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「ツリーハウス」

角田光代「ツリーハウス」文藝春秋

新宿にある中華料理店・翡翠飯店で暮らす一家3代の話。

のどかなある日、藤代家の孫の良嗣は、奥の部屋で療養していた祖父の泰造が息をしていないことに気づきます。
あちこちに散らばっている家族を呼び集め、葬儀を行うことに。
同じ日に、新宿ではバスジャック事件も起きていました。

一家には、昔から家でゴロゴロしている叔父の太二郎がいて、子供の頃はどこもそういうものなのだと思っていました。
良嗣自身、仕事に違和感を覚えて辞めてもう3年。バイトはしているし、すぐに就職するつもりで無職とは思っていないのですが。自分の家族は変わっていると気づき始めます。
兄の基樹と姉の早苗は家を出ていますが、何をしているか良くわからないまま。
通夜の直前に現れた早苗は妊娠していて、後で結婚相手を連れて来て、店を改装しようと言い出します。

祖父亡き後は、店にも出なくなった祖母のヤエ。
祖母はふと子供のような声で「帰りたいよう」とつぶやきます。
良嗣は祖父母が満州で出会ったと知り、一緒に中国旅行をすることを思い立つのです。
孫にはほとんど語らないのですが、少しずつ思い出しているヤエの回想を交えながら進む~旅の話。

祖父の泰造は、開拓団を逃げ出したため、ルーツも断たれている身だったのです。
親切な人々に、助けられてはいたのでしたが。
流されるままというか~逃げるだけのような生き方。
ヤエはただ、新しい所に行ってみたいという気持ちだけで大陸に渡ったのでした。
無惨な大陸引き揚げと、収容所…

ヤエの故郷に戻ってみても、二人の居場所はありませんでした。
東京の焼け跡の誰の物だったかもわからない土地にバラックを建て、夫婦で店を始めたのです。
子供達にそういう話はしないまま、好景気になる世の中を見ながら、とにかく働き続けます。

ヤエは6人の子供に恵まれますが、それぞれ時代の渦に巻き込まれます。
慎之輔は漫画家を目指すがうまくいかず、やがて実家を継ぐことに。
太二郎は頭が良かったのですが、あることがあって…
今日子はサラリーマンと結婚して、普通の家庭を築こうとしますが…
性格が良かった基三郎は、反戦運動に身を投じ…

ある一家の昭和史を描いた力作。
非常に有為転変のあるドラマチックともいえる人生です。
人間に耐えられる限界かも知れない…影響なしでは済まないでしょう。
経験も思いも語ることなく逝った祖父。
子供達に「逃げることだけしか教えられなかった」と語るヤエ。
それでも店を守り通した泰造。
翡翠飯店は、家族が逃げ戻ってくることの出来る場所、よりどころになっていたと思えますけどね。

戦争当時を知る祖父母からは、とんでもなく恵まれていると思う世代の生活。
とはいえ、高度成長期を知る親の世代からすれば、全然頑張っていないかもとも思う。
でもまあ別にそれでいいんじゃないか…というのは実感?

最初の方は、淡々と否定的な感情を書かれることが多い印象でした。
リアルだけど、読むには時々しんどくなります。
そんなもの、なのか?どうか…
大事な所を際だたせるためでもあるのかな。
少しだけど理解が深まったり、家族がまたスタートしていくのですね。
2008~9年連載、2010年10月単行本発行。

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コメント

図書館で偶然見かけて読んでみました。
家族の歴史とともに昭和生まれにはなつかしい出来事や事件がしっかり散りばめられてられていて、ああ、あの頃~と、分かりやすかったです。
満州の引揚者だった人の苦労話をあれこれ聞かされて育った世代ですし。
どこか遠くへ行けばすごいことが待っているはずという孫息子に、「どこに行ったってすごいことなんて待ってないんだ。そして、二度と同じところに戻ってこられないんだ」と話すヤエ。ずんと重い言葉ですね。

marieさん、
ああ、これ、お読みになりましたか!
昭和の出来事があれこれ、懐かしいですね~。
確かに、親の話を聞いて育った世代ですよね。
自分は経験していなくとも、どんな戦争だったか、間違えることはない。
若い子にとっては歴史ですよね~。
孫はどこかへ行きたい世代でしょうか。
まあ引揚げ体験者の感覚というのはまた特殊かしら。
「どこへ行ったって‥」う~ん、た、確かに‥ずしんと来ますね

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