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「小さいおうち」

中島京子「小さいおうち」文藝春秋

直木賞受賞作。
戦前のある家庭で働いていた女中さんの回想という形式の小説。

良家には女中がいた時代。
嫁入り前の行儀見習いという意味もあって、行儀や家事を仕込まれて、お嫁に行ったものだったんですね。
昭和5年、尋常小学校を卒業して、東北から帝都東京に出た娘・布宮タキ。
上の4人も奉公に出ていたので当然と思っていました。

帝都東京は美しい都会で、目をみはり、わくわく。
山の手のサラリーマン家庭では女中は払底していたので、決して待遇も悪くなかったのです。
運良く、若奥様の時子と仲良くなれました。
時子は髪をこてで丁寧に形付け、洋装も似合う軽やかな美女。
姉妹のように仲良くなり、奥様が平井常務と再婚するときにも一緒に行ったのです。

赤い三角屋根が目立つ、美しい洋館。
年の離れた美しい妻のために建てられたのでしょう。
主人の地位や財産からすれば、そんなに大きくはない、おうち。
自分のための小さな部屋に、一生住みたいと思うほど嬉しかったタキ。
恭一ぼっちゃんが小児麻痺にかかったために、タキの結婚話も消えて、尽くす暮らしになります。
奥様への献身。恭一ぼっちゃんへの優しい気持ちと家事への熱意、家への思いに引きこまれます。

若い社員の板倉と、奥様の淡い恋が、危険な領域にさしかかっていくのもじわじわと描かれます。
時代が暗くなるのに伴う変化や、少しずつ見えてくる歪み、別な視点から見る違いも含めて、読まされます。
一人称で語っている場合、主観的な書き方だから~正確な証言とばかりも言えない面があるわけですね。

戦中戦後の苦難も乗り切るタキのたくましさ。
親を亡くした甥たちを育て、茨城で甥の一家の近くに住み、老後は孤独がちですがまずは悠々自適の暮らし。
甥孫の健史に手記を覗かれて、戦争が始まった時代がそんなに呑気だったはずはないと言われるのですが…
すぐ出征する家族でもいない限り、案外そんなものだったのではという気もしますね。
長く実態が報道されなかったこともあるしねえ。

タキが家事に絶対的な自信を持っているため、甥嫁には煙たいというのに苦笑。
最終章では、あの板倉がカルト的な漫画家イタクラ・ショージとなっていたという。
「小さなおうち」とは、板倉が時子とタキの暮らす家を思って描いたものでした。
大伯母のことが気になって、イタクラの記念館を訪れる健史。
戦争の影と個人の思い、大きな時代の流れをも感じさせる印象に。
よくぞここまで書き上げたものです。

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