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「不思議のひと触れ」

シオドア・スタージョン「不思議のひと触れ」河出書房新社

スタージョンといえば、私がSFをあまり読まなくなった最後の頃にも読んでいた、好感の持てる作家です。
最近、再評価の勢いがすごいらしい…のも当然でしょう!
この短編集は奇想コレクションの一冊で、03年12月に日本で編まれたもの、良いセレクトでまとまっています。
SFというと、多少読みにくいのも覚悟の上、なのですが、これはわかりやすくて、びっくり。
訳文もこなれているのでしょうが、内容が練り上げられていてしっかりした構成になっているのが大きいでしょうね。

最初の短編は簡単なアイデアですが、何と20歳の頃の物。それにしては達者です。
そして、表題作の何ともいえない面白さ!
夜の海辺で姿の見えない相手と待ち合わせ、勢いよくののしり続ける男女、実は…
ごく平凡な、何の特徴もない人間に訪れた、不思議のひと触れ。
良くこんな事を考えつくなあというのがスタージョンを読んだ時のいつもの感想だったことを思い出します。
そして、思いつきだけでない切り口と手応え、孤独な人に対する優しさも…
読む人にも不思議のひと触れが訪れる心地がします。

「雷と薔薇」は前にも読んだかと思いますけど、1947年の作品というのに恐れ入りました。
核戦争後の未来を描いて、今にも通じるテーマ、先駆的作品だったのですね。
そんな早くから書いていた人という認識がなかったですねえ…

翻訳もしている大森氏の愛読者としての熱意溢れる長い後書きを読んだら、特に今回はわかりやすいものを集めたとあり、なるほどと納得しました。
SF大会での有名な発言「SFの9割はクズ、他のジャンルも同じ」というのも、そういう一般の評価に対する反論として言われた言葉だったとはね~言葉って一部が伝わって一人歩きしてしまうものなんですね。文脈がわかって良かったです。

スタージョンがどういう作家だったのか、アメリカ文学史上最高の短編作家とまで評価される巨人ぶりと数奇なほどの経歴に加え、5回の結婚という変人ぶり(もてもて?)がよくわかり、なんともいえない中身の濃さに改めて感動を覚えました。

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コメント

スタージョンはこのミスにも入っていましたね。
一度読んでみたいと思っていたんです。
今は「真珠の耳飾りの少女」を借りてきて読み始めたところです。
「SFの9割はクズ」というのは有名な台詞ですが、その後があるんですよね。

スタージョンはね、「うまい」の一言に尽きます。
私の好きな方向ではないので、残念ながら感動はしないのですが。

「SFの9割はクズ」ってのは、スタージョンの意図したのと違う意味だということですが、文字通りの意味でも正しいと私は思いますよ。
日本では翻訳される時に既にふるいに掛けられているので、ある程度の品質のものが店頭にでているのだと思うのですが、それでも、「なんだかなぁ」と思う作品はあります。
アイディアはいいんだけどねぇ、とかね。
いや、それさえないのもありますけど、さすがに私はそういうの買わないので。
そういうのは本屋で斜め読みして、ダメだ、ってのがすぐ分かるから。

>marieさん、
あれっ、コメントにお返事したつもりで、してなかったですね~ごめんなさい。
「このミス」で最近ミステリは当たり前になりすぎたのかパッとしない、みたいな事が書いてありましたよね。今はSFの方が売れるんだとか…ビックリ。

「SFの1割はどのジャンルにも劣らず素晴らしい」というのがスタージョンの言いたかったことなんですよね~なぜ、こう伝わらないんでしょう(^^;

スタージョンだとちょっと捻りも効いてるだけで良く出来た小説なので、特に短編は多くの人に読まれて良いんじゃないかな~。
面白かったですよ(^^)

>しあんさん、
SFを斜め読み?さすが~。
私は中学の頃は読む方でしたけど、一番好きなのは「夏への扉」…それは猫本ベストかって。いや本当に名作なんですけど!SFならではの切ない設定というのもありますし。

SFはジャンルとしてまずアイデアがないと成立しない、ってとこがあるかも知れませんね。
でも実際に面白い作品というのはアイデアより描写力かも…
ミステリの新人が謎解きは出来ていても人間が書けてないと言われるようなのがあるんでしょうね。

大人になってからはよっぽど人のお薦めでもないと読まないので~1割どころか1%も読んでないなという気がします(@@;

