんの役をやったのも、決まっていたことだったのでしょうと思わせます。

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「ブランケット・キャッツ」

重松清「ブランケット・キャッツ」朝日新聞社

2003年掲載作を2008年8月単行本化。
二泊三日で猫をレンタルする店があるという設定。
なじんだ毛布と一緒に貸し出すので、ブランケット・キャッツというわけ。

もちろん、人見知りしない、違う場所へ行ってもパニックにならない、気だての良い猫ばかりのはず…猫でそんなのはめったにいない~私の知ってる猫では、せいぜい1匹ぐらいだけどね。
うちのだったら、店で暴れ、隅っこに隠れて出てこないでしょうね…coldsweats01

子どものいない夫婦が猫を飼おうか迷って、試しに預かってみる話。
助手席に馴染みの大きなメインクーンを乗せては旅に出る女性の、最後の旅。
家を手放す前に家族の思い出を作ろうと、猫を借りる話など。

ぼけかかったおばあちゃんに猫が死んだと言えずに、そっくりな猫を借りる話では、結婚を前にして迷う孫娘の心境がリアルで、なかなか良い味わい。
全体にちょっと哀しいが、どこかひょうひょうとした余裕もあります。
ツボをつついてくれる所もあるので、なかなかいい感じ。

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「上と外」

恩田陸「上と外」幻冬舎

2000年に文庫6冊で書き下ろしされた作品を、2007年上下巻にまとめた新装版。
子どもの視点で書かれているので、子どもにも読みやすいでしょう。

祖父と暮らす中学2年の練と、母と暮らす小学6年の妹・千華子。
両親が離婚した後も、一家4人で年に一度は集まっていました。
この夏も、中米のG国で発掘に携わっている考古学者の父・賢のもとへ。

ところが、どこか異様な緊張がただよっていたのは、母が恋人との再婚を決めていたからでした。
しかし、クーデターに巻き込まれて事態は急転、それどころじゃなくなります。子ども達はヘリからジャングルに放り出されてしまうのです。

密集した木々の上に着地した練と千華子兄妹。
見渡す限り、鬱蒼とした森…
マヤの遺跡を目指して、サバイバルが始まったのです。
異様な轟音の響く巨大な人工の建築にぶつかり、どこからともなく現れた少年ニコに助けられますが…
ジャガーのいる地下洞窟での成人儀式への参加を強要されるのでした。

一方、とらわれの身になりながら、懸命に捜索を続けようとする親たち。
日本でも、ネットや大使館を通じて、さまざまな救出の動きが起きていました。
祖父にもまた意外な人脈があるあたり、頼もしい。
ところが、火山の噴火も始まり…

いったい、話をどう広げるのだろうかと思っていたら、描ききりましたね~映画のような大冒険活劇!
新生G国の登場と、家族それぞれの特技を生かした健闘、子どもが大人になっていく~なかなか夢のある展開で、楽しめましたよ。

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「虚空の旅人」

上橋菜穂子「虚空の旅人」新潮文庫

守り人シリーズ4作目ですが、守り人という題になっていない~外伝的位置。
子どもにも読める文章になっていますが、リアルで立体的な構成で、大人の鑑賞に堪えるファンタジーです。

新ヨゴ皇国の皇太子チャグムは、サンガル王国の王位継承の祝典に招かれて、星読博士の若いシュガと共に訪れます。
島の多い国サンガルは、王家の娘達が島守りに嫁ぐことで結束を固めていました。
かっての小領主が、今も島守りとして自分の領土を守っているのです。
ところが、大国の回し者が島守りを誘惑…

島守りの元で、漁師と共に育てられたたくましい次男タルサン王子が、何者かに操られ、跡継ぎの兄に向かって銛を投げるという暴挙に。
宮廷は大混乱に…チャグムは、陰謀の渦中へ飛び込んだ形となってしまいます。

ナユーグル・ライタの目という~哀しい運命を背負った幼女も。
皇族は神聖とされる国で育ったチャグムは、深窓の大人しいお坊ちゃんに見えるのですが、そこはバルサと放浪の旅をした経験のある少年。
いざというときに活躍するかっこよさ!
勝ち気なサルーナ王女や「海をただよう民ラッシャロー」の一途な少女スリナァも活躍。
東南アジアの風物がお好きな方にもおすすめです。

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「ブラックペアン1988」

海堂尊「ブラックペアン1988」講談社

ストレートな医療物という印象。
天才外科医や医者同士の権力争いという基本?のモチーフで、すっきりと読めます。
1988年といえば…
バブル景気が頂点を迎え、誰もそれが急に終わるとは予想していなかった時代だったんですね!?
東城大学病院の外科研修医・世良の視点で描かれます。

外科を支配する佐伯教授と、一匹狼だが凄腕の渡海医師との過去の因縁がしだいにあきらかに。
世良が指導することになった大学生3人が初めて手術を見学、血がかかって気絶するのが若き日の田口(後に愚痴外来のグッチー)というわけ。
後に立派だが少々癖のある病院長となる高階が、権威のある大学から移籍したばかりで、風雲を巻き起こす新鋭講師という役どころ。

2007年の作品。
「チーム・バチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」「螺鈿迷宮」「ジェネラル・ルージュの凱旋」この「ブラックペアン1988」医療物ではない「夢見る黄金地球儀」…もう4、5冊あるかな…
デビューしたのが2006年?とは思えないほど~多作ですね!
チームバチスタとジェネラルルージュはお薦めできます。他も登場人物がリンクしている楽しさがあるし、読めちゃうことは読めちゃいます。
たっぷり筆に墨を含ませて書きたいことを書きまくってるっていうような勢いがありますよね~。

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「夢の守り人」

上橋菜穂子「夢の守り人」新潮文庫

守り人シリーズ3作目。
1作目では、幼い皇子チャグムを守って戦ったことのある女用心棒バルサ。
宮廷に戻ったチャグムのことはもう別世界の人と思っていたバルサでしたが。それぞれの運命が交錯、つかの間の再会を果たすのが泣かせます。

ある日、バルサは、奴隷商人に追われていた青年を助けます。
若く見える彼~じつは妖精に魅入られた歌人でした。
一方、村では、バルサの親友タンダの姪カヤが眠ったまま目を覚まさず、魂が抜けている様子。
タンダは師トロガヤに相談しますが…老婆トロガヤには思いがけない過去があったのです。

一方、皇太子として宮廷に暮らすチャグムは、皇帝になりたいと思えず沈んだ気分でいました。
父である皇帝は家族らしい感情のない人で、かって国を守るためとはいえチャグムの命を取ろうとしたこともあるのですから。
そこへ、息子を失った一の妃が眠りから目を覚まさないという事態が…

カヤを助けようとトロガヤの言いつけを破って一人で魂を呼ぼうとしたタンダは、花守りに取り込まれてしまいます。
バルサやチャグム、トロガイら、皆が力を合わせて事態を解決しようと動くのが心地よく、ダイナミックに展開します。
子どもでも読める文章ですが、内容的には~貧しい農家の嫁だったトロガヤの人生や皇帝の立場など、大人の視点も含まれていて重層的になっています。
夢見て眠る世界もたしかな存在感有り、さすがです。

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2008年に読んだ国内小説の作家

2008年は、日本の小説をたくさん読んだ年だったなあ…というのが一番の特徴だったかも。
最近、海外ミステリで楽しみに読める作品が少なくて…
近頃の日本の作家、思ったより読みやすくて~けっこう好みに合うじゃないのという発見!
伊坂幸太郎や米澤穂信、海堂尊など、一昨年末頃から読み始めた作家をどどどっと行きましたね。
あ、海堂尊は今年からです。しかしデビュー2年ぐらいなんですよね、多作だわ。

冊数は…
米澤穂信7冊。伊坂幸太郎6冊。畠中恵6冊。
米澤穂信は、前半、マイブーム。「クドリャフカの順番」がとても楽しかったので~その楽しさを満喫するために他のも読んでおいて良かったっていう印象。
伊坂幸太郎は、ハズレがないのと、毎回いろいろ工夫してあるのがすごいと思いましたね。なんだろう…凝り性というか~ミステリ好き魂みたいな物を感じます。
中でも痛快だったのが「ゴールデンスランバー」これがベスト本ですね。
しゃばけシリーズの畠中恵は、もう常連というか~楽しいお仲間みたいなhappy01

噂の海堂尊4冊。
最近、ドラマにもなったので~すっかり有名ですね。
なかなかのもんですよね、くっきりした構成で作者の意図もはっきりしていて。趣味に合わない場合もあるけど…あ、一冊はアップしなかったので読んだのは5冊だな。

宮部みゆき、森見登美彦と桜庭一樹が3冊ずつ。
宮部さんは「名もなき毒」と「楽園」と「あやし」やはり、大物感ありますね。「あやし」は「おそろし」を読む前に読んだ方が良いのかと思ったんだけど、短編集だし~独立した話のようです。

森見登美彦は「有頂天家族」楽しかったわぁ。
桜庭一樹は熱っぽい。前にゴシックを一冊読んだだけだったので、化けたなあと感嘆。いや、最初から頭が良さそうな書き込みっぷりだったし、少女漫画的エッセンスは今も生きてますけどね。

2冊は、松井今朝子、林真理子、万城目学、井上荒野、山崎ナオコーラ、今野敏。
「鹿男あをによし」の万城目さん、「鴨川ホルモー」も面白かった。
短編を数えれば角田光代もそうですね。

三浦しをん、恩田陸は1冊ずつ?意外に少ないですね。
三浦しをんは去年のうちに全部読んじゃったんですね。新作が少なかったんだ…最新作はまだなんです~。
恩田陸は多作だし、読んでないのがあるから~今年は読もうっと。
上橋菜穂子さん、アップは一作だけど、12月にもっと読んでます。

前の作品ですが、私は初めて読んだのが森博嗣、笠井潔。
名前だけは知ってましたが、タイプが合わないかと。若いミステリファンにはもう大御所に近い存在かもね~。予想よりはずっと読みやすかった、意外に近いかもですね!

「高円寺純情商店街」や「くっすん大黒」もずっと前に書評で読んで、ほぼ見当はつけていましたが、読んでみて納得!
「ミカドの淑女(おんな)」も一体…どんなんだろうと思ってたんですよ。これは案外、類書がないんじゃないかな。

やはり一作だけだけど~「風車祭(カジマヤー)」の池上永一は濃かったですね~。
ファンになりましたよ~他の作品もゆっくり読みます。
梨木香歩さん、「家守奇譚」とても好きな世界でした。
その後、もう3冊読んじゃってますよ。一番最近のマイブーム、かな~confident

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2008年に紹介した国内小説

2008年1月
「吉原手引草」 松井今朝子
「うそうそ」 畠中恵
「制服捜査」 佐々木譲
「春期限定いちごタルト事件」 米澤穂信
「夏期限定トロピカルパフェ事件」 米澤穂信

2月
「名もなき毒」 宮部みゆき
「朝日のようにさわやかに」 恩田陸
「似せ者」 松井今朝子
「映画篇」 金城一紀
「とっても不幸な幸運」 畠中恵
「終末のフール」 伊坂幸太郎
「天璋院篤姫」 宮尾登美子
「信長の棺」 加藤廣

3月
「コキュ伯爵夫人の艶事」 藤本ひとみ
「オーデュポンの祈り」 伊坂幸太郎
「れんげ野原のまんなかで」 森谷明子
「着物をめぐる物語」 林真理子

4月
「チーム・バチスタの栄光」 海堂尊
「太陽の塔」 森見登美彦
「私の男」 桜庭一樹
「街の灯」 北村薫
「サクリファイス」 近藤史恵
「楽園」 宮部みゆき

5月
「中庭の出来事」 恩田陸
「ちんぷんかん」 畠中恵
「この本が、世界に存在することに」 角田光代
「Teen Age」 角田光代、瀬尾まいこ、川上弘美ほか
「ジェネラル・ルージュの凱旋」 海堂尊

6月
「ベーコン」 井上荒野
「まんまこと」 畠中恵
「重力ピエロ」 伊坂幸太郎
「仏果を得ず」 三浦しをん
「ボトルネック」 米澤穂信
「鴨川ホルモー」 万城目学
「クドリャフカの順番」 米澤穂信
ここまで計35冊…かな?

7月
「グラスホッパー」 伊坂幸太郎
「さよなら妖精」 米澤穂信
「きつねのはなし」 森見登美彦
「ナイチンゲールの沈黙」 海堂尊
「シャドウ」 道尾秀介
「つくもがみ貸します」 畠中恵
「氷菓」 米澤穂信
「カツラ美容室別室」 山崎ナオコーラ
「愚者のエンドロール」 米澤穂信

8月
「あめふらし」 長野まゆみ
「カシオペアの丘で」 重松清
「インシテミル」 米澤穂信
「隠蔽捜査」 今野敏
「果断」 今野敏
「ゴールデンスランバー」 伊坂幸太郎
「ワンちゃん」 楊逸
「イギリス海岸」 木村紅美
「鹿男あをによし」 万城目学
「夏の約束」 藤野千夜

9月
「夢見る黄金地球儀」 海堂尊
「赤朽葉家の伝説」 桜庭一樹
「あかね色の風」 あさのあつこ
「こころげそう」 畠中恵
「ラッシュタイフ」 伊坂幸太郎
「人のセックスを笑うな」 山崎ナオコーラ
「切羽へ」 井上荒野
「朱烏の星」 菅野雪虫
「闇の守り人」 上橋菜穂子

10月
「名短編ここにあり」 半村良ほか/北村薫・宮部みゆき編
「少女七竈と七人の可愛そうな大人」 桜庭一樹
「弥勒の月」 あさのあつこ
「オイディプス症候群」 笠井潔
「女王国の城」 有栖川有栖
「すべてがFになる」 森博嗣
「有頂天家族」 森見登美彦
「あやし」 宮部みゆき
「ミカドの淑女」 林真理子

11月
「肩ごしの恋人」 唯川恵
「高円寺純情商店街」 ねじめ正一
「くっすん大黒」 町田康
「家守奇譚」 梨木香歩

12月
「風車祭(カジマヤー)」 池上永一
「小袖日記」 柴田よしき
「荒野」 桜庭一樹
「鼓笛隊の襲来」 三崎亜記
「八日目の蝉」 角田光代
後半46冊で合計81冊…たぶん。

昨年読んだ国内小説は、39冊だったようです。倍増してますね~。
確かにそうかも…
前々から気になっていた本をずいぶん読めて、どんな話かわかってスッキリ!というのがたくさんありました!
ベスト本は「ゴールデンスランバー」かな。
詳しくはまた後日?

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「警官の血」

佐々木譲「警官の血」新潮社

三世代にわたる警官一家の歴史を淡々と書ききった大作。
戦後すぐに警官となった安城清二が一代目。
上野界隈が浮浪者で溢れていた時代から、次第に復興していく有様が描かれます。
今から考えると想像を絶するようで、歴史的な興味がわきます。
軍隊帰りの清二は、民主主義の時代に希望を抱いて、息子には民衆の英雄という意味で民雄と名付けます。
民雄って古くさい響きだけど、そういう意味だとは…

清二は穏やかな家庭を築き、人情味のある駐在として人望を集めますが、天王寺の火災の時になぜかその場を離れ、鉄道事故で死亡。
現場を離れたのが不審に思われて自殺説も出たほどで、殉職扱いにはされなかったのでした。

息子の民雄はその時、8歳。父と同期の「血の繋がらないおじ達」の援助で高校を出、警官に。
父のような駐在になりたかったのですが、心ならずも公安の仕事を任ぜられます。北大に入学してまで学生運動のスパイに入り、やがて神経を病むようになってしまう。内ゲバの始まりそうな時代、学生運動に潜入する様子はスリリングです。
父の死の謎を解くのが警官になった目的の一つでしたが、それもなかなか果たせません。
やっと願いがかなって駐在になった民雄は、人が変わったように穏やかに。
ところが、人質を取った強盗事件で、殉職となります。

民雄の息子・和也は、子どもの頃は母を殴ることがあった父に反発していましたが、後にはやはり警官に。
意外にも上司の内偵を命じられ…
祖父と父の扱っていた事件を密かに捜査し、不審な死の謎を追います。
その時代の特徴を表す事件や警察組織の変容が描かれていて、面白かったですよ。
かねてからの知り合いと所帯を持った清二、療養中に知り合った娘と結婚する民雄、救急救命士と恋愛する和也、とお相手にも時代が現れています。

全体として事実関係がわかりやすく捌かれていて、特別な濃厚さや甘さはないんですね。大人の男性の目には社会はこう映っているのだろうなあと感じました。
2007年9月発行。

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「八日目の蝉」

角田光代「八日目の蝉」中央公論社

1985年のある日、若夫婦が出かけたアパートへ忍び込む希和子。
じつは不倫相手・秋山の妻が生んだ子を見て、気持ちにふんぎりをつけるつもりだったのだが…
泣き出した赤ちゃんをとっさに抱えて思わず逃げ出し、転々とすることに。

何も知らず懐いてしまった子どもに、生めなかったわが子の名・薫とつけて可愛がります。
転がり込んだ集団エンジェルホームに警察の手が入り、小豆島へと逃げるのですが…
逃げていく様についハラハラ、逃げ延びて欲しいような気持ちにさせられます。

発見されて親元に帰された子ども・恵里菜(本名)は、どうなったのか?
母だと思っていた人間が誘拐犯と知らされて、実の親にもなかなかなじめないまま、子ども仲間でも遠巻きにされて育ちます。
誘拐事件とその報道のひどい内容で、壊れかかっていた夫婦。
ここでまた微妙な問題を抱え込んで、どこかぎこちない家庭が築かれていった様子が次第にわかってきます。
実際にあった有名な事件を幾つか想起させつつ、さまざまな立場の人間のありようを丁寧に掬い取るように描いているのがおみごと。
少しずつ救っていく展開で、しみじみとした気分になります。

推理小説というわけではないのですが~事件を扱っているので、カテゴリにはミステリも加えておきました。

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「鼓笛隊の襲来」

三崎亜記「鼓笛隊の襲来」光文社

短編集。
これはファンタジーというべきでしょうか?
星新一のSFみたいでもありますね。
日本を舞台に、普通の人が経験する~あり得ない設定から展開するお話。

「鼓笛隊の襲来」とは、それが台風のように報道されて、進路を予想される地域には避難勧告が出るという。50年ぶりの大規模な襲来って…
ごく普通に暮らしている一家は、経験者であるおばあちゃんの知恵を借りて乗り切ろうとします。
隣家は地下に防音の防空壕を作って準備していたのですが、圧倒的な音に導かれて…?

