「おおあたり」

畠中恵「おおあたり」新潮社

安定した人気の「しゃばけ」シリーズも15作目。
今回は、いろいろな「おおあたり」の話が5つ。

長崎屋の若だんな、わけある生まれゆえに病弱な一太郎は、妖たちと仲良く離れで暮らし、ゆっくり大人になってきています。
少しは役に立ちたいという思いは強く、出来る時にはちょこっとだけ、頑張ります。
まあすぐ寝込んじゃうんですが、その合間に(笑)

幼馴染の栄吉は、和菓子屋の跡取りなのですが、あんこを作るのが異常に下手という。どっちかというと、お笑いキャラでしたが~
辛あられを作ってみたら、これが大当たり!
ところが? 意外な展開に。

獏の場久が離れで一席設けての怪談話で、おおあたり?
貧乏神の金次がなぜか富くじで、おおあたり。
絡む事件は、けっこう深刻ですね。根っから悪いやつばかりではないものの‥
さまざまな味が楽しめます。

仁吉と佐助の出会いの話では、5歳の若だんなの可愛らしい姿に出会えます。
若だんなラブの兄や達の一途さにほっこり。
人間には真似ができない?

いたって気のいい若だんなは、病弱なまんまでも、これほど取り柄がなかったとしても、存在価値はあるんだよと言ってあげたい。
実際には、頭も切れて、心が広く、ちゃんと役に立ってますよね。

終わって欲しくないシリーズ。
ちょっとは新味も欲しいけど、いつもの楽しさも欲しい~読者の贅沢な望みにこたえるのも大変でしょうね。
今回は、栄吉のあんこの物凄さで~大笑いの幕引き☆

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「ブラックベリーパイは潜んでいる」

ジョアン・フルーク「ブラックベリー・パイは潜んでいる」ヴィレッジブックス

人気のコージーミステリです。
お菓子探偵ハンナのシリーズ、17作目。

故郷の町で手作りクッキーの店を出しているハンナ。
気さくで料理上手で親切な、三姉妹の長女です。
素人探偵としても有名になってきましたが。

未亡人の母ドロレスが再婚するのはいいけれど、そのパーティの準備に苦労するハンナたち三姉妹。
任せると言ったはずの母が、次々に気を変えるのです。
すごい美人の母親だけどシリーズ当初はきつさが目立っていましたが、ずいぶん可愛いところも出てきているこの頃。
人を振り回すのは相変わらず?

そんなコミカルな状況の中、思わぬ出来事が。
雷雨のなか、運転していたハンナが事故を起こしてしまったのです。
身元不明の男性が道路に倒れていて、ハンナは妹の夫に逮捕されてしまうことに。
もちろん親しい人が駆け付けて、応援してくれますが‥?!

妹の友達の相談を受けたり、またまた母の披露宴の相談も続くなか、事件の裁判は、次の作品に持ち越され‥
ちょっと違う意味合いの危機で、新味はありましたが、この段階だと読後感がちょっと。
これって、すっきり解決になりうるのかなあ??
続きが待ち遠しいですね☆

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「王とサーカス」

米澤穂信「王とサーカス」東京創元社

太刀洗万智が主人公の長編。
前年の「満願」に続き、ミステリのいろいろなランキングで1位を獲得した作品です。

2001年。
太刀洗万智は新聞社を辞めて、初仕事。
海外旅行特集の取材のために、ネパールの首都カトマンズへ。
まずは事前に雰囲気をつかもうというゆるいスケジュールのはずで、宿で懐いてきた少年にガイドを頼んだのですが。
突然、王宮で国王たち王族が何人も殺害される事件が起き、あっという間に異様な空気になります。
太刀洗は、ジャーナリストとして取材しようとしましたが、暴動寸前の空気と報道規制に阻まれる。
そして、取材しようとした関係者に事件が‥!

『さよなら妖精』の出来事から10年がたち、海外のことも他人事ではないと感じている万智が遭遇した、思わぬ事件。
報道に携わる人間として、情報をどう集め、どう発信すべきなのか?
クールで真剣なヒロイン、太刀洗万智のこれからの生き方が問われると同時に、読んでいる人へも疑問を投げかけてきます。
実際に起きた事件を背景にしているため、重厚感も。
鋭い切り口と壮大なテーマが新鮮で、強い印象を残します☆

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「死神遊び」

カミラ・レックバリ「死神遊び エリカ&パトリック事件簿」集英社文庫

エリカ&パトリックのシリーズ、8作目。
相変わらず切れ味鋭く、濃い内容で、平均してレベルが高いですね。

ヴァール島で35年前に起きた失踪事件。
寄宿学校の校長一家が、テーブルに並んだご馳走もそのままに、一歳の娘エッバだけを残して消え失せたのです。
この出来事の謎がそう簡単にわからず、興味を引っ張ります。

生き残った娘・エッバが夫と故郷へ帰ってきました。
途端に止まっていた過去の事件が動き出したかのように、放火が起き、そして‥?!

