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「人質の朗読会」

小川洋子「人質の朗読会」中央公論新社

このタイトル、この表紙、小川洋子だし、ぜったい面白そう~。
と思って読み始めました。
読み始めてすぐ、えっ人質って!思ったより深刻かも。そうか~…(何だと思ってたんだ?)

地球の裏側にある国の、山岳地帯で、ツアー客の乗ったバスが反政府ゲリラに襲撃されました。
遺跡観光の帰り、発音も難しいような村で。
添乗員を含む8人が人質となり、報道規制もあって、詳しいことはなかなかわからないまま。
100日が過ぎて、ある日強行突破となり、突然の惨事となります。

2年後。
人質達が自作の文章を朗読していて、それを盗聴していた録音があることがわかり、公開されます。

そして、8日連続の放送。
「第一夜」から始まる連作短編のような形式となり、途中は人質という事情を忘れて読んでいました。
内容はまあ事件とは別種で、やや普通というか~人質になっている危険な状況の話ではありません。
一人一人の思い出話ということで、日本での人生途上であった印象的な出来事を描いているのですが、どこか不思議さも含んで。
いつのまにか、人の死というものに思いをいたす流れになっていて、何となく腑に落ちるような。

所々に出てくる、ややマニアックな展開、凝り性な部分は、いかにもこの作者らしい。
一般の人が語るという設定なためか、飾り気なく率直な雰囲気なのも、魅力。
どことなく諦観のようなものも感じられるのも、背景のせいなのでしょう。

「杖」
子どもの頃に、家の向かいの鉄工場を眺めるのが好きだった女の子。
そこに勤める若者が公園で足に怪我をしていたため、必死で杖を用意します。
後に、自分が怪我をしたときに、若者が助けてくれる夢を見て…

「やまびこビスケット」
地味な女性が若い頃に製菓工場に勤めたときの話。
味は同じシンプルなビスケットですが、形に凝りまくっているのです。
上手くできていない物をベルトコンベヤーから選別するのが、最初の仕事でした。
アパートの大家の女性が変わり者で、けち。整理整頓にこだわり、よく説教されていましたが、だんだん仲良くなって…

「B談話室」
たまたま通りかかった公民館の談話室で。
受付のきれいな女性に手招きされ、参加してみると…
次々に変わった企画をのぞいてみることに。

「冬眠中のヤマネ」
男の子が通学途中に出会った奇妙な老人。
通称をイギリス山という頂上に公園がある丘のふもとで、手製のぬいぐるみを売っていたのです。
あるとき、何かの撮影に巻き込まれて、よくわからないまま、老人を背負って階段を駆け上ることに。

「コンソメスープ名人」
留守番をしている8歳の男の子の所へ、隣人が台所を借りに来る話。

「死んだおばあさん」
若い頃から何度か「死んだ祖母に似ている」と声をかけられる経験をする話。
これがなかなか傑作です。

「花束」
1年の契約社員が辞める日、ただ一人のお得意さんから花束を貰う。
お得意さんは葬儀社の人でした…
男が花束を抱えて帰るのは、やや持て余し、棄てようかと思いつつ、子どもの頃の経験を思い出す。
棄てないで良かったと思ういきさつに。
浅くない優しさがしんみり感じられる話でした。

最後に朗読者の仕事と年齢が記され、思い出の頃から、大人になって何年もどう生きたのか、うかがわせます。

2011年2月発行。
今読むと、3月の震災での突然さを思ってしまいますね。
著者は1962年、岡山市生まれ。
「妊娠カレンダー」で芥川賞、「博士の愛した数式」で第一回本屋大賞を受賞。

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