本物の象が公園に設置される「象さんすべり台のある街」、恋人を失ったような気がするが何も思い出せない女性が、画廊で自分の所持品を見つける「彼女の痕跡展」、ご神木と共に浮遊する都市に住む恋人との「遠距離・恋愛」など。
ちょっと怖いけど、それほど辛口ではなく、日常に風穴を開けるような、ひねった発想を楽しめます。

2006~8年に書かれた作品で、2008年3月発行。
作者は1970年福岡生まれ、2004年「となり町戦争」でデビュー。

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「荒野」

桜庭一樹「荒野」文藝春秋

直木賞受賞の直前に書かれていた作品かな?
最初はライトノベルだったようで、加筆されて2008年5月に単行本化という意味で、受賞後第一作と書いてある紹介もあります。

ヒロインは、恋愛小説作家の父を持つ少女・山野内荒野(こうや)。
まっすぐな黒髪で日本的な容姿。
中学1年の最初の日に、先生に学級委員に指名されてしまったのが、どうもメガネをかけていたためらしい。
電車の中で出会ったのが、クラスメイトの神無月悠也。

12歳から16歳まで、やや奥手の女の子がゆっくり成長していく様を描きます。
舞台は鎌倉。着物を着て友達と一緒に街を歩くアルバイトなど、楽しくなる要素が色々。

築百年の古い家に住んでいる~風変わりだが静かな暮らしが、しだいに揺れ動いていきます。
父親は実体験を元に小説を書いていて、細身できざで娘の目から見てもけっこういい男だが、何かにとりつ取り憑かれたような所があるのでした。
母はとうに亡くしていますが、がりがりに痩せてぶっきらぼうだが個性的な家政婦がずっといてくれたので、家族同様でした。
ある日、父が再婚し、家政婦が出て行くことに。
そして、連れ子の少年というのが…

父を巡って、ねっとりしたものを発散してバトルを繰り広げる女性達。
大人達は紛糾しているが、荒野本人はおっとり、地味目というのが親しみやすい?
他の作品を思い出して、とんでもない転調があるのかと思ったらそうでもなく、少女漫画的で幸福なまとまり方でした。
元・少女にも楽しく読めます。

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「小袖日記」

柴田よしき「小袖日記」文藝春秋

源氏物語を題材にした、軽いタッチの小説です。
不倫相手に振られた、30前のごく普通のOLが主人公。
本気であるようなないような感じで自殺を考えていたら~落雷に遭い、なぜか平安時代にタイムスリップ!

気づいたらおかめの集団に囲まれ、異様な香りにびっくりという。
源氏物語を執筆中の香子(紫式部)の小間使いの侍女・小袖として、ネタを提供する役割をするのでした。
正確には過去に戻ったというより~パラレルワールドに来たのかも?という設定になっていて、まあ細かいことはいいじゃないっていうことですかね。

源氏物語のもとになったという想定の、当時の恋愛事情を幾つか語る趣向。
末摘花のモデルが実は美人で、わざとブスに見せた理由があったりと、金持ちの男性の哀れみを受けるだけじゃないのよっという面白いひねりを効かせています。
食欲のない姫にアイスクリームのような物を作ってあげたり、ちょこっとずつタイムスリップ物の楽しさも入れてあります。
紫式部は賢いので、タイムスリップのことも理解するわけです。

源氏物語に最初は不満を感じるようなポイントを、うまく突っ込んでいるところもなかなか。
縁のあった女達を自分の屋敷にみんな引き取るのは、慈悲深いようだが、所詮ハーレムじゃないのか、とか…
これは、敷地が想像以上に広大なので、一ヵ所に集めた感じはしないということに。
源氏の評価としてはどうかと思う点もないではないですが、元気でとっつきやすく、読みやすい。

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「風車祭(カジマヤー)」

池上永一「風車祭(カジマヤー)」文春文庫

著者は1970年那覇市生まれ。
平成6年日本ファンタジーノベル大賞受賞、1997年の本作は受賞後初の長篇とのこと。
沖縄を舞台に、1年間の祭り(旧暦)を章タイトルに繰り広げられる破天荒な物語。

風車祭(カジマヤー)とは、数え97歳の長寿を祝うもので、カラフルな風車をオープンカーに飾ってパレードするのだそう。風車祭をすることを生き甲斐に長生きしてきたオバァ、フジの祝いは目前に。
性格の悪いフジを筆頭に、その娘で80になるトミが暮らす家に、孫で60のハツが離婚して転がり込んで来ていました。
働き者のトミとは対照的に、なんでも「だからよー」で済ませるハツ。

近所の高校生・武志はトミと仲が良く、猛烈なフジと怠け者の娘の間で損をしがちなトミに同情している素直な男の子。
ある日、橋で美しい女性ピシャーマに出会って恋しますが、彼女は247歳になっても島をさまよっている霊だった…婚礼に向かう途中に石にされ、島を津波が襲う予言を託されたのでしたが。

霊と出会ったためにマブイを落としてしまった武志は、そのままではいつか死んでしまう危機に。でもユタ(島の巫女)にマブイを拾って貰えば、彼女の姿は見えなくなってしまうのです。
マブイとは魂のような物、魂魄の魄のほうだそう。
フジは何度も落としている迷惑なやつで、そのたびにユタに拾って貰い、何ということはないと思っているんですが、実はドッペルゲンガーのように行動するので大変なことなのでした。
武志に気がある睦子や、その妹でピシャーマに懐いた郁子も、マブイを落としてしまい、事態はいよいよ紛糾。

ピシャーマのお供に、六本脚の豚のギーギーがいて、妖怪ライフを満喫しているのがまたなんともいえない味があります。
常夏の島の~のんびりしてるというか豪胆な暮らしぶりだけでも面白い。
天災の予言におののく真面目なユタ達をよそに、酒好きな人たちや強引なフジのひっかきまわしで大混乱のあげく、迎えた結末は…?!
とんでもない読み応えがあります。

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「家守奇譚」

梨木香歩「家守奇譚」新潮文庫

売れない小説家・綿貫征四郎が、亡くなった友人の実家の家守を頼まれ、仕事を辞めて、引っ越してきます。
庭は草木が生い茂るままで、短い各章のタイトルはそうした身近な花の名前がほとんどで、親しみやすい。
時代は明治?らしい。
表記は現代かなづかいですが、どことなしに古風で、静かな世界にふっと誘い込まれます。

湖でボートを漕いでいて行方不明になり亡くなったはずの友人・高堂だが、雨の日に掛け軸の中からボートを漕ぐ音がして、ふと登場します。
「どうした、高堂」と対する征四郎に「なに、雨に紛れて漕いできたのだ」と答える高堂。粋ですねえ。
河童のお皿や抜け殻、狸や狐も登場。
居着いた犬のゴローもなにやら異界に通じている模様…

私にはすごく読みやすかったです~ほとんど、デジャビュ。いつかどこかで掛け軸のあたりででも~すれ違ってたのかしら?

2004年の作品。
作者は1959年生まれ、英国留学で児童文学者に師事とのこと。

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「評伝 長谷川時雨」

岩橋邦枝「評伝 長谷川時雨」筑摩書房

明治末年に女流劇作家として成功した草分けで、樋口一葉に次ぐ小説家、編集者、一時は女優でもあった長谷川時雨の評伝。

昭和初期に「女人藝術」という文芸雑誌を発行、当時の名だたる女性達が一度は寄稿した雑誌で多くの催しも行い、話題になっていたそうです。
財政難と時勢の変化で廃刊、のちに「輝ク」という会員制の薄い雑誌をほとんど独力で発行。
「青鞜」の発刊にも名を連ねています。
ほっそりした美人で、江戸っ子で気前が良く、こまやかで高級品好み。世話好きのために作家としては大成しきらなかった面もあるらしい。

子どもの頃に母に本を取り上げられたことや最初の結婚の悲惨さが、後に女性達を応援する原動力になったのではと思わせます。
六代目菊五郎とは、終生の親友だったとか。
年下の夫の三上於菟吉を大衆小説の人気作家に押し上げたんですね。
夫は「雪之丞変化」の作者(タッキーがやったやつですね)、直木賞の直木三十五と同い年の友人だとか。
林芙美子がデビューしたのも「女人藝術」で、三上の推薦だったそうです。

時雨は明治12(1879)年生まれ。
著者は1935年生まれ。この世代でも時雨のことはよく知らないで育ったそうです。
戦時中の兵士への積極的な慰問が、晩節を汚したと戦後は思われるようになったためではないかと。軍国主義という様子はないので、世話好きがあだとなったのかも知れません。

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「くっすん大黒」

町田康「くっすん大黒」文藝春秋

デビュー作。
主人公の楠木は妻に出て行かれた後、家にある不格好な大黒様を捨てようとうろうろするのですが、これが大きすぎて捨てにくい~大笑いの顛末となります。
3年もごろごろ暮らしていたあげくのことで、鏡を見ると若い頃に美形だったのとは別人のように、むくみきった顔に気づく…
饒舌な語りが独特で、どんどん話を転がしていきます。

実体験も相当入っていそうな感じですね~。
行き当たりばったりの生活で、バイトの口がかかればすぐに乗るため、つぎつぎ奇妙なことに巻き込まれますが、破滅型というのとちょっと違う?笑えます。
作者は1962年、大阪生まれ。高校時代より音楽活動、82年詩集発行。
95年、この作品で芥川賞候補に。

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「高円寺純情商店街」

ねじめ正一「高円寺純情商店街新潮社

作者自身が育った商店街をモデルに、昭和の時代ならどこにでもありそうな町での出来事が、中学生の男の子の目を通して、とても丁寧に描かれていて、好感が持てます。

江州屋乾物店は、商店街の中程にありました。
毎朝早くから、母がかつを節の汚れを落として並べ、祖母が絶妙なタイミングでふかし、起きてきた父がそれを削る。
一人息子の正一は、30分程ふるいに入れてかき回し、粉かつを一日分を作ってから、学校へ行くのです。

地道な暮らしがいかにも好ましいが、実は父親は俳句が好きで~商売には不熱心。息子もその血をひいた面があったのかな?
父親が持病で熱を出したときの様子など、父と息子の関係がほほえましい。
向かいの火事に(ふだんは仲の悪い人も含めて)町内が協力する有様、隣に出来た美容院の仮店舗の若い女の子達や景気の良い様が、町の空気をかき混ぜて行く様子など、面白いです。
純情商店街って、この本が出てからそう名前を変えたんですね。

作者は1948年生まれ、ねじめ民芸店を経営しながら詩人として活躍。
これが初の小説で、直木賞受賞。

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「肩ごしの恋人」

唯川恵「肩ごしの恋人」集英社文庫

126回直木賞受賞作品だったんですね。
ドラマ化されたのを見たので、読みました。

5歳からの幼なじみのるり子と萌。
綺麗だが相当わがままな青木るり子の3度目の結婚から始まります。
恋愛体質で、男に惚れられなければ意味がないという主義のるり子は、結婚したとたんにつまらなくなってしまうらしい。
早坂萌は、恋愛にも仕事にものめり込めないたちで、るり子には呆れてます。何しろ今度の結婚相手は、萌の元彼の信之なんですから。でもなぜかるり子のことは憎めない。
披露宴で同席した柿崎が、るり子と付き合った時期があると知っていた萌は、その場の勢いで柿崎と付き合い始めます。

さばさばしているが親切な萌と、ある意味あっぱれなるり子。
なかなか魅力的らしい柿崎や、転がり込んできた家出少年・崇、ゲイのマスターの文ちゃんと美青年リョウなどと絡み合いながら軽やかに展開。
ドラマがほとんど原作に忠実なのにはちょっと驚きました。配役も上手いし…それだけテンポ良く書かれているってことかな。
年齢は27歳、ドラマではもう少し上だった気がするけど。その方が合っているような気がします。
27なら怖いものなしでしょう!?
萌もかなり奔放で、結婚したがらない以外は~対照的な性格というほどでもない気がしますね。

数年の違いでも、時代の雰囲気は変わってるかな…
女性の生き方はより選択肢が増えて流動的にはなってると思うんだけど…今の時代には、軽やかな生き方は逆に珍しくなってるかも知れませんね。

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「ミカドの淑女」

林真理子「ミカドの淑女」新潮文庫

明治時代に、末席の女官から正四位まで異例の出世をした下田歌子。
皇后にかわいがられた歌の才の持ち主で、かなりの美人でもあったそうです。
名前だけは聞き覚えがありましたが、女子の通学用に袴を考案したのもこの人という~比較的最近聞いたのは、それで知っていたのかも?

べつに天皇の側室だったわけではないのですが、微妙な駆け引きがあったのではと作者は推測しています。
結婚して辞し、家で女子を教え始めて評価されます。
学習院女子部長となり、生徒にも人気があったそうです。
しかし、辞めさせた人物らの反感を買い、明治40年、平民新聞のあくどいスキャンダル報道で追い込まれます。これがどぎつい。
こんなことがあったとは~知りませんでした。

伊藤博文など、男性との関係はある程度あったようですが、そんなに非難されるようないきさつだったのか…?
反政府活動の一環として、弱い部分をたたくという方法で利用されたんですね。
乃木希典が学習院長だったとは。
明治は結局、男の時代で、そこにうまくはまったように見えた歌子が、しまいに切り捨てられたようです。

意外な題材で~皇后をはじめとする女性達の微妙な感情や当時の皇室内の状況をはじめ、歌子を取り巻く歴史上の人物のエピソードが面白い。
どの程度、定説通りなのか?斬新な解釈なのか?その辺が知識不足でちょっとわかりませんが。
さもありなんという説得力のある流れで、がっつり描かれています。
平成5年、文庫版発行。

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「あやし」

宮部みゆき「あやし」角川ホラー文庫

単行本は2000年、この文庫は2003年発行。
宮部さんの時代物短編集。
最近出版された「おそろし」が評判良いのですが、こっちを読んでいなかったと気づいて~読んでみました。
タイトルが似ているけど、別にシリーズではないので、こちらを先に読まなければならないということはなかったです。
タイトル通り、あやしい話…

「居眠り心中」「安達屋の鬼」など、うまさに舌を巻きます。
「居眠り心中」は、源氏物語にちなんだ手ぬぐいを作ったところ、まずいことになった過去の例があるのに、甘やかされた若旦那が新しい企てをしたくて、手ぬぐいを作ろうと試みます。
もてもての若旦那に何かと用を頼まれてついて歩く、下働きの少年の視点で描かれます。

「安達屋の鬼」は、女中上がりのお嫁さんの視点。
前の奉公先での介護経験を見込まれて、離れにこもる姑の世話を任された嫁は、姑につきまとう怪異に気づくようになります。
姑も元を正せば貧しい出で、そんな姑をないがしろにしないようにと、大店からの嫁はとらなかったのでした。
商売繁盛のきっかけは姑にあり、心中に良からぬ物を抱いた取引相手は、かってに恐ろしい物を見て、逃げていくのです…

哀しい過去や残酷な事件もちらつくのですが、ほわっと救いもあります。
表紙は今市子さん~たしかに、ふと今さんの世界を思い出すような内容。

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「有頂天家族」

森見登美彦「有頂天家族」幻冬舎

京都の町を行き来する狸と天狗~
あるかもしれない?楽しい森見ワールド。

主人公は狸の下鴨矢三郎。
下鴨神社・糺ノ森に住んでいるんですね。
父親は狸のまとめ役をしていた偉大な存在だったのですが、狸鍋にされてしまい、遺された四兄弟は今いちの出来。
堅物の長兄は責任感を持ってぴりぴり、次兄は蛙となって井戸に引きこもり、三男の矢三郎はちょくちょく化けては面白おかしく暮らし、幼い弟はあまり仲の良くない金持ちの叔父の元へ見習いに。

美女が一人います。
人間の少女(鈴木聡子)だったが天狗にさらわれて魔道を仕込まれ、いつしか天狗に近い存在となった弁天。
矢三郎は、その天狗・如意ヶ嶽薬師坊の弟子だったのですが、あでやかな弁天にそそのかされて、老いた師匠を騙す手伝いをした過去が。
その負い目で数年は近づかないでいましたが、師匠がさらに衰えているのを見かねてまた世話をしています。なんか人(狸?)柄が良い…?
ふだんは軽薄だが、いざというときには頼りになると見込まれている矢三郎狸なのです。

兄弟を信頼して包み込む母親がまたいいんです。
母が化けるのは、タカラヅカふうの男装の麗人だったり。
男装の麗人と女子高生に化けてお出かけする母と息子なのでした。

赤玉ポートワインの好きな天狗、偽電気ブランの好きな狸が繰り広げる騒動と、狸鍋を回避せんとする命がけの家族愛。
納涼船や偽叡山電車で空を飛ぶ~狸一家が楽しい。
2007年9月発行。

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「すべてがFになる」

森博嗣「すべてがFになる」講談社

これがデビュー作?1996年発行。
初めて読みましたが、さくさくと読める展開で、なかなか面白かったです。

密室殺人物のミステリです。
設定がこれは孤島の研究所で、さらに誰も入れないドアさえも監視されている文字通りの密室。
天才少女だったが、両親殺害の容疑を受けて以来(心神喪失で無罪にはなったが)15年間外に出たことがない真賀田四季の居室での犯罪…

工学部助教授・犀川創平と、お金持ちのお嬢様・西之園萌絵が探偵役。
いぜんからの知り合いで、今は大学生になった萌絵は、ゼミの学生とのキャンプに参加します。
一般学生からは浮きまくりつつも~それが重い事件を軽くする効果になっています。
実は、萌絵は恵まれているだけではなく、飛行機事故で両親を亡くし、犀川は共に現場を目撃したという絆があります。

犀川は無駄な会議や人間関係の煩わしさを面倒がるたちなので、事件の現場へ行って、ある意味、共感を覚えるんですね。
最先端のコンピュータで管理された研究所には窓もなく、庭もない。
けっこう人数いる所員も、それぞれの自室で暮らし、もっぱらメールでの付き合いしかないという徹底ぶり。
いやこれじゃあ、閉じこめられていなくとも、おかしくなるってもんじゃ…!?