エリカは前々作で妹アンナと共に事故に遭い、とくにアンナのほうが重い結果となり、夫婦仲にも影響して、今も苦しんでいます。
かっては姉に反発していたアンナでしたが、何かと助けられてもいます。

エリカは作家として、次の目標にヴァール島の事件を取り上げようと考えていたところに、意外な展開があったため、どんどんのめり込んで行くことに。
夫で刑事のパトリックは、夢中になりやすいエリカの暴走を心配して止めつつ、そんなエリカの才覚を認めざるをえない‥かも?

ちょっと、アンナは気の毒すぎる気がしますが?
な~るほど‥!と唸らされる展開☆

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「眩」

朝井まかて「眩」新潮社

葛飾北斎の娘・応為こと、お栄の人生。
女ながらに父も認める才能ある絵描きだったお栄が、いきいきと描かれています。

天才絵師・葛飾北斎の娘、お栄は父の弟子に望まれて結婚するが、家事をする気もなく、絵に没頭。
お栄ほどの画才もない夫は、北斎の娘婿としてお栄ほどの画才もない夫は、北斎の娘婿として仕事を増やしたかっただけらしい。
あっさり出戻ったお栄は、父と弟子たちとの暮らしに邁進し、気まぐれな父の世話をこなしつつ、画業に情熱を注いでいきます。

ひょうひょうとした兄弟子の善次郎とはそこはかとない信頼関係があり、お栄は惹かれますが‥
口うるさい母や、ろくでなしの甥に悩まされつつ、さばさばと生きるお栄。
飾り気なく大胆で、当時としては相当変わり者だったんでしょうね。
古風な女らしさはないものの、その情熱がどことなく色気となっているよう。

北斎の有名な冨嶽三十六景の制作風景や、応為の代表作の吉原格子先之図などの描き方を工夫する様子も出てきて、臨場感を楽しめます。
応為には、どこまで絵師として認められるのか、長い年月の間、葛藤もあったことでしょうが。
やりきった感もあったのか、どこにいてもやっていけると思うようになった勁さ。
清々しい読後感でした☆

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「死者に祈りを」

フェイ・ケラーマン「死者に祈りを」創元推理文庫

デッカー&リナのシリーズも9作目。

警部補に昇進して部下も増え、ますます忙しくなったピーター・デッカー。
最愛の妻リナと3人の子供たちとも、すれ違いになりがち。

高名な医師が惨殺された事件が起きます。
医療の最先端をリードする心臓外科医で、医療スタッフも曲者ぞろい。
背景にある重層的な問題が、次第に明らかに。

厳格だったらしい医師の家族関係は複雑で、そのあたりもじっくりと描かれていきます。
事件の報を聞いて、動揺を隠せないリナ。
被害者の息子の一人が、リナの最初の夫の親友で、夫が亡くなる前後に力になってくれた古い友人だったのです。
ハンサムで生真面目な青年ブラムは、頼られる長男だったのに、家族の信仰となぜか決別し、今はカトリックの神父になっていました。
若き日に深い心の交流があったブラムを心配し、個人的に接触するリナに、気を揉むデッカー。

アメリカのユダヤ教徒の世界や、慈しみ合う家族の様子が、丁寧に描かれていくのが魅力のシリーズです。
ひとつの宗教でまとまっている育ち方というのは実感としては知らないことだけど、何となく少しはわかってくるような。
デッカー自身は自分がユダヤ系とは知らなかったという育ちですが、リナと出会って、自らのルーツに目覚めたという。

名士の家族が崩壊していくのは、アメリカのミステリの伝統的なパターンでもあるかな。
驚かされる事情もあり、複雑な味わいでした☆

amazonの書影をいつも左列に出しているのですが~この本がリストにありませんでした‥絶版か何かでしょうか?(汗)

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「海の見える理髪店」

荻原浩「海の見える理髪店」集英社

直木賞受賞作。
家族をめぐる短編集です。

表題作「海の見える理髪店」がよかったですね。
海辺の町で小さな理髪店を開いている初老の主人公。
その店に初めてやってきた青年、じつは、離婚して早くに生き別れた父親に会いに来たのです。
気づいた父親でしたが‥

「いつか来た道」
不仲だった母親のアトリエを訪れる娘。
「遠くから来た手紙」
戦時中のような手紙が今届き‥?
「空は今日もスカイ」
ゴミ袋をかぶった男の子と出会って、一緒に行動することに。
ホームレスの男に助けられましたが?

