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「恋歌」

朝井まかて「恋歌」講談社

第150回直木賞受賞作。
中島歌子の波乱の人生、水戸藩士に嫁いだ若き日を描いたもの。
熱っぽく、引き込まれます。

樋口一葉の師として名を残し、明治時代に<萩の舎>を主宰し多くの弟子を持っていた歌人・中島歌子。
後年病に倒れたとき、弟子がその手記を発見して読むという形で描かれます。

江戸の裕福な宿屋に生まれたのんきな娘・中島登世は、水戸藩士・林以徳と恋を貫いて結婚。
水戸でお武家様の妻として、生真面目な義妹てつが取り仕切る家に暮らすことに。
水戸藩では天狗党と諸生党が相争い、天狗党内部でも分裂がありました。前半はそういう危機感もありつつ、若妻の暮らしぶりを。
天狗党に属する夫・以徳は穏健な考えだったのですが、突出した行動をとった面々と同一視され、ついには逆賊となってしまう。
天狗党は妻子まで捕らえられ、登世もてつと共に入獄。
夫の無事を信じつつ、辛い時期を耐え抜きますが‥

水戸では、報復のため血で血を洗う抗争が続いたとは。
ここまでとは、知りませんでした。
素直な若い娘が巻き込まれた動乱の、思いもよらない激しさ。
あまり書かれていない後半生は別人のようで、ややギャップがありますが。これほどの経験があり、胸のうちに秘めた思いもあって、歌がほとばしり出たということ。
中島歌子は華やかなイメージがある女性ですが、亡き夫を最後まで愛していたのですね。
財産を誰に遺すかの決定も、水戸時代のことを深く憂いてのことなのでしょう。

君主の未亡人・貞芳院が後に語る水戸藩の実情が印象的です。
あまりの貧しさと抑圧ゆえに気持ちにゆとりがなく、怒りを身近に爆発させたと。
その貧しさは、初期の石高設定で見栄を張ったことや、水戸光圀以来の大事業が財政を圧迫したためなどもあることを思うと‥
低所得層が増えている現代日本の空気が、次第に悪くなっていることも、考えさせられます。江戸時代の庶民のように、娯楽を限定させられてはいないですけどね。

直木賞も納得の力作でした。
読んでいく作家さんが増えました!

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