…Fってこういうことなのかぁ…想像の他です。
犯人の目星は一部はついたが一部は全く予想外…
事件はグロテスクな要素もありますが、それがスリルに繋がってはいます。
バーチャルな犯人との対話など、発表当時は今以上に斬新だったはず。
おじさん警察官がまったくついていけてないという描写も笑えます。
今だったら、なんで携帯使わないの?って感じだけど、孤島だから携帯は圏外とか?coldsweats01

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「女王国の城」

有栖川有栖「女王国の城」東京創元社

2007年9月発行。
江神二郎シリーズとしては4作目。
3作目から15年7ヶ月たっているそう。

有栖川有栖ら英都大学推理小説研究会のメンバーは、急に姿をくらませた江神先輩を追って、レンタカーで木曽路を走り、UFOが見えるという人類協会の本拠地・神倉へ。
会祖が宇宙人を見たという洞窟の前に作られた、人工的な町の奇観に驚きます。
今は、会祖の姪にあたる若い女性がトップなので、女王国というわけです。
カルト教団と思うと怖い話になりそうです…が、建物のセンスが万博のようとか、妙に軽いのが受けて盛んになった団体というのが、ちょっと笑える。

ガードの堅い本部の受付で、江神は三日間の瞑想中と最初は面会を阻まれ心配するのですが、誤解が解けたのか?翌日には会えることに。
村では11年前に未解決の事件もあり、以来ずっと気にかけている元刑事も滞在していました。
事件の話を聞いて、思わず推理を始めるメンバー。
江上には会えたものの、やはりどこか問題ありげな様子。そうこうするうちに閉鎖された空間で、連続殺人が…
警察に届けることを拒む協会に閉じこめられてしまいます。さて?!

江神って、まだ大学を卒業してなかったのね~!?
この頃の探偵さんはみんな髪が長いのねえ。
バブルが崩壊しかけている頃って、何年前だろう?
作者は1959年大阪生まれ。
1989年「月光ゲーム」でデビュー。
昔読んだのがどれだったか、しかとは覚えていませんが…

力を入れて書いたことがうかがえるバランスのいい作品だと思います。
いつも何となく明るい雰囲気のただよう~読みやすい文章に好感が持てます。

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「オイディプス症候群」

笠井潔「オイディプス症候群」光文社

2002年単行本発行、2006年新書版。
矢吹駆シリーズの5作目だそうです。

パリ大学の女学生ナディア・モガールが語り手。(というのはいつもなのかどうか?知りませんが~)
事の起こりは1970年代の末、ザイールでエボラ熱に似た奇病が発生、若き免疫学者フランソワが現地へ飛びます。
パリでナディアは旧友フランソワに再会しますが、彼は奇病にかかって既に重篤な状態で、恩師マドックにレポートを手渡すことを頼まれます。
矢吹は、この病気の流行の裏に何かあるとにらんでいるらしい。
ナディアと矢吹はギリシャへ飛び、ダイダロス館という孤島の館へ。

牛の頭のような形の島に建てられていたのは、クレタの王宮を模した建物。
持ち主アリグザンダーは血液製剤の会社を経営する富豪で、妻はその土地出身の女優でした。
集まったメンバーは政治家や哲学者、古代ミノア文明研究家、スウェーデンの女医など謎めいた組み合わせ。
ナディア達とは別な目的で呼び集められたらしいのです。
中庭のミノタウロスを思わせる牛首の巨像に突き刺さるように落ちた死体が…
島に閉じこめられたメンバーは、次々に命を狙われる?

シリーズ前作発行からは10年たっていますが、小説世界ではまだ最初から2年ぐらい?らしい。
フランス人の女性の視点で書いてあるというのが何となく不思議。
文章は崩れがなく至ってわかりやすいけれど、内容はややこしい。ヒロインが現象論を専攻しているせいもあり、事件より哲学問答も含むところが…
(母と子の関係が一義的だからといって、恋愛が必要ないような結論に何故なるかっていう…)
理屈っぽく凝りまくった本格ミステリでした。
20世紀精神の遍歴史を描き尽くそうという意図があるそう。

作者は1948年東京都生まれ。
1979年、矢吹駆シリーズの1作目「バイバイ、エンジェル」でデビュー。
2003年には、この作品と「探偵小説論序説」が第3回本格ミステリ大賞の小説部門と評論部門のダブル受賞しています。

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「弥勒の月」

あさのあつこ「弥勒の月」光文社

2006年2月発行。
「バッテリー」の作者が書いた時代物。しだいに幅を広げて行ってるんですね~達者なもんです。

岡っ引きの伊佐治は、北定町廻り同心・木暮信次郎のもとで働いています。
木暮の父の右衛門の代からのつきあいですが、温厚だった父に比べて、つまらない事件は冷たくあしらう若い信次郎にとまどいを感じているのでした。
月の夜、若い女が堅川に身投げするのを目撃されます。
遠野屋の若おかみ・りんとわかりますが、身投げの理由が見あたらない。
遠野屋の若だんなは入り婿でもと武士。評判はよいのですが、あまりに冷静な立ち居振る舞いから並の人間ではなさそう。
同じ年頃の好敵手を得て、妙に絡む信次郎だが…

身投げを目撃した男が殺され、不審な出来事が続きます。
遠野屋の過去に何か因縁が…?
人の良い伊佐治と知が先に立つ信次郎、過去を背負った遠野屋という3人のキャラクターの葛藤と、江戸の闇夜に起こる事件のスリルが眼目かな。
ふっと終わるのはわざとでしょうね。
哀しい余韻が残ります。

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「少女七竈と七人の可愛そうな大人」

桜庭一樹「少女七竈と七人の可愛そうな大人」角川書店

2006年6月発行。
その頃だったのか?新聞に大きな広告が出たのを見た覚えがあります。
内容の見当がつかなくて、好奇心はそそられたけど、すぐには手が出なかったな…
読んでみたら~かなり少女漫画風味で、そこに大人のリアリティも加味してあるので、いたって読みやすい。

旭川で祖父と暮らす少女・川村七竈。
際だった容姿は小さな町では異形のように目立ちすぎて、かえって損をすることも多く、本人は嬉しくないのでした。
幼なじみの少年・雪風は、子どもの頃からよく七竈の家にやってきます。
彼の方は子だくさんな一家で、職にも就かず頼りにならない父親と暮らし、忙しい母親にうるさく言われて家事を手伝う毎日だったから、七竈の家は気楽だったのです。
共通の趣味である鉄道模型でひっそり遊んでいるのですが、たがいに顔が似てくるようなのが、しだいに不安を募らせていく…

プロローグで「辻斬りのように男と寝たい」と、ある日思い立った当時25歳の優奈が、七竈の母親。
平凡な容姿の大人しい女性だったのだが。
誰の子かわからない七竈を祖父に預け、七竈が少し大きくなった後は家をあけがちになりました。
大人にもそれぞれ愛憎があり、身動きがとれない事情があるのはリアル。
視点は数人に交代で描かれ、中でも、老犬の視点というのがなかなか鋭くて面白い。
さらりとした描写を連ねていく構成で、どことなしに繊細で少女っぽい~つやつやと奇妙に魅力的な小説。

GOSICの作者が、こういう作品を書くようになったとは。通じるところはありますけどね。
「赤朽葉家の伝説」のほうはもっと線が太くて、一段と読み応えのある大人の小説で、変身した感がありました。
人物と微妙な距離をとりながら、芯に熱っぽいところがあるのは作風かな。

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「名短編、ここにあり」

半村良・他「名短編、ここにあり」ちくま文庫

北村薫・宮部みゆきの編による選りすぐりの短編集。
半村良「となりの宇宙人」黒井千次「冷たい仕事」吉村昭「少女架刑」といった作品が並びます。
ミステリに限定ではないのですが、ややブラックなのが多めなので、そういうのが好きな人向け。

半村良のは、落語みたいなノリで楽しい~どこかで前に読んだかも。
吉村昭のは意外、こんなのを書いていたんですね。
ショーに出演して働かされる貧しい少女という設定や文体は古めかしいが、それがレトロな魅力だったりします。献体に出された少女の魂が語るというセンスや、どこかひんやりとするような描き方は、現代的すぎるぐらいかも。

城山三郎のサラリーマンの哀歓を描いた作品などは、こういうのあるだろうと予想してましたが、自分では経験のない話なのでそれなりに面白く。
木乃伊の話なども、意外性があって興味深い。
殺人をもくろんで無惨に失敗する話は、ミステリとしたら無理があるけど~シリーズだったらしいので軽い読み物ってこと?
円地文子の「鬼」などは、やや平凡な気がするけど~当時としては鋭い指摘だったのかな。女の怖さをじわじわ描くのは長編でもそうでしたね。

総じてかなり面白い方ではありますが、やや古い…
昭和の雰囲気をもの語る作品、といっても良いのかも。
北村薫と宮部みゆきがこういうのを読んで育った、という読み方も出来ますね。
取り上げられた作家それぞれの経歴なども載っているので~よく知らない日本の小説をちょっと読んでみたければ、参考になるかな?
と私は思って読んでみました~!

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「闇の守人」

上橋菜穂子「闇の守人」新潮文庫

「精霊の守人」に続くシリーズ2作目。
いろいろな版がありますが、これは2007年発行の文庫。最初の発表は99年かな。
女用心棒バルサが25年ぶりに故郷カンバル王国へ帰る話。
主人公が大人の女性なので、わりと大人向きですから~これ1冊だけでもオススメです。

シリーズ1作目では、女用心棒のバルサは、幼い王子の身を守るために仕事をしていました。
私はこれをだいぶ前にハードカバーで買って読んだきりになっておりました。

2作目では、養父ジグロを看取ったバルサが、故郷を訪れる話になるわけです。
養父ジグロは親友だったバルサの父に頼まれ、幼いバルサの命を守るために、すべてを捨てて出奔してまで育ててくれた人。
追っ手を討ち果たしながら生き延びる過酷な人生でした。
(抜け忍みたいなものですね…って違)
追っ手をかけた王は既に亡くなっていますが、はたして安全かどうかも定かではないまま…

ジグロの弟ヨグロは、家に代々伝わる槍舞いを継承し、今では王の右腕たる「王の槍」として国の実権を握っていました。
ジグロは想像以上の汚名を着せられたままだったことを、バルサは知ります。
父の妹ユーカに再会、さらに、陰謀がうごめく現場へと導かれるバルサ。
おりしも、カンバル王が山の王から青金石ルイシャを得る儀式が35年ぶりに行われます。
アジア的な生活の描写が面白く、意外な展開に本格的なファンタジーの醍醐味があります。
闇の守人ヒョウルとは。すべての真相は…

親族の元気な男の子カッサとおてんばな妹ジナも活躍。
牧童やオコジョを狩る小さなティティ・ランなどもいい味わい。
さすがに有名なシリーズだけあって、しっかり構成された、読み応えのある作品ですね。

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「朱烏の星」

菅野雪虫「天山の巫女ソニン3 朱烏の星」講談社

巨山(コザン)、沙維(サイ)、江南(カンナム)の三国が並び立つ半島を舞台の歴史物風ファンタジー。
児童向けのハードカバーですが、大人でも読める良質な作品だと思います。
沙維の国には天山という山に巫女が住んで修行していて、主人公のソニンは幼いときに素質を見いだされて山に入りますが、落ちこぼれて里に返された身。
夢見の素質はあるのですが、自分でコントロールできないのでした。

慣れない庶民の暮らしに戻り、現実に直面しますが、良い友達もできます。
末の王子イウォルと出会い、口のきけない王子の気持ちがわかることから、宮殿の侍女となっての活躍が1巻目。
2巻目では、南の江南へ招待され、3巻目の今度は共に巨山へ。

国境に住む森の民が巨山で捕らえられ、王族が引き取りに来れば返すという条件をつけられたため、イウォルが引き受けます。
王子が頼りにしていた乳母と、王子の母である亡き王妃が、ともに森の民だったことを初めて知るソニン。

巨山にはカリスマ性のある王と、気の強いイェラ王女15歳がいました。
星座表を見て違いに気づく13歳の利発なソニンに、イェラは興味を持ちます。
一人娘のせいか?意識の高さがイウォル王子達とは違うようですよ。
全く違う国の制度に触れて、噂とは違うものだと感じるソニン。
国交の途絶えていた国との、緊張感ただよう訪問の結果は…?

頼りなかった王子もいつの間にかしっかりしてきたようで、ちょっと末が楽しみ。
もっと泣いたり笑ったり怒ったりすることが自分の考えを持つことに繋がるという~成長期のソニンとイウォルなのでした。
三部作のようなふれこみでスタートしたような気がしますが、まだまだ続きそうですね。
2008年2月発行。

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「切羽へ」

井上荒野「切羽へ」新潮社

08年夏、直木賞を受賞したばかり。
「ベーコン」がよかったので~受賞しそうな気がしてました、と後から言う。

生まれ育った島で、小学校の養護教諭をしている麻生セイ。
画家の夫も生まれは同じ島で、再会して結婚してから二人でもどることにし、なごやかな暮らしが続いていました。
かっては炭坑で栄えた九州の島はのんびりと落ち着いているが、どことなしにさびしげでもあるような。
セイの父親の診療所がなくなったように。
セイが見舞いに通う、しずかさんが年老いていくように。

新任教師に石和聡という30歳ぐらいの男性が赴任してきて、俳優のようと噂されます。
セイと同じかちょっと下ぐらいの彼は、島では目立つ存在。
何か事情があって元いた場所を離れて来たらしく、ちくちくと危険なにおいをまき散らし、セイの心を揺らすのです。

同僚の女教師の月江は派手で色っぽく、通称「本土さん」との不倫を公然と続け、島の人も慣れていましたが、これが一時は騒動に。
月江の奔放さとセイの密やかさが対照的。
本の帯のコピーを見て激しい恋愛物のように期待すると違うと思いますが、ひたひたと丁寧に描かれていて、心地よい完成度。
全編にほのかに色っぽい気配が満ちていて、それが生きることだと思わせます。

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「人のセックスを笑うな」

山崎ナオコ-ラ「人のセックスを笑うな」河出書房新社

作者は1978年生まれ。
この作品で、2004年第41回文藝賞を受賞。

19歳のオレこと磯貝は、美術の専門学校生。
そこのデッサンの講師で、20歳年上のユリちゃんことサユリにモデルを頼まれます。
39歳といえばそう見える外見だが、生徒をほめるタイプの教師で、若々しい雰囲気のユリ。
ユリの家でモデルをするうちに、付き合うようになります。

ユリの悩みを聞きながら、自分にこだわりすぎではないかと内心思ったりする主人公。そのへんがリアルでちょっと面白かったり。
これが恋なんだろうかと時に自問しつつも、愛しさがわき出るのですね。
楽しい時期が過ぎていくけれど、52歳の夫と家で鉢合わせ…
夫とはもう恋愛ではないと聞いて素直に信じていた若者は、気がついていないはずはない夫に表面は愛想良くされて食事をごちそうになり、おかしなひとときを過ごします。
けれども、その後、ユリの方は態度が変わり始め…

ありそうなディテイルを丁寧に描いていて、そのわりに生々しくはない。
そのあたりのバランスが上手いです。
ユリは平均的というわけではないけれど、こういう女性もいるなって世代的によくわかります。
恋をしないよりも恋をして失った方が良いんだよ、若者!
まあ、こういうことも、あるかもしれないねえ…って感じ。

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「ラッシュライフ」

伊坂幸太郎「ラッシュライフ」新潮社

2002年の作品。
仙台を舞台に、奇妙な事件が連鎖していくのを描きます。
歩くバラバラ死体があるという都市伝説のような噂。
偶然の出会いと必然的な流れが絡み合い…はたして、真相は?

リストラされた中年男性は、駅前をうろつく野良犬を見かけ、ほっておけなくなります。
ダブル不倫の邪魔者を殺そうともくろむ男女は、車で移動中に事故に遭い…?
教祖的な人物に憧れていた若者は、教祖が変わってしまったのではないかと疑問を持ち、上層部の計画に引き込まれます。
傲岸な画商と同行する女性画家は、これ以外に成功する道はないと思いつつも、セクハラに脅えます。
空き巣を職業として淡々とこなす男・黒沢は、かっての知り合いに出くわし…その人物とは?

時間軸がずれている構成で、時々話が戻り、あっこう繋がるのね!と。
実験的な構成に挑む意欲が感じられます。
怖がらされたり、ぷはっと笑ったり。乗せられてしまいますね。
発行はけっこう前だけど~デビュー後数年目、「ゴールデンスランバー」の数年前という、今から見ると、ちょうど真ん中へんですね。

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「こころげそう」

畠中恵「こころげそう」光文社

「しゃばけ」シリーズではない作品ですが、江戸物です。
主人公の宇多は、江戸橋本町に暮らす下っ引きの若者。岡っ引きの子分ですね。
幼なじみだった兄妹が同じ日に水死した事件を機に、その謎を解きつつ~近所に住む男女9人の恋模様と身のふり方を描きます。
恋愛要素が強いあたりが、この作者としては新機軸で、にぎやかです。
妖怪は出てこないけど、幽霊が出てきます!

