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「泣き童子」

宮部みゆき「泣き童子 三島屋変調百物語参の続」文藝春秋

「おそろし」「あんじゅう」に続く三島屋変調百物語の3作目。
楽しみにしていました。
輪郭がくっきりした話が多い印象。

神田の袋物屋、三島屋では、不可思議な話を集めています。
黒白の間という座敷で、話すのは一度に一人だけ、くわしく聞くのは姪のおちかという娘一人。
語って語り捨て、聞いて聞き捨て。それだけが約定。
事情があって実家を離れ、叔父夫婦の三島屋で働いているおちかです。

「魂取の池」
神無月の炬燵開きの日、若い娘が訪れました。
祖母の育った村に村にあった不思議な池とは。

「くりから御殿」
白粉問屋の夫婦が訪れます。
病を得た主人は、漁師町の出。
四十年前、子供の頃に、山津波で大勢の村人や友達が亡くなったのです。そのとき、不思議な夢を見るたびに‥
心配して隣室に控えていた妻は、生き残ったことを悔いる夫の気持ちを知っていた‥
震災で生き残った人に寄せる、作者の思いが感じられます。

「泣き童子」
霜月のねずみ祭りの日。商家にとっては大事な風習なのです。
やつれきった男性が訪れ、幼い子の話をします。
なぜか言葉が遅く、泣き出したら泣きやまない。
後ろ暗いことのある人に気づくと、泣き出すらしい‥

「小雪舞う日の怪談語り」
冬奉公といって農村から出稼ぎに来る女手が増える時期。幼いおえいという女の子も三島屋にやってきました。
珍しく、おちかが振袖を着てお出かけする楽しい趣向。
青野利一郎とも、このときに久しぶりに会うことに。
札差の井筒屋の肝いりで、「年の瀬に心のすす払いをする」という怪談語りの会に誘われたのだ。「怪談を聞くと、人の心は神妙になる」と。
この中に四つ話が入ってます。
普請道楽の父が建てた家の怪異。橋から異界にさまよいこむ話。片目で病を見抜く母の話。岡っ引きの半吉が若い頃、看取った男のもとに夜ごと現れた怪異。
おちかが両国橋で出会った微笑ましいことも。

「まぐる笛」
若い侍が話す故郷の話。
いつ現れるかわからない怪物「まぐる」が村に現れた日。
侍の母は、「まぐる」を抑える役をになう女性だったのです。

「節気顔」
年あけて、おちかも18に。
春分の日に聞いた話。
放蕩者の長兄が、改心して戻ってきた。
離れに隠れ住むようにして、二十四節気の日には一日出かけています。
姪が見てしまった秘密とは‥
大人になった姪が、死んだ人に会いたいという気持ちを理解した様子に、どこか心揺り動かされます。

三島屋の人々の暖かさ。
女中のお勝は疱瘡の跡があり、<禍払い>という役目も持っていました。
おちかが聞く話は、若い娘が一人で聞くには重すぎるような場合もあるけれど、尋常でない経験をした身には、そうでもしなければ救われないものがあるのでしょう。
「お嬢さんはもう、去年(こぞ)のお嬢さんではありませんからね」というお勝の言葉が、心強い。
江戸情緒ゆたかに、静かに流れる日々。
おちかが幸せになることを祈ります。

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