えーっとね、SFでもなにを書くかよりどう書くかなのは同じなんですよ。
いわゆるセンス・オブ・ワンダーというのは、アイディアだけのことではないので。
それに、SFもジャンルが確立してからずいぶん経つので、アイディアって、結構手あかにまみれたものになってますからねぇ。
だけど、上手な人が書けばいわゆるタイムトラベルものだって、どんな風にでも料理できるわけです。そう、「犬は勘定に入れません」みたいにね。
それに、古いSFだと特にそうですが、笑っちゃうような非科学的なアイディアでも(当時は良くても今日の科学レベルだとね)、うまく書けていれば読むに値するものになってますから。
もともとSFなの?とか言われて、最近はどんどんSFから離れていってしまっているバラードなんか、SFの元の姿である科学小説からはずいぶん離れたところで書いている人ですが、SF作家として受け入れられているし、実際、読むとセンス・オブ・ワンダーを感じますしね。
逆に、私を含めたかなりのSFファンが瀬名秀明をSFとは認めていないんです。あんなに科学的なのに。
SFって、不思議なことに、読み手の受け止め方で、変幻自在に変化するジャンルって感じです。

SF作家には人間が書けてない人って多いのは確かですけどねぇ。
だけど、わたしは昔からそういわれてきたクラークは最初から好きで、今でも好きだし、叙情の名人みたいに言われるブラッドベリは苦手だったりします。人物造形はとてもうまいけど、面白くない作家もいるし。
SFとして読むなら、やっぱり発想の斬新さとそれを生かす落ちですよねぇ。
この点で、今、いち押しのSF作家はグレッグ・イーガンになってしまうのです。
もう、力業でも良いの、読み終わってうなるようなのが読みたいの(笑)
そういう意味では、スタージョンはうならせる作家ですよね。

最後に、最近、SFと言っていいかどうか分からない作品が結構あって、それが滅法面白かったりするのですが(「鎮魂歌」とかね)、おすすめしたYさんが面白かったと言ってくれたので、ご紹介。「鎮魂歌」を面白がって下さったsanaさんなら面白いんではないかと。
クリストファー・プリーストの「魔法」という作品です。ハヤカワFT文庫から出ています。

>しあんさん、
SFに求める物って、センス・オブ・ワンダーと唸らされるような物?
う~ん(うなってる)確かに…
科学は苦手なので、他の面白さが濃くて、出来るだけ分かり易いタイプでないとダメですが、ちょっと頭がひっくり返るような要素があった方が満足しますよね。

クラークは昔、好きでした。そういえばキャラクターはあまり思い出さないかなあ… やや地味で、でもどことなく品が良いというか感じ良かったんですよ。
ブラッドベリは十代で何冊か続けて読んだ時には気に入ってました。すごく綺麗なシーンがたまにあるんですね。期待過剰で新作に接すると何だかわかんなかったりしましたが。

え、「鎮魂歌」ってSFだったんですか。
怪奇小説寄りの現代文学(精神分析付き)、って感じでしたが…今は怪奇幻想ってSFのうち?
私は面白かったです! 米英の小説を読み慣れていないと一般的には難しいかなあ?
「魔法」面白そうですねえ~。さっそく探してみます。FT文庫てことは、どっちかというとファンタジー?
ジャンルにはこだわってるわけじゃないですけど~ファンタジーの方が得意かな?(^^;

>え、「鎮魂歌」ってSFだったんですか

あー、いや、あくまでも私にとってということです。
瀬名秀明がSFじゃないのと同じように、これって、わたしにとってはSFなんですってことで。
怪奇幻想ものって、SFとはとても近い親戚といえると思います。
実際、英国幻想文学賞になっている作品は、鎮魂歌より、もっとSFっぽいものが有ります。
ジャンル分けって、必要なのかなとも思うし、最近はボーダーとしか言えないような作品もたくさんあって、しばらく前から、上にも書いたように自分にとってのSFという分け方しかできなくなってきていると思っています。
プリーストの「魔法」は厳密に言えばSFではないんだと思います。
だけど、根底にセンス・オブ・ワンダーが有ると私には感じられたのです。
どちらのジャンルかは置いておいて、面白いはずなので、ご一読を。
ファンタジーとSFの渾然一体となった作品ということで言うと、ジーン・ウルフの「新しい太陽の書」4部作は素晴らしい作品ですよ。
この作品、Yさんは完全にファンタジーだと言うし、私はSFだと思ってる(笑)
ジーン・ウルフは日本では翻訳が少ないですけど、今手に入りやすいもの中では、国書刊行会の未来の文学シリーズの中の「ケルベロス第5の首」がお勧めです。