口入屋永田屋に奉公する重松はしっかり者で、みんなの信頼を集めています。が、恋は思うに任せないようで…
気ままな野菜のぼて振り・弥太と、大工の娘・お染は恋仲。
大きな小間物屋の千之助と於ふじ兄妹が、川に落ちてしまった事件の主。
宇多は於ふじを想っていたのですが、身分違いなので突き詰めようとはしないでいたんですね。
おてんばなお絹は長次親分の娘で、宇多の妹のような存在。
茶屋で働く色っぽい美人・おまつはもてもてだが、じつは弥太に片思い。
一番の大店の箱入り娘・お品は少し距離があり、様子がおかしいのにまわりが気がつくのは最近になってから…

立場も性格も違う、幼なじみの9人。
さらっと読めますが、宇多が恋愛に疎いためにやや傍観者的な見方になるせいか、娘たちが恋に悩む姿が時々わがままに見えてしまうかなあ?
登場人物が多いので、一人の娘に同情しながら読むわけではないからかな。

こころげそうとは、心化粧と書いて~口には言わないが内心恋いこがれること、だそうで。
はっきり言えない宇多も、内心は恋いこがれていたのでしょう。
2004年から2007にかけて書かれた作品。

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「あかね色の風」

あさのあつこ「あかね色の風/ラブ・レター」幻冬舎文庫

94年の「あかね色の風」と98年の「ラブ・レター」2本を収録した文庫。2007年刊。

北川遠子は12歳。
走るのが純粋に好きだったのですが、陸上部で不本意ないきさつで怪我をしてからすっかりヤケ気味。
そこへ、転校生の千絵がやってきました。
色白でふっくらして~家庭の事情もあるのに屈託のない千絵は、長身でとんがった色黒の遠子とは対照的。
一つしかない6年生のクラスではろくに口もきかなったのですが、化石が好きだという千絵にふと近づいて、遺跡の発掘現場へ遠出をすることになります。
反抗的で人付き合いの苦手な遠子は、「バッテリー」の巧の原型のようです。

「ラブ・レター」は高校生の姉の恋を見守りながら、自分も初めて好きな男の子に手紙を書こうとする話。
文章を書くことに目覚め始めたときめきが、作者の少女時代を思わせます。
2編とも、自然な語り口。本当にどこかにいそうな女の子を描いて、さりげなく充実した内容。

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「赤朽葉家の伝説」

桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」東京創元社

2006年12月発行。
「このミステリーがすごい」で上位でした。
ミステリーの要素は最後の方に出てきますが、旧家の三代を描いた濃厚で面白い小説です。

山陰は鳥取の紅緑村。
山奥に暮らす漂白の民が、女の子を一人、村に置いて行きます。
その女の子・万葉は昭和18年頃の生まれ。
定住はせず何かあるとたまに村に下りてくる人々は「山の民」「辺境の人」などと呼ばれ、がっしりとした体格で色黒で目が大きく、色白で目が細くのっぺりした顔つきの村人とは違っていました。

村の若夫婦に引き取られて育った万葉は、千里眼があると噂されます。
長じて、製鉄所を経営する大金持ち・赤朽葉家の大奥様・タツに見込まれて、跡取りの嫁となることに。
跡取り息子には愛人もいましたが、万葉の方はよくわからないまま、それほど気にしません。
職工の豊寿と内心、想い合うのですが…互いにそれを口にすることはありませんでした。
何となく自然に信頼し合う関係は、けっこういいなと思うのですが。

最初の子が生まれたときにその死を予知し、誰にも言えずに苦しむ万葉。
優秀な長男でまわりに期待されていたのですが、やがて予感通り早世してしまいます。
長男の泪、その妹の毛毬~すごい名前ですが、これは祖母の直感で名付けたもの。戸籍上は波太、万里と出されたが誰もそう呼ばないという。
長女の毛毬ははっきりした顔立ちの美貌だが、いたって気が荒く~暴走族としてならすのもその時代の流行にちょうど乗ってのこと。
ハイティーンブギやスケバン刑事の時代ですかね?
毛毬はその経験を描いて漫画家となり、一世を風靡します。

その娘でニートぎみの瞳子は、偉大な祖母と母の存在に脅え、生き方に迷うのでした。
それぞれの若き日を中心に、三世代の強烈な人物を脇役までくっきりと描いて読み応えがあります。
高度成長からバブル、その崩壊と、時代を切り取る描き方に躍動感があって、面白い。
ミステリ部分は、瞳子が謎解き役。
これがやや大人しすぎて~それまでの濃さに比べて、ちょっと肩すかしの気分を味わうのですけど、普通の人ってこんなもんかしら?
振り返って~瞳子の一生を圧縮すれば、もっと濃くなるかなとも思うのですが。
透明な視点で見て欲しかったのか、今の若い人は大人しいという実感がこもっているのでしょうか?

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「夢見る黄金地球儀」

海堂尊「夢見る黄金地球儀」東京創元社

「チーム・バチスタの栄光」の海堂尊が書いた医療物以外の作品。
舞台は同じ桜宮市。
桜宮市にも舞い込んだふるさと創生基金。
黄金の地球儀ができたいきさつは、あれは何年前でしたか…黄金のかつおが盗まれた事件を想い出させますね~。

桜宮市の場合、創生基金で作ったのは黄金地球儀。今はさびれた水族館に置かれている黄金地球儀の強奪計画が持ち上がります。
平沼平介は、自称ガラスのジョーこと悪友の譲治に誘い込まれるのです。
それというのも、平沼鉄工所は、深海七千など天才肌の父親の発明であふれていたが、実は赤字経営。
さらに、市役所との契約で、無理難題を突きつけられていたのだ?!

2007年10月発行。
医療物でないと、命がけで血みどろな話にならないのは楽ですが~専門知識に基づくスリルや迫力はやや減るかも知れない?
ボンヤリボヤとかウスボンヤリボヤとかいう~珍しい深海魚の名前の連発には、つい笑ってしまいます。
日本の鉄工所の底力を見せつける?意外に痛快な結末に、元気が出るかも?

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「夏の約束」

藤野千夜「夏の約束」講談社

いつか読もうと思っていた本。夏なので、読んでみました。
芥川賞受賞作だったんですね。
主人公がゲイなのは知っていたけど、デブとは思いがけなかった…

会社員のマルオは95キロ。
子供の頃はいじめられたこともあり、男子寮を出なければならなくなったこともあるのです。
今は恋人も出来て、編集者で小柄なヒカルとは手をつなぎっぱなしでデートをする仲。つなぎっぱなしにする必要性をこっちは感じないけれど、二人で宣言するような意味があるのかな~。
でも、同居の話にはまだ乗り気ではないマルオだったりします。

美容師のたま代はトランスセクシュアルで、今は女性となった身。
ヒカルの幼なじみの小説家・菊江や、その友達など、彼らを囲む女たちも、ちょっとヘンだったりする~ゆるい友達つきあいが描かれていて、なかなかいい感じです。
ふっと夏にキャンプへ行こうねという話になり、子供の頃のキャンプにはあんまりいい思い出のない面々が、内心複雑な思いを抱えつつ、約束しているのでした。

いぜんに書評を読んだときには、もっともの悲しいのかと予想していたけど、嫌なこともありつつ~滑稽な日常が抑えた筆致で描かれていきます。
……若くて苦労知らずだったら、けっこう強烈かも知れないな?
今となっては、まあ人生これぐらいハッピーがあれば…苦もあるのもやむを得ないでせう。
2000年発行。作者は1962生まれ。

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「鹿男あをによし」

万城目学「鹿男あをによし」幻冬舎

2007年4月発行。本屋大賞にノミネートされ、テレビドラマにもなりました。
読みやすく、軽快。

主人公「おれ」は物理の研究室にいましたが、助手の論文用データをうっかり消してから折り合いが悪くなり、神経衰弱などと噂されるようになってしまいました。
教授の紹介で、気分を変えるのも良いだろうと、奈良の女子高校で2学期だけの講師になります。
気持ちが落ち着きそうな古都の風景に、下宿屋は賄いつきでのんびりした雰囲気ですが、意外なできごとが次々に襲いかかります。

鹿に話しかけられ、幻覚か!本当に神経衰弱なのか?とうろたえます。
和風ファンタジーといいますか…
さらに、初めての教室で、遅刻してきた女生徒の反抗的な態度にむかついて、うまくおさめることができず、妙に大ごとになってしまうのでした。
さて、その理由とは…?
もう知っている人も多いと思いますが、地震を起こすナマズを抑えるために卑弥呼から伝わる運命の担い手となるのですが。そりゃ、驚愕しますよね、って。

生まれつき、ついてない男とドラマではなっていたけど、原作だと鹿島神宮のそばで育ち、母が鹿島大明神のファンで縁があったということらしい。
遅刻してきた生徒・堀田イトとのやりとりや、姉妹校のマドンナ・長岡先生らと剣道の試合、三角縁神獣鏡をめぐる教頭との戦いなど、予想より原作通り。 楽しい展開です。
同僚の藤原先生が原作では男性なのに、女性になって恋愛になるというところが違うけど。
藤原先生、とぼけた役を好演していたし、良かったんじゃないですか。

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「イギリス海岸」

木村紅美「イギリス海岸」メディアファクトリー

著者は76年兵庫県生まれ。
2006年「風化する女」で文学界新人賞を受賞。

梢と翠という対照的な双子の姉妹と、その恋人や知人へと視点を変えながら、宮沢賢治がイギリス海岸と名付けた場所をモチーフにつづられる連作短編集。

おしゃれで奔放な翠は、恋人を追って東京へ。バンド活動を始めるのでした。
双子の姉で堅実な梢は、地元で暮らします。
妹の様子を見に行くように親に言われて、高校の時によく食べた福田パンのあんバタをみやげに持参するのでした。
地元の店で知り合った女性が、やはり双子と知り…
その双子の片割れがイギリス旅行中に、イギリス海岸のことを思い出したりと、かすかに連鎖していくのです。
ふだん身なりにかまわない梢が珍しく気に入って買った緑色のホームスパンのコートなど、小物が効いています。

特にどこがものすごく素晴らしいという感じではないけれど~
薄いつながりが暑苦しくなくて、ほのかに暖かみがあり、さらりとして心地よい読後感。

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「ワンちゃん」

楊逸「ワンちゃん」文藝春秋

2008年第138回芥川賞を受賞したばかりの作家の、昨年の芥川賞候補作。

中国人の王愛勤は、15歳から縫製工場に勤め、改革開放の波に乗って洋服を売って成功するが、女にだらしのない無職の夫に苦労し、ついに外国へ逃げることを決意。
浮気しそうにもない日本人と結婚し、木村姓になるが…
いきいきしたワンちゃん(王から来るあだ名)の猪突猛進ぶりが痛々しくもたくましく、ほほえましい。このエネルギッシュな感じが中国女性らしいのかな。
文章は十分に達者で~筆力を感じさせますが、ごく一部に変わった表現があり(日本人でもこれぐらいあるけど)、芥川賞というにはやや話し言葉的な走り具合があったかもしれませんね。

お見合いの仲介業の様子がリアルで興味深い。
苦労しているだけに?ワンちゃん自身の場合よりも、ちゃんと互いに好意を抱いてお似合いの相手と話が決まるように計らうところや、あちらのやり方で式を挙げるシーンなど、なかなか素敵でした。
しかし、土村という実直な八百屋さんに結婚の斡旋をしているのに、実は内心、ワンちゃんが恋してしまう皮肉な運命。
どうにもならない成り行きだけに、相手も憎からず思ってくれたようなのが良いのか悪いのか…?
日本人のお姑さんが可愛いおばあちゃんなのは救いですね。

書き下ろしの「老処女」は中国語講師のハイミスのちょっとずれた片恋を描いて、そのずれ具合や突然ファッションに目覚めたり、また気が変わったりと~中盤は面白いけど、何かあんまりな結末!?
これが文学的というのか…芥川賞系はこういうところが危険なんだよ、って!?

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「ゴールデンスランバー」

伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」新潮社

2008年本屋大賞を受賞したばかりの作品。
直木賞も本命?だったみたいだけど候補を辞退してたんですね。

仙台での凱旋パレードで新首相が暗殺され、犯人に仕立て上げられた青年・青柳が逃げ回ります。
首相公選制があるという架空の設定を取り入れ、いろいろな要素をほどほどに入れて、スリリングで、わかりやすく。
エンタテインメントとして、とても良くできています。

優男だがぱっとしない青柳雅春は、かって恋人の樋口晴子に物足りなく思われて振られていました。
宅配ドライバーの仕事をしている時に、たまたまアイドルの女の子がストーカーに襲われているのを助け、一躍時の人となったことがあります。
そのせいなのかなんなのか、大がかりな陰謀のスケープゴートにされてしまうのですが。
携帯からの発信で居所が知られてしまうような状態をいかに乗り切るか?
陰ながら力を貸す元恋人まで含めて、彼の人柄を信じる何人かの人に助けられ、これまでのすべての経験と人脈を使って対抗し、逃走するのです。

ゴールデンスランバーとは、黄金のまどろみ、といった意味。
もとは子守歌にあるんだけど、ビートルズのナンバーに使われているんですね。
解散が近づく時期にメドレーとして作られた曲の6曲目だとか。

今の時点では一番完成度が高く、伊坂ワールド集大成の感もあり、一般的にオススメでしょう。
初めて読むのにも良いですが~「グラスホッパー」を読んでいれば、なお面白いです。
あの殺し屋たちが登場してますから!
(女性には、これを読んでから「グラスホッパー」の順がよいかも)
国家的陰謀の怖さを感じさせて、重みもありつつ、テンポ良く展開。
ほっと泣き笑いするような結末で、締めくくってくれます。

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「果断」

今野敏「隠蔽捜査2 果断」新潮社

2007年発行のシリーズ2作目。
前作のいきさつで左遷され、エリートコースをはずれて大森署の署長となった竜崎伸也。
署長というのは上から派遣されてくるので半ばお飾り、行事に出るのが重要な役目で、あとは大量の書類に印鑑を押さなければならないので、ろくに読む暇もなく押すだけで一日が終わるほどだとか。
左遷されてきた自分を実力のある署員がどう見ているかと内心では気にしながら、ひたすら判子を押し続ける毎日に退屈していました。
近くで強盗事件が勃発、犯人が警戒網を抜けて逃走したため、責任問題に。
しかも、立てこもり事件に発展したため、竜崎は現場に詰めて、異例のリーダーシップを思わず発揮することになります。

やや一本調子だった前作よりも、ふくらみを増している印象。
家庭を任せきっていた妻の冴子が倒れ、内心すごく落ち込む竜崎は、案外~愛妻家?
息子が東大を目指すと聞いて喜ぶが、それはアニメの勉強をしたいからというので、母校である東大にアニメ科が出来たと聞いて愕然とする時代遅れの親父っぷり。
息子に見せられたアニメ(なんだと思いますか?)に素直に感動するあたり、ヨシヨシって感じです。

仕事の面でも、最初は建前で生きているように見えた竜崎の合理精神が発揮されます。
筋違いの権威にはへいこらせず、現場では身分が下でも訓練を受けた専門家を立て、その後の厳しい査問にも主張を通す頑固一徹ぶり。
幼なじみの伊丹とも、前作とは立場が違いますが、なんだかんだ言いつつけっこううまいこと連携していくのです。
周りを呆れさせる行動や、持論の展開も筋が通っている面があって、にやにやさせられます。
日本はどうなっているんだという気分になる日々、こんな人がもっといたら風通しがよくなるんでは、と思いますね~。

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「隠蔽捜査」

今野敏「隠蔽捜査」新潮文庫

この次の作品「隠蔽捜査2 果断」の評価が高いので、まずこちらから読んでみました。2008年に文庫化。
仕事一途の警察官の視点で描かれます。
人の良い一警官ではなくエリートで、しかも本音吐きまくりというのがユニークなところ。

竜崎伸也は東大法学部出のキャリア組。
警察庁長官官房の総務課長とエリートコースをまっしぐら。
それも当然と思っているプライドが高いおっさんで、けっこう嫌なやつ。
最初は、こんなの読まされても感情移入できないのでどうしてくれるんだって感じですが、国家を守るために全力を尽くすのが当たり前と大まじめに考えているところが買えます。
変人と言われて心外に思う自覚のなさ。家庭を守る冷静な妻に、唐変木とまで言われるのがちょっと笑える。
硬骨漢というのか~40代なのに、ここまで古い男も今時珍しい?

対照的なタイプの同僚も~それぞれ長所短所があるのが良いですね。
警視庁の伊丹は同期であるばかりか~たまたま小学校で一緒だった幼なじみ。
そうすると親友のように思われ、伊丹の方も親しげなのだが、実は小学校時代には伊丹の仲間にいじめられたという思いが竜崎にはあり、屈折した感情を抱いているという設定。
伊丹は東大出ではなく私大出なので、出世もこれが限界と見下ろしているような竜崎には、被害者意識が抜けきれなかったんですね。
明るい性格の伊丹の方が断然取っつきは良い感じだが、本来どっちが上というのではなくタイプの違いといった描き方になっています。

警察庁と警視庁の違いというのも一般にはピンと来ないんだけど~すごい違いらしいです。
警察庁の方が断然エリートだけど、一般の警察官からすれば警視庁も雲の上なんだとか。
組織というのはこういうもんなのでしょうか。

受験浪人中の長男が思いがけない問題を起こし、自分の出世もすべて水の泡になるかもしれないという危機に、家庭を妻に任せきりにしていたことをちょっと反省するのでした。
そもそも私立には受かった息子を東大でなければダメだと言って浪人させるなんて、それが良くなかったんでは…進路によっては現実にありなんだろうけどねえ…?

折しも警察内部の不祥事も明らかになりそうになり、隠蔽工作が動き始めます。
握りつぶすべきなのか…?
正直に迷う人間らしさと筋を通す偏屈ぶりで、読後感はナイス!

