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「遮断地区」

ミネット・ウォルターズ「遮断地区」創元推理文庫

英国ミステリの女王の新作。といっても翻訳の上でですが。
推理小説というよりパニックものだからか、翻訳する順番が後になったようです。
スリルと爽快感があり、面白かったですよ。

低所得層が暮らすバシンデール団地。
1950年代に建てられた団地は、しだいに孤独な老人や未婚の母と父親のいない子供でいっぱいになっていました。
通称アシッド・ロウ(LSD団地)というのは、麻薬がすぐに手に入るという意味なのです。

医師のソフィーは、金持ちが住む街での診察よりもむしろ生きがいを感じていました。
同じような悩みを抱えつつも必死でそれを隠そうとする上流の人間よりも、あっけらかんとたくましい人々に必要とされるほうが付き合いやすかったのです。
ソフィの患者の一人で未婚の母のメラニーは白人だが、恋人ジミーは黒人で以前の罪で服役して出所したばかり。
大男のジミーは育ちから当たり前のようにぐれて、今も見た目は黒服にゴールドのアクセサリーでいかにも犯罪者だが、メラニーとの間に子供が出来てから1年は改心して真面目に働いていました。

バシンデール地区に小児性愛者が引っ越してきたと情報をもらした人間がいて噂が広まり、近くの団地で10歳の少女エイミーが行方不明になったことから、抗議のデモが始まります。
小さな子供の多い地域から危険人物を追い出そうとするのですが、実際には大人しく、未成年の少年との交際があっただけで、そういう危険のある人物ではまったくなかった。
暴動は酒に酔った2千人の若者が押しかけてバリケードの中に立てこもる状態に発展してしまい、最初にデモを思いついたメラニーらが止めようとしても止まらない。
ソフィーは事情を知らないまま診察に行って、暴徒に囲まれた父子の人質にとられてしまいます。

一方、少女エイミーを待ち続ける母のローラ。
弁護士でずっと年上の支配的な夫とは離婚したが、恋人とも別れ、別な男の元に身を寄せています。
ローラとエイミーの家庭の破綻ぶりも、なんともリアルで複雑。
エイミーの周囲の怪しい人物も、危険人物と目された息子と息子よりずっと危険なその父親も、一筋縄ではいかない屈折を抱えた人間たち。
予想される胸の悪くなるような話にはならないのがさすがウォルターズですが、これはこれで軽くはないというのがまた。

天使のような顔をした不良少年ウェズリーは、薬で興奮した状態で暴動をあおる。
恋人メラニーを助けようとして暴動に巻き込まれたジミーは、携帯で警察と連絡を取り、事態を救う重要な役目を期待されることに。
血だらけの大男ジミーを救うか細い老婦人(元看護師)の活躍も。

第7作「蛇の形」と第9作「病める狐」の間に発表されています。
ほぼ毎年、こんな力作を発表しているとは。
2001年の発表当時、犯罪を起こした小児性愛者の名前を公表するという問題が起きていたんですね。
混同された無関係な人が攻撃される事件が、現実にも起きたばかりだったよう。
骨太な作品ですが、緊迫した様子がテンポよく描かれ、ユーモアもあり、気丈なソフィーと気のいいジミーの活躍で、読後感はいいですよ。

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