「時のない時計」
亡き父親の時計を修理してもらおうと‥
「成人式」
娘の成人式が近づき、振袖のダイレクトメールが届いた。
両親は成人式に参加することにして、亡き娘の友だちも歓迎してくれることに。
悲しいけれど、いい話でした。

重いテーマが多いですが、しみじみと落ち着いた雰囲気で、さらっと読んじゃうこともできます。
誰でも、一生のどこかでは出会うかもしれない、家族の問題や、どうしようもない別れ。
切ないですね。

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「ファーストレディの秘密のゲスト」

スーザン・イーリア・マクニール「ファーストレディの秘密のゲスト」創元推理文庫

マギーのシリーズも、5作目。
元気な若い娘が主人公のコージーみたいな表紙ですが~
主人公はまあそうだけど、けっこう苦い味もある本格的なストーリーです。

マギー・ホープは、わけあってアメリカ育ちのイギリス人。
チャーチル首相の秘書になったことから、諜報員の訓練まで受けて経験を積んできました。
今回は、首相のアメリカ訪問に同行します。
苦境に立つイギリスは、アメリカの参戦を熱望していました。

アメリカ大統領は、フランクリン・ルーズヴェルト。
夫人のエレノアも知的で有名な女性ですが、思わぬスキャンダルに巻き込まれそうになります。
大統領夫妻の秘密に近づきつつ、絡み合う事件をひそかに解きほぐそうとするマギー。

かっての恋人のジョンは、激戦地帰りのパイロット。
首相に同行しましたが、英雄として人気が出たのをきっかけに、アメリカで思わぬことに?
こんな展開になるとは、ねえ‥
つらい過去を乗り越えて、マギーもさらに別な意味で?たくましくなるんでしょうか。
なかなかの読み応えでした。
マギーの運命やいかに?

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「明日のことは知らず」

宇江佐真理「明日のことは知らず 髪結い伊三次捕物余話」文春文庫

シリーズ11作め。
作者はデビュー20周年だったそうです。

廻り髪結いの伊三次は、町方同心の不破親子の手伝いもつとめているため、捕物にも関わっています。
だんだん、若い世代の話が増えていましたが。
今回は伊三次の出番が続き、女房で芸者のお文姐さんのいいシーンもあって、古くからのファンも満足する短編連作となっています。

「あやめ供養」
伊三次が髪結いに行ったことのある町医者の家族に事件が起こり、容疑者として直次郎の名が。
久々の再会に驚く伊三次。
直次郎は、すっかり良い父親になっているようなのだが?

「赤い花」
魚問屋の末娘は、大柄な男勝りで、店にも出て働いています。
そんな娘に、縁談が‥?

「赤のまんまに魚そえて」
伊三次はお礼すると言われたとき、弟子の九兵衛のために、髪結いに持っていく台箱を誂えてもらうことに。
その祝いの席の準備が始まります。
急に、老舗の若旦那の髪を頼まれた伊三次でしたが‥

「明日のことは知らず」
伊三次の息子の伊代太が通りがかりに見かけ、ほのかに憧れていた女性の身に何が‥
一方、武家に奉公に出ている不破の娘・茜は、女ながら武芸を生かせる職場に、何年かはいることになっています。
跡継ぎの男の子の世話と護衛をしていますが、殿様の最愛の子ではないため微妙に肩身が狭い立場。
身体の弱い少年の覚悟と諦念と優しさが切ない。
伊代太と茜、今は遠く離れている二人が、ふと互いを想う。

人情味ある展開で、しみじみ。
文庫化された2012年、作者は闘病中で、惜しくもその後亡くなられました。
まだ読んでいない作品を少しずつ読んでいきます。

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「愛憎の王冠 下」

フィリッパ・グレゴリー「愛憎の王冠 下 ブーリン家の姉妹 2」

力作の後編です。
激動の16世紀イングランド。
メアリー女王とエリザベス女王の二人に仕えることとなった女性ハンナの波乱の人生。

ヘンリー8世没後の混乱期。
キリスト教徒内部でプロテスタントとカトリックのせめぎ合いが続き、どちらも命がけ。
聖なる道化として宮廷で女王の側近くにいるハンナは、派閥と無関係なので、女王の慰めとなります。
スパイまがいのこともするのですが、それぐらい女王たちの方もお見通し。
ハンナ自身はキリスト教徒でさえないユダヤ人であることを隠している恐怖がずっとつきまとっているのですが。

本を読んで育ったハンナは、当時としては自立心の強い、婚約者にとっては面倒くさい女性。
やっと結婚したものの、さらに思いがけないことに‥?
ぐっと大人になっていく展開になります。

メアリー女王は、30代も後半になって政略結婚。
スペイン王子の肖像画をひと目見て恋した可愛い女でしたが、不運な成り行きに‥
カトリックの信仰を守ることだけが支えとなり、異端の処刑でブラッディメアリーと怖れられることに。

妹のエリザベスは命の危険に晒され、異母姉のメアリーに迫られて礼拝には出るものの、改宗は拒み通す。
恐怖で再三病気になりながら、回復して宮廷に現れたときには人々を魅了。

どちらも父には否定された女性の身で、自らの地位や国のあるべき姿を必死に考えていた‥
それを思うと、ハンナも現代からタイムスリップしたような女性ではなく、激動の時代を体感しつつ生きたのかな、と。
人のさまざまな感情を濃く描きつつ、歴史の大きな揺れ動きを実感させる展開。
面白く読めました!

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