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「インシテミル」

米澤穂信「インシテミル」文藝春秋

2007年の作品。
不穏当かつ非論理的なことが展開しますという警告で始まる、密室での殺人ゲームの話です。
異常に高額のバイトに半信半疑で応募する人たち。
大学生の結城理久彦は車が欲しくて応募、暗鬼館に到着します。

たまたま一緒にアルバイト情報誌を見た須和名という育ちの良さそうな美女も参加していました。
12人のメンバーは、おのずとリーダーになるタイプの大迫とその恋人や、結城があるところで知っていた人物など、ほとんどはごくまともそうな人々。
意外なようですが~見るからに凶暴だったりしたら、乱射してすぐ終わりになりかねないですもんね…
そう簡単に終わらないように、念入りに人選も考えてあるというわけなんです。

地下の豪華な施設に閉じこめられ、それぞれ一つずつ凶器になりうる物を与えられます。
夜の間は一人ずつ自分の寝室に引き取る規則で、しかも鍵はかけられないという~不安をあおる設定。
法外な時給の他に、見とがめられずに殺人を行えば倍額、殺人を行おうとしているところで捕らえられれば減額、探偵役として推理が当たっていればさらにボーナスが出るといった仕組み。
誰も何もしなければそれで済むじゃないかと話し合って、ほっとしたのもつかの間、銃で撃たれた死体が発見されます。
3人以上で行動するように取り決めますが、皆は次第に疑心暗鬼に…

悪趣味だが。
細かな工夫が凝らされ、それがなかなか上手くできているので、凝りまくりぶりがミステリマニアならまでは。
そのへん、面白く読める要素はあります。

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「断髪のモダンガール」

森まゆみ「断髪のモダンガール 42人の大正快女伝」文藝春秋

大正から昭和初期まで、あるムードの時代を果敢に生きた女性たちを描いて、ものすごく濃い。
評伝ですが~作家も多いので、国内小説もカテゴリに含めました。

髪を切るというのは昔の日本女性にとっては夫を亡くした時だけだった…
そう言われてみると、重い日本髪から、断髪にした開放感はすごいものがあったんでしょうね。
欧米では、第一次大戦中に男性の働き手が少なくなったために女性の社会進出が進み、服装もヘアスタイルもぐっと軽くなりました。
日本ではそこまで全体的な変化はない中で、モダンガールという言葉が出てきたのは昭和2年(1927年)になってからだそうです。
ごく一部の女性が時代の空気に敏感に反応し、思いきり激しく生きたような気がします。

しかし、女傑が多いこと!
100年も生きた人もいて、明治生まれは強いとしみじみ。
望月百合子は明治33年(1900年)生まれ、平成13年(2001年)没。
早熟で、「青鞜」(明治44年発刊)を読んだのが小学校5年の時だったとか。
大正8年から断髪洋装の新聞記者として活躍、後に長谷川時雨らと「女人芸術」を創刊、アナーキズム系女性誌を創刊、女性解放運動に関わったとのこと。
この女性から生で聞いた往時の女性たちの印象が、この本の通奏低音をなしているそうです。

一枚だけの写真がよく風貌を伝えています。
平塚らいてうは、統率力がありそうだが押しも強そうな理知的な美女。
尾竹紅吉こと後の富本一枝の若々しい男装の袴姿も、可愛い。
伊藤野枝は丸っこくて野性的な色っぽさがあって、そのまんまだなあ。
夢二のモデルのお葉はほっそりとして哀しげだけれど、何とも綺麗。貧しさ故に少女の頃から親にモデルとして売られたような形で仕事をしていたとは…晩年は穏やかだったようなのが、せめてものことですね。

与謝野晶子が12人も子供を産んでいるのは知っていたけど~やっぱり、すごい。たくましい生命力ですねえ。
吉屋信子は断髪が似合うなあ。
宇野千代は、さっそうとして明るくて良いですね!
「スタイル」という雑誌が非常に売れたんですね。「生きていく私」のドラマ化以来、一番親しみを持っている女性かな。

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「カシオペアの丘で」

重松清「カシオペアの丘で」講談社

2002年から4年にかけて新聞連載、2007年に単行本化された作品。
重い内容がすんなり入ってくる、この読みやすさはすごいですね。

北海道の小さな町、北都。
幼なじみのトシ、シュン、ユウ、ミッチョの4人がボイジャーを見ようと丘に登り、ボイジャーは見えなかったけれど~丘の上で見た星座がカシオペア。
「カシオペアの丘」と名付けて、大人になったら遊園地を作ろうねと言い合う。
30年がたち、そこには本当に遊園地が出来ていました!

車椅子の園長になったのは市役所勤めのトシこと敏彦。紅一点だったミッチョ(美智子)がその妻になっています。
けれども企画が出来た頃にはバブルが崩壊しかけており、小さな遊園地は5年でたちまち閉鎖の危機に。
そして事情があって町を出たきり、長らく連絡も取らなかったシュン(俊介)は、40歳を前にガンに冒され…
ユウ(雄司)の勧めもあり、やり残したことをするために、妻子を連れて故郷の町を訪ねることにします。
一人息子に病気のことを話すのは故郷で、と考えたのでした。

シュンの祖父は倉田千太郎という地元の大立て者で、かっての炭鉱事故に責任がありました。祖父は、鎮魂のために巨大な観音像を建てて、いささか悪趣味なそれは町中を見渡していました。
トシの父はその事故で死んだのですが、それを知らずに育ったシュンはある時いきなり知らされて、逃げるように町を出たのです。
学生時代に東京でミッチョと再会し、一度は恋人同士になるのですが…
故郷へ帰った美智子は、俊介とのことを敏彦には話さないままでした。

たまたま雄司が仕事で関わることになったある少女殺害事件の被害者の家族・川原も、幸せだった1年前に遊園地を訪れたことがあり、同行することになります。
重すぎるほどの内容ですが、流れるような文章で、引っ張り込んでくれます。
考えてみると、新聞で無惨な事件を知って嘆いたり、しだいに身近な人の重病が増えてくるのは誰にでも起きることですね。

命とは何かと考えさせる~愛情と希望と、生きている実感のあふれる物語。
シュンの病気の進行という辛い状態の中で、様々な人生が交錯します。
それぞれの家族が実はちゃんと愛し合っているのを確認できるので、心温まる展開。
濃い内容だけれども、よくここまで書いたものです。

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「あめふらし」

長野まゆみ「あめふらし」文藝春秋

久々に読んだ長野まゆみの本。2006年6月発行。
いぜんに数冊は読んでいます~。

涼しげな表紙もきれいな~和風幻想譚。
下宿屋の気まぐれな主・橘河が営むのは、何でも屋のウヅマキ商会。そこの依頼人~というより何かに誘われて迷い込む人たちはみな訳ありで、形のない魂だったりします。
橘河という男、実は魂をつかむことの出来る雨師だったのです。

「空蝉」「こうもり」「かげろう」など、題も美しいですね。
精緻な描写を連ねて不思議な世界に誘い込む文章にうっとり。
「空蝉」は、気がつくと死んだはずの人に乗り移って生活しているという不死者のような話で、自分が何者なのかつかみかねている魂の気持ち?みたいなものが感じられて、面白かったです。
橘河を巡る人々の微妙な関係も面白いのですが~ほとんど普通に生きている人間は出てきてなかったような…?

「少年アリス」でデビューした長野さん。
根底にちょっとBLテイストがあるのでやや女性向けですが、これは登場人物も年齢層が高めで、かなり広範囲の大人向き。
あら?そういうこと…と、にやにやしますけど~具体的な恋愛描写というほどのものはないので、美しい文章や幻想的なムードが好きな方におすすめ。

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「愚者のエンドロール」

米澤穂信「愚者のエンドロール」角川文庫

2002年8月、スニーカー文庫で発行。
古典部シリーズの2冊目。
古典部のメンバー4人は、学園祭を前に、上級生の入須冬実にある依頼をされます。
クラスの有志で撮影中だったビデオ映画の脚本が仕上がらず、担当者がプレッシャーから寝込んでしまったので、出来た分を見て解決編を推理してくれというのでした。

ミステリ研究会じゃないんだけどと思いつつも、思わず推理を巡らす面々。
近くにある元の炭坑町で今は廃墟となっている所を撮ったビデオ、この描写はやけにリアル。
作者の地元にモデルがあるようですね。
千反田えるの好奇心発令で動かされるホータロー、省エネだけで生きていくのもつまらないように感じ始めているのでした。
その心境の揺れ動きが、ちょっと好もしい。

ミステリとは何か、という論議もなかなか楽しかったです。
「クイーン、クリスティ、カーぐらい」読んでいる自分を「ごく普通」と思う摩耶花。海外ミステリ読みとしては確かに普通です…けど。
しかし、入須先輩は高校2年にしては威厳のありすぎ~。

愚者は、タロットでフール(つまり道化ですね)、好奇心を意味するんだそうですね。千反田えるをタロットで占った時に出たのがこれ。
エンドロールとは、映画の最後に出る画面のことらしい。
なんだかんだいって女性陣に動かされている~ホータローのことを指したタイトルのようでもありますね。

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「カツラ美容室別室」

山崎ナオコーラ「カツラ美容室別室」河出書房新社

サラリーマンの淳之介は、風来坊の梅田さんと知り合い、梅田さんの住む高円寺が気に入って引っ越して来ます。
人好きのする梅田さんは、親が転々としていたため小学校卒、30過ぎて結婚もしているけれど、定職はなく出来る範囲のバイトをやっているんですね。
淳之介は梅田さんの行きつけの美容室に行き、なぜかいつもカツラとはっきりわかるカツラをかぶっている店長や、美容師の女の子たちと、花見に行ったりの仲間づきあいが始まるのでした。

美容師のエリは生き生きしていて、存在感があります。
大柄で、途中から美容師になって3年目、がんばっているけど、年下の同僚にちょっとかなわないところがあったりして。
淳之介とちょっと惹かれあうが恋愛まで発展はしない~青春というには遅い、大人の別れが来るまでの何てことない一時期の話。
高円寺は確かにこんな雰囲気の町のような気はするし、あり得そうなリアルな出来事がほどよく書かれています。
それがなかなか心地よいけれど~傑作というにはちょっと…何てことなさ過ぎ?
恋愛未満の人間関係はたくさんあるはずで、わざとそこを描いているのでしょうね。疲れたくないときに読むのには良いかも?

人を食ったペンネームと題名の何とはないおかしみがバランスぴったり。
作者は1978年生まれ、2004年「人のセックスを笑うな」で文芸賞を受賞してデビュー。
この作品は芥川賞候補になっていたはずです。

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「氷菓」

米澤穂信「氷菓」角川書店

米澤穂信のデビュー作。
古典部シリーズ一作目ということになります。
「クドリャフカの順番」を先に読んで、厚さにびっくりしていたんですが、今度は薄さにびっくり。
でも中身は結構あります。処女作には全てがある、と言われるとおりですね。

神山高校に入学した折木奉太郎は、省エネがモットーという~だるい16歳。
当然、帰宅部を決め込む予定が、海外旅行中の姉からの手紙で、姉が在籍した古典部が廃部になるのを食い止めるために入部するように指令されます。
世界を股にかける活発な姉に頭が上がらないらしいんですね。地味な生き方を選んでいるのもそのせいかな?
形だけのつもりで部室を訪れた所、先客が。
すらりとした美少女・千反田えるは、地元の豪農のお嬢様。いっけん大人しそうだが好奇心の塊で、ホータローは何かと動かされる羽目になるのだった…

中学時代からの好敵手・福部里志も面白がって入部。ソフトな外見で、データベースを自認する博識だけど、興味が赴くままに行動するので授業には身が入らない。
もう一人、ホータローとは幼なじみの摩耶花も~里志を好きなので追っかけて入部してきます。こっちは小柄だけど気が強い女の子。
里志は手芸部、摩耶花は漫研との兼部です。
先輩がいないので、何をやるのかわからない古典部に、こうして集うことになった4人。

えるの伯父が行方不明になっており、かって古典部在籍中に何かがあったらしい。幼い頃に伯父に話を聞いた時に泣いた理由がはっきりしないことを気にして入部した彼女のために、断片的な記憶からみんなで推理することになるのでした。
個性的なメンバーの集まり方が新鮮。軽快に読めて、なかなかユニーク~面白かったです。

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「つくもがみ貸します」

畠中恵「つくもがみ貸します」角川書店

2005年から7年にかけて書かれた作品で、7年9月発行されたもの。
「しゃばけ」とは別、でも同じ世界同じ頃の話らしい。

深川で、古道具屋と損料屋を兼ねる小さな店・出雲屋は、姉と弟が経営していました。
姉弟といっても実は、身寄りを亡くした従姉弟同士なのです。
損料屋とは、何でもレンタルショップといいますか~家事や引っ越しが多い江戸では、食器から布団から貸してくれるので、重宝されていたらしい。

道具も百年たつと「付喪神」が宿ることがあるという設定で、口をきく道具達が事件の解決に活躍する話。これも一種の妖怪ですね。
綺麗で見た目よりも気の強い姉・お紅が気にしているのは、蘇芳という銘のある茶椀。
その理由は…? だんだんと、わかってきます。
お紅をくどいていた男の行方を、内心は気にする弟でした。

落ち着いた雰囲気で、安心してすんなり読めます。
さりげなく粋な采配をする弟の清次、素直な子みたいだけど~素直ななりにキャラがもっと立っていても良かったかな…?

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「シャドウ」

道尾秀介「シャドウ」東京創元社

2006年9月発行の作品。初めて読んだ作家さんです。
小学生の凰介の母が癌で亡くなった所から始まります。
お葬式から始まる作品って意外に多いけど、小学5年の子供の母親ってのは。
しかも母の親友が数日後に飛び降り自殺、その娘・亜紀は通りに飛び出して事故に遭い、凰介が頼りにする父親までも様子がおかしくなる…
…これって、ホラー?かと思った…

もともと父親同士は同じ相模医科大学の出身で親友、母親同士はその後輩で親友、子供も偶然同じ学年。
幸せな家族らしく見えた彼らに、いったい何が起こったのか?
父親の洋一郎と二人で、静かな家庭生活を送ろうとするけなげな凰介くん。
どう転ぶかわからない展開は特に後半、読ませます。
シャドウという言葉の意味もなかなか~深いです。

急展開で解決を迎えはするものの、重い事件で、子供二人の母親が亡くなっている状態は変わらないから…
作り話とはいえ全面解決とは言い難い気分が残りますが、救いはある結末になっています。

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「ナイチンゲールの沈黙」

海堂尊「ナイチンゲールの沈黙」宝島社

デビュー作で大ヒットの「チーム・バチスタの栄光」に続く第二弾。
2006年10月発行。
デビュー作よりも描写そのものは力が上がっている印象ですが、内容的には、う~ん、どうだろう…
三作目「ジェネラル・ルージュの凱旋」とほぼ同時期の話で、出だしは同じ。

観点がどんどん変わっていく所はちょっと面白い。
東城医大付属病院で小児科に勤務する看護師・浜田小夜は、眼の癌を摘出することになる子供達を心配していました。
彼女は歌にたぐいまれな才能を持ち、病院の忘年会で個人賞を取ったのはほんの手始め、入院してきた有名な歌手・水落冴子と彼女を育てた男性・城崎に見込まれます。
冴子の因縁の曲・ラプソディを聴いて倒れてしまった小夜ですが…
「ジェネラル・ルージュ」で活躍する同じ看護師仲間の翔子とは、対照的な個性。一見大人しそうな小夜にこれほど振幅があるとは!?

田口医師は、子供達のカウンセリングを行うことになります。
14歳の患者・牧村瑞人の父が殺され、事情聴取の場として不定愁訴外来が使われることになります。
事件に絡んで警察庁から出向してきた加納警視正が登場。見た目は加納の方が勝つらしいけど~例によって途中から現れる白鳥は、この加納と同期だったりします。
医学物としてのスリルや現実味を期待すると、ちょっと途方もない部分があって…それもそれなりに読ませるけど、なんか納得いかない感じも?

これはね~書き方が…読者にとって心地良い構成になっていないの。ネタばれにならずに指摘するのが難しいけど!
「ジェネラル・ルージュの凱旋」の方が面白かったので、その補完みたいな物と思えば、良いかなあ。
しかし、こんなに事件の多い大学病院へは行きたくないぞ…っと。
その後の「螺鈿迷宮」になると、さらに若向きというのか妙にブラック&ゴシックな話になるので、ちょっと…??

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2008年前半に紹介した国内小説

2008年1月
「吉原手引草」松井今朝子
「うそうそ」畠中恵
「制服捜査」佐々木譲
「春期限定いちごタルト事件」米澤穂信
「夏期限定トロピカルパフェ事件」米澤穂信

2月
「名もなき毒」宮部みゆき
「朝日のようにさわやかに」恩田陸
「似せ者」松井今朝子
「映画篇」金城一紀
「とっても不幸な幸運」畠中恵
「終末のフール」伊坂幸太郎
「天璋院篤姫」宮尾登美子
「信長の棺」加藤廣

3月
「コキュ伯爵夫人の艶事」藤本ひとみ
「オーデュポンの祈り」伊坂幸太郎
「れんげ野原のまんなかで」森谷明子
「着物をめぐる物語」林真理子

4月
「チーム・バチスタの栄光」海堂尊
「太陽の塔」森見登美彦
「私の男」桜庭一樹
「街の灯」北村薫
「サクリファイス」近藤史恵
「楽園」宮部みゆき

5月
「中庭の出来事」恩田陸
「ちんぷんかん」畠中恵
「この本が、世界に存在することに」角田光代
「Teen Age」角田光代、瀬尾まいこ、川上弘美ほか
「ジェネラル・ルージュの凱旋」海堂尊

6月
「ベーコン」井上荒野
「まんまこと」畠中恵
「重力ピエロ」伊坂幸太郎
「仏果を得ず」三浦しをん
「ボトルネック」米澤穂信
「鴨川ホルモー」万城目学
「クドリャフカの順番」米澤穂信
刑34冊…かな?