しあんさん、
センス・オブ・ワンダーかぁ…なるほど。
最近はファンタジーに属する言葉のような気がしてましたが、もともとSFについて言われた言葉でしたね。

ル=グィンがファンタジーの定義を、そういう世界の不思議な雰囲気がなければならないと言ってたんですよね。
異世界で竜が出てくるとかいう問題ではないので、全てが現実のようにはっきり描かれているのはファンタジーじゃないって…(@@;
瀬名秀明は読んでないのでわかりませんけども(^^;

ジーン・ウルフですか。ほほ~ぉ。課題図書が増えました!
いつ頃になるかな~(^^)

スタージョンって名前は見かけるのに、手を出したことがなかったのですが、面白そうですね。文庫に落ちてこないかしら。

しあんさんのSFの薀蓄も素敵。

ところで、しあんさーん、私も瀬名秀明の作品は、SFどころか小説ともいえないんじゃないかなと思ったりします。ジャンルとしてはラノベなんでしたっけ?いつかどこかで科学的に可能かもしれないことを材料にした小説(これは一応サイエンス・フィクションといえるのかな)を書いていますが、もう本当に致命的に、題材が死んでいる人物描写と文章表現な気がするのですよね。

やっぱり言葉で表現されるものは、言葉や文の配置を通じたイメージ喚起力が不可欠で、ただ単にビジュアルに訴える事物や行動を羅列すればいいってものではないよ~と思います。

プリーストの幻想文学系作品(他のカテゴリーでも書いているのかはしりませんが)は、物事の立ち現れる手際が鮮やかですし、滲み出るようにノスタルジーが感じられるところがよいです。幻想文学とSFとは境目があいまいなんですが、SFでは世界を構築するものが物質的に(現実には存在しないとしても)根拠がはっきりしているような場合に、SFだなと思います、私の場合。

>Kさん
>瀬名秀明の作品は、SFどころか小説ともいえないんじゃないか

いや、実は私もそう思ってたんだけど、好きな人がいると悪いかと思って。
でも、sanaさんもお読みではないようだから、いいか(^^;)
いやー、ひどかったですよ、「パラサイト・イブ」。
読むのにほんとに苦労したわ。
似たような感じで書いてるブラッドミュージックと比べると、雲泥どころか、もう・・・ってな感じ。(ちなみに私はグレッグ・ベアも好き)
でも、瀬名さん本人はSFが好きで、自分のもSFだと思っているみたいよ。
だから、みんなにいぢめられるのを覚悟で、自作の擁護のためにSF大会にパネラーで出席して、そして思う存分いぢめられた(笑)
学会の報告みたいにOHP使っていろいろ説明したりしたらしいけど、SFファンたちからは認めてもらえなかったみたいね。
いや、だから無理ですって。

>幻想文学とSFの境目

定義しようとすると結構苦労するんですよねー。
ファンタジーとの境目については、不思議の現れる根拠が科学的に説明付くか(異星人のもたらしたものであっても、現在の科学から発展的に推測できる部分があればよし)、それとも、全部魔法で片づけちゃうかの違いだと常々言われてきましたが、Kさんの「物質的に(現実には存在しないとしても)根拠がはっきりしているような場合」ってのはこれをもう少し包括的に表したもので、幻想文学との境と、ファンタジーとの境の、どっちでもOKな気がします。すばらしい。
でもね、よくできた科学は魔法に似るからね(元ネタをちょっと改変)

>SFでは世界を構築するものが物質的に(現実には存在しないとしても)根拠がはっきりしているような場合に、SFだなと思います

Kさん、すばらし~い!
な~るほど…

え、ラノベ?それは初耳~。
めくったことしかないので、何とも言えませんが。
ファンの方、いらしたらごめんなさいね。
まあでも自覚はあるんじゃないでしょうか…!?

>よくできた科学は魔法に似るからね

おおっ、しあんさん、素敵だわ!

幻想文学とファンタジーって…
ファンタジーはものすごく広範囲ですからねえ。
10年前の低調を思えば、今は復権しているのが不思議な位ですけど。映画の普及力はすごいです。
幻想文学、それは… 一般には知られてない~重厚な作品かと(どーゆー定義だ?)
最近はSFも広範囲になってるみたいですね(@@;

[お詫びと訂正]「鎮魂歌」のところで~アメリカの現代小説などとコメントに書いてしまってました。はうぅ、申し訳ない。
イギリスです…
イギリス幻想文学大賞受賞作~!

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