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「田舎の紳士服店のモデルの妻」

宮下奈都「田舎の紳士服店のモデルの妻」文藝春秋

会社を辞めた夫と田舎に移り住んだ専業主婦の10年。
宮下さんならではの丁寧な筆致で、こまやかに、淡々と描かれます。
宮下さんの作品では辛口なので、これがあまり気に入らなくても~ほかもお試しを!

梨々子は、結婚して4年。
夫の竜胆達郎は営業部のホープで、付き合って2年半で結婚にこぎつけ、潤と歩人という二人の男の子にも恵まれました。
歩人はよく泣く赤ちゃんで、子育ては大変ですが。
幼稚園のバザーに何を着ていくかで頭がいっぱいの日、夫に会社を辞めると告げられます。
夫がうつだと初めて知った梨々子。
東京にずっと住むと信じて疑わなかったのに~一気に運命は暗転!?

夫の父は小さな工場を経営しているため、落ち着けばそこで働けます。
リハビリと思えばいい、と実家の母。
幼稚園の母友達には、10年日記を餞別に渡され、これからはお茶もできないけど、不満はここに吐き出せばいいと言われるのでした。
都落ちの身と憐れまれた気がする梨々子。

夫の郷里は北陸で一番目立たない県?(おそらく作者の出身地の福井)の県庁所在地。田舎というほど自然が豊かというのでもない。
小さな不満や葛藤を抱えつつ家事をこなし、自分もちょっときれいなだけ(!)で取り柄はないと自覚する梨々子。
とくに善良な人柄ではないけれど、悪い人ってほどでもない。リアルさを出すためなのか、いい子ぶらない冷静な書きっぷりは、共感もてない人もいるでしょうねー。

夫は地元の紳士服店でチラシ写真のモデルを頼まれ、ちょっと嬉しそう。
「なんだ、うつでも嬉しいのね」と思う梨々子。
夫との間のことは詳しく書かれてはいないけれど、この時期でも会話は少なかったのか? 結婚の現実が垣間見えるような。

苦しさが募った頃、若い頃に憧れたグループのメンバーに偶然出会い、会うようになります。
たまにお茶を飲むぐらいの付き合いだけど、元気を取り戻していきます。
深い付き合いに踏み出しかけたとき‥?

上の子・潤は素直で出来は悪くないのですが、小学校があまり面白くないらしいと知って衝撃を受けます。
それに、発達障害という言葉は出ないけれど、歩人はどうやら問題児。
何かと先生に呼び出されることに。
子供達が小さい頃に、梨々子が地元になじめず夫に不満を抱いていたことも、ほんの少しは影響していたのかも?
でも梨々子は、母親としては肝が据わっていて、そう悪くない感じ。
歩人が連れてきた友達の様子がおかしいのを、あたたかく受け入れることができるのだから。
子育て中の孤立感や夫との微妙な関係は、結婚して数年以上たった女性ならかなり共感できそう。

人はみな一人なんだと自覚したことから、かえって楽になるのです。
しだいに、地元にもなじんでいきます。
マンションの隣室の住人で、笑顔になることが少ない原田さんに、病院のボランティアをやらないかと誘われます。
「主役やりたい人は家にいたらつらいやろ」とは、かなり痛烈な言葉だけど。
若ければそれだけでめげそう?
いろいろ乗り越えた梨々子は、ちゃんと役に立つ人間になっていたのでした。
少しずつ人と関わって、少しずつ人生を編み上げていく‥
笑いが増えた家庭に、ほっとする読み終わり。

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