日本の作家をあまり知らないので、遅れを取り戻そうという意識があって~直木賞候補や本屋大賞などに名前の出る作家の作品で好みに合いそうなのを見つくろっています。
お気に入りの畠中恵、伊坂幸太郎が3冊ずつというのを抜いて米澤穂信が4冊!
「クドリャフカの順番」か「ジェネラル・ルージュの凱旋」どっちがベストかなあ…
海堂尊もアップしたのは2冊だけど、実は読んだのは4冊でした。
今年前半は他に、「クワトロ・ラガッツィ」や、最相葉月の2冊など小説でない本も印象深かったです。

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「きつねのはなし」

森見登美彦「きつねのはなし」新潮社

ホラー風味の連作集。2004年の作品。
暗闇や夜風、ちょっとした物音が怖くなるような…こういうムードの本が読みたくなる時もありますよね。

古道具屋でのバイトをする大学生に、女性の店主ナツメはお屋敷の老人に届け物をする役を頼みます。偏屈そうな老人と決して物のやり取りはしてはいけないと言いつつ。
さて、どうなるか…当然、言いくるめられていつの間にかやり取りしているわけで…

家庭教師のバイトや、幼馴染みの部活動仲間など、いかにもありそうな生活の描写に混ぜ込んだ、怪しげな小度具の使い方は巧み。
どこかに何かが潜んでいる…というムード。
古い屋敷で起こる展開が後半、急にくっきりCG映画みたいですが…
「夜は短し歩けよ乙女」とはまったく違うシリアスで怖い路線です。
あ、でも、古道具屋などはどっかで繋がるのかな…?

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「さよなら妖精」

米澤穂信「さよなら妖精」東京創元社

2004年2月の作品。
シリーズものではなく、妖精といってもファンタジーでもありません~。
高校時代の思い出と1年後の謎解きを描いたもの。

91年の春に、高校3年の守屋らが出会った外国人の少女マーヤ。
17歳のマーヤは、後になれば妖精といいたいような存在だったかも知れません。
旅館の娘いずるの元に滞在した彼女に、弓道の試合を見せたり、旧市街を案内したり。
日本語は話せるがわからないことも多いマーヤの質問に答えたり、日常の謎を楽しんだ2ヶ月でした。
このあたりは地方都市の空気感が伝わってくるようで、みずみずしく書けています。

92年の夏、大学生になった彼らは、手紙の来ない彼女の行方を求めて連絡を取り合います。そこには大きな謎が…
マーヤの母国はユーゴスラヴィアで、その後分裂して独立したどの国が故郷なのか 、明言していなかったのでした。どの国かによって、92年の政情は全く違うのです。
異色作ですが、男子2人女子2人(プラス部外者)という組み合わせは、読者にとって入りやすいかな。
デビュー作の古典部シリーズとほぼ同じですから。守屋の女友達センドーは千反田のようにすらりとしているけど、気が強くて性格は違います。

良心的な内容で、若い人が外国の実情に興味を持つには、きっかけの一つになりうるかも。
ここをいつも読みに来てくれるお友達には~特にオススメというのではないんですが。
紅白饅頭とか、日本の風習を見直すという意味では、ちょっと面白いかな?

なんかねえ…後半が盛り上がりそうで盛り上がらない、ここで終わるのは勿体ないですね。いや盛り上がるというのでなくとも良いんだけど。
調べただけで終わり?彼らにとって何だったわけ?特に主人公にとって、今まで何してたかって、そりゃ受験だろうけども。
ほんの少し成長するために必要な1年だったのか…
急に立派になるのも読者からかけ離れてしまうから~ワンポイントだけにしたのかしら。
哀しい結末なだけに、一瞬の気持ちだけでなく、もう少し変化した状況を見せて欲しかったかなあ。

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「グラスホッパー」

伊坂幸太郎「グラスホッパー」角川書店

2004年の作品。
フロイラインという非合法な活動をしている会社に入り込んだ鈴木。
妻の交通事故死の原因を作ったのが、ここの社長・寺原の息子と知った復讐のためでした。
大学で教授が言った言葉「これだけ個体が接近して生活する動物は珍しい、人間というのはほ乳類というより虫に近い」を鈴木が思い出す所から始まります。

仕事先で入社動機を怪しまれ、やって来た寺原の息子と刺し違えようかと思い詰めていた矢先に、仇敵が目の前で交通事故に遭います。誰かが押したように見えたため、鈴木はその男を追うのです。
「押し屋」という殺し屋がいるらしい…

その事故をたまたまビルの上から見ていたのは「鯨」というコードネームの「自殺屋」。これは、依頼されて自殺に追い込む殺し屋なのです。
一方、「鯨」に仕事を頼みながら、今度は「鯨」を疑うようになった政治家が、「蝉」という若い殺し屋に鯨の殺害を依頼。
鈴木の追っていった男は一見ごく普通の家に住み、ごく普通の家庭を営んでいました。戸惑いながら接近する鈴木に、一家の主はグラスホッパーの話をします。

息子を殺された寺原の組織は、「押し屋」を探しに出て戻らない鈴木を追います。
巡り廻って~殺し屋同士と鈴木を追う組織が次々に対決するという展開に。
奇妙な巡り合わせがスリリングで面白い。
アクションシーンはスローモーションの映画のような描写になっています。
推理小説ではないけど~犯罪小説という意味で、伊坂幸太郎の作品の中でもミステリ色が強い作品ですね。
社会批判も含んだぴりっとダークな内容ですが、アクション物としてタイトな構成で、一気読み出来ます。

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「クドリャフカの順番」

米澤穂信「クドリャフカの順番」角川文庫

古典部シリーズ第3弾。平成17年6月発行。
作者は1978年生まれ、古典部シリーズの第一弾でデビュー。

カンヤ祭こと神山高校の文化祭、やたらと文化部が多い高校なんですね。
古典部のメンバーは、手違いで作りすぎた文集200冊を出来るだけ売ろうと、それぞれに頭を悩ませているのでした。
メンバー4人の個性が光り、楽しく読めます。

省エネをモットーとする奉太郎は、3階の地学教室という不利な売り場で待機。 頭の良い彼がいわば探偵役なんですね、一人でするのではないけれど。
もっと明るい性格の里志は、けっこう美少年らしい?
データベースを自認する里志は、幼馴染みの奉太郎の才を誰よりも認めつつ、彼にない物も意識しているんですね。
宣伝のために色々な催しに古典部として参加~料理対決も面白いです。
折しも、あちこちの会場で些細な物が盗まれ、謎のメッセージが。
待機している奉太郎のもとへ、次々に用のない物が置かれていく~わらしべ長者のごとき展開も楽しめます。

女の子2人は摩耶花とえる。
小柄で童顔だが気の強い摩耶花は、漫画研究会で先輩と言い争いになり、昨年感動した同人誌を先輩に見せようと探すが、その書き手の正体がわからない。
ダークホース的存在は、すらりとしたお嬢様だが気になることは追求する好奇心の塊・千反田える。
彼が奉太郎を動かざるを得なくするんだとか。さて?

このシリーズを初めて読んだのですが、とても面白かったです。
児童書・YAというカテゴリーにも入れたのは、もちろん児童書ってわけじゃないんだけど、若い人にぜひ読んで欲しいと思ったから。
サークル活動の楽しさ、微妙な対立をどうするか、創作にかける気持ち…
ちょっとした所が、いいんですねえ~。
タイムスリップして若々しい気分になりたい人にも!

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「鴨川ホルモー」

万城目学「鴨川ホルモー」産業編集センター

2005年第4回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。
まきめ、って読むんですね。違うだろうと思いつつ~まんじょうめと読んでました。
「鹿男あおによし」をテレビで見て気に入ってましたが、読むのは初めてです。

浪人して大学に入ったばかりの安倍は、葵祭のバイト中に、京大青竜会というサークルに勧誘されます。
正体が良くわからないまま何となくレクリエーションに参加するうちに、祇園祭の時、4つの大学のサークルが同じ色の衣装を着ての異様な行列を目撃、思いも寄らない展開に。
古くから伝わる式神らしきものを駆使した戦いに参加することになってしまったのでした。
一目惚れした女の子の顔見たさに続けますが、リーダー的存在だが傲慢な芦屋と付き合っていることを知り、がっくり。
誤解から芦屋に殴られ、仲間割れした戦いは規則に則って複雑になります。
かろうじて仲間を確保し、強敵に挑むのですが…?

京都の大学生といえば、一目惚れ、妄想、なんでしょうか?
何となくにやにや笑わせられる軽快な筆致。
作者は1976年生まれ。
京大法学部卒のマキメと京大農学部卒のモリミはどういう関係ですかね…
森見は1979年生まれなので、若いけど多作?なのかな~。
万城目は今後どう展開していくのか、ちょっと楽しみ。

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「ボトルネック」

米澤穂信「ボトルネック」新潮社

2006年8月発表の作品。
表紙を見てオーストラリアかアメリカ西部でも出てくるのかと思っていたら、これ東尋坊!?

2年前に転落事故で死んだ恋人の諏訪ノゾミ。
高校生になった嵯峨野リョウは、現場の東尋坊をやっと訪れ、一人で弔っていました。
そこへ、バイク事故で長く入院していた兄の死の知らせが…

目眩を起こして崖から落ちたリョウが気づいた時には、なぜか金沢市内に。自宅に戻ると、見知らぬ女の子がいて、お互いに怪しいヤツと疑いますが…
その家の娘だと言い張るのは、どうやら~生まれなかったはずの姉サキ。
少しずつ違う家の中。両親も不仲ではないらしい。そこは自分が生まれていない世界だったのです!?
ノゾミがこの世界では生きていることを知って、リョウは衝撃を受けます。
明るくお節介で少し軽い~懐いている先輩のサキに影響を受けてそっくりになっているノゾミ。
では、自分の存在は何だったのか…
互いに話し合っていくと、運命を分けたのは、幾つかの分岐点があったことが見えてきます。

サキの明るさや強さは、男の子を励ますのにぜひいて欲しい姉タイプなのかな?
青少年向けと限定された物ではないのですが~やや若向き。
けっこうダークな面もありますが、読みやすく、好感の持てるまとまり方です。

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「仏果を得ず」

三浦しをん「仏果を得ず」双葉社

2007年11月発行。
文楽好きな三浦しをんの文楽小説。
演目が章のタイトルになっているので、興味を持ち始めた人になら、ちょうど面白いのでは。何も知らない若い三浦ファンを引っ張り込むには、ちょっと難しいかなぁ?

健こと健太夫(たけるたゆう)は文楽の研修所を出て、義太夫を語るプロの技芸員として修行中。
師匠の銀太夫に、三味線の兎一郎と組むように言われる。気難しい兎一に振り回されながらも成長していきます。
実は兎一にはかって組んだ相方を失った過去があったのです。

小学校の文楽教室にボランティアで行く話もあったり、エピソードは豊富。
文楽の修行一筋で彼女いない歴8年の健にも恋人が出来ますが…唐突に始まった関係に戸惑い気味。
恋愛を書くのがあまり得意でないように見受けられるので、こんな書き方もあったのね~と思ったり。

「女殺油地獄」の与兵衛の妙な色気の秘密など、面白かったです。
その辺にいるちょっと屈託があって悪いけど~モテモテの若者の雰囲気があるんですね。
そこを人形遣いの脚の部分で出すっていうのがね。
現代人にはわかりにくい部分の解釈など、ほほうと感心します。
健がいつかやりたいと憧れていた仮名手本忠臣蔵を後半でやらせて貰えることになり、恋人と揉めたりしつつ取り組む勘平腹切の段は、すごく盛り上がります!

旅行も多い健はラブホテルの一室に住んでいるんですが、管理人の誠二とは友達。
恋愛に悩む健に誠二の言う「幸せにしたろとか、助けてあげんとか、そんなんは傲慢や。地球上に存在してくれとったら御の字、ぐらいに思うておくことや」ってのは、決まった相手のいない人間のセリフって気もしますが~悩みすぎる人にはけっこう良い忠告かも?

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「重力ピエロ」

伊坂幸太郎「重力ピエロ」新潮文庫

本屋大賞も受賞して、最近のりにのっている感のある伊坂幸太郎。
それぞれに工夫があり、重すぎないけれど血が通っていて、ハズレがないのがなかなかですね。
これは2004年の作品。

仙台の街で放火事件が相次ぎ、落書きを消す仕事をしている弟が事件解決の糸口を見つけたと、兄に連絡して来ます。
入院している父の元へ兄弟は見舞いに行き、一緒にゲーム感覚で謎を解こうとするが…

兄の泉水は、父親が違う弟・春に懐かれ、お守りがわりにと、大事な時には行動を共にしてきたのでした。
遺伝子を扱う会社に勤務する兄は、ひそかに弟を生ませた男のことを探っていました。
美しかった母に似たハンサムで、家族の誰にもない絵の才能を持ち、人を惹きつける並み外れた所のある弟。
母を強姦した犯人の子供という重い運命を背負った弟を囲んで、大事に築いてきた家族だったのですが…

失われるとわかっているからこそ、きらめくような家族の思い出が切ない。
お父さんが見所のあるいい人!なんですがねえ…
細かい章立てにしゃれたタイトルがつき、不思議な雰囲気もあって、いつもより重い内容の割に取っつきやすくなっています。
スタイリッシュなところが面白い。

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「まんまこと」

畠中恵「まんまこと」文藝春秋

2007年4月発行の新シリーズ。「しゃばけ」シリーズのような妖(あやかし)は出て来ないので、もっと広い世代の読者向け?

江戸は神田の名主・高橋家の一人息子・麻之助は、優秀と思われていたのに16の年から急に真面目さを振り捨てて、お気楽な若者に変身してしまいます。さて、そのわけは?
名主というのは、町の相談役のようなもので、大抵のことは大ごとにせずに名主の家の玄関先で解決するものだったそうです。

やはり名主の息子でモテモテの清十郎や、同心見習いの堅物・吉五郎という幼馴染みの若者たちとつるんで、ふらふら遊んでいた麻之助も22歳になりました。
名主の名代として、持ち込まれる事件を受け持たされることになります。
のほほんと頼りなげにしながらも~意外に手際よく大岡裁きで?まとめていくのでした。

年上の幼馴染みのお由有や縁談の相手のお寿ずなど、生きの良い女性も登場。
主人公が病弱でなくて恋模様もありなのが~「しゃばけ」と違う所?
にぎやかさや意外な展開は弱くなりますが、江戸時代の若者が等身大に感じられるかも。
安心して読めるのは同じですね。
起こりがちな問題を角を立てずにこなしていこうとする~庶民の暮らしの知恵のようなものが見受けられます。

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「ベーコン」

井上荒野「ベーコン」集英社

9人の人生の一こまを描く短編集で、それぞれのシーンで印象的な食べ物がタイトルになっています。
とてもわかりやすい文章で、その場にいるようにすんなり情景が見えて来るのに感心しました。

6歳で家を出た母が亡くなり、思い出もない母が一緒に住んでいたという年下の男性の農園へと、度々訪ねていく娘の話。
これが巻末の「ベーコン」~幸せな結婚を控えている娘は母を恨んでいるわけでもない、この男性に惹かれているというのでもないけれど、どうも気になってしまう、そんな空気が自然に感じられます。

「煮こごり」は、30年来の愛人で70になる男性・鵜飼が時々作ってくれたお気に入りの料理。
彼がサファリパークで虎に噛まれて事故死したと報道で知って、女性は驚きます。
結婚しているはずが独身だったと知り、初めて住所を訪ねてみると、他にも愛人がいたことを知る話。そこはかとないユーモアが漂い、面白かったです。
他に、仕事に行けなくなった夫と、キャットシッターをしている妻の話など。
けっこう変わった設定が多いのですが、想像出来ないほどではない…人生のいささか困った状況も決して否定しない、穏やかな筆致。
そして出てくる食べ物が~異常に美味しそう!
若い女の子が不倫している場合には、もうそいつとは別れろよ!と言ってやりたくなりますが~その店のキーマカレーは美味しいかも知れないわね、などと想像してしまいます。

荒野(こうや)というペンネームの男性かと思っていましたが、あれの、という女性なんですね。
井上光晴の娘さんだそうです。
直木賞だったか何かの候補になっていたので、読んでみました。読んで損はない作品集です。

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「ジェネラル・ルージュの凱旋」

海堂尊「ジェネラル・ルージュの凱旋」宝島社

今をときめく?海堂尊の東城医大病院シリーズ3作目。
2作目の「ナイチンゲールの沈黙」と同時期に起こっていた事件ということらしいですが、2作目は未読。
「チーム・バチスタの栄光」から読んだ方が良いと思いますが、次はこれでもどれでも差し支えないのかも?

