フォト

おすすめ本

« 「弁護士はぶらりと推理する」 | トップページ | マリーナさんとご対面 »

「穢土荘厳」

杉本苑子「穢土荘厳」文春文庫

長屋王に仕えていた男性を主な視点に、激動の時代を描き上げた重層的な物語。

持統、元明、元正ら蘇我系の血を引く女帝たちと、藤原の血を天皇家に送り込んで繁栄していく一族の暗闘。
聖武天皇の跡継ぎは、誰か…?
誇り高く気性の激しい長屋王が、謀略によって追い落とされていく顛末を、前半で描きます。

手代夏雄(たしろなつお)は、左兵衛府(さひょうえふ)という役所勤めの身ですが、長屋王邸に配属されていて、主な役目は王族の護衛。
長屋王は左大臣の要職にあり、皇位継承の可能性もないではない血筋でした。
天武の息子の高市皇子と天智の娘と間の子で、正妻は吉備内親王。
内親王というとおり、元明天皇の娘で元正天皇の姉妹なのだから、吉備が天皇になってもおかしくないほどなのです。

長屋王の弟の鈴鹿王はずっと気が弱いのですが、藤原氏の動向を巡って神経をとがらせ、厳格な長屋王には知らせず、吉備王妃に陰謀を持ちかけます。
もとは吉備王妃の女嬬で、今は典薬寮の女医博士になっている忍羽部綾児(おしはべのあやこ)をいざとなれば使おうというのです…
年上で理知的な美女の綾児に恋している夏雄は、近づくチャンスを待ちながら、言われるままに都を動き回ります。
だが、どうも様子がおかしい…?

町の医師の娘で、夏雄に好意を持つ染め物師・張皓英など、市井の人も光っています。
光明皇后に生まれた男児・基皇太子はあえなく早世してしまいますが、後に長屋王に毒殺の疑いがかかるのです。
長屋王は乱を起こしたという印象でしたが、これだと一方的に罪を着せられて襲われた?それとも…
どっちの陰謀にしても、証明はできないんでしょうが、なかなか説得力あります。

人間関係は複雑ですが、持統天皇が生きている時期から書き起こし、系図もついてるので、思い出しながら整理できます。
登場人物がいきいきとしていて、個性がはっきりしていて、目の前に現れるようです。
権力争いが繰り広げられる宮中から目を転じれば、貧しい人のために尽くしている行基という僧の存在も。

後半は~大地震、飢餓と疫病に見舞われる平城京。
栄華を誇った藤原家の兄弟達が、相次いで倒れます。
長屋王の呪いという風説も出て、聖武天皇は脅えて逃げだし、遷都を宣言、5年にわたって行きつ戻りつする有様に。
しだいに、重みを増していく~光明皇后。
天平15年、詔と共に、国中の富を集めての大仏建造が着手されます。
民のために尽くしてきた行基が、この時期に大仏に協力することを問われて、豊かな貴族が大金を出し、貧窮する民もわずかな額を寄進することで参加できると答えます。
大きな犠牲も伴いながらの~大仏建立の様子も鮮やかです。

力強い筆致の、さすが女流文学賞受賞作。
なかなかここまで濃密に書き込んだ小説は珍しいですよ。
文庫本だと書影が出ないので、作品集のほうを左サイドに揚げておきます。

« 「弁護士はぶらりと推理する」 | トップページ | マリーナさんとご対面 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「穢土荘厳」:

« 「弁護士はぶらりと推理する」 | トップページ | マリーナさんとご対面 »

2019年10月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

カテゴリー

無料ブログはココログ

最近のトラックバック