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「サフラン・キッチン」

ヤスミン・クラウザー「サフラン・キッチン」新潮社

作者はサラと同じように、イラン人の母と英国人の父との間に生まれ、35歳でこの本を執筆。
出版前から話題となり、世界各国で相次いで発行~本国でも2006年半ばに出版されたばかりという本です。

教師のサラは思いがけない成り行きで入院、事態を引き起こしたイラン人の母マリアムは自責の念から娘を見舞うこともなく、故国へ旅立ちます。
勘当されて以来40年、故郷の村までは戻ったことはなかった…

イランの要人の娘として育ったマリアムは、3人姉妹の真ん中で、いきいきとした勝ち気な美しい娘。
看護婦志望でしたが、当時は良い家の娘は早く結婚するのが当然だったので、親には相手にされない。
日本なら明治時代というより江戸時代に近い感覚でしょうか。
しかし、政情不安な頃、ある事情で家を出されてテヘランで教育を受け、英国へ。やがて英国人と結婚して一見したところは平和な家庭を築くが、心の奥には無惨に引き裂かれた初恋があった…

40年後、故郷へ戻ったマリアムを一人娘のサラは追い、母の過去といまだに残る因習に直面することになります。
まさか事実そのままではないでしょうが…そんなことを考えさせるぐらい、リアル。母親の望郷の念や、イラン人の女性について見聞きしたことが元になっているのでしょうね。
最近たまたま新聞で読んだのですが、イスラム世界の慣習で、女性の立場は現代でもなお厳しいものがあるようです。
この場合、英国人の優しい夫も何だか可哀想なのですが…
価値観の違う英国で暮らした長い年月の間に、故国へ戻る勇気を得られたということもあると思うんですよ。

サラが母の痛切な思いを理解し、救いのある結末になっています。
ターコイズに塗られてこってり装飾された母の部屋や、屋根裏に取ってあった古い絵、台所の壁を鮮やかなサフラン色に塗ろうと計画するなど、要所々々のモチーフも効いています。
しっとりした風景描写がとても綺麗で、ロンドンでもイランでもその地への愛情が感じられて心地よく、印象に残りました。

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コメント

昨年読んだ中で一番心に残った作品です。

美しい文化や生活や自然とともに、怖いもの知らずの若さ、女性にとって制約の多い生活環境、故郷を追われること、そうしたことから自由な国で自由な世代を送り出した後に、過去や自分を確かめ取り戻そうとする思い、何かを得るために何かを失うことへの覚悟が繊細にかつ厳然と描かれて。

幸せに成功した家庭の母娘の間にもどこまでも共有されない思いがあることが故郷も経験も違うことからより鮮明に示され、ムスリムの特殊性というより、帰属する場所を失うことの重さ、経験や思いの個別性、幸せな家庭であろうが、どんな環境でどんな状況であろうが、意思を持った個性が個人的なものとしてたちあらわれてしまうことは、とても普遍的で現代的なテーマだと思いました。

>Kさん、
昨年の内にお読みになってましたね~早い!
私もこれはとても良いと思いました。終わってすぐに読み返し始めたほどです。今年後半のベストかしら。
ただ「夜愁」も良いんですよ…

>場所を失うことの重さ、経験や思いの個別性、幸せな家庭であろうが、どんな環境でどんな状況であろうが、意思を持った個性が個人的なものとしてたちあらわれてしまうことは、とても普遍的で現代的なテーマだと思いました。

…そうですね!
この作品の独特な所を指摘なさってますね~さすがKさんだわ(^^)

愛や理解があっても、別な人間。
マリアムの中に何十年もの間、息づいていた動かしがたいもの…

異国的な風景や習慣のくっきりした描写のあれこれもとても魅力的なんですが、読み終わってみると、そういった普遍性を感じますね。
それが何とも言えず重いけれども、納得させられて。
良い物を読ませて貰いました(^^)

「夜愁」もそのうちエントリーされるだろうし、そちらにコメント入れる方がいいんでしょうけど、ついでなので。

どちらも英国を舞台に、今の生き方の原因を過去に探る構造で、完成度や上手さについては「夜愁」がやっぱり上だろうと思いますが、文芸作品としては描かれる内容から「サフラン・キッチン」の方が私には好みでした。

「夜愁」では宴の後という言葉が浮かびました。時系列をばらした構成が効いて、戦中非常事態の中でアドレナリンが出まくる状況から戦後平常に戻った(あれこれ再建や新規の立ち上げが必要な活気ある状況ではありますが)場面での喪失感、脱力感が腑に落ちるというか。

ヴィクトリア朝ものではどちらかというとほのめかし寄りだった同性愛も、20世紀半ばを舞台にする本作では、はっきり示される辺り、彼女にとって大きなテーマなのでしょうね。

堅実さを加えつつも相変わらず流麗な描写は健在で、でも、サラ・ウォーターズが普通の上手い物語作家になっちゃったというか、直木賞作家が芥川賞を狙うような方向性の転換に感じました。前作からの先入観と偏見で見る目がゆがんでるのもあるんでしょうけど。

そうそう、下のクルコフ作品は買おうと思って忘れていた本でした。人物と状況の心もとない微妙な感じがなんともいえない「ペンギンの憂鬱」が結構面白かったので、こちらもそのうち読んでみます。

Kさん、
「サフラン・キッチン」は心にしみるという感じですよね。
読んでから少したっているので、頭の中では時系列にほとんど整理し直されてます。
読後感は良くて、サラの性格のせいか、処女作のせいか、素直な印象がありますね。

「夜愁」も過去へ遡る構成や女性らしさのある描写に共通した所がありますね。
読んだばかりで、ちょっと予想外の所もあり、どんな言葉で表現して良いのか…
予想より良かったです~前作は、ヴィクトリア朝でディケンズへのオマージュたっぷりの感じが読む前から好みのエンタテインメントと予想出来てました。
これはまた別な感じで、すごい才能~次はどっちへ行くのやら??
同性愛は前作では深く考えなくても良いレベルでしたが、現代に近くなるとゲイの人の立場という独特な問題になりますね。

あ、「ペンギンの憂鬱」の方をお読みになったんですね!
私はそれはまだなんです~そのうち、読んでみるつもりですよ(^^)

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