ICUの爆弾娘・如月翔子看護師は、その晩に見ていた舞台で倒れた歌姫と救急車に同乗して、勤務先の病院へ。
ベッドが満杯の所へ拝み倒して無理に押し込んだことで、看護師の上司からは叱責を受けます。
けれども、その判断で命を助けたのも事実。
救命救急センター部長の速水晃一には一言褒められます。実は速水に惹かれている翔子。

一方、その速水医師が特定企業と癒着しているという匿名の怪文書が。
病院長の依頼で、また田口公平医師が調べることになりますが、倫理問題審査会の面倒きわまりない手順に振り回されます。
速水とは同期で気心の知れている田口でしたが…

タイプの違う看護師たちの仕事ぶりと出世競争がなかなか面白い。
若き日の伝説的な指揮の巧みさで、血まみれ将軍と異名をとる速水医師がなんともかっこいいんです。
一番、読後感が良いかも知れませんね。

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「Teen Age」

「Teen Age」双葉文庫(角田光代・瀬尾まいこ・藤野千夜・椰月美智子・野中ともそ・川上弘美)

タイトル通りのテーマでの若手実力派?女流作家競演。
思春期の揺れ動く感情と、大人になれば懐かしいモチーフを扱って、みずみずしく気怠げで戸惑いつつも熱っぽい~若々しい息づかいが感じられます。
佳作揃いで、期待通りに読めるんじゃないでしょうか。
以下の要約はこれから読む人には不要だと思うけど、自分が作家の区別がまだつきかねているので、メモしておきます。

角田光代「神さまのタクシー」
 女子校で、カッコイイ憧れの上級生が放校されるのを、ふだんは仲の悪い同級生と見送る。
瀬尾まいこ「狐フェスティバル」
 転校してきた女の子を伝統あるお祭りに誘い、断られながら訪問し続ける地元の男の子。
藤野千夜「春休みの乱」
 親友の小清水さんには不思議な力があると信じる高校生…ホントなのかも!?
椰月美智子「イモリのしっぽ」
 進学先も決まった暇な時期、生物部の元部長の女の子は相変わらず部室やペットショップに出入りする。
野中ともそ「ハバナとピアノ、光の尾」
 ハバナでバイトする少年が、日本人の美女が恋人だったピアノ弾きを捜すのを手伝うが…幻想的なストーリー。
島本理生「Inside」
 母が入院した二週間の間に、家は崩壊の予感が。でも、真面目なBFとは進展が…!?
川上弘美「一美ちゃんのこと」
 予備校で知り合った一美ちゃんは、クロ-ン人間だという。しかも姉妹もそうだと。牛丼を一緒に食べたり、クローン牛を解放しようとしたり、というエピソードの不思議面白さと、のほほんとした語り口が印象的。

作風の区別がつき、日がたった今も内容をはっきり覚えているのは角田光代と川上弘美。
他に長編を読んだことがあるのはこの2人だということもあるけど、巻頭巻末を飾っているので力があるのも事実なのでしょう。
藤野千夜もちゃんと読んだことはないけど、区別はつくんです…
島本理生はあれでしたっけ…??
今後どこでお目にかかるか楽しみ~そのうち読んでみようとは思ってるんです。

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「この本が、世界に存在することに」

角田光代「この本が、世界に存在することに」メディアファクトリー

とてもわかりやすい文章で、本好きのハートに響く短編集。
本名なのでしょうか、四角い字体でかっきり書いたような~誰にでもわかり気づかずにはおれないような骨太で着実な文章に、名は体を表す…という思いがします。

18歳の時に売った本に再び出会う「旅する本」はやや幻想的な趣。
本の好みが合った恋人と別れる時に、本を仕分けする「彼と私の本棚」は、本など読まないらしい女性と付き合うことになった彼への複雑な思いもありで、何となく気分が想像出来ますね。
幼い頃に近所に一軒しかなかった本屋に万引きした本の代金を返しに行く男性の話「ミツザワ書店」は店先で万引きも気にせず本を読みふけっているおばあさんがいたというのが、ある意味本好きの楽園として描かれているみたいですね。
子供の頃はさんざん立ち読みしたよなあ…と懐かしくなりました。
万引きはしてないですけどね。…してないよね?うん。(本を借りて返し損なったままってのはあるけどぉ)

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「ちんぷんかん」

畠中恵「ちんぷんかん」新潮社

2007年の新作、シリーズも6作目~(他に絵本「みぃつけた」があります)
安心して読めますね。

火事で煙に巻かれた若だんなが気がついた時には三途の川の河原に。なぜかついてきてしまった鳴家たちを帰そうとするうちに…「鬼と小鬼」
お払いで有名な広徳寺の僧・寛朝の弟子となった秋英が、初めて依頼者の話を一人で聞くようにと任されたところ、お払いするはずの絵の中に入り込んでしまい…「ちんぷんかん」

他に、若だんなの異母兄・松之助の縁談をめぐっての作品が続きます。
松之助は普通の人なので、お江戸の人情物といった感じですね。

若だんなは大妖を祖母にもち、死んだ子の魂が生き返ったという運命的な生まれつきで異常に身体が弱く、長生きは出来そうもない身の上。
たとえ普通に生きたとしても、若だんなを大事に思っている妖怪の手代達から見れば、一瞬のようにはかない時間しか、一緒にいられない…
今回はそんな命のはかなさを感じさせる話が多かったような。
作者の心境を反映しているのでしょうか?
桜の花びらの精・小紅の話は季節柄ピッタリでした。

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「中庭の出来事」

恩田陸「中庭の出来事」新潮社

2007年の作品で、たくらみに満ちた複雑な構成のミステリ。
ホテルの中庭で行われたパーティで、再婚したばかりの劇作家・神谷華晴が毒によって謎の死を遂げます。
「告白」という一人芝居を演じる女優を選ぶために、3人の女優をオーディションしている途中のことでした。
大女優、中堅の個性派、若手のサラブレッドという~まったく違う3人。
しかも、女優自身の人生の要素を交えて脚本を構成し直そうという野心的な企画。何か裏があるのでは、という可能性も…?

事件と、オーディション、捜査段階で繰り返されるシーン。
そのたびに少しずつ変化していく供述と推理。
劇作家・神谷のインスピレーションの元となったらしいのが、新宿のホテルの中庭で起きた若い女性の死。これについての推理も随所に挟まれてきます。
さらに、山の中の廃駅を劇場にしたという場所での舞台公演をめぐっての話も絡んできます。

ただのミステリじゃ物足りない!?という人向けの知的遊戯というのか~迷宮のような感覚を楽しめれば面白いでしょう。
作者の演劇好きも感じられて、女優のオーディションというのは面白いのですが~ちょっと、過程がややこし過ぎて、解決した感覚が起きないのが難かなあ?

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このミス2008

「このミステリーがすごい!2008年版」宝島社

2006年11月から2007年10月までに出た広義のミステリの人気ランキング本です。
国内73人海外73人ずつの投票で6冊ずつ選び、1位10点、2位9点、以下~6位5点という計算法。
20周年ということですが~20年の総括は前のだったか、特集号だか、どっか他の本でやっていたような。

出た時点でぱらっと立ち読みはしたんですが~
自分が少ししか読んでいないのはともかく、上位に食指の動くのが大してなかったのが寂しかったですね。でも細かくチェックすれば、おっといろんなのがあるぞ、というわけで。

国内編1位は佐々木譲「警官の血」、2位は桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」
読んでません~どっちも図書館にずっと前にリクエストしてあるんだけど。
国内で読んでるのは…
7位の「サクリファイス」8位の「楽園」17位の「悪人」18位の「中庭の出来事」(昨日読んだばかり)
21位以下(これ以下は順位がつかない)13点以上のリストの「私の男」「吉原手引草」
ベスト10にも足りないわ~まぁ仕方ないっすね…

海外編1位はディーヴァーの「ウォッチメイカー」ハイ、読んでます!
あとは~3位の「TOKYO YEAR ZERO」を最近読んでみたけど、好みじゃなかったです。
13位「病める狐」…やっと、このへんですかね~。
15位「双生児」…去年の作品として印象的ではあるけど、どっちかというとSF。
17位「異人館」知る人ぞ知る実力派ヒルの単発物。
18位「夜愁」ウォーターズは前作でミステリの女王になりそうな勢いでしたが、これはもう普通小説~評価は高いけど。
21位以下「再起」「終決者たち」「幼き子らよ、我がもとへ」
え、これだけ?誰も投票しなかったやつで、何か読んでるかしらね~。

仮に私が投票するとしたら、国内では「楽園」1位、「悪人」2位、「吉原手引草」3位、「私の男」4位、「中庭の出来事」5位、「ちんぷんかん」6位かな。

「悪人」は連載で読んでいたためブログで紹介はしてませんが~出会い系サイトで知り合った男女の関係を描き、犯人の男は悪人とされるわけですが、これが(問題はあるけど)悪いヤツじゃなくて気の毒で泣かせます。
「ちんぷんかん」の畠中恵はいちおう巻末のリストに入ってるけど、時代物かファンタジーの要素が強いので、誰も投票しないみたいですね~13点以下なのかも。
あれ、伊坂幸太郎は?去年じゃないのか~。

海外だったら~1位「ウォッチメイカー」最近のディーヴァーでは一番気に入ったので。
2位「再起」フランシスの復活を祝して。
3位「病める狐」お気に入り作家ミネット・ウォルターズのまずまずの力作。
4位「異人館」歴史がらみだし、なかなかの出来で好感度高し。
5位「夜愁」じつは一番印象が強いんだけど、ミステリとは言い難いので、このへんで。
6位「幼き子らよ、我がもとへ」歴史物だから~ひいきしてみました。アイルランドの7世紀というのが渋い!ヒロインは清新です。

次点「警視の週末」これは女性作家のコージー系と思われてるのかも知れませんが読み応えあります。「異人館」とちょっと似た要素があって、面白かったですよ。
あら、「終決者たち」が入らなかった…う~ん?

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「楽園」

宮部みゆき「楽園」文藝春秋

あの「模倣犯」に出ていたライター前畑滋子のその後。
いちおう解決はしたものの、あまりに悲惨な事件に深く関わったため痛手を抱えてしまい、事件についてまとまって書く事も出来ないまま、9年がたっていました。
夫の両親を見送り、夫の仕事が忙しくなった後、ライターの仕事をぽつぽつと再開。
というところへ、事故で亡くなった幼い息子が生前に描いた絵を見て欲しいという女性の訪問を受けます。

サイコメトラーというのか、後に殺人事件があったと発覚した家の絵を描いていたというのです。
古風なお母ちゃんといったふんわりした雰囲気の女性にほだされて、半信半疑で話を聞くうちに、他でもないあの事件の現場の絵を見つけ、衝撃を受ける滋子。
仕事抜きで過去の事件の真相を洗い出すことに…

頭の中でぐるぐるする物を絵に描いたという12歳の少年・等の能力とは何だったのか?
16年前に、非行に走った長女を両親が思いあまって殺したという事件のあった一家の次女の依頼を受けて、滋子は周辺を当たります。
同じ頃、幼い少女が興味を持った家には… という脇筋も展開。
家族が手を離れていく時、特に我が子が道を外れた時、周囲はどうしたらいいのか。
事件は重すぎるほど重いですが、救いのある結末になっています。

「模倣犯」の続編で地味めと聞いて、すぐには手が出ませんでした。
作中人物の滋子もなかなか立ち直れなかったように…
後書きによると、作者も前作を書き上げるのに非常に苦しんだそうです。
この作品も、読んでいる途中でちょっと暗い気分に覆われました。
が、その後は何とか!事件のあった街の幼馴染み達や、滋子のダンナさんなど、元気な人々に救われました。
トータルでいえば~さすが筆力があり、目の付け所も確かな作品です。
前作を読んでいなくても読めますよ。

トマス・ハリスは楽しんでべろべろ読めちゃう(心の準備は多少必要だけど)のとどう違うかというと…
トマス・ハリスの方が登場人物に対して距離のある描き方で、エンタテインメントとしても一個の作品としても昇華されているのかな。
こちらは日本の話だから~読む側にとって現実味がずっと大きい、ということもあります。

宮部さんはおだやかで冷静な書き方をする人で、作者自身の感情や主張をストレートに出すことはしません。ただ、弱い立場の人が理不尽な目に遭うことに対する憤りは、間接的には一番感じられる所です。
今回は女性が中心なので、いつもよりも、色々な立場の登場人物と共に考えさせるような書き方になっている気がしました。

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「サクリファイス」

近藤史恵「サクリファイス」新潮社

最近、決まったばかりの本屋大賞2位です。
候補に挙がったと聞いて読んでみたもの。
初めての作家さんで、タイトルでも見当がつかなかったけど~自転車ロードレースの話。
日本ではマイナーなスポーツで、ルールも解りにくいけど、独特なルールゆえの面白さに焦点を当てているので、だんだんに解ってきます。

白石誓(ちか)は中距離でインターハイにも出たほどの選手でしたが、本人は勝つことに意味を感じられないでいました。
チームプレーに魅力を感じてロードレースに転身。アシストに力を尽くします。

5時間以上スピードを出して走るので、先頭にいる選手は風圧を受けて消耗することになるため、競い合うチームでも先頭は時々交替するのがマナー。その辺が紳士のスポーツなんですね。
チームのエースを守るためには、他の選手がその前を走ったり、先頭集団に入って全体を引っ張ったりするという作戦をこらす。個人の成績は二の次で、エースを立てるのが、アシストの役割なんですね。

誓は、ワンマンなエースの石尾豪を尊敬していましたが、石尾には伸びてくる若手をつぶすという黒い噂が…
その真相は?
突っかかってくる同世代のライバルと共に練習し、ベテランのアドバイスを聞きつつ、世界へ出ていくチャンスに胸を弾ませ、別れた恋人との再会に葛藤し…
ぐいぐい引き込んで、あっと言う間に読ませてくれます。
別れた恋人が誓の性格を全く理解していないのが、苦みとして効いてるような…
最近ヒットが多い~女性が描くスポーツものの一つと見ることも出来ますね。

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「街の灯」

北村薫「街の灯」文春文庫

15歳のお嬢さんを主人公に、昭和初期の上流階級の世界を描くシリーズの一冊目。
2002年に書かれた作品「虚栄の市」「銀座八丁」「街の灯」3作収録。

女子学習院に通う花村英子は社長令嬢。
本好きで、好奇心が強く、頭の回転が速い。
華族令嬢にも友達はいるが、それよりはだいぶ気楽な暮らしぶり~といっても当然のようにお出かけには振袖を着て「ごきげんよう」と挨拶しあい、運転手や女中頭のお供がなければ外出もままならない。
学校の送り迎えをする運転手に若い女性の別宮みつ子が雇われます。これは異例のことで、父の知り合いだったから、娘に少しは社会勉強をさせるための案内役と護衛にという気持ちもあってのこと。
ベッキーさんと呼んで、すっかり仲良くなり、一緒に小さな事件を解決していきます。

世間を知るクールで控えめなベッキーさんがやたらカッコイイんです。
壮士もお坊っちゃまも圧倒する文武両道、必殺・男装の麗人?運転手!
この段階では正体は不明で、事件の推理もけっこう少女の方が中心です。
優雅さ漂う暮らしぶりとちょっと懐かしいような銀座の風景などが楽しい。
レトロな魅力がありますが、実は5.15事件とか剣呑なことも起こっている時代なんですね。江戸川乱歩を良家の子女は読んではいけないというあたりも面白い…ま、そうでしょうねぇ。
2作目を先に読んでピンと来なかったんですが、こっちが先の方が良いですね。

北村さんをアップするの、このブログでは初めてかなぁ。
初期の物は8割方読んでると思います。血なまぐさい事件がなくて、素直な女の子がヒロインで、心安らぐ感じが貴重だったから~いいんですよね。
女3人の友情と闘病中の遅ればせの恋を描いた「ひとがた流し」はとても良かった!直木賞とるべきだったと思ってます。

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「私の男」

桜庭一樹「私の男」文藝春秋

第138回直木賞受賞作。
本屋の店頭に平積みになっているので、知っている方も多いことでしょう。
女性だって知ったのはいつだったかな…ライトノベルを一冊読んだことがあるきりだったので、化けたな~という。何年もたっていることを考えると…知性、繊細さ、未成熟な強さなど~やはり通じる所もありますけどね。

ねっとりした文体で危険な匂いをさせつつ、わかりやすいイメージも連ねて、引き込みます。
腐野花という(とんでもない名前!?の)ヒロインが、24で苦労知らずの青年と絵に描いたような結婚をしようとしている所から話は始まります。
ただし、新婦側の親族は養父一人だけ。
震災で家族をすべて亡くした9歳の時から、遠縁の若い男性・淳悟に引き取られて、2人だけで生きてきた花。
北の海で起きた暗い過去を捨て去ろうとしますが…
孤独な2人の運命的な結びつきが描かれます。

このタイトルでこのカバー絵、父娘の話というので、ちょっと引き気味でやっと読みました。
なるほど、期待させるような色っぽさや暗さも出しているけど~意外な展開で少しずつ空気をかき混ぜ、嫌悪感まで行かないようにしてあるような印象。
現実の中でもがき、破綻していく状況でも、一途な気持ちというのは切なさがありますね。
人が人を求める原点を感じさせます。
こういう人物像を魅力があるように書いちゃうのもいかがなものか、という気がしないでもありませんが…破滅的な人間の危険な魅力?
脇役に実在感があって、ちょっとした登場シーンも読ませます。
色々な要素を含みながら、こってりと力強い文学的な空間を構築、上手いこと書けています。
ラストがこの地点というのも、なかなか。

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「太陽の塔」

森見登美彦「太陽の塔」新潮社

大学生の笑えて切ない失恋妄想小説。
これでファンタジー大賞を受賞してデビューしたとは知りませんでした。
ファンタジーかなあ…?そういえば、そういう雰囲気もあります。
叡山電車や百万遍交差点など、京都には名前だけでもファンタジックな場所や物があるんですね~。

主人公は休学中の5回生という~大学生といってもかなり追いつめられた状況にあります。
華のない生活で、モテない同士のおかしな仲間もいるのですが、思いは3回生の時に奇跡的に出来た恋人・水尾さんへと向かいがち。
膨大な水尾さんノートなる物を作っていて、1年前にふられたのに、いまだに彼女の行動をさりげなくチェック。自分はストーカーではないと理路整然と語っておりますが…
悪い奴じゃないんだけどねえ。
ふられるに至ったいきさつも笑えます。
まあ、しょうがないさ!若い時の恋はなかなか続かない~でも失っても恋しないより恋した方が良いんだよ、と肩を叩きたくなります。

太陽の塔、ってあの!万博のだったんですね。
主人公も水尾さんもひじょうに強い印象を持っていて、水尾さんがはまっちゃったというのがまた笑える。
あとがきの本上まなみさえもそうらしい。う~ん、まあ、確かに。
岡本太郎氏はハンパじゃないですね~。

あとがきが本上まなみなのは、作者がファンだかららしい。何しろ、主人公が自転車に「まなみ号」って名付けてるんですよ。
ちょっと「夜は短し恋せよ乙女」のヒロインとも通じる所あるし…なるほど、清楚な外見で~けっこう自然に人を振り回すようなタイプが好み?coldsweats01

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「天璋院篤姫」下巻

宮尾登美子「天璋院篤姫」(下)講談社

大河ドラマの原作、後半です。
御台所にはおさまったものの、将軍である夫は身体が弱く、たまのお渡りをただ待つしかない日々。
それでも篤姫には夫婦としての情がわいていきます。
ハリスに通商条約を迫られる中、夫・家定の急死。
それも将軍の死はしばらく伏せられる習慣で、既に亡くなっているのも知らされず、病と聞いても看病に行く事すら出来なかったのは、無念だったでしょう。そういった心の動きをぐいぐい描き込んで読ませてくれます。

