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「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

村上春樹「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」文藝春秋

2013年4月発行の作品。
2009年の話題作「1Q84」の次の長篇小説。
ファンタジーではなく、1冊にまとまっている長さなので、読みやすいと思います。

多崎つくるは、36歳、独身、東京で勤めています。
名古屋出身で、高校の頃には課外活動のボランティアで知り合った5人のグループにいました。
赤松、青海という名の男子と、白根、黒埜という名の女子。
つくる以外は、色の付いた名前で、そのまま色の名を呼び名にしていたのです。
自分だけ特色がなく平凡だと、かすかなコンプレックスを感じていたつくる。
一人だけ大学で東京に出ましたが、名古屋に帰って友達に会うのを楽しみにしていました。
ところが、大学2年の夏、突然4人全員からの絶交を申し渡されます。
ハッキリした理由も聞かされないまま‥

しばらくはショックで死を考えたつくるですが、徐々に立ち直ります。
しかし、ほとんど友人は出来ず、後に2歳下の友人・灰田もまた理由を告げずに去った‥
何度か女性とは付き合いますが、恋人ともどこか本気にならないまま別れ、年月が過ぎました。

二つ年上の木元沙羅という女性と知り合い、本気で付き合いたいと願うようになります。
沙羅に、4人に会って事情を確かめたほうがいい、でなければこれ以上深くは付き合えないと言われてしまう。

恵まれた育ちで、望んだ仕事についていて、良い場所に所有している部屋に住んでいる男性。
はたから見ればこれ以上ないぐらい気楽な暮らしで、いまどき共感できる人は少ないんじゃと思うぐらいだだけど。(‥いや案外似たような境遇で結婚する気がない男性ってのもいまどきかも?)
友達からの切られ方というのは酷くて、これは‥
16年もたって知った真実は、驚くべきもの。
つくるが必ずしも悪く思われていなかったことは、救いですが。

封印した過去と向き合うことを励まし、次へ進もうという内容が中心にありますね。
死とは何かという答えの出ない問い。
繰り返し見る生々しい夢。
英語からの直訳のような文章。淡々と記録するように語られるセックス。
スタイリッシュな暮らしの断片や、雰囲気に合う音楽の力を借りつつ、かっての悲劇がよみがえってきます。
事件物というわけではないので、その辺の事実は謎のままですが。

高校の頃には、特徴のある5人が補い合い、調和していた。
そのときは、何よりもこの調和を壊したくないと切に思うほどに。
でも時はとどまっていない‥
成績がよかった赤松は銀行を辞めて、社員教育セミナーを請け負う会社を興している。
スポーツマンだった青海は、車の販売員に。
黒埜恵理は大学の工芸科に入りなおして、今はフィンランドに。
フィンランドか‥ちょっと「ノルウェイの森」を思い出す要素もありますね。ノルウェイの話だったわけじゃないけど。

一番感受性の強い内気なシロ(白根柚木)には、大人になるのは乗り越えられないほどの壁だったのか‥
予想外の出来事に対応しきれずあがいたのは、つくるだけでなく5人ともだった。
それぞれの大人への変貌は苦さも伴うけれど、中年へ向かうパワフルさがあるというか、なかなか意外性もあって面白く、力強く感じました。
フィンランドまでも出向いて直接話を聞く勇気。
その甲斐あって、黒埜との会話は良かったですね。

つくるは、正しい痛みだと感じ、過去を違うふうに捉えられるようになるのです。
挫折感を引きずり、ふだんはそこには蓋をしているというのは、誰しも共感できることかと。
そこから人とあまり関わり合わない、やや草食系になるのは、いまどき?

沙羅という女性がつくりものめいているのがちょっと、これで、つくるの生きる希望になるのかどうか。
知り合ってまもなく、まだカッコつけてる時期だからかも知れませんが。
つくるがこれまで人に話さずに来たことと向き合わせ、真実を受け入れさせたのは運命の女性だったからなのか?
心の一部が死んだようになっていた主人公に、だんだん素直なはげしい感情が戻ってきている、と読めます。
しかし、これでふられたとしても、そのぐらいでまた死にたいと思っちゃいかんよ、つくる君! 年上の女性より(笑)

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コメント

そうなんですね~
小説としてはこれでいいんですが、ミステリだったらここでほっぽられては困ります……
なんとなくみんな釈然としなかったのではないでしょうか? 続編はないというのが早い段階で報じられましたから。
後味はよくて映画の1シーンのような終わり方。北の方の国って、やっぱり絵になるな~

marieさん、
でしょう~誰一人として犯人のことを気にもしていないのにはビックリでした。
ミステリなら思いがけない背景があって、5人の中の誰かが犯人と疑われ、さらにどろどろした何かが出てくるところです(苦笑)
ああ、続編はない、という報道もありましたっけ。
恋人とも付き合い始めたばかりだしねえ。

フィンランドの風景は素敵でしたね。
気持ちがすがすがしくなるのは、そういうイメージの助けもあってのことかしら^^

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