次の将軍となった家茂はまだ少年で、いぜんから本丸に住んでいたので馴染みがあり、篤姫を母上と立ててくれます。
しかし、和宮降嫁で京都と江戸それぞれの女中達が対立、大奥を揺るがす騒動となります。
和宮は4年の結婚生活で同居は2年6ヶ月、これでも篤姫よりは少し長いんですね。

10歳しか違わない和宮とは、江戸城明け渡しに際して、力を合わせて奔走することになります。
晩年は、共に江戸の町見物もしたという~微笑ましいエピソードも。
国政の大変動期を内側から描いて迫力があり、面白かったです。

徳川家は一大名となり、後には公爵となります。篤姫がさっさと薩摩の迎えに応じて城を捨てていたら、扱いはもっと悪かったかも知れませんね。
跡取りを江戸屋敷で育て上げた後半生はけっこう充実していたでしょう。手狭になった暮らしも今泉で育った頃を思い出させて、大きな大名家で生まれたお姫様よりもずっと適応しやすかったのでは。
尊敬された一生だったという事で、何だかほっとしました。

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「チーム・バチスタの栄光」

海堂尊「チーム・バチスタの栄光」宝島社

2005年の第4回このミス小説大賞受賞作。
最近映画化もされてるので、ご存じの方も多いのでは。
阿部ちゃん主演と聞いて最初は桐生医師かと思ってしまった…それじゃ主役じゃないもんね。探偵役の設定はブサイクなのでつい。

バチスタとは平たく言えば~肥大した心臓を切り取って小さくする手術で、発明者の名前が通称となっているんだそうで。
東城大学医学部付属病院では、アメリカ帰りの天才外科医・桐生恭一を中心に、バチスタ手術のためのチームを結成。驚異の成功率を誇っていました。
ところが3例続いての死亡という異常事態に。
たまたまなのか、医療過誤か、悪意によるものか…?
高階病院長は神経内科の万年講師・田口に予備調査を依頼します。

田口公平は、不定愁訴外来という(愚痴外来と噂される)暇な部署で満足している~のんびりした男。
外科は門外漢なので、素人同然に説明を聞いていく事になります。
導入としては上手いが、結局手術中の事なら解明出来ないのでは?まして読者には解決の予想の立てようがないのでは~?
と思いつつ、読み進むと…

後半は、全く違うタイプの探偵役が投入され、事態を混乱させつつ、面白く読ませていくのです。
医療過誤を調査する組織を立ち上げようとしている厚労省の窓際役人・白鳥、才気はあるが性格も見た目も良くないという~こいつがわざと(というか自然に)人を怒らせて真相を暴いていきます。
特殊な才能があるという点ではホームズタイプになるのかな。
事件の解決は、手段はともかく、機会や動機などはだんだんと読者にも推理出来ます。
大学病院という組織内のいかにもありそうな対立や力関係あれこれや天才外科医と名コンビの部下の手術ぶりなど、こういった話に読者が期待する物もしっかり用意されています。
なるほどね~飽きさせずにスイスイ読ませるのがデビュー作にして大ヒットも納得。

映画だと田口の役を女性にして、竹内…う~ん、まあ…理解は出来るけどね。
登場人物を2回尋問して、別な面を見せるというのは映画にもしやすいでしょうね。

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「着物をめぐる物語」

林真理子「着物をめぐる物語」新潮社

着物をめぐる11の短編を集めた物。
それほど厚くない文庫ですが、中身はねっちりと濃いめ。
章ごとに着物の写真もついて、ムードを盛り上げます。

「松の緑」は加賀友禅作家の父に反発していた娘がいつしか跡を継ぐ事になる話。加賀の芸者の出の衣装…すごそうです。
銀座のマダムが店を持つに至る回想の「形見」、戦時中に着道楽を通した姉を妹がひややかに語る話、若い女優が初めて時代劇映画に出た時の着付師の話など。
すべて聞き書き風の一人称です。着道楽で知られる作者の思いも感じられますが、実際に取材もしたのでしょうね。

歌舞伎座の衣装方が語る、大部屋のむんむんするような独特の熱気など、面白かったです。
衣装は毎日けっこう汚れてしまうので、まず霧吹きで汗をとばす、この加減が難しいというのに納得。乾いてからベンジンで汚れを取るそうで。
着た着物にはやりたくなるけれど、水で濡らすのは素人には無理ですもんね。

ねっとりして、ちょっと恨みがましいような、ほのかに残酷な気配が漂う、念入りに仕立てた着物ならではの怨念めいた想い。
女を夢中にさせる力を「こんなことがセーターやスーツで起こるでしょうか」と言われると、確かに…そんな気も?
古着屋さんで買うのが、ちょっと怖くなるような。お手ごろ価格のには大した念も入ってないから大丈夫かな~。

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「れんげ野原のまんなかで」

森谷明子「れんげ野原のまんなかで」東京創元社

「千年の黙」でデビューし、時代ミステリの印象が強い森谷さんの現代物。
受賞後第一作だったんですね。
秋庭という市の端っこにある図書館が舞台です。

図書館司書の若い女性・文子が博識な上司の能瀬らと、図書館をめぐって起こる小さな謎を解き明かしていきます。
子供達が図書館に忍び込もうとするわけは?
ほとんど動かない洋書の本棚で作られた暗号とは?
地元の大地主が寄贈した場所に建てられた図書館なので、土地柄に秘められた謎もあります。

風邪で寝ている時に読むのにピッタリでした。ちょっと北村さんの初期作品ぽいかな?
季語をあしらった章タイトルが森谷さんらしい。
本好き、図書館好きなら思わず、にっこりするような話題もあって~かなり好印象。

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「オーデュボンの祈り」

伊坂幸太郎「オーデュボンの祈り」新潮社

私にとっては「死神の精度」「終末のフール」と遡って3冊目の伊坂幸太郎作品です。
作者は71年生まれ、95年東北大卒、SEに。
96年、サントリーミステリー大賞佳作。
本作品が第五回新潮ミステリー倶楽部賞受賞で、初の単行本に。

主人公・伊藤は、目を痛めたために、5年勤めたシステムエンジニアの仕事を辞めます。
二ヶ月後には衝動的にコンビニ強盗を起こすダメ男っぷりですが~現れた警官は中学の同窓で非常にたちの悪い男(生まれつき残虐で、これが権力を持ったという最悪のパターン)
伊藤は事故ったパトカーから飛び降りて逃げ、なぜか目が覚めた時には謎の土地・荻島にいたのです。

百年以上、鎖国のように存在を知られずに来た島だというんですね。
異世界ファンタジー…というわけでもありませんが…
「他の誰も書かないような作品を書こうという意気込みが感じられる」という選評には、なるほどと思いました。

たった一人だけ外界とボートで行き来している老人もいて、少しは情報も入り、荻島の人々は一見普通に暮らしていますが、どこかがずれている。
何でも知っている予言者のような喋る案山子・優吾の存在、どこか謎めいた住人達。
百年以上もよそ者は来なかったのに、伊藤の前にも何だか嫌な奴が一人島に来ているんです。それは何故か?
案山子に会った伊藤は、かっての恋人に葉書を出すように言われて…

この島の中で起きている事件とは?そして伊藤は元の世界へ戻れるのか?
奇想天外な設定ですが、人間像は意外にリアリティがあります。
さすがに初期の作品で、若いなあ。

オーデュボンは鳥の写真を撮影した写真家の名前。
絶滅種の鳥が生き延びるのを祈る…
そのイメージは良いんですが、何だろう…伊藤という青年が空っぽなような。鳥に興味があった様子もないし。仕事や恋人の断片的な事以外にも、もう少し自分自身の思い出とか、この長さだったらあってもいいのでは。
誰にでも感情移入出来るように、ということなんでしょうか。
奇抜な設定と展開を書き込むのに重点を置いているのかな~。

本人にとっては、好きなものは入れたい、思う存分書きたいという思い入れがあるのでしょう。
読む側にとっては、モチーフが響き合う構成になっていないと、唐突に感じて何だかな?と首を捻る事になる~その辺が、後の作品だと変わってきます。
自分が何を書くのが得意か、という見極めが出来ていったのが感じられますね。

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「コキュ伯爵夫人の艶事」

藤本ひとみ「コキュ伯爵夫人の艶事」新潮社

フランスを舞台にした四つの短編で構成されています。
「コキュ伯爵夫人の艶事」は1682年、
「令嬢アイセの秘事」は1722年、
「ダンフェル夫人の断頭台」は1792年、
「農夫ジャックの幸福」は1794年、
と移り変わっていく時代背景に絡ませながら、個人の幸福と意外な運命を描きます。

当時のフランスでは、貴族の子供はすぐに里子に出されて親の愛を知らずに育ち、特に女の子は修道院に入れられて、親の決めた結婚までは世間の風に当てない習慣でした。
結婚後は急に、夫の浮気は当たり前な退廃的な社交界の荒波に投げ出されるわけで、女性も恋愛出来ないわけではないのですが~男性のようにはいかないあたりが微妙。
年代や階級によっても違ってくることで、そのあたりの変遷を巧みに取り入れながら、面白い話に仕立てています。

1994年から95年にかけて発表されたもの。
18世紀を中心にしてフランスを舞台にした小説を書き続けてきた手練れぶりを見せる作品群。
「貴腐」も似た系統の小説集ですが、あちらはちょっと~後味が良くなかった。(宮廷での恋愛遊戯やサド公爵に興味があれば、読んでも良いと思いますが)

こちらの後味が良いのは、最後の「農夫ジャックの幸福」が効いているんですね。
一代で農場を広げた頑固な働き者の老人 …だが、彼の幸福とは?
人生は何だったのか振り返りかける時、革命も末期になって思いがけない出会いがあり…ぐっと来る話になっています。

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映画「細雪」

市川崑監督を追悼して先日BSで放映がありました。
この映画、大好きなんですよ。83年の作品。
(劇場では見てませんが)
谷崎潤一郎の原作も、日本の小説の中では特別なお気に入りです。
妙に面白いんですよね…

昭和13年。
芦屋に住む名家の四姉妹が、揃って京都でのお花見に集まった所から始まります。
本家を継いでいる長女を岸恵子で、着物姿が最高に決まってます。背筋はしゃっきりしていて、真面目なんだけどどこか抜けていて。お婿さんの伊丹十三もそれらしくて~面白いの。

分家の次女を佐久間良子。
一番普通に女っぽい役でしょうか。もう親はなく、妹2人を預かっているので、けっこう気の揉める立場です。
これもお婿さんの夫を石坂浩二。義妹の雪子のはかなげな色っぽさに骨抜きになっているのが笑えるんですよ~ちょっと谷崎の想いを偲ばせる、この演技がね~。

三女の雪子を吉永小百合。
雪子の縁談を中心に話が進むので、彼女が魅力的でないと話になりませんが、これがとても良いんです。
いかにもお嬢様らしく品のある美形で、内気で弱そうに見えるけど頑固な所もある、なかなか一筋縄ではいかない雰囲気。
似合わない見合いを押しつけられるのに昔は同情したけど、大人になってから見ると、厄介な女だなあって感じしました。
婚礼のために親が用意しておいたという着物がすごいです。

四女の妙子に古手川祐子。
昔は船場の名家だった薪岡家だけど、末っ子が育つ頃には傾きかけていたからか?一人だけ雰囲気違います。姉たちのようになれないので居場所を求めて足掻いている様子。
確かに原作でも毒があるような所ありましたけどねえ…
品がないので、ちょっと損している感じがするわ。

それでも四姉妹ともパートナーとはそれなりに上手くいく展開なので、記憶よりわかりやすいというか~起承転結あるじゃん!と思っちゃいました。
何となく~優雅にお喋りしながら、何事もなくだらだら続いていくような感じがしてたんですよ。
でも長女一家の東京転勤もけっこう大変な事だし、じつは震災が起きていたり?、妙子なんか波乱の青春じゃないですか。
暮らしは優雅なようでも、実は戦争に突入していく時期だったわけなんですね。
失われていく美しさへの谷崎の思い、監督の思いが感じられます。

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「信長の棺」

加藤廣「信長の棺」日本経済新聞社

「信長公記」を書いた太田信秀(後の牛一)を主人公に、本能寺の変の謎を解き明かしていく物語。
信長に事務方として仕えていた牛一は、本能寺の変の直前に信長からひそかにある物を託されたという設定。
凶報に衝撃を受けながら、逃げまどう家臣達の中でいかに行動するべきか考える緊迫した描写が面白い。

信長に傾倒する彼は、隠居後も一人で信長記を書き続けていました。
秀吉の正式な依頼で、それを秀吉の意図に添うように書き直していかなければならなくなります。
信長の残酷な面はあまり書きたくなかった牛一。
秀吉は自分の残酷な面を目立たせないために、信長のそういった部分は書かせたがるという~さもありなん?
秀吉には見せない部分をひそかに書いていたり、一部が盗み出されて流布したり、かくて色々なバージョンが出回るわけです。

子供の頃は秀吉が好きだった事を思い出しました。残酷な面は子供向きの「太閤記」ではほとんど書かれていませんからね…
信長は好きというのではないけど~カッコ良くあって欲しいキャラかな?

牛一は信長の遺体がどこにあるのか見つけてちゃんと葬りたいという気持ちも抱きながら、ひそかに光秀謀反の真相も探り続けるのです。
信長の遺体を廻る謎があるとは知りませんでした。
秀吉が探し回っていたが見つからなかったとか、遺体を見た人が綺麗な顔だった(つまり本能寺で焼失してない)という証言がどこかにあるのでしょうか?
どの辺が史実で、どれぐらい根拠があるのか?どこからが独創なのかが解りませんが~変わった角度から描いてあって、なかなか面白かったです。
地味な人間同士の信頼関係がしだいに生きて来るという話の展開だから、夢がありますね。

作者は1930年東京生まれ、経済経営畑の著作の多い人だそうで、05年発行の本書が作家デビュー。
年末にテレビでやっていたのを録画したのに、見切れずに消してしまいました~しまったなぁcoldsweats02

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「天璋院篤姫(上)」

宮尾登美子「天璋院篤姫」(上)講談社

今年の大河ドラマの原作。
テレビで見やすいホームドラマ調の展開に慣れていたため、漢字が多い!と思ってしまった。
新装版は字が大きくて読みやすいです。
それに平家物語などよりは時代が近いので~まだ解りやすいですけどね。
150年前かぁ…

すぐに濃厚な語り口にぐっと引き込まれました。
桜島を見るのも最後になるだろうと思う出立の日から回想していきます。
幸せそうな家庭でしたが、実は父親には側室が2人もいたりしたんですねえ。そういう経験もあった方が御台所になるには良いかも知れませんが。

乳母の菊本のエピソードは原作通り。
他は幼い頃の話は少なく、尚五郎は影も形もありません…
西郷は篤姫の輿入れの道具を揃える仕事をしたんですね!似合わないけど~史実なので、どこかでも聞いた覚えあります。

養女の話が出てから御台所になるまでには何年もかかったとは、驚きました。
南の果ての薩摩の分家から、段階を踏んで出世街道を上がっていく、ところがその頂点の将軍家というのが~豪華な暮らしはしていてもねえ…
夫となる将軍は病弱で変わり者…篤姫の戸惑いや愛情がよくわかり、自然に感情移入出来ます。
世継ぎを誰にするかという激しいせめぎ合いが一段落しそうな所まで。以下、下巻!

身分制度がはっきりあって、皆がそれを受け入れていた感覚というのはどんなものでしょう。
そして、それがもろくも崩れ去っていく…
ちょうど黒船も来航したとドラマでもやっている所ですが。
明治になるまでもうあと、ほんの15年ぐらい?
どっちへ転ぶか~難しい時代だったんですねえ。

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「終末のフール」

伊坂幸太郎「終末のフール」集英社

小惑星の衝突で8年後に地球が滅亡すると宣言されてから5年後、という設定。
一時は大荒れだった世の中が少し落ち着き、思い思いに最後の時期を過ごそうとする人々を描きます。

第一話「終末のフール」
そんな宣言よりも早い10年前に家庭が崩壊していた一家。
頑固な父は人を馬鹿呼ばわりすることが多い男で、弟の死をきっかけに決裂して家を出たきりの娘が、住む者も少なくなった実家のマンションを訪れます。感激の再会とはいかないが、控えめだけどしっかりした母親と三者三様の思いにじわじわと来るものがあります。

優柔不断な男が年上の妻に妊娠を告げられて悩む第二話「太陽のシール」引きこもっていた娘が恋人を見つけようと決意する「冬眠のガール」といったように章のタイトルが韻を踏んでいるという凝りよう。

5年の間に喪った人も物も多いわけですが…奇妙な設定にあぶり出される家族の葛藤はかなりリアル。
たまには、こんな事を考えてみるのも良いのかも?特に若い人だったら…
もうすぐ世界が終わるとしたら、何が一番大事か。

このトシになると、身近な人が数年でいなくなるような可能性は現実そのものなので、そのへんがちょっと解りすぎるようで邪魔にもなって微妙。
しかし、伊坂幸太郎は上手いです。

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「とっても不幸な幸運」

畠中恵「とっても不幸な幸運」双葉社

時代劇の「しゃばけ」シリーズで人気の作者の短編連作。
現代物です。
新宿の古いビルの地下にある「酒場」という名の酒場。商売気のない強面の店長となぜか入り浸りの常連ばかりで成り立っているのでした。
30代でやもめの店長が義理の娘を引き取ることになったというので、似合わない家庭生活をちゃんと過ごせるのか~!?と危ぶむ常連達。
中学生の娘のり子が100円ショップで買った「とっても不幸な幸運」という缶を開けた時…?

現代物も書けるのねと思わせます。
ちょっとした謎を解きながら明かされる、それぞれの人生…
軽い味わいですが、不幸な幸運てのは~確かにあるかもしれないですよね。

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「映画篇」